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弁護士コラム

2021年08月16日
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業務上過失致死とは? 死傷事故が発生した場合に弁護士に相談すべき理由

業務上過失致死とは? 死傷事故が発生した場合に弁護士に相談すべき理由
業務上過失致死とは? 死傷事故が発生した場合に弁護士に相談すべき理由

令和3年3月、長野地検は、平成28年のスキーツアーでバスの乗客26人に重軽傷を負わせた事件について、バス会社の社長と当時の運行管理者の2名を在宅起訴しました。この2名はバス事故で死亡した運転手の男性が、大型バスの運転に不安を抱えていたことを認識していながら事故を防止するための注意義務を怠って運転させたとされています。

この事件のように業務上の注意義務を怠り、人を死傷させてしまう罪を「業務上過失致死傷罪」といいますが、具体的にはどのようなケースで成立するのでしょうか?過失であっても重く処罰されるのでしょうか?

本コラムでは業務上過失致死傷罪を取り上げ、犯罪の成立要件や刑罰の内容、逮捕前後の流れなどについて解説します。

1、過失致死罪とは?

刑法第38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と、故意による犯罪を処罰することを原則としています。故意とは罪を犯す意思のことです。

一方、同条ただし書きで「法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」と、例外的に過失による犯罪を処罰することができる場合があると定めています

この例外規定にあたるのが過失致死の罪です。

  1. (1)過失致死罪とは?

    過失致死罪とは、故意がなく、不注意によって人を死なせた場合に問われる罪をいいます(刑法第210条)。たとえば自転車と歩行者との間の衝突事故やスポーツ中の事故など、不注意によって人を死なせたような場合に適用されます。

    過失とは、「危険を予期することができ、注意して危険を回避する義務があったのに、その義務を怠り注意を払わなかった場合」を指します。一般的な言葉でいうと「不注意やミス」のことです。

    致死とは人を死なせることです。相手が死亡せず負傷させた場合は過失致死罪ではなく刑法第209条の過失傷害罪が成立します。

    過失致死罪の刑罰は「50万円以下の罰金」です。

  2. (2)過失致死罪と暴行・傷害罪の違い

    暴行罪とは、暴行を加えたが人を傷害するまでには至らなかった場合に成立する犯罪をいいます(刑法第208条)。刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。

    暴行を加えた結果、人を傷害した場合には傷害罪が成立します(同第204条)
    刑罰は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。また、傷害の結果、人を死亡させてしまった場合は傷害致死罪(3年以上の有期懲役)に問われます(同第205条)。

    暴行罪や傷害罪の成立には、相手を暴行する意思や傷害する意思(故意)が必要です。傷害罪の場合は、傷害することについての故意がなくても、暴行の故意があれば成立するとされています。

    これに対して過失致死罪は、相手を暴行する・傷害するなどの意思がない場合を対象としています。

  3. (3)過失致死罪と殺人罪の違い

    殺人罪は人を殺したことで成立する犯罪です(刑法第199条)。
    過失致死罪と殺人罪は人の死亡という結果は同じですが、過失致死罪は殺意がなく過失の場合に成立するのに対して、殺人罪は殺意がある場合に成立します

    刑罰の内容も大きな違いがあります。過失致死罪は最大で50万円の罰金ですが、殺人罪は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」と、非常に重く定められています。

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2、過失致死罪の種類

過失致死罪の特別類型として、「重過失致死傷罪」と「業務上過失致死傷罪」があります。過失致死罪が適用されるケースはそれほど多くないので、故意がなく人を死傷させるといずれかの罪に問われる場合が多いでしょう。それぞれの犯罪の概要を解説します。

  1. (1)重過失致死傷罪

    重過失致死傷罪は、重大な過失により人を死傷させた場合に成立します(刑法第211条後段)。

    重過失致死傷罪が成立する具体的なケースとしては、スマートフォンを操作しながら自転車を運転して歩行者に追突して死傷させたケース、闘犬を放し飼いにしたために通行人を襲って死傷させたケースなどが挙げられます。

    重大な過失とは、人の死傷結果が容易に予見できたのに、それを回避するための行動を怠った場合をいいます。つまり重過失致死罪は、過失致死罪よりも過失の程度が大きい注意義務違反があった場合に成立します。事故や被害の大きさは関係ありません。

    重過失致死傷罪の刑罰は「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。選択刑に懲役・禁錮刑が含まれている点、罰金の上限が大きい点で過失致死罪(最大50万円以下の罰金)や過失傷害罪(最大30万円以下の罰金)よりも重いことが分かります。

    致死と致傷で法定刑に違いはありませんが、結果の大きさは量刑が決まる際に考慮されます。特に人を死亡させた場合は結果が重大なので懲役刑になる可能性もあるでしょう。

  2. (2)業務上過失致死傷罪

    業務上過失致死傷罪とは、業務上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合に成立する犯罪をいいます(刑法第211条前段)。

    具体的なケースとしては、クレーン作業中に作業員の退避状況の確認を怠って死亡させたケース、医療過誤で患者を死亡させたケースなどが挙げられます。

    刑罰は「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。過失致死罪と比べて格段に重いのは、人の生命身体に危険を生じさせる業務に就く者は、特別に高度な注意義務を課せられているためだと考えられています。

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3、業務上過失致死傷罪の成立要件

業務上過失致死傷罪が成立する要件と、処罰の対象になるのは誰なのかについて解説します。

  1. (1)成立要件

    業務上過失致死傷罪は、①業務上必要な注意を怠り ②人を死傷させることで成立します。

    「業務」とは、社会的地位にもとづき反復継続して行う業務であって、人の生命身体に危険が生じる行為をいいます。典型的には、工場の作業や電車や船舶の運転、医薬品の製造などが該当します。

    ただし仕事としての業務ではなく、営利目的がない場合であっても、人の生命身体に危険が生じる行為であれば業務にあたります。たとえばサークル活動や組合活動、趣味などです。

    業務は適法なものであるかどうかも問いません。たとえば医師資格を保有していない者による医療行為であっても業務にあたります。また実際に反復継続している必要はなく、反復継続する意思があれば1回でも業務とみなされます。

    なお、自動車運転による死傷事故は以前、業務上過失致死傷罪に該当していましたが、自動車運転処罰法の制定にともない、現在は第5条の過失運転致傷罪(7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)で処罰されます。

  2. (2)業務上過失致死罪に問われるのは誰なのか

    処罰の対象となるのは、業務上の注意を払わなかったことにより人を死傷させた本人ですまた過失行為をした本人以外にも、その者を「管理するべき立場にある者」も罪に問われる場合があります

    たとえば、重機作業中に重機の誤操作によって同僚に重傷を負わせてしまったケースでは、作業者本人だけでなく、現場責任者や会社の社長・役員なども処罰され得るわけです。

  3. (3)両罰規定は適用されない

    「両罰規定」とは、犯罪行為をした自然人だけでなく、行為をした者と一定の関係にある法人も処罰される規定のことをいいます。
    業務上過失致死傷罪で仮に両罰規定があった場合、たとえば鉄道の脱線事故では、運転手だけでなく、十分な安全対策をとっていなかった鉄道会社が処罰されることになります。

    しかし、業務上過失致死傷罪は、業務上の不注意で人を死傷させた本人や、その者や現場を管理する個人を処罰するものであって、両罰規定はありません。そのため、会社の従業員が同罪に問われても、当然に会社も処罰されることにはなりません

    もっとも、従業員が仕事中の死傷事故を起こした際に、会社は責任を問われないのかといえばそうではなく、従業員の危険や健康障害を防止する措置を怠ったとして労働安全衛生法違反で刑罰を科せられる場合があります。

    また、生命・身体の安全を確保するための必要な配慮をしなかったとして民事上の責任(安全配慮義務違反)を追及され、従業員や遺族などから損害賠償を請求される場合もあるでしょう。

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4、業務上過失致死傷罪での逮捕前後の流れ

業務上過失致死傷事件を起こすと逮捕される場合があります。事件から逮捕されるまで、逮捕されたあとの流れを確認しましょう。量刑の判断で考慮されやすい要素についても解説します。

  1. (1)逮捕されるまでの流れ

    事件が発生すると、目撃者の通報や被害者・遺族の告訴、被害届の提出などをきっかけに捜査が開始されます。事件を起こした人は任意の出頭要請や同行に応じ、警察などからの取り調べを受けるでしょう。

    逮捕されなかった場合は在宅のまま事件の捜査が進み、捜査機関からの呼び出しがあればその都度応じて取り調べを受けることになります。

  2. (2)逮捕されたあとの流れ

    刑事事件で逮捕されるのは、罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があり、逃亡または証拠隠滅のおそれがあると判断された場合です。人を死亡させた場合や重傷を負わせた事件では、量刑が重く傾きやすいことから、逃亡・証拠隠滅のおそれが高いとして逮捕される可能性があります

    逮捕されると、警察から48時間を上限に取り調べを受けて検察官に送致されます。送致後は検察官からも取り調べを受け、24時間以内に釈放されるか、勾留を請求されるでしょう。裁判官が勾留を認めると、原則10日間・延長で10日間、合計で最長20日間の身柄拘束が続きます。

    勾留が満期を迎えるまでに、検察官は起訴または不起訴を判断します。不起訴になった場合は直ちに身柄を釈放されて自宅へ帰されます。
    起訴された場合、勾留されたままおよそ2か月後に行われる公開の刑事裁判を待つ身となります(起訴後に保釈が認められる場合もあります)。

    略式起訴された場合は公開の裁判は開かれず、書面による審理のみで罰金刑が言い渡されます。

  3. (3)量刑に影響する可能性が高い要素

    業務上過失致死傷罪の法定刑は5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金ですが、実際に言い渡される刑(量刑)は、法定刑の範囲で、裁判官がさまざまな要素をもとに総合的に判断して決定します。

    量刑の判断に影響する可能性が高いのは以下のような要素です。

    • 結果の大きさ(死亡か負傷か、負傷の場合はその程度、被害者の人数など)
    • 過失の程度
    • 被害者・遺族の処罰感情
    • 被害者・遺族との示談成立の有無
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5、業務上過失致死傷罪の判例

ここで、実際にあった業務上過失致死傷事件の判例を紹介します。

  1. (1)ホテルの火災事故で代表取締役社長に業務上過失致死傷罪が成立した事例

    【最高裁判所判例 事件番号:平成2(あ)946】
    宿泊客のたばこの不始末によってホテルの客室から出火した際、スプリンクラー設備やこれに代わる防火区画が設置されておらず、従業員についても適切な初動や避難誘導などができなかったため、宿泊客ら32人が死亡し、24名がやけどや気道熱傷などの傷害を負いました。

    ホテルでは専門業者による消防設備の定期点検や整備、不良箇所の改修などがされておらず、消防局の再三の指摘により一度だけ形式的な訓練を行った以外は消防訓練も全く行われていませんでした。

    裁判では、被告人には防火管理上の注意義務があるのは明らかであって、火災が発生すれば宿泊客らに死傷の危険がおよぶおそれがあることが容易に予見でき、注意義務を怠らなければ宿泊客らの死傷の結果を回避できたとして過失を認め、禁錮3年の実刑判決が言い渡されています。

  2. (2)温泉事故の爆発事故で施設の設計担当者に業務上過失致死傷罪が成立した事例

    【最高裁判所判例 事件番号:平成26(あ)1105】
    爆発事故は、ガス抜き配管内で結露水が滞留してメタンガスが漏出したことによって生じました。この事故により、従業員3人が死亡、2名が負傷、通行人1名が負傷しています。

    被告人は不動産会社から温泉施設の建設工事を請け負った建設会社の設計担当者として、結露水排出の仕組みの存在やその意義などについて認識していました。しかし施工部門や不動産会社の担当者に対してこれらの情報を伝達しておらず、温泉施設で温泉水のくみ上げが開始されてから本件爆発事故に至るまでの間に水抜きバルブが開かれたことは一度もありませんでした。

    裁判では、被告人には結露水の水抜き作業に係る情報を確実に説明し、爆発事故を防止するべき業務上の注意義務があったのに十分な情報を伝達していなかったとして過失を認め、禁錮3年、執行猶予5年の判決が言い渡されています。

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6、業務上過失致死傷事件を起こしたときに弁護士ができること

業務上過失致死傷事件で逮捕されると、逮捕段階・勾留段階を含めて最長で23日間もの身柄拘束を受けるおそれがあります。会社や家庭といった日常生活への影響が大きいため、弁護士が検察官や裁判官に身柄拘束の必要性がない旨を主張するなど、早期に身柄を釈放されるよう活動します。

被害者やその遺族との示談交渉も重要です。示談によって被害者への賠償と謝罪が尽くされ、被害者の処罰感情がやわらいだときには、量刑判断で有利な事情として考慮される可能性が高まるでしょう。起訴前に示談が成立し、かつ怪我の程度が軽い場合は不起訴になる可能性もあります

ただし、事故を起こした加害者本人や加害者の家族による被害者との交渉は難航が予想されます。特に被害者が亡くなっている場合や重傷を負っている場合には、被害者・遺族の処罰感情が高く交渉が難しいため、示談交渉の経験豊かな弁護士に被害者との交渉を一任するのが最善です。

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7、まとめ

業務上過失致死傷罪は業務上必要な注意を怠ったために人の死傷結果を生じさせた場合に成立します。業務に就く者は高度の注意を払う義務があることから、過失とはいえ最長で5年の懲役刑が規定された重い罪です。
業務上過失致死傷事件では被害者への謝罪や賠償を尽くし、示談を成立させることが重要ですが、個人での対応は困難を極めます。まずは弁護士に相談し、アドバイスやサポートを受けましょう。

刑事事件の解決実績を豊富にもつベリーベスト法律事務所が力になります。事件についてお悩みであればご相談ください。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。

※本コラムは公開日当時の内容です。
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