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騒音で警察に通報された! 騒音が原因で刑事事件になる場合もある?
岐阜県では平成31年に男性が同じアパートの住人を殺害する事件が、静岡県では令和2年3月に男性がマンションの隣人の頭部をハンマーで殴りけがを負わせる事件がありました。
報道によると、いずれも背景には騒音をめぐるトラブルがあったようです。
これらの事件のように殺人や暴力事件にまで至らなくても、近隣住民との騒音トラブルが原因で警察沙汰にまで発展するケースは少なくありません。もし騒音トラブルの相手方から警察に通報されてしまった場合、どのような展開が予想され、どんな対応が必要になるのでしょうか?
この記事では、騒音によって問われる可能性がある罪や通報された後の流れ、通報された場合に何をするべきかについて解説します。
1、騒音によって問われる可能性のある罪
騒音を生じさせると、まずはマンションの管理人や地域の自治会長などから注意を受ける、回覧板や掲示板などで注意喚起がなされるのが一般的です。注意内容を聞いて今後は気をつけるようにすれば、軽い騒音でいきなり罪に問われる可能性は低いでしょう。
しかし騒音によって近隣住民に健康被害を生じさせたり、注意を受けたのに無視し続けたなどの状況があったりするようであれば、以下の罪に問われる可能性が出てきます。
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(1)暴行罪
暴行罪とは、故意に暴行を加えた者が、人を傷害するに至らなかった場合に成立する犯罪です(刑法第208条)。
故意とは暴行の認識があることをいいます。また暴行とは、他人の身体へ向けた有形力の行使と解されています。殴る蹴るなどの暴力行為が典型ですが、騒音によって人の心身に攻撃を加える行為も暴行に含まれる場合があります。
騒音に関して、暴行罪が成立する場合は稀であり、刑法犯としては後記の傷害罪の成立が検討されることとなりますが、昭和27年に発生した事件について、最高裁では、身辺近くにおいてブラスバンド用の打楽器を連打し、相手の頭脳の感覚を鈍らせ、意識をもうろうとさせるなどした場合について、人の心身に対して不法な攻撃を加えたものとして暴行と解すべきであるとの判断がなされています。(最高裁判所第二小法廷 昭和29年8月20日)
暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。 -
(2)傷害罪
騒音によって近隣住民に具体的な被害を生じさせた場合には、暴行罪よりも重い傷害罪に問われる可能性があります。
傷害罪は、故意の傷害行為によって人を傷害し、傷害行為と傷害結果に因果関係が認められた場合に成立する犯罪です(刑法第204条)。
傷害とは外形的な傷がある場合に限らず、精神障害を生じさせた場合も含まれます。また傷害罪の故意は暴行の故意で足りるため、傷害を生じさせるつもりまではなかったとしても傷害罪が成立します。
奈良県では、平成16年に約1年半の連日連夜にわたり、ラジオの音声や目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして隣家の被害者に慢性頭痛症や睡眠障害などを生じさせた女性が、傷害罪で懲役の実刑判決を言い渡される事件がありました。(最高裁判所第二小法廷 平成17年3月29日)
傷害罪の刑罰は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。 -
(3)軽犯罪法違反
軽犯罪法とは、日常生活上の軽微な秩序違反行為を取り締まる法律です。
第1条で1号から34号まで33の違法行為について定めていますが(21号は削除)、騒音で問題になるのは14号の「静穏妨害の罪」です。
公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し、近隣に迷惑をかけた場合に成立する犯罪です。警察が自宅に来て騒音を注意したのに異常な音を出し続けるなどした場合に問われる可能性があります。
軽犯罪法違反の刑罰は「拘留または科料」です。拘留とは1日以上30日未満の期間を定めて身体を拘束される刑を、科料とは1000円以上1万円未満の金銭を徴収される刑をいいます。
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2、環境省が定める生活騒音
工場や事業場、建設現場などから発生する騒音は騒音規制法で規制されていますが、「生活騒音」を直接規制する法律はありません。生活騒音とはどんな騒音を指すのか、どの程度の音が騒音とされるのかについて解説します。
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(1)生活騒音の定義
環境省によれば、生活騒音とは一般の生活行動にともなって居住環境において発生する騒音をいいます。
具体的には、次のような音が該当します。- 掃除機や洗濯機などの電気機器から生じる音
- 一般家庭のピアノなどの楽器・音響機器から生じる音
- 人の話し声や足音、子どもの泣き声
- 集合住宅でのバス・トイレの給排水音、ドアの開閉音
- 自動車のアイドリングで生じる音 など
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(2)生活騒音の基準
環境省では、地域の類型および時間の区分に応じて生活騒音の基準を設けています。地域の類型というのは、療養施設が集まるなど特に静穏を必要とする地域なのか、一般の住宅地なのか、あるいは商業施設や工場なども立ち並ぶ地域なのかといったことです。
時間の区分が設けられているのは、同じ音やボリュームでも時間帯によって響き方が異なるからです。昼間であれば気にならない音でも、一般に就寝する人が多い夜中や早朝であれば周囲が静かなので音が響きやすくなり、受け手の耐えられる度合いやストレスの大きさも変わってくるでしょう。
音の大きさはデシベル(dB)という単位で表示されます。もっぱら住居の用に供される地域であれば昼間が55デシベル、夜間は45デシベルが基準とされています。
とはいえ、生活騒音の発生源や音が出る時間帯、場所はまちまちであり、音の捉え方も人それぞれです。自分では問題のない程度の音だと思っても、在宅ワーク中や受験勉強中、病気療養中の方にとっては耐え難い音かもしれません。〇〇デシベルという基準はあくまで目安であり、トラブルに発展するかどうかを数字だけで判断することはできないのです。
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3、騒音で警察に通報された場合に想定される展開とは?
騒音問題で警察に通報されてしまうと、その後にどのような展開が待っているのかと不安になることでしょう。警察に通報された場合に発生する可能性のある手続きや対応を解説します。
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(1)警察による捜査が始まる
通報をきっかけに捜査が開始される可能性があります。
被害届の提出や告訴は原則として被害に遭った本人が行いますが、通報は直接被害を受けた本人以外もできるため、被害者から騒音の相談を受けた家族や知人、大家などが通報する場合もあるでしょう。警察は匿名での通報も受け付けているため、通報した人物を確認して謝りにいくことなどもできません。 -
(2)取り調べや事情聴取の対応
通報されると警察から出頭要請を受け、取り調べや事情聴取を受ける可能性があります。
この時点では、逮捕されるかどうかはまだ分かりません。任意で事情を聴かれているだけかもしれませんし、警察官がすでに逮捕状を持っている場合もあります。
いずれにしても正当な理由なく警察からの出頭要請を拒めば逮捕の可能性が出てくるため、捜査に協力するのが賢明です。 -
(3)逮捕されるケースもある
通報を受けて駆けつけた警察官の制止を無視して騒音を出し続ける、刃物を差し向けて暴れるなどすれば、現行犯逮捕される可能性があります。また、すでに騒音の証拠が確保されている場合は、逮捕状にもとづき通常逮捕される可能性もあるでしょう。
逮捕されると警察署の留置場で身柄を拘束され、72時間を上限に警察官および検察官から取り調べを受けます。この間は外部と自由に連絡を取ることはできないので、家族に心配をかけるのは必至です。
また、72時間の逮捕期間が経過した後も、勾留の理由や必要性が認められる場合には、最長20日間の勾留を受ける可能性もあります。勾留されると会社や学校を長期間休む必要が生じるなど日常生活への影響も大きくなります。
もっとも、逮捕は逃亡や証拠隠滅を防ぐために身柄を拘束する措置なので、逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合には在宅のまま捜査が進められる可能性があります。
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4、騒音問題で苦情を受けた場合にできること
近隣住民から騒音の苦情を受けた場合や警察に通報された場合は、どのような行動を取ればよいのでしょうか?
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(1)騒音と受忍限度
騒音を発生させた行為が違法となるかを判断する基準に「受忍限度を超えているか否か」というものがあります。これは、一般的な社会常識に照らして通常我慢すべき程度を超えているかどうかと言い換えてもよく、この程度を超えていると評価できる場合には、他人の人権を侵害したとして行為が違法と評価されることになります。この基準は、騒音や悪臭、振動など公害紛争で広く採用されています。
生活騒音が受忍限度を超えたか否かは、単純な音の大きさだけでなく、発生の頻度や時間帯、継続期間、被害の性質、地域性、苦情を申し入れられた後の対応などさまざまな事情を考慮して判断されます。
たとえば夜間の時間帯に度重なる騒音を出して隣家の住民に難聴を生じさせ、苦情を申し立てられたのに何の対策も講じなかった場合は、受忍限度を超えたとみなされる可能性が高いでしょう。
一方、騒音対策をしていて具体的な被害の証拠もなく、もともと騒音の多い地域であったなどの事情もあれば受忍限度は超えていないと判断される可能性があります。 -
(2)騒音対策を行う
相手方の苦情に必ず筋が通っているとは限りませんが、苦情を受けた側としては騒音対策を行って生活騒音を抑える工夫をすることが大切です。防音カーテンや防音マットを利用する、電気機器は低騒音の機種を選ぶ、配置や向きを変える、機器から異音が生じる場合は修理に出すなど、さまざまな工夫が考えられます。
日中なら問題にならない音でも早朝や深夜の時間帯には迷惑をかけることが多いため、時間帯に配慮することも必要です。早朝や深夜に掃除機や洗濯機などの利用を控える、その時間帯に活動するにしても足音やドアの開閉音が響かないように気を付けるなどを意識するだけで、騒音問題が発生する可能性は大きく変わります。
もし警察が自宅に来て苦情が出ていると伝えられたのなら、自宅内の騒音対策を見せ、時間帯にも配慮している旨を伝えるのも方法です。そのような冷静な対応をとれば、その場ですぐに逮捕されるとは考えにくいでしょう。
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5、騒音対策をしてもトラブルが解決しない場合
騒音対策を講じても近隣住民の怒りが収まらずトラブルが解決しない場合は、どうすればよいのでしょうか?
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(1)冷静な第三者を交えた話し合いをする
相手方の怒りが大きい場合、ご自身やご家族だけで対応しても相手方が冷静になれない可能性が高いです。そのため、マンションの管理人や大家、自治会長などの客観的な第三者を交えた話し合いの場を設けることが大切です。
生活騒音が生じるのはお互いさまであり、こちらとしても騒音対策をしっかり行っていることを、第三者を介して伝えることで、理解を得られる可能性があります。自治体によっては簡易騒音計の貸し出しも行っているため、客観的な数値を示しながら話し合うのもよいでしょう。 -
(2)引っ越しをする
騒音トラブルには、実際に受忍限度を超えるほどの騒音が発生している場合と、実際にはそのような騒音がないにもかかわらず、相手方が騒音の発生を主張している場合があります。
前者の場合は騒音対策や話し合いでトラブルが収束する可能性が高いでしょう。しかし後者の場合は嫌がらせ目的や幻聴などの理由も考えられるため、こちらがいくら真摯(しんし)に対応しても容易には解決できません。
客観的に見て騒音にはあたらない程度の生活音に対して苦情を伝えてくる相手とは穏便な解決が見込めないため、引っ越しするのもひとつの方法です。持ち家の場合はなかなか難しいですが賃貸であれば早期解決につながるでしょう。
ただし、人が生活するうえで音の発生は避けられない以上、引っ越し先でも同じようなトラブルに遭遇しないとは限りません。 -
(3)訴訟に発展したら、事実に基づいて反論する
騒音トラブルは刑事事件ではなく、民事事件として訴訟に発展する場合もあります。
民事訴訟を提起された場合、無視をすると争う姿勢がないと判断されて相手の主張が通ってしまうため、不利益が大きくなります。そのため相手側の主張や証言が法的根拠や事実に基づいているのかを判断し、適切に対応することが大切です。
もっとも、相手方の主張が法的根拠に基づくのかを一般の方が判断するのは難しいことです。よって、この段階では弁護士への相談も視野に入れるべきといえます。
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6、騒音トラブルが深刻化したら弁護士に相談
ここまでの対応をしても騒音トラブルが収束しない場合は、自力での解決が難しく、暴力事件など別のトラブルに発展する可能性もあるため、早急に弁護士に相談するべきです。弁護士は以下の活動を通じてトラブルの早期解決に向けてサポートします。
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(1)取り調べに対するアドバイスをもらえる
捜査機関から取り調べを受ける際には、これから自分が受ける処分や家族や仕事のことなど、不安で頭がいっぱいになるでしょう。精神的に不安な状態のまま取り調べに臨めば、やってもいない行為を認めてしまうなどして不利な状況になるおそれがあります。そうした不利な状況にならないために、事前に弁護士から取り調べに対するアドバイスを受けることが大切です。
弁護士は現在の状況や今後の見込み、処分の軽減を得るために取り調べでどんな対応が必要なのかといった点をアドバイスします。 -
(2)相手方とのやり取りの代理を依頼できる
怒りが大きい相手の場合にはマンションの管理人や自治会長などの第三者が間に入っても聞く耳を持たれないケースがあるので、弁護士に入ってもらうのがよいでしょう。法的知識をもつ弁護士が入れば相手が冷静な行動をとる可能性が高くなります。
相手が慰謝料などを請求してきた場合も、弁護士に示談交渉の代理対応を依頼すれば示談が成立し、被害届の提出や告訴が取り下げられる可能性が生じます。 -
(3)刑事裁判に発展した場合の弁護活動を依頼できる
逮捕・勾留され、あるいは在宅捜査のまま捜査が進行し、起訴された場合は、刑事裁判に発展します。
受忍限度を超えた騒音の事実がないのなら、無罪を目指して弁護士が証拠を集める、検察官の主張の矛盾を突くなどの弁護活動を行います。受忍限度を超えた騒音の事実があるのなら、弁護士が裁判官に対し、被害が小さいことや被害弁償がなされていること、深く反省していることなど、加害者に有利な事情を主張します。
弁護士が懸命な弁護活動を尽くせば、判決に執行猶予が付く、懲役ではなく罰金刑で済むなど日常生活への影響を最低限に抑えた結果にも期待できるでしょう。
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7、まとめ
日常生活の中で発生する音を許容できるかどうかは、周辺の地域環境や時間帯、個人の状況などさまざまな事情によって変わります。近隣住民からの苦情を受けた場合は自分ひとりで解決しようとするのではなく、第三者を交えた話し合いや冷静な対応がトラブルの解決に向けて重要な要素となります。
騒音トラブルが深刻化した場合や警察に通報されてしまった場合は別のトラブルへの発展や身柄拘束リスクが懸念されるため、ただちに弁護士へ相談することが大切です。
刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所がサポートしますので、お早めにご連絡ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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