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黙秘権とは? 黙秘権を行使する際の注意点や弁護士に相談するべき理由
刑事ドラマなどで、取り調べを受けている被疑者が「黙秘します」と黙り込む場面が描かれていることがあります。
実際に、刑事事件における取り調べや刑事裁判において、黙秘権を行使することは可能です。黙秘権は法的に認められた権利ですので、たとえ黙秘権を行使したからといって、捜査機関や裁判官が、その後の手続きや処分の決定に際して法的に不利益な取り扱いをすることは認められていません。
しかし、黙秘権を行使したことが原因で、結果として身柄を拘束される期間が長くなったり、起訴・不起訴や量刑が判断される際に事実上不利にはたらいたりする場合があります。そのため、黙秘権について知っておくことは重要であるといえます。
本コラムでは、黙秘権とはどのような権利なのか、黙秘権を行使する利点や注意点などについて、弁護士が詳しく解説します。
1、黙秘権とは
まずは、黙秘権とはどのような権利なのでしょうか。基本的な知識について解説します。
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(1)日本国憲法における黙秘権
黙秘権とは、刑事事件における取り調べや裁判において、自己に不利な供述を強要されない権利です。日本国憲法第38条1項に定められている権利で、供述拒否権とも呼ばれます。
犯罪の疑いをかけられ、捜査の対象になっている者のことを「被疑者」といい、検察官によって起訴され裁判にかけられた者を「被告人」といいますが、黙秘権は被疑者や被告人を守るための権利です。
仮に黙秘権が認められないとすると、被疑者や被告人は、警察官や検察官から不当な取り調べを受け、自己の意思に沿わない不利益な供述を強いられてしまうことになります。しかし、「何人も有罪であると宣告されるまでは無罪と推定される」という近代法の基本原則を前提とすれば、被疑者や被告人は犯罪者として取り扱われないのですから、不当な取り調べや不利益供述を強要するのは、許されません。そのため、被疑者および被告人の人権や利益を守ることを目的として黙秘権が認められており、黙秘権の行使を理由に不利益を被ることはありません。 -
(2)被疑者および被告人の黙秘権
被告人の黙秘権については、刑事訴訟法311条1項に定められており、被告人は終始沈黙し、または個々の質問に対する供述を拒否できます。
一方、被疑者の場合、刑事訴訟法に規定はされていませんが、日本国憲法38条1項は「何人も、」自己に不利益な供述を強要されないと定めているので、黙秘権は、当然に被疑者にも適用されます。また、刑事訴訟法198条2項では、捜査官は取り調べを行う前に、被疑者に対して黙秘権の行使について告知する義務があると規定しています。このことからも、被疑者について被告人と同様に黙秘権が認められると理解されています。 -
(3)黙秘権が侵害された場合はどうなる?
取り調べを熟知している警察官や検察官は「黙秘を続けていたら不利な結果になる」「おとなしく罪を認めれば楽になる」など、被疑者に対してさまざまな言葉をかけて、被疑者にとって不利益な事実を供述させようとします。また、そもそも黙秘権を行使できる旨を告げない、被疑者をどう喝するなど、黙秘権を侵害するような違法・不当な取り調べが行われることもあるようです。
このように、黙秘権を侵害するような違法・不当な取り調べが行われた場合にはどうなるのでしょうか。
仮にこのような状況で得られた供述が有効な証拠となってしまえば、被疑者に黙秘権を認めた意味がなくなってしまいます。そのため、黙秘権が侵害されている状況で得られた供述については、裁判で証拠として採用することは認められていません(刑事訴訟法第319条1項)。 -
(4)黙秘権が及ばない範囲
黙秘権は、どのような状況であっても行使できるわけではないことに注意が必要です。
たとえば、氏名や道路交通法に基づく呼気検査などについては、黙秘権は及びません。
黙秘権は、「自己に不利益な供述を強要されない」権利であり、「自己に不利益」な事実とは、刑事責任を負わされ、または加重される事実のことをいいます。氏名は、基本的にはそれが知られたからといって刑事責任を負わされるものではなく、黙秘権の対象とはなりません。また、呼気検査は、酒気を帯びて車両等を運転することの防止を目的として運転手から呼気を採取してアルコール保有の程度を調査するものであり、「供述」を得ようとするものではないため、黙秘権は及びません。指紋や足型採取、身長の測定、写真撮影、身体検査などについても同様に、「供述」以外の証拠を採取するものであるとして黙秘権の対象外となります。
ただ、氏名に関しては、それを話すことによって被疑者・被告人と犯人との同一性が認められる場合や、氏名を供述することによって前科が判明し、刑罰が重くなり得る場合には、例外的に黙秘権の対象に含まれることとなります。
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2、黙秘権を行使する方法
黙秘権を行使するにあたり、手続きなどは必要なのでしょうか。黙秘権を行使する方法についてみていきましょう。
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(1)黙秘権の行使
黙秘権を行使するかどうかは、被疑者・被告人本人が決めることができます。行使する方法は、「黙秘をします」とだけ告げるか、何も話さずに黙っているだけでも構いません。
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(2)完全黙秘と一部黙秘
黙秘権行使の態様には、「完全黙秘」と「一部黙秘」の2種類があります。
完全黙秘とは、一切を話さずに黙秘を貫くことです。一部黙秘とは、事件に関係ない話や犯行前後の状況などについては話しても、犯行の肝心な部分については話すことを拒否するなど、一部だけを黙秘することです。
このように、一言も話さないことも、自分が話したいことだけ話すこともできます。また、取り調べでは黙秘を続け、裁判における被告人質問には答えるということも認められています。 -
(3)黙秘権行使のタイミング
黙秘権は、逮捕前や取り調べのとき、裁判に出廷したときなど、刑事事件の手続きにおけるどの段階でも行使できます。
逮捕直後においては、精神的に不安定になり、パニックに陥りがちです。この場合、落ち着いて状況を整理するというために、ただ黙り込むという方法で黙秘権を行使することは有効といえます。しかし、黙秘を続けることで勾留請求される可能性が高まるなど、不利益となるケースもあります。そのため、可能な限り早く弁護士と接見し、黙秘権を行使するべきなのか、または一部黙秘をするべきなのかなど、状況に応じた適切なアドバイスを受けることが大切です。
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3、黙秘権を行使する利点
黙秘権を行使することで、どのような利点があるのでしょうか。
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(1)不利な内容の供述調書が作成されることを防げる
取り調べでは、被疑者の発言に基づいて供述調書が作成されます。しかし人間の記憶は不確かであり、自分では正確だと思っていることが間違った記憶である場合も少なくありません。特に取り調べでは、スマートフォンやスケジュール帳といった客観的な記録を確認することはできないので、誤った記憶のまま供述したことが供述調書に記されてしまうケースがあります。
誤った記憶に基づいて作成された供述調書であっても、被疑者本人が署名押印していれば裁判においては有力な証拠となります。アリバイの日時など、あいまいな記憶によって供述したことが防犯カメラなどの客観的な証拠と矛盾していたときには、裁判官や裁判員の心証が悪くなり、裁判で不利となる可能性が生じてしまいます。
これに対し、記憶があいまいな部分については黙秘をしておけば、誤った記憶に基づいて不利な供述調書が作成されることを防止できます。 -
(2)誘導尋問などによる不利な発言を防ぐことができる
捜査官は、捜査機関が正しいと考える仮説を裏付けるような供述調書を作成するために、誘導尋問などを行い、あるいは自白や被疑者にとって不利となる発言を引き出そうとする場合があります。また、たとえ被疑者が強引な取り調べに屈し、事実とは異なる内容の供述調書が作成されたとしても、本人が署名押印をしてしまえば、裁判における有力な証拠として採用されてしまいます。このような事態を避けるために、黙秘権の行使は有効です。
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(3)不起訴となる可能性がある
刑事訴訟法第317条では「事実の認定は、証拠による」と規定しており、刑事裁判においては証拠裁判主義が採用されています。そのため、刑事裁判で被告人を有罪とするためには、犯罪を立証できる証拠が必要であり、証拠に基づかない不確実な事実のみでは、有罪判決を獲得することはできません。
証拠の中には、供述調書も含まれます。つまり、供述調書がなく、それ以外に犯罪を示す有力な証拠がなければ、裁判で無罪判決が下される可能性が高くなるため、証拠不十分として不起訴処分となる可能性もあります。
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4、黙秘権を行使する際に注意すべきこと
黙秘権は、行使する利点がある一方で、正しく権利を行使できなければ不利益を被る場合があるため、注意が必要です。
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(1)逮捕される可能性が高くなる
刑事事件では、すべてのケースにおいて被疑者を逮捕するわけではありません。逮捕とは、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合に、身柄を拘束するための手続きです。つまり、証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断された場合は、身柄を拘束されない在宅事件として処理されることになります。
しかし、黙秘権を行使すれば証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断され、通常であれば在宅となる事件でも、逮捕されて身柄が拘束される可能性があります。 -
(2)取り調べが厳しくなるおそれがある
黙秘権は被疑者に認められた権利です。しかし、黙秘権を行使したために捜査官の取り調べが一層厳しくなることが予想されます。厳しい取り調べが行われると、精神的にも肉体的にも追いつめられてしまうでしょう。
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(3)身体拘束期間が延びる
黙秘権が行使されると供述調書という証拠が手に入らないため、捜査機関はそのほかの有力な証拠集めに時間をかける必要がでてきます。
また、黙秘することによって反省の有無などが判断しにくくなります。そのため、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるとして、勾留請求や勾留延長請求が認められる可能性も高まるでしょう。結果として身柄の拘束期間が長くなるおそれがあります。
なお、起訴された場合でも、自白をしていれば保釈が認められることがありますが、黙秘権を行使していると保釈が認められない可能性は高くなります。 -
(4)刑が重く傾く可能性がある
黙秘権を行使していることを理由に有罪を認定する、量刑を重くするなど、被告人に対して法的に不利益な扱いをすることは認められていません。
しかし、供述以外に犯行を立証する有力な証拠があるときには、自白をしていないことは反省・悔悟の情を示していないと判断され、量刑を判断する上で事実上不利益となる可能性があります。
黙秘権を行使することによって、今示してきたような不利益を被る可能性があります。
しかし、繰り返し述べてきたように、黙秘権は憲法上認められた権利です。上記のような可能性があることをもって、黙秘権の行使を控えるべきだと考えることは妥当ではなく、あくまでも自己に不利益な供述については供述を拒めるという大前提は念頭に置いておくべきでしょう。
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5、黙秘権を行使するかどうかを弁護士に相談するべき理由
刑事事件で逮捕されるおそれがある方や、ご家族が逮捕されてしまった方は、黙秘権の行使について早急に弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)黙秘権の行使に関して適切なアドバイスを得られる
前述したように、黙秘権を行使することで不利な状況に陥るおそれもあります。弁護士であれば、犯罪の様態や捜査状況などを把握した上で、黙秘権を行使するべきかどうかはもちろん、黙秘権を行使するタイミングや具体的な行使の方法、黙秘権の行使によって得られる効果などについて、適切にアドバイスすることが可能です。
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(2)供述する内容について助言を得られる
弁護士が、一部黙秘が有効であると判断したときには、どのような供述をするべきか、反対に供述を拒否するべき場面はどのようなときかなど、取り調べにおける供述内容について具体的なアドバイスができます。それにより、自身にとって不利益となる供述調書が作成されることを防げます。
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(3)厳しい取り調べを支えてくれる
黙秘権を行使するかしないかにかかわらず、取り調べでは国家権力である警察官等とたった一人で対峙(たいじ)することになるため、精神的にも肉体的にも過酷な状態に追い込まれます。逮捕から72時間はたとえ家族であっても面会することは許されず、外部へ自由に連絡することも認められません。
その点、弁護士には接見交通権が認められているため、逮捕直後であっても面会することが許されています。警察官が聞き入れてくれるとは限らない主張も、弁護士であれば十分に聞いて理解してくれ、的確なアドバイスをしてくれます。捜査状況を把握し、今後の見通しなどもつけることができるので、落ち着いて取り調べに応じることができるでしょう。
また、被害者がいる事件では弁護士が代理人として示談交渉を行うなど、黙秘権の行使以外で、早期釈放・不起訴処分を獲得するための手だても講じ、一日でも早い事件解決に向けたサポートを行います。
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6、まとめ
黙秘権は、何人も行使することが保障されている権利です。しかし、黙秘権を行使することで、状況によっては逆に不利益となるおそれがあります。そのため、黙秘権を行使する場合は、弁護士に相談した上で慎重に行うことが重要です。
刑事事件を起こしてしまい逮捕されるおそれがある方や、ご家族が逮捕されてしまった方は、早急にベリーベスト法律事務所にご相談ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が適切なアドバイスを行い、早期釈放・不起訴処分に向けて全力でサポートします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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