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牽連犯とは? 併合罪や観念的競合との違いについて解説
ある人が犯罪にあたる行為をしたとき、その行為によってひとつの犯罪が成立するのか、それとも複数の犯罪が成立するのかは、刑を科すうえで大きな意味をもちます。そのため法律には犯罪の数を決める際の「罪数」という考え方が存在します。
そのひとつが「牽連犯(けんれんはん)」と呼ばれるものですが、具体的にどのような考え方なのでしょうか?牽連犯に該当すると量刑の結果にどのような影響を与えるのでしょうか?
本コラムでは牽連犯をテーマに、牽連犯とよく似た概念である観念的競合や、間違えやすい併合罪との違いも含めて、判例を交えながら解説します。あわせて、牽連犯における時効の考え方についても確認します。
1、牽連犯とは
牽連犯の定義について、牽連犯と認められた事件の判例を見ながら解説します。
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(1)牽連犯とは
牽連犯(けんれんはん)とは、犯罪の手段もしくは結果である行為がほかの罪名に触れる場合をいいます(刑法第54条1項後段)。ひとつの犯罪を行うために別の犯罪も行っている場合を指すと考えればよいでしょう。
牽連犯だと認められるのは、数個の行為について、別々の犯罪に該当するが、それぞれの犯罪が「目的と手段」または「原因と結果」という関係にある場合です。
「目的と手段」の関係とは、たとえば、わいせつ目的で女性が暮らすマンションの一室に侵入した場合の、「目的」である強制わいせつ罪(刑法第176条)と「手段」である住居侵入罪(同第130条)の関係をいいます。
「原因と結果」の関係とは、たとえば有印私文書偽造罪(同第159条1項)と同行使罪(同第161条)の場合などが該当します。有印私文書偽造罪は行使罪の「原因」で、行使罪は有印私文書偽造罪の「結果」という関係が成り立ちます。
牽連犯では、本来は複数の犯罪が成立しますが、科刑する際にひとつの罪として扱われます。このように処理することを「科刑上一罪」といいます。 -
(2)判例に見る牽連犯の具体例
具体的にどのようなケースが牽連犯にあたるのか、判例で確認してみましょう。
【最高裁判所第一小法廷(令和2年10月1日)】
被告人は共犯者と共謀し、盗撮用の小型カメラを設置する目的で埼玉県内にあるパチンコ店の女子トイレに侵入し、用便中の女性の姿態を同所に設置した小型カメラで撮影しました。
この事件は、全体を見たときには「女子トイレで盗撮する」というひとつの行為にも思えますが、細分化して見たときには、以下のように別々の犯罪が成立します。- 盗撮目的で女子トイレに侵入した行為……建造物侵入罪(刑法第130条)
- 盗撮行為……埼玉県迷惑防止条例第2条4項違反(当時)
ただし盗撮という犯罪(目的)を達成するための手段として女子トイレに侵入していることから、2つの罪は目的と手段の関係にあって切り離すことはできず、牽連犯として科刑されます。盗撮するために侵入しており、侵入しなければ盗撮できませんので、切り離せないのです。
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2、牽連犯と観念的競合との違い
牽連犯とよく似た概念に「観念的競合」があります。観念的競合の定義と牽連犯との違いを解説します。
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(1)観念的競合とは
観念的競合とは、ひとつの行為が2つ以上の罪名に触れる場合をいいます(刑法第54条1項前段)。観念的競合も、牽連犯と同じく、本来であれば複数の罪が成立するところ、ひとつの罪として扱われます。
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(2)判例に見る観念的競合の具体例
どのようなケースが観念的競合にあたるのか、判例を見てみましょう。
【最高裁判所第一小法廷(平成9年10月30日)】
被告人はフィリピン人と共謀のうえ、輸入禁制品である大麻を輸入しようと企て、大麻を隠匿した貨物をマニラ市内から被告人が共同経営する居酒屋あてに送りました。税関検査により大麻の隠匿が判明したため、いわゆるコントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)が実施され、配送業者が捜査当局と打ち合わせのうえで居酒屋に配達し、被告人が受け取ったというものです。
「大麻を輸入する」という行為はひとつですが、大麻の輸入を取り締まる法律には関税法と大麻取締法の2つがあり、大麻の輸入行為はいずれにも抵触することになります。
この事件では、大麻を輸入するというひとつの行為が以下の2つの罪名に触れるので、両者には観念的競合の関係が認められます。- 禁制品輸入の罪(関税法第109条1項)の未遂罪
- 営利目的による大麻輸入罪(大麻取締法第24条2項)
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(3)牽連犯と観念的競合の違い
観念的競合はひとつの行為で2つ以上の犯罪が同時に成立します。
たとえば警察官を殴るというひとつの行為が、公務執行妨害罪(刑法第95条1項)と暴行罪(同第208条)にあたる場合などが典型です。
一方、牽連犯はひとつの行為が複数の犯罪にあたるのではなく、時間差で複数の行為におよび、それぞれの行為について犯罪が成立しています。ただし、それぞれの犯罪は目的と手段(または原因と結果)という関係性があるため、全く別々に存在するわけではありません。
牽連犯の典型は、他人の家に不法侵入して窃盗をはたらく場合です。この場合は住居侵入罪(刑法第130条)を犯した後に、窃盗罪(同第235条)を犯しており、住居侵入という手段を用いて窃盗の目的を達成していることから、牽連犯として扱われます。
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3、牽連犯と併合罪との違い
牽連犯や観念的競合とは別に、「併合罪」という考え方もあります。併合罪の定義と牽連犯との違いを確認しましょう。
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(1)併合罪とは
併合罪とは、確定審判を経ていない2つ以上の罪をいいます(刑法第45条前段)。
併合罪では2つ以上の行為について、それぞれに別の犯罪が成立します。たとえば人を殺害し、犯行を隠すために死体をバラバラにして焼却した場合は、殺人罪(刑法第199条)と死体損壊罪(同第190条)がそれぞれ成立し、併合罪として扱われます。
人を殺害するという行為と、死体をバラバラにする行為は目的と手段などの関係にはなく、それぞれが別の行為です。そのため牽連犯や観念的競合にはあたらず、併合罪として科刑されます。 -
(2)判例に見る併合罪の具体例
どのようなケースが併合罪に該当するのか、判例を紹介します。
【最高裁判所第一小法廷昭和53年3月22日】
昭和50年、熊と人とを勘違いして撃ってしまったという事件がどういった罪に問われるのか、が争われた裁判があります。この事件では、最初の1発で人に重傷を負わせ、熊と勘違いしたことに気が付いたが、もう1発撃って殺したという2つの行為を、最初の行為は業務上過失傷害、次の行為を殺人罪として併合罪にあたるとしました。 -
(3)牽連犯と併合罪との違い
牽連犯では複数の犯罪が成立しますが、それぞれの犯罪が目的・手段または原因・結果の関係にあり、実質として一連の行為とみなされます。つまり犯罪の数はひとつとしてカウントされます。
これに対して併合罪は、牽連犯のように目的・手段のような関係性がなく、それぞれの犯罪が完全に別々に成立するため、罪数は複数におよびます。
たとえば2名を殺害した事件を例にとると、Aを自宅で、Bを路上で殺害した場合、「人を殺す」という行為は同じでも、それぞれの殺人は目的・手段などの関係にないため、2つの殺人罪が併合罪として扱われます。
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4、牽連犯と併合罪の量刑の違い
牽連犯や併合罪にあたる場合、量刑の重さにはどのような影響があるのでしょうか?それぞれの量刑の考え方を確認します。
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(1)牽連犯の量刑
牽連犯の関係にある罪を犯すと、複数の犯罪の中でもっとも重い刑のみが適用されます。
たとえば住居に侵入して強盗を犯した場合、住居侵入罪(刑法第130条)の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」、強盗罪(同第236条)の法定刑が「5年以上20年以下の懲役」です。
この場合は強盗罪の法定刑のほうが重いため、強盗罪の法定刑の範囲で量刑が決定されます。 -
(2)併合罪の量刑
併合罪のうちの2つ以上の罪が有期懲役または禁錮に処せられるときは、そのもっとも重い刑の長期に2分の1を加えたものを長期として計算します(刑法第47条)。つまり刑の上限は、もっとも重い刑の1.5倍になるということです。
たとえば懲役20年を上限とする犯罪と懲役10年を上限とする犯罪が併合罪として処理される場合、もっとも重い刑の長期(20年)を1.5倍した30年が上限となります。 -
(3)併合罪の罰金
併合罪で罰金とほかの刑に処せられるときは、併科となります(刑法第48条1項)。併科とは同時に2つ以上の刑を科すことをいい、罰金と懲役の両方を科せられる場合などが該当します。
また併合罪のうちの2つ以上の罪で罰金に科せられるときは、各罪の罰金の、多額の合計以下が上限になります(刑法第48条2項)。
たとえば最大で罰金100万円の罪と罰金50万円の罪を犯した場合、刑の上限は150万円となるわけです。 -
(4)牽連犯と併合罪の量刑の違い
牽連犯と併合罪の量刑を比べると、併合罪のほうが重くなる場合があります。たとえば上限が5年の懲役と上限が10年の懲役にあたる罪を犯した場合、牽連犯の場合はもっとも重い刑が適用されるため、10年が上限となります。
一方、両者が併合罪で処理された場合は、もっとも重い刑(10年の懲役)の1.5倍である15年が上限です。
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5、牽連犯の時効
刑事事件における時効とは、一定の期間が経過することで検察官が起訴できなくなる制度をいいます(公訴時効)。時効が成立すると起訴されないので、刑罰を科せられることもありません。
牽連犯の時効は、もっとも重い法定刑を定めた罪の時効期間によって全体の時効が決まります。たとえば住居侵入窃盗を犯した場合で見てみましょう。
住居侵入と窃盗は牽連犯の関係にあり、それぞれの法定刑は以下のとおりです。
- 窃盗罪……10年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 住居侵入罪……3年以下の懲役または10万円以下の罰金
2つの罪の法定刑を比べたとき、もっとも重い法定刑を定めた罪は窃盗罪です。そのため窃盗罪の法定刑(10年以下の懲役)を基準に公訴時効が決まります。
公訴時効は、刑事訴訟法第250条によって犯罪の法定刑ごとに定められています。10年以下の懲役は、同条第2項4号の「長期15年未満の懲役または禁錮にあたる罪については7年」に該当します。したがって、住居侵入窃盗事件の時効は「7年」です。
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6、まとめ
牽連犯とは複数の犯罪が目的・手段などの関係にある場合を指します。本来であれば別々の犯罪が成立しますが、法律上ひとつの罪として扱われ、もっとも重い刑が適用されたうえで量刑が決定します。
牽連犯に該当するか、あるいは観念的競合や併合罪に該当するのかは難しい問題であり、個別の事件によって評価が異なる場合があります。
もし自分や家族が刑事事件を起こして逮捕されそうな場合や、ネットで調べてみたら牽連犯とか併合罪とか関係しそうだけどよく分からない場合など、不安な場合にはおひとりで悩むのではなく、弁護士に相談したほうがよいでしょう。罪数の問題は量刑の結果に影響を与える重要な問題です。
そのような時は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が力になります。まずはご相談ください。
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