- その他
- 罰金刑
罰金刑とは? 前科はつくのか、払えない場合はどう対応する?
「罰金刑」は、一定の金額の支払いを命じられる刑罰です。犯罪白書によれば、刑事事件で起訴された人のうち約8割が罰金刑となっています。たとえば、痴漢や傷害、窃盗などは、犯罪行為の悪質性などにも左右されますが、初犯であり、被害者との間に示談が成立していれば、懲役刑や禁錮刑ではなく、罰金刑となることも少なくありません。
本記事では、罰金刑とはどんな刑罰かに着目し、罰金刑になりやすい罪や罰金刑の相場、罰金の支払い方法、罰金を払えない場合はどうすればよいのかなどについて弁護士が解説します。
1、罰金刑とは?
まず、罰金刑の意味と、どのような罪が罰金刑になりやすいのかを確認していきます。
-
(1)罰金刑とは?
罰金刑は、財産を没収する財産刑のひとつです。受刑者から強制的に一定の金額を国に納めさせる刑罰で、刑法15条において、1万円以上と定められています。罰金刑で科される金額の範囲は広く、上限については刑法や各法律で定められている犯罪によって異なります。
なお、1万円未満1000円以上の財産刑は、科料(かりょう)といい、刑法17条に規定されています。
罰金刑は、正式な刑事裁判よりも、略式手続によって言い渡されるケースが多いのも特徴です。略式手続とは、簡易裁判所において行われる書面上の裁判のことです。100万円以下の罰金または科料、に相当する軽微な事件で、被疑者の異議がない場合に行われます。 -
(2)罰金と反則金との違い
スピード超過など、道路交通法違反でいわゆる青切符が切られた場合に支払う“反則金”は、行政法上の違反に対する行政罰であり、前科がつきません。
しかしながら、飲酒運転や無免許運転など、違反点数6点以上の重い交通違反で赤切符が切られた場合には罰金刑となり、前科がつきます。 -
(3)罰金刑になりやすい罪の類型
刑法や特別法により、数多くの犯罪に罰金刑が定められています。刑法で定められている犯罪のうち罰金刑になりやすい犯罪には、傷害罪や窃盗罪などがあります。その他、各都道府県が定めている迷惑防止条例違反である痴漢行為も、罰金刑になることが多い犯罪のひとつです。
もっとも、実際に罰金刑になるかどうかは、犯行様態や被害の大きさなどさまざまな要素をもとに総合的に判断されます。上記の罪であれば必ず罰金刑になるわけではない点に注意が必要です。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
2、罰金刑を受ける影響
罰金刑の判決を受けた場合には、罰金を支払うこと以外にどのような影響を受けるのでしょうか。
-
(1)前科はつくのか?
罰金刑を受けると前科がつきます。“前科がつく”とは一般に、刑事裁判において有罪判決を受けて刑が確定したことを指します。略式手続きも裁判の一種ですから、これにより罰金刑となった場合でも前科がつくことになります。
-
(2)再犯への影響
検察庁では、判決日や罪名などを前科調書という書面に記録し、データとして残しています。もし、罰金刑を受けた後に再び罪を犯した場合には、前科調書に記載された前科の有無やその内容をもとに、起訴・不起訴の処分や量刑について判断されることになります。再犯であれば、略式手続ではなく正式な裁判になったり、罰金刑ではなく懲役刑や禁錮刑になるなど、より重い処分が下される可能性が高くなります。
-
(3)就職する際の影響
罰金刑を科せられた場合、その後一般企業への就職活動をする際に影響はあるのでしょうか。
履歴書に賞罰の項目がない場合や、面接で前科について尋ねられなかった場合において、罰金刑の前科があることを自ら積極的に伝える必要はありません。しかし、賞罰の項目があるにもかかわらず前科があることを記載しなかったり、前科の有無を尋ねられたにもかかわらず、前科がないと嘘をつく等した場合、入社後に前科があることが発覚すると、経歴詐称を理由に懲戒処分が下されるおそれがあります。
医師や看護師などが免許申請する際には、罰金刑以上の刑罰について申請書に記載する必要があります。罰金刑の前科があることは欠格要件にはなりませんが、免許保留の理由になり、就職に支障をきたすことがあります(医師法4条3号、保健師助産師看護師法9条1号)。また、現職の医師や看護師などは罰金刑以上の刑罰に処せられると、最悪免許が取り消される可能性があります(医師法7条、保健師助産師看護師法14条)。 -
(4)職場における影響
就業規則において、“禁錮刑以上の刑に処せられた場合”を懲戒事由としている民間企業もあります。その場合、罰金刑は禁錮刑以上の刑ではないので懲戒事由に該当しません。
また、国家公務員や地方公務員が禁錮刑以上の刑を受ければ欠格要件となり、原則として失職します(国家公務員法第76条及び第38条1号、地方公務員法第28条4項及び16条1号)。こちらも罰金刑は欠格要件ではありませんが、免職(懲戒免職)、停職、減給、戒告などの懲戒処分を受ける可能性があります。
そもそも、痴漢や万引きなどで罰金刑となったことが職場に明らかとなってしまった場合、懲戒処分が下されなかったとしても、働きづらくなってしまうことが懸念されます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
3、罰金金額の相場
傷害や窃盗、痴漢など、罰金刑になりやすい刑事事件について、どのくらいの金額が相場なのか、金額が決まる際にどんなことが考慮されるかについて解説します。
-
(1)傷害事件における罰金金額の相場
傷害罪は、他人に対して殴る蹴るなどの暴行を加えて、ケガをさせてしまった場合に成立する犯罪です。また、いやがらせ行為などにより精神的な苦痛を与えて、相手がPTSD(心的外傷後ストレス障害)や睡眠障害などになったときにも成立する場合があります。傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法204条)です。
傷害罪の罰金金額の相場は、相手のケガの程度、示談の成立などによりケース・バイ・ケースです。傷害罪の罰金金額が決まる際には、次のようなことが考慮されます。- 被害者との間で示談が成立しているか
- 被害者の傷害の程度
- 被害者の人数
- 暴行行為の悪質性(複数の人数で行った、武器を使用したなど)
- 罪を認めて反省しているか
- 初犯か、前科があるか
-
(2)窃盗事件における罰金金額の相場
窃盗罪は他人の財物を窃取(せっしゅ)した場合に成立する罪です。窃盗には、空き巣やひったくり、自転車盗、万引きなど、さまざまな手口があります。窃盗罪の刑罰は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法235条)です。窃盗罪には以前、罰金刑がありませんでしたが、平成18年施行の改正刑法により、罰金刑が追加されました。罰金刑が追加された理由は、以前、あまりにも軽微な万引き等の事件の場合に懲役刑を求刑することは刑のバランスを欠くため、不起訴処分として処理していたところ、いくら軽微な万引きであっても犯罪には変わりないため、このような軽微な事件を、刑罰をもって抑制させようとしたためです。
窃盗罪の罰金金額の相場は、初犯かどうか、示談成立の有無などによって異なります。窃盗罪の罰金金額が決まる際には、次のようなことが考慮されます。- 被害者との間で示談が成立しているか
- 盗んだ物の金額
- 犯行回数
- 犯行の目的・動機
- 犯罪の計画性があるか
- 犯行時に暴行を働いたり、逃走したりしていないか
- 罪を認めて反省しているか
- 初犯か、前科があるのか
-
(3)痴漢事件における罰金金額の相場
電車内などにおける痴漢行為は、多くの場合、各都道府県の迷惑防止条例違反が適用されます。下着の中に手を入れるなど悪質な行為の場合には、刑法の強制わいせつ罪が適用されることがあります。強制わいせつ罪の刑罰には、罰金刑がなく、6か月以上10年以下の懲役(刑法176条)です。
迷惑防止条例は各自治体によって内容や刑罰に違いがありますが、たとえば東京都迷惑防止条例では、1か月以上6か月以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。
痴漢行為の相場は、示談の有無によって左右されることが多いでしょう。罰金金額が決まる際には、次のようなことが考慮されます。- 被害者との間で示談が成立しているか
- 痴漢行為の態様(下着に手を入れている、同じ人に対して繰り返し行っているなど)
- 被害者の年齢・境遇
- 被害者の人数
- 罪を認めて反省しているか
- 初犯か、前科があるのか
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
4、罰金の納付方法と払えない場合の対策
罰金の納付方法や罰金の納付ができない場合にはどのように対応するべきかについて解説します。
-
(1)罰金の納付方法と納付期限
罰金の納付方法には、次の2つがあります。
- 郵送される納付告知書を使用して、金融機関で納付手続をする
- 検察庁の窓口で直接納付する
納付期限は約2週間後で、納付告知書に記載されています。略式命令を受けた日にそのまま検察庁の窓口で納付する場合もあります。
-
(2)基本的には一括払い
罰金は、原則として納付期限までに一括払いしなければなりません。分割払いや延納を認めてしまうと、罰金刑の感銘力(被告人に二度と罪を犯さないと思わせる力)が薄れ、罰金刑の刑罰としての効果が失われてしまうからです。
しかし、病気で働けないなど、やむをえない理由のために一括支払いができない場合には、検察庁の徴収担当者に相談すれば分割払いや延納が認められることがあります。 -
(3)罰金が払えない場合はどうなる?
納付期限までに罰金を支払わない場合には、検察庁から督促状が送付されたり、徴収担当者から電話連絡があったりします。これらの督促を無視すれば財産を差し押さえられます。
差し押さえる財産がない場合や差し押さえても罰金金額に足りない場合は、検察庁から呼び出されて、労役場留置となります。労役場とは、罰金や科料を納付できないときに留置されて強制労働させられる場所です。拘置所や刑務所に併設されています。
罰金を完納するまでは、身柄拘束され、日中は労働させられることになります。労役場における労働は一般的に、1日あたり5000円換算です。したがって、30万円の罰金なら60日間働かなければなりません。資金が用意できた場合には労役した分を精算し、罰金から差し引いた金額を納付すれば労役場から出ることができます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
5、罰金に関する悩みは弁護士に相談を
検察による起訴・不起訴処分の決定や裁判官による量刑の判断に際しては、被害者との示談が成立していることが特に重要です。しかし、犯罪の被害者は加害者に対して嫌悪感情を抱いているのが通常であり、加害者やその家族が被害者と直接交渉することは難しいものです。
そもそも、警察は被害者の連絡先を加害者やその家族に教えてくれませんので、連絡を試みることすらできないことが普通です。
この点、被害者からの同意が得られれば、警察も加害者代理人の弁護士には、被害者の連絡先を教えてくれますので、弁護士が代理人として示談交渉を進めていくことができます。また、元々、加害者が被害者の連絡先を知っている場合であっても、加害者本人が直接交渉を持ちかけてしまうと、被害者に恐怖感・嫌悪感等を与えてしまい、まとまるはずの話し合いもまとまらなくなってしまうおそれもあります。このため、示談交渉を弁護士に依頼するメリットは大きいでしょう。
なお、起訴前に示談が成立すれば不起訴処分を期待できますし、万が一起訴されても、示談が成立していれば罰金の額が減額される等、より軽い刑罰で済むことが期待できます。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
6、まとめ
罰金刑は、懲役や禁錮と同じように判決が確定すれば前科がつき、就職が困難になる、仕事を失うなどの不利益を受けるおそれがあります。また、罰金を支払えなければ労役場に留置されることになります。
家族や大切な人が刑事事件を起こし、今後の対応について悩んでいる方は、早期にベリーベスト法律事務所にご連絡ください。刑事事件の実績豊富な弁護士が事件解決のために全力を尽くし、一日でも早く日常の生活に戻れるようにサポートします。
他の電話対応中の場合、取次ぎまで時間がかかる場合があります
被害者の方からのご相談は有料となります メールでのお問い合わせ
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。