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量刑とは? 量刑が決まる流れや判断に影響する要素について解説
スーパーで100円のお菓子を万引きしたAと、高級時計店で100万円の腕時計を盗んだBは、どちらも窃盗罪として処罰されます。しかしAとBが刑事裁判にかけられたとき、言い渡される刑はAよりもBのほうが重くなります。
刑罰の種類や重さは罪名ごとに法律で定められていますが、その範囲でどのような刑を科されるかは、犯罪様態や被害の大きさなど、さまざまな要素をもとに判断されます。このように、裁判官が実際に言い渡す刑を決めることを“量刑”といいます。
本コラムでは、量刑をテーマに、量刑を決めるまでのプロセスや量刑を判断する際に考慮される要素について解説します。不当に重い量刑を回避するために何ができるのかも確認しましょう。
1、量刑とは
量刑の概要と法定刑・処断刑・宣告刑との関係について解説します。
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(1)量刑とは
量刑とは、刑事裁判において、裁判官が被告人に対して言い渡す刑を決めることをいいます。量刑は裁判官の自由裁量に任されていますが、裁判官の主観で決めるわけではなく、法定刑と処断刑の範囲内で合理的に判断されます。
以下、法定刑と処断刑について解説します。 -
(2)法定刑とは
法律の条文に定められている刑の種別と重さのことを、法定刑といいます。
刑法や特別刑法では、どんな行為が犯罪にあたり、犯罪をした者にどんな刑を科すのかをあらかじめ条文で定めています。
たとえば刑法第235条は窃盗罪について「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」と明記しています。
「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」の部分が法定刑ですが、懲役については1か月以上10年以下、罰金については1万円以上50万円以下と幅があります(刑法第12条、15条)。そのため実際の刑事裁判では、法定刑の範囲内で、懲役にするのか罰金にするのか、また懲役の場合の期間や罰金の場合の金額を決定することになります。 -
(3)処断刑とは
法定刑に、法律上または裁判上、刑を加重・減軽する理由を考慮して決められた刑を処断刑といいます。
刑法上、刑を加重する理由としては再犯加重や併合罪があります。再犯とは、以前に懲役の実刑に処せられていた者が、刑の執行が終わってから5年以内に新たに罪を犯し、その罪が有期の懲役刑にあたるとき等をいいます(刑法第56条)。併合罪とは、同一人物が2つ以上の罪を犯し、その罪が確定裁判を経ていない場合を指します(同第45条)。
刑法上、必要的に刑を減軽する理由としては、心神耗弱や幇助犯などがあります。心神耗弱とは、精神の障害により善悪を判断する能力や、その判断に従い行動する能力が著しく減退している状態のことです(第39条第2項)。幇助犯とは、実行犯(正犯)を手助けする犯罪のことをいい、従犯として取り扱われます(第62条)。心神耗弱や従犯は刑が必要的に減軽されます(第63条)。
また自首や未遂罪、過剰防衛のように、必ず刑が減軽されるわけではないものの、裁判官の裁量で減軽される事由もあります(第42条第1項、第43条本文、第36条第2項)。さらに法律上の減軽理由がなくても、裁判上、酌量減軽によって刑が減軽される場合があります(第66条)。 -
(4)宣告刑とは
宣告刑とは、刑事裁判で実際に言い渡される刑のことです。
裁判官は、まず被告人の行為がどの犯罪にあたるのかを確定し、法定刑を確認したうえで処断刑を確定します。さらに被告人にとって有利な事情・不利な事情を考慮したうえで最終的に言い渡す宣告刑を決定します。量刑は、法定刑ないし処断刑の範囲で宣告刑を決める作業のことです。
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2、量刑を決めるプロセス
裁判官が量刑を決めるプロセスについて、さらに詳しく見ていきましょう。
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(1)適用される条文の決定
裁判官はまず、罪刑法定主義にもとづき、被告人がした行為がどの犯罪(法律上のどの条文)にあたるのかを決定します。罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪とし、刑罰を科すためには、あらかじめ法律の条文に規定されていなければならないとする原則をいいます。
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(2)刑種の選択
条文に2種類以上の法定刑が定めてある場合は、刑の種類を決定します。たとえば暴行罪(刑法第208条)の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と、刑の種類が「懲役」「罰金」「拘留」「科料」の4種類あります。この中でどの種類の刑罰を科すのかを決める作業です。
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(3)処断刑の決定
条文に書かれた法定刑をもとに、法律上・裁判上の加減理由を考慮して処断刑を決定します。
法定刑に対して法定の修正を行う作業です。
同時に刑を加重し、または減軽するときは次の順序によるとされています(刑法第72条)。
● 再犯加重
再犯は、その罪について定めた懲役の長期が最大で2倍に加重されます(刑法第57条)。たとえば強制わいせつ罪の懲役は「6か月以上10年以下」ですが、再犯加重によって「6か月以上20年以下」になります。
● 法律上の減軽
心神耗弱や従犯など法律上の減軽事由がある場合は、刑が減軽されます。減軽の方法は、有期の懲役を減軽する場合はその長期および短期の2分の1を減軽し、罰金を減軽する場合はその多額および寡額の2分の1を減軽します(刑法第68条)。
たとえば窃盗罪の場合、法定刑が「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」なので、減軽される場合は「5年以下の懲役または25万円以下の罰金」が処断刑になります。
● 併合罪の加重
併合罪では罪が重いほうの刑の長期が1.5倍に加重されます(刑法第47条)。たとえば窃盗罪と傷害罪(刑法第204条)が併合罪になる場合は、窃盗罪よりも重い傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)の上限を1.5倍にした22年6か月が刑の上限です。
● 酌量減軽
酌量減軽とは、犯罪の情状に酌量すべき事情がある場合に、刑を減軽できることです(刑法第66条)。裁判上の減軽ともいいます。酌量すべき事情とは、たとえば被害者と示談が成立しており、被害者が処罰を望んでいない場合などが該当します。減軽の方法は法律上の減軽と同じです。 -
(4)宣告刑の決定
法定刑や処断刑の範囲で、具体的に言い渡す刑を決定します。宣告刑については法定刑や処断刑のように法律上の規定が存在しないため、最終的な判断は裁判官の裁量に委ねられます。
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3、量刑を決める際に影響する要素
別々の人がしたある行為が同じ犯罪に該当する場合でも、全く同じ量刑になるわけではありません。量刑は以下のようなさまざまな要素によって決定されます。
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(1)犯行様態の悪質性、犯行の手段・方法
犯行様態や手段・方法から犯行が悪質であると判断されると量刑は重く傾きます。たとえば、ナイフなどの凶器を持っていたのか、執拗(しつよう)に暴行したのかなどの客観的事情をもとに判断されます。
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(2)結果の大きさ・程度、被害弁済の有無
被害結果の大きさや程度は極めて重要な要素です。たとえば傷害罪であれば、被害者のけがの程度が重い場合や、被害者が1人ではなく複数人におよぶ場合に量刑は重くなるでしょう。
被害者に対する被害弁済の有無も重要です。特に窃盗や詐欺、横領などの財産犯の場合は、被害者が金銭での被害弁済を強く望んでいるケースが多いため、被害弁済がなされていると、量刑判断で有利な事情として考慮される可能性が高いといえます。 -
(3)犯行の動機、計画性
犯行の動機が私利私欲を満たすものである場合や、犯行に計画性がある場合は量刑判断に際して不利な事情となります。経済的に困窮しており突発的に盗みをはたらいた場合と、遊ぶ金欲しさに仲間と共謀して窃盗におよんだ場合とでは、後者のほうが量刑は重くなりやすいでしょう。
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(4)被告人の性格や職業
被告人の性格から、反社会性や犯罪傾向の進行度合い、粗暴性などが判断されます。定職に就いているかなども、更生に期待できるかという点で考慮される場合があります。
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(5)前科・前歴の有無
前科・前歴があるのに再び罪を犯した事実は、更生の可能性が低いと判断され、量刑が重く傾く要素となります。初犯の場合は更生の可能性に期待できるため、前科・前歴がある場合と比べて量刑が軽くなる可能性があります。
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(6)余罪の有無
起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し、処罰する趣旨で量刑を重くすることはできません。ただし、被告人の性格や犯行動機などを推知するための資料とすることはできます。
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(7)反省と自白
自らの行為を反省しているかなども考慮されます。反省は内面の問題なので、示談や贖罪寄付をしている、被害者に謝罪文を送っているなどの客観的事実が必要でしょう。
ただし、否認や黙秘していることのみを理由に被疑者・被告人を不利に扱うことはできません。 -
(8)社会の処罰感情・社会的影響、社会的制裁
社会の処罰感情が高い場合や、社会に与える不安や影響が大きければ不利な事情になります。たとえば児童に対する性犯罪は、児童のみならず保護者や学校関係者、地域住民なども大きな不安に陥れることから量刑は厳しくなるでしょう。
一方、逮捕・勾留や実名報道によって会社から解雇された、世間から厳しい非難を浴びたなどの場合は、すでに社会的制裁を受けているとして量刑が軽くなる場合があります。 -
(9)その他
ほかにも、被告人の健康状態や年齢、監督者の有無や被害者感情などさまざまな要素が量刑に影響を与えます。
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4、不当に重い量刑を回避するための弁護活動とは
罪を犯したのが事実であれば、自らの行為を重く受け止め、二度と犯罪をしないと誓うことが大切です。しかし、不当に重い量刑を回避し、社会の中で立ち直る機会を得ることも、更生のために重要だといえます。そのためには弁護士に適切な弁護活動をしてもらう必要があります。
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(1)不当に重い刑にならないための主張・立証
弁護士が被告人に有利な事情を適切に主張することで、重すぎる量刑を回避できる可能性を高めることができます。弁護士は裁判官に対し、犯行様態が悪質ではないこと、結果が重大とまではいえず、被害弁済もなされていること、動機に酌むべき事情があることなどを、客観的な証拠をもとに示します。
量刑決定のプロセスを深く理解したうえで、事件の実情に即した適切な主張・立証をする必要があるため、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に依頼しましょう。 -
(2)被害者との示談交渉
被害者がいる事件の場合は、被害者との示談が成立すると量刑判断に際してよい事情として考慮される可能性が高まります。しかし、当事者による冷静な話し合いは難しく、示談金の額で折り合いがつかないケースも多いため、加害者本人はもとより、ご家族からの交渉も避けたほうがよいでしょう。弁護士であれば、被害者感情に配慮し、適切な額の示談金で交渉をまとめられる可能性があります。
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(3)再犯防止に向けた環境のサポート
再犯のおそれが低く、更生に期待できる場合には、執行猶予付き判決や刑の減軽を得られる可能性があります。そのため弁護士が裁判官に対し、再犯防止のための対策を具体的に示します。
ただし、実際に再犯を防止するためにはご家族のサポートが欠かせません。ご家族が同居して本人を監督する、生活環境を整えるなどのほかに、薬物依存症や性依存症などの場合は自助グループや専門機関に通わせるなどして、時間をかけて症状を改善させることが大切です。
ご家族が具体的に何をすればよいのか分からないときは、弁護士が専門機関を紹介したり、法的な観点からのアドバイスをしたりします。
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5、まとめ
量刑は、法定刑・処断刑の範囲で、実際に言い渡す宣告刑を決める作業のことです。量刑はさまざまな要素を考慮して判断されるため、同じ犯罪でも事件の内容や弁護活動によって異なる結果になる場合があります。不当に重い量刑を回避し、少しでもはやい社会復帰と更生を実現するためには、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートが必要です。
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