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現行犯逮捕の要件とは? 通常逮捕・緊急逮捕との違いや、事例を解説
犯罪が目の前で行われている場合や、犯罪を行い終わったことが明らかな場合には、逮捕状なしに逮捕することが可能です。これを、「現行犯逮捕」といいます。
現行犯逮捕は、万引きや痴漢、飲酒運転といった犯罪で多く見られます。ただし、逮捕は被疑者の身柄を強制的に拘束する処分であるため、厳格な要件をクリアしなければ許されるものではないのです。
本コラムでは、現行犯逮捕の要件を中心に解説しながら、通常逮捕・緊急逮捕の要件との違いや現行犯逮捕されたときの対応方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が確認します。
1、「逮捕」と「現行犯逮捕」の定義
逮捕と現行犯逮捕の意味、目的について解説します。
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(1)逮捕とは
逮捕とは、罪を犯したと疑われる者(被疑者)の身柄を拘束し、それを最大72時間継続する強制処分のことです。一般に、逮捕された人に対しては、「何かの罪を犯した人」というイメージを抱く人が多いようです。しかし、逮捕はあくまでも被疑者の身柄を拘束する手続きにすぎず、有罪が確定したわけではありません。逮捕されても、検察官の判断で不起訴となり、釈放されるケースは多数存在します。
逮捕の目的は、被疑者の逃亡または証拠隠滅を防止することです。懲罰を与えるためでも、被疑者を取り調べるためでもありません。
逮捕された被疑者は警察署に連れて行かれ、留置場に身柄を置かれながら、必要に応じ取調室に呼ばれて捜査機関からの取り調べを受けることになります。 -
(2)逮捕されたあとの手続き
逮捕された被疑者は、写真撮影や指紋採取、身体検査などの手続きを受けます。留置場に身柄を置かれている間は、道具による身体的な拘束こそないものの、自由な行動は制限されます。
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(3)逮捕から勾留、起訴・不起訴まで
写真撮影などの手続きが終わると、取調官による取り調べを受けます。この取り調べは逮捕から48時間以内という制限があり、制限時間内に検察官へと事件が引き継がれます。これを「送致」といいます。
送致を受理した検察官も取り調べを行い、送致から24時間以内に被疑者を釈放するか、裁判官に勾留請求するかを決定します。勾留請求が認められた場合は、原則として、最長で20日間の勾留期間が満了するまでに被疑者を釈放するか、起訴または不起訴にするかが判断されることになります。
一方、釈放されると自宅に帰されて在宅捜査に切り替わります。この場合は、勾留期間のような制限はなく、捜査が終わったタイミングで起訴あるいは不起訴が決定されるのです。 -
(4)逮捕の種類
逮捕には、以下の3種類があります。
- 現行犯逮捕……目の前で犯罪が行われている場合や、犯行の直後である場合に、逮捕状によらずに逮捕することです。
- 通常逮捕……裁判官から事前に逮捕状の発付を受け、これにもとづき逮捕することです。容疑をかけられている罪名と逮捕の理由を告げられたうえで逮捕されます。
- 緊急逮捕……一定の重大犯罪について、急速を要する場合に、逮捕状がない状態で逮捕することです。逮捕状が不要なのではなく、緊急逮捕後ただちに請求しなければなりません。
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(5)現行犯逮捕とは
現行犯逮捕とは、犯行が明白な場合に行われる例外的な逮捕手続きのことです。また、一定の条件のもとで、明らかに罪を行い終わったばかりだと認められる者については、現行犯と同様に逮捕状によらない逮捕が可能です。これを「準現行犯逮捕」といいます。
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2、現行犯逮捕の要件
逮捕は、個人の身体の自由を奪う強制処分であるため、厳格な要件が設けられています。
現行犯逮捕の要件について、解説します。
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(1)現行犯逮捕の要件
現行犯逮捕の基本的な要件とは、逮捕される人が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」であることです(刑事訴訟法第212条第1項) 。
「現に罪を行い」とは、まさに犯罪の実行行為をしている最中をいいます。「現に罪を行い終わった」とは、犯罪の実行行為を終了した直後の状態のことです。
犯罪の直後かどうかは、逮捕と事件が時間的・場所的な接着性等を総合して判断されます。ただし、「現場から何キロメートル以内まで」「犯行から何分後まで」といった明確な基準はありません。 -
(2)一定の軽微な犯罪における現行犯逮捕の要件
30万円以下の罰金、拘留、または科料にあたる罪については、以下の要件を満たした場合に限って、現行犯逮捕が認められています(刑事訴訟法第217条)。
- 犯人の住居もしくは氏名が明らかでないとき
- 犯人が逃亡するおそれがあるとき
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(3)私人逮捕が可能
現行犯人は、何人(なんぴと)でも、逮捕状なしに逮捕することができます(刑事訴訟法第213条)。「何人でも」とある通り、警察官や検察官などだけでなく、目撃者・被害者・通行人といった私人でも、現行犯逮捕をすることが可能なのです。
ただし、現行犯逮捕した私人には、被疑者の身柄を捜査機関に引き渡す義務があります(刑事訴訟法第214条)。 -
(4)令状主義の例外
憲法第33条では「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」とあります。
逮捕は被疑者の身体を強制的に拘束する処分なので、被疑者の人権を不当に侵害する事態を防ぐために、裁判官が発付した令状(逮捕状)によらなければなりません。これを「令状主義」といいます。
しかし、上記条文では「現行犯として逮捕される場合を除いては」と、現行犯逮捕については令状主義の例外を認めています。無令状での逮捕が可能なのは、現行犯逮捕は嫌疑が明白で犯人を取り違えるおそれがないためです。 -
(5)準現行犯逮捕の要件
以下の4つのいずれかにあたる者が罪を行い終わってから間もないと明らかに認められる場合には、現行犯とみなされて、「準現行犯逮捕」の対象となります。
- 犯行後から継続して犯人として追いかけられているとき
- 盗んだ物や、血の付いたナイフなど明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器、その他の物を所持しているとき
- 身体や衣服に返り血を浴びているなど犯罪の明らかな痕跡があるとき
- 警察官などに声をかけられて逃走しようとしているとき
これらの要件に合致する場合には、通常の現行犯逮捕と比較すると、時間的・場所的な接着性がゆるやかになります 。たとえば、犯行を目撃された被疑者が逃走して、これを見失わずに追跡しつづけた場合には、犯行現場から遠く離れてしまってある程度の時間が経過していても、準現行犯として無令状で逮捕することが可能になるのです。
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3、通常逮捕の要件との違い
つづいて、通常逮捕の要件と現行犯逮捕の要件との違いを確認しましょう。
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(1)通常逮捕とは
通常逮捕とは、事前に裁判官が発付した逮捕状にもとづき、警察や検察官などの捜査機関が逮捕することです。「通常」とある通り、原則的な逮捕手続きにあたります。
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(2)通常逮捕の要件
通常逮捕の要件は、「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」があることです。
- 逮捕の必要性……被疑者が逃亡または証拠隠滅を図るおそれがあること(刑事訴訟規則第143条の3)
- 逮捕の理由……被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑事訴訟法第199条第1項)
「相当な理由」とは、捜査機関の主観的嫌疑では足りず、証拠資料に裏付けられた客観的・合理的な根拠があることをいいます。
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(3)一定の軽微な犯罪における通常逮捕の要件
30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪について通常逮捕できるのは、以下の2つを満たした場合に限られます(刑事訴訟法第199条第1項ただし書き)。
- 被疑者が定まった住居を有しないとき
- 正当な理由なく出頭の求めに応じないとき
たとえば、過失傷害罪や侮辱罪などの犯罪は、この要件に該当します。
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(4)通常逮捕と現行犯逮捕の違い
現行犯逮捕は逮捕状なく逮捕できるのに対して、通常逮捕では、裁判官が発付した逮捕状が必要となります。また、現行犯逮捕は何人にも可能であるのに対し、通常逮捕は私人がすることはできません。私人の場合、たとえば目の前に指名手配犯がいても、現行犯でない限りは逮捕できないのです。
通常逮捕できるのは、検察官、検察事務官、司法警察職員(警察官、麻薬取締官、労働基準監督官など)に限られています。
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4、緊急逮捕との要件の違い
緊急逮捕の要件と、現行犯逮捕の要件との違いについて解説します。
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(1)緊急逮捕とは
緊急逮捕とは、急速を要するため裁判官に逮捕状を請求する時間がないときに、その理由を告げたうえで逮捕することをいいます(刑事訴訟法第210条)。
目の前に犯人がいるのに、逮捕状を請求していたら取り逃がしてしまう事態を防ぐために、一定の条件下では逮捕状を事後的に請求することで逮捕が認められているのです。 -
(2)緊急逮捕の要件
緊急逮捕の要件は、以下の通りです。
- 一定の重罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があること
- 急速を要するため逮捕状を請求する時間がないこと
「一定の重罪」とは、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪のことです。
「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合」には、通常逮捕の要件である「疑うに足りる相当な理由」よりも、強い嫌疑が必要となります。
緊急逮捕は、現行犯逮捕のように事件と逮捕が時間的・場所的に接着している必要がなく、さらに逮捕状も事後の請求になるため、誤認逮捕がないように厳しく判断されなければならないからです。
「急速を要するため」とは、逮捕状の発付を待っていると犯人が逃亡や証拠隠滅を図るおそれが高いために緊急の必要があることをいいます。 -
(3)緊急逮捕と現行犯逮捕の違い
現行犯逮捕は逮捕状なしに逮捕できますが、緊急逮捕は逮捕のあとただちに逮捕状を請求します。逮捕のあとに裁判官が逮捕の必要があるかをチェックして、逮捕状が発せられない場合には、捜査機関はただちに被疑者を釈放しなければならないのです。
また現行犯逮捕は私人にも可能なのに対して、緊急逮捕は検察官や警察官などの捜査機関にしか行うことができません。
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5、現行犯逮捕の事例
具体的にどのようなケースで現行犯逮捕されるのかを知るために、現行犯逮捕された事例を3つ紹介します。いずれも現行犯逮捕されやすい典型的な犯罪といえるでしょう。
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(1)万引き(窃盗罪)
万引きは、現行犯逮捕されるケースが多い犯罪です 。
令和3年5月には、60代の地方公務員が、ホームセンターでバーナーやキーホルダーなど1万円相当の商品を万引きしたとして現行犯逮捕されています。被疑者が会計をせずに商品を鞄に入れて店の外に出たところで、店の保安員に声をかけられて、現行犯逮捕されたようです。 -
(2)痴漢(強制わいせつ罪)
痴漢は被害者や目撃者などによって現行犯逮捕されるケースが多くあります。
平成17年3月には、走行中の電車内において乗客だった当時19歳の女性がはいているスカートの中に手を入れ、右手の指を被害者の膣内に入れるなどして強制わいせつをはたらいた男性が、ほかの乗客Nに現行犯逮捕されました。
電車内で被害者と向かい合う形で立っていたNは、被害者の女性から助けを求められ、被害の訴えおよび犯人を認識し、次の停車駅で男性と一緒に降車したうえで駅事務所に連れて行ったようです。
この事件の裁判では、現行犯逮捕したNが、犯人を被告人の男性と取り違えた可能性があるかが争点となりましたが、事件の状況について臨場感をもって供述したNの証言内容は自然であり、Nが犯人を取り違えた可能性はないと判断されています。
痴漢は混雑した電車内などで行われやすい犯罪なので、この事例のように犯人の取り違えが争点になるケースも珍しくありません。 -
(3)飲酒運転(酒気帯び運転)
飲酒運転は呼気検査によって発覚するケースが多いため、警察官によって現行犯逮捕されるのが典型です。
令和3年5月には、中学校教師が飲酒して車を運転したとして、警察官に現行犯逮捕されました。男性教師は、勤務を終えたあとに自宅で缶酎ハイ5本を飲み、車を運転してコンビニエンスストアに向かう途中に警察官に停止を求められたのちに、酒気帯び運転で現行犯逮捕されたようです。
飲酒運転は非常に危険な行為であるうえ、逮捕して身柄を拘束しなければ飲酒運転を継続するおそれが高いといえます。そのため、この事例のように、事故を起こしていなくても逮捕される場合があるのです。
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6、現行犯逮捕されてしまったときにできること
自分が現行犯逮捕されたときに何をするべきか、または家族が現行犯逮捕されたときにほかの家族にできることは何かを解説します。
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(1)身分を明らかにする
現行犯逮捕されてしまったら、まずは氏名と住所を提示するなどして、身分を明らかにすることが大切です。一定の軽微な犯罪に該当しない限り、身分を明かしても必ず現行犯逮捕を免れるわけではありませんが、「逃げる意思がない」ことを示せます。場合によっては、逮捕されずに任意で事情を聴かれて、自宅に帰されて在宅捜査となる可能性もあるのです。
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(2)証拠や証人を集める
証拠や証人を集めることで、罪を犯していない事実が証明されたり、罪を犯した場合でも不当に重い処分を避けられたりする可能性があります 。たとえば痴漢に間違われて私人に現行犯逮捕されてしまった場合は、近くにいた人が目撃しており、容疑を晴らしてくれる可能性もあります。警察が到着するまでその場にとどまってもらい、事件の正確な状況を証言してほしいと依頼するのが望ましいでしょう。
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(3)事実確認を行う
自分の家族が現行犯逮捕されたと連絡が入った場合は、ご家族は警察に対して事実確認を行いましょう。どんな犯罪行為をしたのか、どのような状況で現行犯逮捕されたのか、またどの警察署に連行されたのか、などを確認することが大切です。 これらの情報を整理して弁護士を呼ぶと、弁護士が迅速に対応することができ、釈放の時期も早まる可能性が高まるためです。
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(4)弁護士を呼ぶ
逮捕容疑や留置先の警察署などが判明したら、ご家族はすぐに弁護士を呼び対応を求めましょう。逮捕段階で実施される取り調べでの供述は、後に裁判になった場合に重要な証拠として採用される可能性が高いため、不利な供述調書を作成されないように取り調べのアドバイス等を与える必要があります。逮捕段階の72時間はご家族であっても本人と面会することができませんが、弁護士であれば逮捕段階から本人と面会し、重要なアドバイスを与えられます。
また、早期に弁護士を呼ぶことで、早期釈放のための活動や被害者との示談交渉など、被疑者に有利な活動を幅広く展開することができます。
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7、まとめ
現行犯逮捕は「犯行の最中や直後に逮捕されること」であり、令状主義の例外にあたる逮捕手続きです。現行犯逮捕されると、ただちに警察署に連行され、自由な行動や外部との連絡が大幅に制限されてしまいます。 そのため、早急に弁護士へ相談することが大切です 。
「自分の家族が現行犯逮捕されてしまい困っている」「逮捕の要件を満たしているのか疑問に感じる」などの問題があれば、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が、状況を見極めて、適切にサポートします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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