- その他
- 求刑
求刑は誰が決める? 懲役刑や罰金刑などの判決へ与える影響とは
求刑とは、刑事裁判において、被告人に対してどのような刑罰を科すべきか、検察官が裁判所に意見を述べることです。求刑は、裁判所の判決を法的には拘束しませんが、判決に対して事実上影響を及ぼすことがあります。
本記事では、刑事裁判における求刑や判決の意味、求刑は誰が決定するのか、求刑が判決に及ぼす影響を弁護士が解説します。あわせて、刑事裁判はどのような流れとなるのか、判決によって被告人の処遇はどうなるのか、執行猶予付き判決や刑の減軽をめざすためには何をするべきかについても見ていきましょう。
1、求刑とは?
まずは「求刑」の意味や刑事裁判の流れにおける位置づけを確認していきましょう。
-
(1)刑事裁判の流れにおける求刑
検察官は、捜査の結果と、事件の内容や証拠の有無、被疑者の前科・前歴、示談成立の有無などを考慮して、被疑者を起訴するかどうかを判断します。起訴には公判請求と、簡易な手続きによる略式命令請求および即決裁判手続の申し立ての3種類があり、公判とは、刑事ドラマでよく見かける公開された法廷で行う刑事裁判のことです。
令和2年版の犯罪白書によると、令和元年中に検察庁が処分を決定した事件のうち、約8.9%が公判請求されています。
起訴されると被疑者は被告人となり、公判では犯罪事実の有無、犯罪事実があった場合には適用するべき法律や刑の重さについて審理されます。
また、殺人罪や強盗致死傷罪など、一部の重大な犯罪の刑事裁判では、一般の人が裁判員として、裁判官とともに審理にあたります。
刑事裁判は、冒頭手続・証拠調べ手続・弁論手続・判決宣告手続の4つに大別されます。「求刑」は、弁論手続において、検察官が述べるものです。① 冒頭手続- 人定質問
- 起訴状朗読
- 黙秘権告知
- 罪状認否
② 証拠調べ手続- 冒頭陳述
- 検察側の立証
- 被告人側の立証
③ 弁論手続- 論告求刑
- 弁護人最終弁論
- 被告人意見陳述
④ 判決宣告手続 -
(2)求刑とは?
「求刑」とは、検察官が、科すべき刑罰の種類とどのくらいの刑を科すのが相当かについて、裁判所に対して意見を述べることです。
検察官は、証拠調べ手続の結果にもとづき、犯罪事実の根拠や適用するべき法律について主張を述べます。これを「論告」といいます。
刑事訴訟法293条1項により、論告は検察官の義務となっていますが、求刑は義務付けられてはいません。しかし、通常は、検察官が論告の終わりに求刑意見を述べます。 -
(3)決定権は誰にあるの?
検察官の中には、捜査指揮を行って起訴処分を決める捜査検事と、公判に立ち会う公判検事とで、役割を分けている場合があります。
中小の地方検察庁では、通常はどちらも同じ検察官が担当しますが、大規模な検察庁では刑事部と公判部に分かれており、起訴をした検察官とは別の検察官が公判を担当することもあります。
いずれにしても、求刑については、起訴をした検察官(捜査検事)が、起訴手続をする段階で公判部長などの決裁を受けたうえで決定されます。起訴後に犯罪事実の内容や示談の成立などで事情が変化したときには、求刑が変更される可能性もあります。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
2、求刑は判決へどう影響するの?
求刑が判決に与える影響を見ていきましょう。
-
(1)求刑後の流れ
論告求刑後には、弁護人による「最終弁論」が行われます。犯罪事実を争わない事件では、十分に反省していることや被害者との示談を行っていることなど、被告人にとって有利な事情を挙げて、妥当な量刑について意見を述べ、執行猶予付き判決など情状酌量を求めます。否認をしている事件では、検察官側の主張や証拠について、別の可能性を示したり、立証の方向が間違っていることや、事実と事実の矛盾点などを指摘します。
最終弁論後には「被告人意見陳述」が行われ、被告人が事件の反省や被害者への謝罪を述べたり、無実を主張したりします。被告人意見陳述で結審すると、判決言い渡しとなります。
判決がなされる日は、通常、最終弁論の1~2週間後、被告人が否認している事件では1か月~2か月後です。
-
(2)判決とは?
「判決」は、裁判官が判決期日に公開の法廷において「有罪か無罪か」「有罪ならどのくらいの刑に処するのか」を被告人に対して言い渡すことです。
判決文は「被告人を○○の刑に処する」あるいは「被告人は無罪」という主文と判決理由で構成されています。判決理由には、有罪の場合には罪となるべき事実関係、主文の量刑となった事件の経緯、情状などが示されています。通常は主文が先に読み上げられますが、死刑や無期懲役となる重大犯罪の事件では、主文が後回しになることがあります。
判決期日から14日以内に控訴がなければ、判決が確定します。 -
(3)求刑は判決へどう影響するのか?
実は、求刑には裁判所の判決に対する法的な拘束力がないため、刑法などが定める刑(法定刑)の範囲内なら、求刑を下回る判決や上回る判決となっても法的には問題はありません。
しかし、実際のところ裁判所は検察官の求刑を参考にしており、裁判員裁判を除けば求刑より重くなることは少ないです。
実刑判決となる場合では求刑の8割ほど、執行猶予付き判決となる場合では求刑どおりの判決となるケースが多数です。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
3、判決が確定した後の流れ
判決が確定すると、その後はどのような流れで手続が進むのでしょうか?
-
(1)無罪判決の場合
無罪判決の場合には、刑事訴訟法345条の規定にもとづき勾留状が失効します。勾留状とは、被疑者または被告人を勾留するために、検察官が勾留請求を行い、勾留を許可する裁判をした場合に、裁判官が発付する書面のことです。したがって、無罪判決なら身柄事件で勾留中の被告人は即日釈放となります。
荷物を持ち帰るために収容されていた拘置所にいったん戻ることも、そのまま裁判所から自宅などへ直接帰ることも可能です。拘置所へは護送車を利用して立ち寄ることもできますが、その際には腰縄や手錠は外されます。 -
(2)執行猶予付き判決の場合
執行猶予付き判決の場合でも、無罪や刑の免除、罰金刑などと同じように勾留状が失効するので、勾留中の被告人は即日釈放となります。しかし、あくまでも刑の執行が猶予されているだけで、無罪ではなく有罪です。また、刑の執行が猶予されているに過ぎませんので、執行猶予期間中に、さらに罪を犯すと、猶予されていた刑が執行されることもあります。その際には、前の刑と併せて後の刑も執行されますので、注意が必要です。
猶予期間中は、直ちに刑務所に収監されることはありませんが、新たに刑事事件で実行判決となれば執行猶予が取り消されます。
また、罰金刑を受けたり、保護観察の規則に著しく違反したりといった状況があれば、執行猶予が取り消されることがあります。 -
(3)実刑判決が確定した場合
実刑判決とは、執行猶予が付されない禁錮刑と懲役刑のことです。禁錮刑では、刑務所などの刑事施設に身柄拘束されます。懲役刑では、身柄拘束されたうえで、労働義務が課されます。実刑判決を受けた被告人は受刑者となり、そのまま拘置所に戻った後、刑務所に収監されるという流れです。
被告人が保釈中の場合には、刑事訴訟法第343条の規定にもとづき保釈の効力が失われるので、そのまま身柄を拘束されて拘置所に戻った後、刑務所に収監されます。逮捕・勾留されない在宅事件の被告人は、判決確定後10日程度経過すると検察庁から呼び出しがあり、刑務所に収監されます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
4、公判前に家族ができること
厳しい刑罰を回避するには公判前の対策が不可欠です。公判前に家族としてできる行動を挙げていきましょう。
-
(1)公判前に準備すべきこと
もし家族が逮捕されたり、公判請求を受けたりしたら、まず優先すべきは弁護人の選任です。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に相談し、弁護人として選任しましょう。
刑事裁判では、被告人の正当な権利や利益を守るために弁護人の選任が求められます。刑事訴訟法30条により、被疑者または被告人の家族(配偶者・両親・祖父母・子ども・兄弟姉妹)は、本人とは独立して弁護人を選任する権限を有しています。
刑事事件で逮捕・勾留された場合には、起訴・不起訴が決まるまで最大で23日間の身柄拘束を受けたうえで、公判請求から約1か月~2か月後に公判開始となります。この間に弁護士に依頼すれば、公判の流れや判決の見通しなどについて説明を受けることが可能です。
刑事事件では、事実関係の調査や証拠収集、情状証人の手配などが必要なので、なるべく早く弁護士に弁護活動を依頼しましょう。 -
(2)弁護士に依頼した方がいい理由
弁護士は、代理人として被害者と直接に交渉をして、示談を成立させることも可能です。求刑や判決には、犯罪の悪質性や社会への影響、初犯かどうか、被害者との示談成立、本人の反省の度合い、家族の支援状況、身元引受人の有無、社会復帰の見通しなど、さまざまな事情が考慮されます。
特に、詐欺や傷害・暴行・強制性交等・強制わいせつなど、被害者がいる事件においては「示談の成立」がとても重要な考慮事情となります。
示談が成立していることは、被害者の受けた被害が、一部回復したことを示していると評価されやすくなります。
また、被害者が、「宥恕(寛大な心で許すこと)」の意思を示すという内容の示談書が交わされた場合、処罰感情がない、または低いと評価され、量刑が減少する可能性が生じます。示談が成立すれば、執行猶予付き判決となることも期待できるでしょう。
また、保釈金を用意すれば、弁護士に保釈請求を依頼できます。保釈が認められた場合は、判決まで被告人は自宅で過ごしたり、職場や学校に戻ったりと、社会復帰に向けた準備をすることも可能です。
執行猶予付き判決になるとしても、判決まで数か月も勾留が続くことは、社会生活を送るうえでの障害となりますから、起訴されたら弁護士に依頼して保釈請求することをおすすめします。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
5、まとめ
日本の刑事裁判の有罪率は99.9%といわれています。公判請求されたら、被害者との示談交渉や家族のサポート体制の整備など、執行猶予付き判決や量刑減少のための弁護活動を一刻でも早く開始する必要があります。
ベリーベスト法律事務所では、刑事事件の弁護実績豊富な弁護士が、公判での弁護活動に加えて検察官との交渉や保釈請求、示談交渉、証拠や証人集め、更生計画の作成など、事件の状況によってどのような手続きや対策が必要かを適切に判断し、迅速かつ最善のサポートを尽くします。
家族が刑事事件の被疑者または被告人となってしまい、逮捕・勾留による身柄拘束や刑罰に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。