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偽証罪とは? 虚偽告訴罪や宣誓証言拒否罪との違いも詳しく解説
偽証罪という言葉を聞いたことのある方もいるでしょう。警察などからの取り調べに対してうそをつくことで成立する犯罪とイメージしている方も多いようですが、実際に偽証罪が成立する場面は異なります。
偽証罪とはどのような犯罪なのでしょうか?偽証罪が成立する条件や罰則、よく似た犯罪との違いを解説します。
1、偽証罪とは?
まずは「偽証罪」がどのような犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)偽証罪の法的根拠
偽証罪は刑法第169条に規定されている犯罪です。条文には「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき」を処罰の対象とすることが明示されています。
ここで注目するべき点は「宣誓した証人」という部分です。偽証罪は、裁判において宣誓した証人に対して適用される犯罪であるため、罪を問われている当事者は対象とはなりません。
法定刑は3か月以上10年以下の懲役で、罰金は規定されていません。刑事裁判で有罪判決が下された場合は懲役刑が科せられる重い罪です。 -
(2)偽証罪が定められている目的
偽証罪が保護しているのは、国家の審判作用の適正です。
刑事裁判においては、裁判官がさまざまな証拠を取り調べたうえで事実を明らかにしていき、判決を下します。証拠のなかには物的なものだけでなく参考人などの証言も含まれるため、証言に虚偽があれば正確な審理結果が期待できません。
そこで、裁判において宣誓した証人の偽証に対して厳しい刑罰を設けることで、証人の偽証を防止し、正確な審理を確保しようというねらいがあるのです。
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2、偽証罪の成立要件とは?
偽証罪が成立する要件について、さらに詳しく確認していきましょう。
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(1)偽証罪が成立する2つの要件
偽証罪の成立要件は次の2点です。
- 法律によって宣誓した証人であること
- 虚偽の陳述をしたこと
この両方を満たした場合に限って偽証罪が成立します。
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(2)「宣誓した証人」とは
偽証罪でいう「宣誓した証人」とは、刑事裁判で何らかの事情を知っているとして法廷に呼び出され、尋問を受ける証人を指します。
刑事裁判で証人として法廷に呼び出されると、刑事訴訟法第154条に基づく「宣誓」がおこなわれるのが原則です。宣誓とは「良心に従って真実を述べ、何ごとも隠さず、偽りを述べない」と裁判官の前で誓う手続きです。用意されている宣誓書を読み上げることで宣誓とします。
この要件に照らせば、警察や検察官による取り調べを受けている被疑者や、刑事裁判で罪を問われる当事者である被告人は、偽証罪の対象にならないことがわかるでしょう。 -
(3)「虚偽の陳述」とは
ここでいう「虚偽の陳述」がどのようなものを指すのかは、学説に争いがあります。
● 主観説
証人が自らの記憶とは異なる証言をすることを虚偽の陳述と解する考え方です。あえて記憶とは異なる証言をした場合にのみ成立し、記憶違いや思い込みなどによって客観的な事実とは異なる証言をした場合は偽証とはなりません。
● 客観説
証人が客観的な事実とは異なる証言をすることを虚偽の陳述と解する考え方です。
主観説と客観説のうち、実際の裁判では主観説が採用されています。客観説を採用してしまうと、証人が記憶違いや思い違いをして事実とは異なる証言をした場合でも処罰されてしまうからです。
主観説が採用されているということは、つまり「証人本人が虚偽であると認識していたか」という内心の問題となります。証人が事実を知っていたかどうかを判定するのは極めて難しいため、偽証罪はほかの犯罪と比べてもとくに成立しにくい犯罪であるといえるでしょう。
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3、取り調べ中についたうそは何罪?
偽証罪は裁判において証人が偽証した場合に成立する犯罪ですが、警察・検察官による取り調べで虚偽を述べた場合は犯罪になるのでしょうか?
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(1)被疑者が虚偽の供述をした場合
被疑者が取り調べの機会に虚偽の供述をしても、法律に触れることはありません。捜査機関による取り調べを受ける被疑者は、厳しい刑罰を免れたいと保身を図る、あるいはほかの犯罪の発覚を防ぎたいといった意図で事実とは異なる供述をしてもおかしくはない立場なので、罪にはならないのです。
ただし、罪にはならなくても虚偽の供述を繰り返していると「反省していない」と評価され、勾留による身柄拘束が長引いたり、検察官が起訴に踏み切ったりする危険が高まることは心得ておくべきでしょう。 -
(2)参考人が虚偽の供述をした場合
犯罪の被害者や目撃者、何らかの事情を知っている人などの参考人でも、やはり捜査機関の取り調べにおいては偽証罪が成立しません。ただし、虚偽の内容や目的によっては、刑法第103条の「犯人隠避罪」に問われる危険があります。
犯人隠避罪は、罰金以上の刑にあたる罪を犯した者または拘禁中に逃走した者を隠避させた場合に成立する犯罪です。自宅に逃走中の犯人をかくまっているのに警察からの取り調べに対して「居場所は知らない」などと虚偽を述べていると、3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。
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4、虚偽告訴罪や宣誓証言拒否罪との違い
偽証罪と紛らわしい犯罪に「虚偽告訴罪」や「宣誓証言拒否罪」があります。偽証罪と各犯罪との違いを確認しておきましょう。
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(1)虚偽告訴罪との違い
捜査機関に対して、特定の人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で虚偽を述べて告訴した場合は、刑法第172条の「虚偽告訴罪」に問われるおそれがあります。虚偽告訴罪とは、正式な刑事告訴に限らず、警察への届け出や行政機関への申し出において虚偽の申告をした場合に成立する犯罪です。
偽証罪が裁判において宣誓したにもかかわらず偽証した証人を罰するものであるのに対して、虚偽告訴罪は「虚偽の告訴・届出をした者」を罰するものであり、処罰の対象や適用される機会がまったく異なります。
なお、虚偽告訴罪の法定刑は3か月以上10年以下の懲役で、偽証罪と同じです。 -
(2)宣誓証言拒否罪との違い
偽証罪と同じく、刑事裁判における宣誓に関して規定されているのが「宣誓証言拒否罪」です。
刑事裁判においては、精神疾患などを理由に宣誓の意味が理解できない場合を除いて、証人に宣誓をさせなければなりません。ところが、正当な理由なく宣誓・証言を拒んだ場合は、刑事訴訟法第160条の規定に基づいて、その場で10万円以下の過料を言い渡されることがあります。
ここでいう「正当な理由」とは、宣誓して事実をありのままに証言することで証人自身や近親者が訴追されてしまう場合や職務上の守秘義務を負っている場合に限られます。
さらに、刑事訴訟法第161条は、正当な理由なく宣誓・証言を拒んだ者について1年以下の懲役または30万円以下の罰金を規定しています。
偽証罪は宣誓したうえで偽証した証人を罰する犯罪ですが、宣誓証言拒否罪は「正当な理由なく宣誓・証言を拒んだ者」を罰するものという違いがあります。
なお、刑事訴訟法第160条に基づいて下される過料は行政罰であるため前科にはなりません。一方で、同法第161条に基づく場合は懲役・罰金という刑罰が規定されているため、検察官が起訴して刑事裁判で有罪判決が下された場合は前科がついてしまいます。
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5、まとめ
偽証罪によって罰せられるのは、刑事裁判で宣誓したうえで偽証した証人です。犯罪の被疑者や被告人は、刑事裁判だけでなく捜査機関による取り調べの機会を含めて、虚偽の供述をしても罪には問われません。
しかし、刑事事件を起こして罪を問われる立場にあれば、取り調べや裁判においてどのような供述に徹するのかは重要なポイントになります。
虚偽の供述を繰り返していると、偽証罪には問われなくても捜査をかく乱させることによって無用に身柄拘束が長引いてしまうだけでなく、「反省していない」と評価されて厳しい処分が下されてしまう危険が高まるため注意が必要です。
逮捕される可能性があり、捜査機関における取り調べや刑事裁判でどのような供述・主張をすべきなのかに悩んでいるなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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