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刑事事件における故意と過失の違いとは? 判断基準について解説
刑法に規定されている犯罪の中には、「故意の有無」が構成要件(犯罪が成立する要件)として求められるものがあります。「故意」と聞くと、一般的に認識されている「わざと」というような意味と捉えてしまいますが、刑法における「故意」は、どのような意味合いをもつのでしょうか。
本記事では刑法における故意の定義と過失との違い、故意の有無の具体的な判断基準などについて弁護士が解説します。
1、故意とは
刑法における「故意」とは、刑事事件においては非常に重要な概念です。また、刑法上の「故意」を理解するにあたっては、「過失」の意味も理解しておく必要があります。
この章では、刑法上の故意と過失について解説します。
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(1)故意と過失の言葉の意味
「故意」とは「わざとすること、またはその気持ち」、故意の対義語である「過失」は、「不注意などによって生じたしくじり、過ち」を意味します。日常生活の中で使われる場合、故意は「わざと」「意図的に」、過失は「うっかり」といった意味をもつことが多いでしょう。
では、刑法においてはどのような意味合いを持つのでしょうか。 -
(2)刑法における故意と過失
刑法上の「故意」とは、犯罪事実の認識・認容と定義されるのが一般的です。わかりやすく言い換えれば、犯罪を構成する自らの行為を認識し、それをよしとする(認容する)ことを指します。
また、故意には「確定的故意」と「未必の故意」の2つの考え方があります。犯罪結果を確実に予測している場合が確定的故意、確実ではなくてもその可能性を認容している場合は未必の故意として、故意が認定されます。
一方、過失とは、注意義務に違反する状態、いわゆる不注意と言えます。
ここで言う注意義務とは、結果の予見可能性を前提として、結果を回避すべき適切な対応をとらなかった回避義務を怠ったことを指します。
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2、故意の判断
では、故意はどのように判断するのでしょうか。
故意の有無を判断するにあたっては、罪を犯した人がどのように考えていたのかが、重要になると考えるかもしれません。しかし、事件を起こした当時、どのような心境であったのかは本人にしかわからず、それだけを重視すれば後日「そんなつもりはなかった」との言い逃れを許しかねません。なにより判断者によって結論が異なるのは、刑事裁判では避けなければならないことです。
そこで、判断は客観的に存在する状況証拠に基づいて行われます。
では、殺人罪を例として、具体的にどのような事柄が判断要素となるのかを確認していきましょう。
- 凶器の内容(素手か、刃物か)
- 傷害部位(手足か、内臓などの生命の維持に関わる重要部分か)
- 暴行回数(1回だけか、複数回か)など
- 行為当時の状況(日中か、夜間か、人目のある場所か、ない場所か)
- 計画性(突発的か、計画的か)
- 行為後の事情(救命にあたったか、あたらなかったか)
- 被害者の性質(非力な女性か、屈強な男性か)など
これらの事情や被害者との関係性などを丁寧に認定していき、犯行当時、犯人に故意があったかどうかを判断することになります。
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3、故意が認められた場合に成立する犯罪
故意の有無によって、問われる罪状が異なることがあります。この章では、事件例を元に、故意の有無によってどのような罪に問われる可能性があるのかを解説します。
事件例:他人の腹部を鋭利な刃物で切りつけ、その結果、死亡させた
- 明確な殺意があった
→殺人罪(刑法第199条) - 傷つけるつもりはあったが、死ぬとは思わなかった
→傷害致死罪(刑法第205条) - ふざけて刃物を振り回したところ、誤って人に接触してしまった
→過失致死罪(刑法第210条)
行為と結果は共通していますが、どのような意思でおこなったかによって成立する犯罪が変わります。
事件例:財布を持たずに飲食店に入って飲食し、代金を支払わなかった
- 最初から無銭飲食するつもりであった
→料理や飲み物という財物にむけられた詐欺罪(刑法第246条1項) - 飲食後に財布を忘れたことに気づき、財布を取りにいくとうそを言って支払いを免れた
→代金支払いを免れるという利益に対する詐欺罪(刑法第246条2項) - 途中で財布を忘れたことに気づき、店員の隙を盗んで逃げた
→罪に問われない
詐欺罪は、相手をだましてその財産を処分させ、それを得るという一連の流れからなる犯罪です。そのため、一連の流れのすべてに故意が認められる必要があります。
注文して料理が提供された後に財布を忘れたことに気づいた場合には、注文した時点ではだまそうとする故意がないので、料理という財物に対する詐欺罪は成立しません。会計時に支払いを免れようとうそを言った時点で支払い免除にむけた故意が認められ、詐欺罪が成立します。
一方で、単に逃げる行為は、結果的には無銭飲食になっているものの、相手をだます行為ではないため詐欺罪は成立しません。また、最初からだますつもりがなかった場合は「利益窃盗」と言い、処罰することができません。
しかし実際には、「支払う意思があり、だますつもりはなかった」と釈明したとしても、信じてもらうのは難しいでしょう。
事件例:職務質問を受けて持ち物を確認された際に薬物が見つかった
麻薬および向精神薬取締法では、過失犯を処罰していません。つまり、誤ってこれらの薬物を所持していた場合は犯罪にならないのです。麻薬および向精神薬取締法違反の罪の成立には、故意、すなわち所持していた薬物が、麻薬や向精神薬であることを認識している必要があります。
しかし、実際には正確な成分を知ったうえで所持する場合は少なく、「身体に害があり、所持が禁止されているかもしれないもの」という程度の認識がほとんどでしょう。そこで、薬物事犯における故意は、身体に有害である違法な薬物であることについての認識で足りるとされています。
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4、故意ではないことを証明するためには弁護士へ相談を
故意の有無は、最終的には客観的に存在する状況証拠から判断されるため、被疑者自身が「そのつもりはなかった」と繰り返すことに意味はありません。故意がなかったことを示す、客観的な証拠を集める必要あります。
そのため、刑事事件を起こしてしまった場合は、弁護士に相談するのが得策です。弁護士であれば、裁判での攻防を想定した証拠集めを行うことが可能です。また、早い段階から弁護士が関与することで、取り調べのアドバイスや証拠集め、捜査機関への働きかけも行えるので、不起訴処分を獲得できる可能性も高まるでしょう。
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5、まとめ
故意の有無の判断については、どのような認識だったのかという主観的な要素だけでなく、その認識を裏付ける客観的な事実が求められます。
故意の有無によって、問われる罪が異なる犯罪もあります。問われる罪が変われば、刑罰も変わります。たとえば人を殺してしまった場合、懲役と禁錮しかない殺人罪に問われるのか、罰金刑のみの過失致死罪に問われるのかは大きな差があるでしょう。
故意がなかったことを立証するためには、弁護士のサポートは欠かせません。
ベリーベスト法律事務所には、刑事事件を得意とする弁護士で編成されている刑事専門チームがあるので、刑事事件に詳しいのはもちろんのこと、迅速な対応が可能です。
ぜひ、ご相談ください。
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