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訴訟とは? 民事訴訟と刑事訴訟の違い、訴訟に向けて必要な備えとは
裁判所が公開している「司法統計」によると、令和元年中に全国の裁判所で受理された刑事訴訟事件は、地方裁判所で6万7553件、簡易裁判所で5384件でした。合計すると7万2937件の刑事訴訟が受理されたことになるのです。
刑法に触れる犯罪を行った場合、警察に逮捕されたのちに検察官に起訴されると、最終的には「刑事訴訟」によって処分が決定されることになるのです。
本コラムでは「訴訟」について、その存在理由や種類などの基本的な事項から、刑事事件における訴訟までの流れを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
1、訴訟とは何か
まずは、「訴訟」とはそもそも何であるかについて、言葉の意味や制度の存在理由などを解説いたします。
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(1)「訴訟」の意味
「訴訟」とは、「トラブルが発生した際に第三者を関与させて、判断を仰ぐことで解決を図る手続き」のことを指します。
さらに狭く定義すれば、「国家が司法権を行使することで、事件を強制的に解決する手続き」のこととなります。 -
(2)訴訟制度が存在する理由
訴訟制度は、社会のなかで生じるトラブルを法律の力によって公平に解決するために存在しています。
もし訴訟制度が存在していなかったとすれば、トラブルが発生した際には自分の力で解決するしかありません。奪われたものは奪い返す、傷つけられたら傷つけ返すといった社会になってしまうでしょう。
日本の法律では、明文化されていないものの「自力救済の禁止」が原則となっています。近代的な法律が整備されていない時代には、「仇討ち」などの私刑がまかり通っていました、しかし、現代では、たとえ当事者にそれなりの理由があったとしても、私刑は刑罰法令によって処罰されます。
訴訟は、自力救済の反対の位置にある制度として存在しており、法律に基づいて公正な社会を築く役割を担っているのです。 -
(3)訴訟の種類
わが国における訴訟は、対象となっている紛争の内容により、三種類に区別されます。
● 民事訴訟
原則的に私人間の生活関係についての紛争を解決するための訴訟を「民事訴訟」といいます。財産関係や身分関係、離婚などの家族関係や認知などの親子関係を争う場合に行われる訴訟です。
● 刑事訴訟
刑罰法令に触れる罪を犯した人について、「刑罰を科すべきか否か」や量刑を確定させるための訴訟が、「刑事訴訟」です。
● 行政訴訟
公権力の適法性などを争う訴訟を「行政訴訟」といいます。国や地方公共団体などの行政による行為によって私人が不利益処分を受けた場合などに行われる訴訟です。
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2、民事裁判と刑事裁判の違いとは
私人間同士のトラブルにおいて、相手から「訴えてやる」といわれてしまった場合や、逆に相手に対して「訴えて責任を追及したい」と自分が考えている場合には、原則として、「民事訴訟」と「刑事訴訟」のうちのいずれかが選択されることになるでしょう。
民事訴訟と刑事訴訟の違いは、下記のとおりになります。
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(1)当事者の違い
民事訴訟と刑事訴訟では、当事者の立場や呼び名が異なります。
民事訴訟では、訴えを起こした一方を「原告」と呼び、訴えを起こされた一方を「被告」と呼びます。原告・被告は、いずれも原則的には「私人」です。
刑事訴訟では、訴えを起こすのは当事者ではなく、国の機関である「検察官」です。罪を犯した人は、検察官によって訴えられる前は「被疑者」と呼ばれ、訴えられた時点から「被告人」と呼ばれるようになります。 -
(2)目的の違い
民事訴訟は、係争人間の権利・義務に関する「紛争の解決」を目的としています。
一方、刑事訴訟では、刑罰法令に触れる行為を犯した人について、犯罪事実の立証や刑罰の種類と程度が争われるのです。 -
(3)判決結果の違い
民事訴訟で下される判決などの結果は、最終的に被告が任意の支払いをしない場合には、被告の財産を強制的に処分したり差し押さえたりして、原告への金銭支払いに充てる「民事執行手続」の前提条件となります。
刑事訴訟で下される判決では、「有罪」か「無罪」かの判断がされ、有罪の場合には刑罰の種類や程度などの量刑も併せて言い渡されることになります。なお、刑罰の執行は判決が確定したあとに行われます。 -
(4)弁護士の立場の違い
民事訴訟は原則的に私人対私人の紛争であるため、原告と被告の双方が弁護士をつける場合もあれば、どちらも弁護士をつけないという場合もあります。
刑事訴訟においては、罪を問われている被告人のみが弁護士をつけます(なお、刑事訴訟における弁護士は「弁護人」と呼ばれます)。被告人の弁護人は、訴訟において検察官と対峙することになるのです。
なお、法定刑が「死刑」または「無期」もしくは「長期3年を超える懲役もしくは禁錮」にあたる事件の刑事訴訟では、被告人が弁護人を選任しない限り、訴訟が開廷されません。このような事件を「必要的弁護事件」といいます。
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3、刑事と民事の両方で裁判になることも
上述したように、民事訴訟と刑事訴訟はまったく別の目的をもつ制度であり、その手続きや結果の性質も大きく異なります。
しかし、トラブルの種類によっては、民事訴訟と刑事訴訟の両方で争われる場合もあるのです。
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(1)交通事故
交通事故が発生した場合、被害者は加害者に対して、負傷者の治療費や入院費、精神的苦痛に対する慰謝料、自動車の修理費用などの損害賠償を請求することになります。通常、損害賠償の請求は当事者間における「示談交渉」を通じて行われますが、事故の様態や賠償金額に関する意見が食い違った場合には、民事訴訟が起こされる場合もあるのです。
一方で、事故の加害者が道路交通法や自動車運転処罰法などの刑罰法令に触れていた場合には、刑事訴訟によって無罪が問われることになります。 -
(2)名誉毀損などの危険犯罪
名誉毀損罪にあたる行為をされた被害者が警察に届け出を行うと、刑事訴訟が行われて加害者の罪が問われることになります。
しかし、名誉毀損行為によって生じた精神的苦痛に対する慰謝料をはじめとした損害賠償は、仮に加害者が有罪判決を受けても支払われません。そのため、被害者は民事訴訟を申し立てて、自らの損害の賠償を求めることになるのです。 -
(3)強制わいせつ・強制性交などのわいせつ犯罪
強制わいせつ罪や強制性交等罪などのわいせつ犯罪をした人は、刑法に触れているので、刑事訴訟の対象となります。
また、わいせつ犯罪は、被害者に対して多大な精神的苦痛を与えるものです。当事者間での示談が成立しなかった場合には、民事訴訟によって、慰謝料などの損害賠償が請求されることになるでしょう。 -
(4)窃盗・詐欺・横領などの財産犯罪
窃盗罪・詐欺罪・横領罪などの財産犯罪も、一般的には被害者が警察に届け出を行うことで、加害者に対する刑事訴訟が行われることになるでしょう。
しかし、ほかの犯罪と同じく、財産犯罪についても、刑事訴訟でどんな判決が下されても被害者の損害が賠償されるわけではありません。そのため、加害者が弁償や返金を充分に行わない場合には、民事訴訟が起こされることになります。
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4、刑事訴訟の流れ
刑罰法令に触れる行為を犯した人は、刑事訴訟の対象となります。
罪を犯した人に判決が刑事訴訟を受けて、判決が下されるまでの流れについて解説いたします。
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(1)刑事訴訟に至るまでの基本的な流れ
犯罪事件を起こした被害者が警察に通報・相談をすると、警察が事件を認知して捜査が開始されます。罪を行っている現場や、行い終わってから間もないところを確保された場合には「現行犯逮捕」(刑事訴訟法第212条、同213条)となります。そうでない場合には、後日に逮捕状が発付されて「通常逮捕」(刑事訴訟法第199条)されるか、在宅のまま任意事件として処理されることになるのです。
警察による調査が終わると、逮捕された人は検察官のもとへ「送致」されることになります。この手続きは、マスメディアでは「送検」と表記されることも多いです。
送致を受けた検察官は、罪を犯した人について「刑罰が下されるべきか、否か」を判断します。そして、刑罰が下されるべきであると判断された場合に、刑事訴訟が裁判所に提起されることになるのです。この手続きを「起訴」と呼びます。
このように、刑事訴訟においては、罪を犯した人の責任を追及する権限があるのは、検察官だけなのです。被害者が「訴えてやる」と主張したとしても、民事訴訟のように、被害者が当事者となって訴訟を提起することはできません。被害者が行う対応は、刑事訴訟法上の被害者参加制度などを除けば、警察への被害届や刑事告訴といった手続きまでに限られます。 -
(2)実刑判決を受けた場合
刑事訴訟において「実刑」の判決を受けた被告人には、刑罰が執行されることになります。
なお、「実刑」とは一般的には執行猶予が付されていない有罪判決を受けることをいいます。
懲役刑や禁固刑などのいわゆる自由刑の実刑判決が下されると、身柄拘束を受けている場合は拘置所へと移管されたのちに刑務所へと収監されることになります。身柄拘束を受けない在宅事件として起訴されていた場合には、判決が下されてから数日程度のうちに、検察庁からの呼び出しを受けて刑務所に収監される、という流れになることが多いです。 -
(3)執行猶予付きの判決が下された場合
「執行猶予」とは、「一定期間に限って、刑罰の執行が猶予されること」を指します。訴訟は判決によって終結するため、身柄拘束を受けていた場合はこの時点で釈放されます。
執行猶予は、おもに懲役刑に対して付されるものです。ただちに刑罰が執行されるわけではないので、懲役の判決を受けても刑務所には収監されません。そして、言い渡された期間内にふたたび罪を犯さなければ、刑の言い渡しの効力が消滅します(刑法第27条)。
ただし、執行猶予中にふたたび罪を犯せば、執行猶予が取り消されて刑罰が執行されることになるのです。
なお、刑法第25条1項の定めによれば、言い渡された刑罰が「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」の場合は、執行猶予の対象となります。つまり、懲役のみではなく罰金に対しても、法律上の定めでは執行猶予を付すことが可能なのです。ただし、実際に罰金に対して執行猶予が付される事例は、ごくまれです。
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5、刑事訴訟における弁護士の役割
刑事訴訟において、罪の容疑をかけられてしまった人を擁護できるのは弁護士だけです。
刑事訴訟における弁護士の役割について、解説いたします。
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(1)刑事事件における弁護士の存在意義
日本国憲法第37条3項では、刑事訴訟の被告人は「いかなる場合でも弁護人を依頼できる」と定められています。そして、刑事訴訟における弁護人になれるのは、原則として、弁護士の資格を有する者だけとなっているのです。
弁護人は、被告人にとって有利な判決を導き出し、不当な判決を回避するために尽力します。また、一定以上の罪が規定されている「必要的弁護事件」においては、被告人が弁護士に依頼しない限り、そもそも訴訟を進行させることができないのです。 -
(2)正確な法的知識と取り調べの際の対応などへのアドバイス
弁護士になるためには、法科大学院課程を修了するか司法試験予備試験に合格するかしたのちに、司法試験に合格する必要があります。司法試験に合格するためには、法律の理論や実務、手続きなどに関するきわめて専門的な事柄について学ばなければいけません。
そのため、弁護士は依頼人の相談に対して、法律の専門知識に基づいた適切な返答をすることができます。 -
(3)勾留されないための活動
刑事事件を起こして逮捕されてしまい、検察官に勾留を請求された場合には、逮捕と勾留の期間をあわせて最長で23日間にわたる身柄拘束を受ける可能性があります。
身柄が拘束される期間が延びるほど、学校や会社などにおける活動や人間関係にも影響が出て、社会的な不利益を被ることになります。
逮捕された時点から弁護士に依頼すれば、捜査機関へのはたらきかけによって勾留請求を回避したり、すでに決定された勾留について取り消しを請求したりするなどの対応を取ることができます。これにより、社会生活に生じる影響が未然に防がれる可能性があるのです。 -
(4)被害者との示談交渉
刑事事件をできる限り穏便に解決するためには、被害者との示談交渉が重要になります。
示談が成立したという事実は、検察官による起訴の決定や、裁判官による執行猶予や量刑の判断に影響を与えるからです。
弁護士には、示談交渉を代行させることができます。
特にわいせつ犯罪などにおいては、被害者側は加害者と顔をあわせることも拒む場合が多いため、示談を進めること自体が困難になる場合も多いでしょう。しかし、事件の当事者ではなく弁護士が交渉を行うことで、互いに感情的にならずに冷静な交渉を行って、示談が成立する可能性も高くなるのです。 -
(5)保釈の実現
刑事事件を起こして逮捕されたのちに起訴された場合には、刑事訴訟が進行する期間において一時的に身柄拘束が解かれる、「保釈」(刑事訴訟法第88条以下)を請求することが可能です。
ただし、保釈が認められるためには、「逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと」を示す必要があります。逮捕された本人や家族がこれを示すことは難しいため、弁護士に依頼した方がよいでしょう。 -
(6)被告人に有利な事情の立証
刑事訴訟では、被告人が有罪であるか、それとも無罪であるか、ということが争われます。また、有罪であればどのような刑罰をどのくらい科すのか、ということも訴訟によって判断されるのです。
弁護士は、訴訟の場において被告人にとって有利となる事情を立証して、被告人の刑罰が軽くなるように尽力いたします。 -
(7)執行猶予の獲得
判決に執行猶予が付きけば、一定期間に限って刑罰の執行が猶予されます。社会生活を送りながら更生と償いを尽くすことができるので、家族や仕事を失う事態も回避できる可能性が高くなるのです。
弁護士が被告人にとって有利となる事情を立証できれば、執行猶予が付される可能性が高まります。
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6、まとめ
刑事事件を起こして逮捕されてしまった場合には、最終的には「刑事訴訟」が行われて、刑罰が言い渡される可能性があります。
逮捕されてしまったら、できるだけ早い段階から弁護士に相談を行うことで、被害者との示談を成立させて起訴を回避できる可能性が高まります。また、起訴された場合にも、被告人にとって有利な事情を訴訟の場において弁護士が立証することで、執行猶予付き判決を得ることができたり、量刑を軽くしたりできる可能性が高くなるのです。
刑事事件によって逮捕された方は、訴訟の実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。数多くの解決実績をもつ弁護士が、徹底的なサポートを提供いたします。
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