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刑事事件の被疑者になってしまった! どのように対応すればいい?
刑罰法令に触れる行為をはたらいた人のことは、「犯人」と呼ぶものだと考えている方は多いかもしれません。しかし、ニュースなどの報道では「容疑者」や「被疑者」、「被告人」など、似ているようで少し違う呼び名が使われています。これらの意味がそれぞれ異なることをご存じでしょうか。
本コラムでは、被疑者・容疑者・被告人などの呼び名が持つ意味の違いや、刑事事件を起こして容疑をかけられた場合の正しい対応方法について、弁護士が解説します。併せて、被疑者となった場合の手続きの流れや、認められている権利についても知っておきましょう。
1、被疑者の意味と呼称
刑事事件を起こした方が呼ばれる呼称について、それぞれの意味を解説します。
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(1)被疑者・容疑者とは
「被疑者」とは、警察・検察庁などの捜査機関から犯罪事件の容疑をかけられているものの、起訴される前の状態にある方を指す法律用語です。
したがって、「被疑者」という呼び方を使用するのは、捜査対象として浮上したところから取り調べ・逮捕・勾留を受けて、検察官によって起訴されるまでの段階に限られます。
なお、逮捕や勾留をされるか否かは事件によって異なります。逮捕や勾留によって身柄を拘束されていなくても、捜査対象として取り調べを受けている、秘密裏に身辺の捜査を受けているといった段階にあれば被疑者と呼ばれる立場です。
ほぼ同じ意味で使われるのが「容疑者」です。容疑者も犯罪の疑いをかけられている段階の方を指す呼称ですが、被疑者のように法律用語としての性質を持つわけではありません。マスコミなどが使用する一般的な用語として位置付けられています。 -
(2)被告人とは
被疑者に対する捜査が進み、検察官が起訴(刑事裁判を起こすこと)した段階になると「被告人」と呼ばれるようになります。つまり、被告人とは、刑事裁判によって審理を受ける段階の方を指す呼称です。
捜査機関によって容疑をかけられている方は、被疑者の立場として捜査を受けながら、起訴された段階から被告人の立場へと変化します。 -
(3)加害者とは
「加害者」とは、他者に対して犯罪の被害や経済的な損害などを与えた者を指す呼称です。刑事事件に限らず、民事事件や社会生活などでも広く使われる一般用語だととらえられています。
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(4)犯人とは
「犯人」とは、刑罰法令に触れる犯罪行為をした方のことを指す一般用語として広く使われています。このように説明すると、被疑者・容疑者・被告人もすべて「犯人」であると考えてしまうかもしれませんが、法律上は異なります。
わが国の制度では、刑事裁判によって有罪か否か(要するに、被告人が犯人であるか否か)を確定します。したがって、「犯人」とは、刑事裁判によって有罪が確定した者に限られます。
このように、法律上においては、被疑者・被告人の段階にある方のことを「犯人」と呼ぶことはありません。
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2、被疑者の権利や制度
被疑者の立場にある方は、捜査機関によるさまざまな捜査の対象となります。
ただし、まだ犯人であると確定しているわけではありません。だからこそ、被疑者となった個人の人権を保障するために、さまざまな制度が設けられています。
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(1)黙秘権が認められている
被疑者には「黙秘権」が認められています。
日本国憲法第38条1項には、誰もが「自己に不利益な供述を強要されない」と明記されています。たとえ捜査の対象となっても事件に関する供述を強いられるわけではありません。
黙秘権を行使しても、それにより刑罰が加重されるなどの制裁を受けることはありません。被疑者の段階に限らず、刑事裁判においても黙秘権を行使することは可能です。取り調べの過程で「その点については黙秘する」として一部黙秘するほか、すべての供述を拒否する完全黙秘も認められています。
ただし、明らかな犯罪の証拠がありながらも黙秘を貫けば、捜査機関や裁判官からの心証を悪化させてしまうおそれがあります。
また、特に犯罪成立に関係するわけではない限り、氏名・住居等の人定に関する事項は、黙秘権の対象外であると考えられています。 -
(2)弁護人選任権がある
被疑者として逮捕を受けた場合に弁護人を選任する権利も認められています。捜査機関に逮捕されると、逮捕事実に関して確認する「弁解録取」の段階で弁護人選任権についても告知を受けます。
弁護人を自身で選んで選任した場合(私選弁護人)は、その費用を自己負担することになります。しかし、貧困などの理由で一定以上の資力を持たない場合は国が費用を負担する形で弁護人が選任されます。この制度を「被疑者国選弁護人制度」といいます。
被疑者として逮捕された場合は、起訴される前に限って一度だけ無料で弁護士を呼ぶことができる「当番弁護士制度」も利用可能です。当番弁護士は各地の弁護士会が実施している制度であり、費用は弁護士会が負担します。
ただし、当番弁護士制度は逮捕直後の被疑者が抱える疑問や不安を解消し、被疑者としての権利を保障する目的で設立された制度です。その後の弁護活動までも約束するものではありません。そのまま弁護活動を依頼する場合は、私選弁護人として別途依頼する必要があります。 -
(3)取り調べの受忍義務がある
身柄を拘束されている被疑者には、黙秘権が認められている一方で、取り調べには応じるべきであるという「受忍義務」があるとされています。
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3、被疑者になった場合の流れ
次に、被疑者として捜査対象となった場合、どのような流れで手続きが進むのかについて解説します。
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(1)捜査機関による取り調べを受ける
被疑者になると、捜査機関による取り調べを受けることになります。
犯罪事件を認知した警察は、被疑者を特定するための捜査と、被疑者が罪を犯したことを裏付ける捜査を進めますが、捜査が進展すれば「被疑者本人が罪を認めるのか」「なぜ犯行におよんだのか」といった点の確認も必要になってきます。
そこで、被疑者本人に対して認否を確認したり、経緯や事情などを尋ねたりするために取り調べを実施します。捜査機関は、取り調べを実施した上で、被疑者を検察官へと送致するか否かを判断します。
また、任意段階での取り調べであれば、取り調べの結果によって逮捕の要否を判断することもあります。 -
(2)逮捕されず在宅捜査を受けることもある
捜査が進展する過程で、捜査機関が逮捕する必要はないと判断した場合は、身柄を拘束せずに、取り調べが続くこともあります。このように、被疑者の身柄の拘束をせずに捜査が進められる事件を、「在宅事件」といいます。
在宅事件扱いとなるのは、被疑者に逃亡のおそれや、証拠隠滅のおそれがない場合等です。この場合、身柄は拘束されませんが、捜査機関からの呼び出しを受ける度に、取り調べに応じることになります。
在宅事件扱いとなった場合は、身柄拘束を受けないため、自宅に帰ることも会社や学校に通うこともできます。取り調べの求めに素直に応じていれば、普段どおりの日常生活を送ることが許されるのです。ただし、正当な理由なく取り調べを拒んだり、証拠隠滅を図ったりすれば、逮捕に踏み切られてしまうおそれがあります。
また、身柄拘束を伴う事件では、逮捕から最長23日以内に起訴されるなど、事件が矢継ぎ早に進展します。一方、在宅事件は、刑事訴訟法上、起訴するまでの時間制限がないため、捜査が長期化することもあります。
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4、被疑者になってしまったらすべきこと
被疑者として捜査対象になってしまった場合は、不利な状況を招かないために正しく行動する必要があります。
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(1)逃亡や証拠隠滅を疑われる行動をしない
犯罪の容疑をかけられた場合は、逃亡や証拠隠滅を疑われることがないように行動しましょう。取り調べのために出頭を求められた際には、正当な理由なくこれを拒んだり、連絡を無視してはいけません。
より嫌疑が強まってしまうだけでなく、逃亡・証拠隠滅のおそれがあると、逮捕の要件を満たしてしまいます。当初は在宅事件として捜査を進めていく方針であっても、逃亡・証拠隠滅のおそれが生じた場合は、身柄の拘束と伴う捜査へと切り替えられてしまうので、素直に捜査に応じる姿勢を示すことが重要です。 -
(2)被害者との示談交渉を進める
被害者のいる刑事事件を穏便に解決するために有効な方策が、被害者との示談交渉です。被害者に謝罪の上、慰謝料・賠償金等を含めた示談金を支払うことで、被害届の取り下げや告訴の取り消しが実現すれば、身柄の解放や不起訴処分が期待できます。不起訴処分となれば、刑罰を受けることはありません。
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(3)取り調べの目的や内容を確認する
任意での出頭を求められた場合には、どのような容疑をかけられているのかを確認しましょう。
身に覚えのある容疑であれば、素直に出頭してありのままの事情を説明したほうが賢明です。しかし、まったく身に覚えのない容疑であれば、防御策を考えなくてはなりません。容疑をかけられている日時の行動を示す資料や無実を証明する証拠をそろえる必要があるので、直ちに弁護士に相談してアドバイスを求めることをおすすめします。 -
(4)弁護人を選任する
容疑をかけられている内容の認否にかかわらず、被疑者となってしまった場合、まずは早期に弁護士に相談をすべきです。弁護人を選任すれば、捜査状況に応じて、取り調べに際しての具体的なアドバイスや有利な証拠の収集といったサポートが得られます。
特に、逮捕されてしまった事件では、逮捕からおよそ72時間以内は家族との面会も認められません。しかし、弁護士であれば自由な接見が可能です。弁護士が直接被疑者の顔を見ながら、状況の確認をすることや、対応方法のアドバイスをすることができます。
早期の身柄釈放・不起訴処分の獲得を目指すなら、早い段階で弁護人を選任した方が、有利な展開が期待できるでしょう。
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5、被疑者が弁護士に依頼できる内容
被疑者となってしまった方が弁護人を選任したとき、どのような対応が行われるのかについて解説します。
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(1)取り調べの対応についてアドバイスが得られる
任意・強制にかかわらず、被疑者となってしまえば捜査機関による取り調べは基本的には避けられません。取り調べはどのように進むのか、どんな内容を供述するべきなのか、今後はどのような展開が予想されるのかといったアドバイスを得られれば、安心して取り調べに臨むことができるはずです。
特に、供述調書が録取される際は、どのような点に注意を払うべきなのかの具体的なアドバイスを得た上で対応したほうがよいでしょう。早く帰宅したいなどの思いから、真実ではない供述調書の内容を認めてしまうケースも少なからずあります。一度作成された調書は、あとから覆すことが難しいものです。
事前にアドバイスを得られるだけでなく、出頭の際に同行を依頼すれば、適宜弁護士からアドバイスを得ながら取り調べに応じることもできます。 -
(2)示談交渉を一任できる
弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉を一任できます。刑事事件における示談では、被害者に対する謝罪や示談金の支払いを行うことで、「起訴を求めない」「厳罰は望まない」等の言葉をもらうことになります。
示談が成立すれば、逮捕・勾留前であれば逮捕・勾留を免れる可能性が高まりますし、逮捕・勾留後であっても、身柄を釈放される可能性が高まります。また、起訴されたあとであっても、示談が成立していることが評価され、厳しすぎる処罰を受けてしまう事態を回避できる可能性が高まります。
刑事事件では、たとえ相手が顔見知りであっても、被疑者本人やその家族が交渉を進めようとしても、相手にしてもらえないケースは少なくありません。無理に示談を進めようとすることで、事態が悪化してしまこともあり得ます。
事件とは第三者である弁護士を代理人として交渉を進めることで、被害者の警戒心や処罰感情を和らげた上で、適切な示談の成立を目指すことができます。 -
(3)証拠をもとに適切な主張ができる
身に覚えのない容疑をかけられている場合や、刑罰法令に触れるとはいえ何らかの事情があった場合には、被疑者にとって有利な証拠をもとに、捜査機関や裁判官に適切な主張をする必要があります。
法律の知識や刑事事件の実務に詳しい弁護士であれば、捜査機関や裁判所に対して、証拠をもとに、法的に意味のある主張することができます。そうすれば、被疑者に有利な結論を導ける可能性も高まります。
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6、まとめ
刑事事件の捜査対象となった方を「被疑者」と呼びます。被疑者となってしまった方は、在宅のままで取り調べを受けることもあれば、逮捕等によって身柄を拘束されながら取り調べを受けることもあるでしょう。
被疑者となってしまった場合には、逮捕・勾留や不当な刑罰を回避するためのサポートを受ける必要があります。少しでもよい結果を目指すのであれば、刑事事件への対応の経験が豊富なベリーベスト法律事務所にお気軽にご相談ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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