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弁護士コラム

2021年10月14日
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緊急逮捕の要件とは? 通常逮捕・現行犯逮捕との違いや事例を解説

緊急逮捕の要件とは? 通常逮捕・現行犯逮捕との違いや事例を解説
緊急逮捕の要件とは? 通常逮捕・現行犯逮捕との違いや事例を解説

窃盗や放火、詐欺などの刑事事件を起こした場合、逮捕状にもとづく通常逮捕や犯行の現場で現行犯逮捕されるケースが一般的です。しかし一定の要件を満たせば「緊急逮捕」される場合があります。

緊急逮捕はどのような状況で行われる逮捕を指すのでしょうか?また通常逮捕や現行犯逮捕とはどんな違いがあるのでしょうか?

本コラムでは緊急逮捕をテーマに、緊急逮捕の要件や緊急逮捕された後の流れ、緊急逮捕された事例について解説します。

目次

  1. 1、緊急逮捕とは
    1. (1)逮捕とは
    2. (2)緊急逮捕とは
  2. 2、緊急逮捕の要件
    1. (1)緊急逮捕の3つの要件
    2. (2)緊急逮捕できるのは誰か
    3. (3)緊急逮捕は事後に逮捕状が発付される
  3. 3、通常逮捕や現行犯逮捕との要件の違い
    1. (1)通常逮捕とは
    2. (2)現行犯逮捕とは
  4. 4、緊急逮捕後の流れ
    1. (1)緊急逮捕された後の流れ
    2. (2)勾留されるおそれが大きい
  5. 5、緊急逮捕の事例
    1. (1)乗用車の窃盗犯が緊急逮捕された事例
    2. (2)放火現場の近くにいた女子生徒が緊急逮捕された事例
    3. (3)オレオレ詐欺の受け子が緊急逮捕された事例
  6. 6、緊急逮捕されてしまったときに家族ができること
    1. (1)取調べに対するアドバイス
    2. (2)身柄の早期釈放に向けた活動
    3. (3)被害者との示談交渉
  7. 7、まとめ

1、緊急逮捕とは

そもそも逮捕とは何か、および緊急逮捕の概要を解説します。

  1. (1)逮捕とは

    逮捕とは、刑事事件を起こしたと疑われる人(被疑者)の身柄を強制的に拘束する刑事手続きをいいます。必ずしも手錠をかける必要はありません。手首をロープで縛る、捜査員が取り押さえてパトカーに乗せるなど行動の自由を制御できれば、逮捕といえます

    逮捕された被疑者は、通常は警察の留置場に身柄を留め置かれ、必要に応じて取調室で取り調べを受けることになります。逮捕されている間、被疑者は家族や職場の人に連絡を取ったり面会したりといった自由な行動は制限されます。

    逮捕は、あくまでも被疑者の逃亡や証拠隠滅を防止するために行われる、身体拘束の手続きです。逮捕されても犯罪の事実や刑罰が確定したわけではありません。逮捕された後に不起訴処分となり身柄を釈放されるケースもあります。

  2. (2)緊急逮捕とは

    逮捕は被疑者の身体の自由を強制的に奪う行為なので、憲法によって、事前に裁判官が発付した逮捕状を提示したうえで逮捕することが原則となっています。しかし例外的に、その場に逮捕状がなくても逮捕の理由を告げたうえで逮捕できる手続きがあります。それが緊急逮捕です。

    緊急逮捕は、逮捕の種類のひとつです。ニュースや新聞などで見聞きしたことがあっても具体的な要件までは知らない方が多いかもしれません。

2、緊急逮捕の要件

緊急逮捕とは、一定の重大な罪を犯した被疑者について、逮捕状を請求する時間がない場合に行う逮捕のことです。緊急逮捕は厳しい要件があるので、詳しく確認していきましょう。

  1. (1)緊急逮捕の3つの要件

    緊急逮捕の要件は以下の3つです(「」は刑事訴訟法第210条抜粋)。

    ●一定の重大犯罪であること
    一定の重大犯罪とは、死刑、無期もしくは長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪です。強制わいせつ罪や強制性交等罪、強盗罪、殺人罪などの凶悪犯罪のほかに、身近な犯罪として知られる窃盗罪などもこの罪に含まれます。

    重大犯罪といっても、多くの罪が緊急逮捕の対象となります。反対に、暴行罪や脅迫罪、軽犯罪法違反などは緊急逮捕の対象から除かれます。

    ●「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある」こと
    「充分な理由」とは、単なる疑いでは足りず、強い嫌疑があることをいいます。通常逮捕の場合の「相当な理由」よりも強い嫌疑が必要になります。強い嫌疑があるかどうかは、捜査員の主観ではなく、客観的な証拠や目撃者の証言、本人の自白などをもとに判断されます。

    ●「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない」こと
    「急速を要し」とは、逮捕状の発付を待っていると被疑者を取り逃がし、または証拠を隠滅されるおそれが高い、切迫している状態をいいます。緊急でやむを得ない状況でなければ緊急逮捕は認められません。

  2. (2)緊急逮捕できるのは誰か

    緊急逮捕できるのは検察官、検察事務次官、または司法警察職員です。司法警察職員には警察官のほかに麻薬取締官や海上保安官なども含まれます。ただし、私人は含まれません

    たとえば指名手配されている人物を目撃したからといって、一般の人が逮捕できるわけではありません。この場合はすぐに警察などへ通報する必要があります。現行犯でもないのに私人が逮捕する行為は違法です。

  3. (3)緊急逮捕は事後に逮捕状が発付される

    緊急逮捕は逮捕の時点では逮捕状がありませんが、逮捕の後に逮捕状が発付されなければなりません。緊急逮捕では、現行犯逮捕のように犯行の様子を現認したわけではないため、誤認逮捕のおそれが否定できないからです。

    そのため逮捕の後、捜査機関は裁判官に対して直ちに逮捕状を請求します。具体的な時間制限は設けられていませんが、逮捕から数時間以内には請求するでしょう。裁判官が逮捕の要件を満たさないと判断し、逮捕状が発せられない場合は、捜査機関は被疑者の身柄を直ちに釈放しなければなりません

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3、通常逮捕や現行犯逮捕との要件の違い

逮捕には緊急逮捕のほかに「通常逮捕」と「現行犯逮捕」があります。それぞれの逮捕要件が、緊急逮捕とどのように異なるのかを解説します。

  1. (1)通常逮捕とは

    通常逮捕とは、裁判官が発付した逮捕状にもとづく、原則的な逮捕手続きのことです。通常逮捕の要件は、①逮捕の理由と②逮捕の必要性があることです(刑事訴訟法第199条、刑事訴訟規則第143条の3)。

    逮捕の理由とは、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」のことです。
    「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」が認められるためには、特定の犯罪事実が存在し、被疑者がその犯罪を犯したことが相当程度認められることが必要です。

    逮捕の必要性とは、被疑者が逃亡や証拠隠滅を図るおそれがある場合をいいます。たとえば定職に就いている、同居の家族がいるなどの場合は、逃亡・証拠隠滅のおそれがないと判断される可能性があります。被疑者に逃亡・証拠隠滅のおそれがない場合は、逮捕されずに在宅のまま捜査が進められます。

    通常逮捕では逮捕状を被疑者の面前に示したうえで行われるのに対し、緊急逮捕では逮捕の時点で逮捕状はありません。ただし、緊急逮捕の「理由を告げて」行う必要があります。また、上記の通り、通常逮捕は罪を犯したことを疑うに足りる「相当な理由」があれば足りますが、緊急逮捕は罪を犯したことを疑うに足りる、「充分な理由」がなければ要件を満たしません。「充分な理由」は、「相当な理由」よりも高度の嫌疑を意味します。

  2. (2)現行犯逮捕とは

    「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者」を現行犯人といい、現行犯人を逮捕状なしで逮捕することを現行犯逮捕といいます(刑事訴訟法第212条1項)。
    また、刑事訴訟法212条2項各号に該当していて「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められる」者を現行犯人とみなして(準現行犯人)、このような人を逮捕することを、準現行犯逮捕といいます。たとえば、犯行に使用された凶器を持っているなど犯罪の顕著な痕跡があり、かつ犯罪行為から時間的・場所的に近接している場合に準現行犯逮捕が認められます

    現行犯逮捕の要件は、①現行犯人または準現行犯人であること、②犯罪と犯人が明白であること、③逮捕の必要性があることです。30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪の現行犯人については、住居もしくは氏名が明らかでない場合または逃亡のおそれがある場合にしか現行犯逮捕できません(刑事訴訟法第217条)。

    現行犯逮捕と緊急逮捕は、逮捕の時点で逮捕状がない点は共通しています。しかし緊急逮捕は、現行犯逮捕のように、逮捕状が不要なわけではなく、事後に発付を受けなければなりません

    現行犯逮捕は「何人でも」できることから被害者や目撃者などの私人にも可能ですが、緊急逮捕できるのは検察官、検察事務官、司法警察職員のみです。

4、緊急逮捕後の流れ

緊急逮捕された後はどのような流れで刑事手続きが進められるのでしょうか?

  1. (1)緊急逮捕された後の流れ

    緊急逮捕された後の流れは、逮捕状が逮捕の事後に請求されるという点を除けば、通常逮捕や現行犯逮捕と同じです。私人による現行犯逮捕の場合も、逮捕した私人は直ちに被疑者の身柄を警察官などに引き渡す義務があるため、引き渡された後は同様に刑事手続きが進められます。

    緊急逮捕された被疑者は、通常警察署に連行され、留置の必要があると判断された場合には48時間以内に検察庁へ送致されます。裁判官が逮捕状の発付を認めない場合にはここまでの間に身柄を釈放されるでしょう。
    送致された後、検察官は、被疑者を受け取った時から24時間以内、かつ被疑者が逮捕されてから72時間以内に、起訴するか釈放するかを判断しなければなりません。

    検察官は、被疑者を受け取った時から24時間以内、かつ被疑者が逮捕されてから72時間以内に捜査が尽くされていないと判断した場合には、裁判官に勾留を請求し、裁判官が勾留を認めると引き続き身柄を拘束されます。勾留は原則10日間ですが、10日間の延長が認められているため、最長で20日間です。検察官は、勾留期間が終わるまでに、被疑者を起訴するか釈放しなければなりません。

  2. (2)勾留されるおそれが大きい

    検察官が勾留を請求しない場合や、検察官が勾留を請求しても裁判官が勾留を認めない場合には、被疑者は勾留されずに身柄を釈放され、在宅捜査に切り替わります。在宅捜査になれば日常生活を送りながら取り調べに対応できるため、被疑者の心身の負担は軽減され、会社・学校・家庭などへの影響も最小限に抑えられるでしょう。

    しかし緊急逮捕の場合、一定の重大犯罪が対象であり、高度な犯罪の嫌疑がある場合に行われる手続きであるため、逮捕後に釈放される可能性はそれほど高くありません。通常逮捕や現行犯逮捕に比べて勾留を受けるおそれが大きいと考えておくべきでしょう。

5、緊急逮捕の事例

どのようなケースで緊急逮捕されるおそれがあるのかを知るために、実際にあった、窃盗、放火、詐欺など、緊急逮捕の事例を紹介します。

  1. (1)乗用車の窃盗犯が緊急逮捕された事例

    無職の男性が乗用車を窃取し、職務質問しようとした警察官を乗用車で引きずり逃走した後に窃盗容疑で緊急逮捕された事例です。

    令和3年7月、男性は大阪府堺市内で乗用車を窃取しました。その3日後に盗難車を追尾していた警察官が職務質問をしようとした際、男性は盗んだ乗用車を警察官のバイクに衝突させ、約20メートルにわたって警察官を引きずりました。男性は盗難車を乗り捨て、新たに盗んだ乗用車で愛知県名古屋市まで逃げましたが、愛知県警が窃盗容疑で緊急逮捕したというものです。

    その後、男性は、警察官を盗難車で引きずり殺害しようとしたとして、大阪府警によって殺人未遂および窃盗の容疑で通常逮捕されています。

  2. (2)放火現場の近くにいた女子生徒が緊急逮捕された事例

    通報を受けて放火現場に駆けつけた警察官が、近くにいた中学3年の女子生徒を現住建造物等放火の容疑で緊急逮捕した事例です。

    令和3年4月、愛知県名古屋市内で自営業の男性宅が全焼しました。目撃者からの119番通報を受けて警察官が現場に駆けつけた際、現場近くにいた女子生徒に職務質問したところ、女子生徒が容疑を認めたため緊急逮捕しました。

  3. (3)オレオレ詐欺の受け子が緊急逮捕された事例

    無職の男性がオレオレ詐欺の受け子となり、高齢女性からキャッシュカードを盗んだとして緊急逮捕された事例です。

    令和元年11月、男性は何者かと共謀し、新潟県上越市内に住む80代の女性宅に警察官を名乗って電話をかけて「集団詐欺事件がありあなたの家も該当している」などとうその情報を伝え、その5分後に警察官として女性宅を訪れました。その際、男性は女性のキャッシュカードと自分が持参したカードをすり替え、女性のカードを盗んだというものです。

    女性が帰宅した家族に事情を話したため事件が発覚し、家族が警察に通報しました。男性はすでに女性のキャッシュカードで現金を引き出していましたが、駅にいたところを機動捜査隊の隊員に職務質問され、緊急逮捕されています。

6、緊急逮捕されてしまったときに家族ができること

自分の家族が緊急逮捕されてしまったら、残された家族は早急に弁護士へ相談しましょう。

  1. (1)取調べに対するアドバイス

    緊急逮捕された後の取調べで供述した内容は、その後の刑事処分に影響を与える重要な意味を持ちます。そのため取調べで何を供述すべきか、黙秘権や署名押印拒否権などの権利をどのように行使すべきかについて、被疑者本人にアドバイスを与える必要があります。

    しかし、緊急逮捕直後の72時間は、被疑者は外部との面会が許可されないため、取り調べに対して適切に対応することが難しくなります。弁護士であれば、逮捕直後の72時間以内であっても本人との面会が認められているため、取り調べでの注意点など重要なアドバイスを与えられます

  2. (2)身柄の早期釈放に向けた活動

    逮捕・勾留されると長期にわたって身柄を拘束されるおそれがあります。会社や学校を長く欠勤・欠席するため、場合によっては解雇や退学などの不利益を被るおそれもあるでしょう。

    これを回避するため、弁護士は検察官・裁判官に対して勾留の要件を満たさない旨を主張するなど、勾留を回避するよう、はたらきかけます。緊急逮捕では勾留されてしまうケースが多いため、早期の段階で弁護士に依頼し、釈放に向けた活動を行ってもらうことが大切です

  3. (3)被害者との示談交渉

    被害者がいる事件では、被害者との示談を成立させることで不起訴処分や刑の減軽につながる可能性があります。しかし、被害者は、加害者に対して強い処罰感情を持っているのが通常なので、示談交渉は簡単ではありません。

    緊急逮捕された本人が交渉するのは物理的に無理ですが、ご家族からのはたらきかけも拒否されるケースが多いでしょう。また、そもそも被害者の連絡先を知らないケースが多く、捜査機関が教えてくれるはずもありません。

    弁護士であれば検察官を通じて被害者に連絡を取り、被害者の承諾を得たうえで示談交渉を開始できる可能性があります。客観的な立場の第三者であり、守秘義務もある弁護士ならば、被害者の警戒心をやわらげて交渉に応じてもらえる可能性に期待できるでしょう。

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7、まとめ

緊急逮捕は、一定の重大な罪を犯したことを疑うのに十分な理由があり、急速を要するために逮捕状を請求する時間がない場合に行われる逮捕です。緊急逮捕では事後的に逮捕状が発付されるため厳しい要件を満たさなければ認められませんが、緊急逮捕されたときは勾留されるおそれも高くなります。

もしも自分の家族が、刑事事件の被疑者として緊急逮捕されてしまったら速やかに弁護士に相談し、適切なサポートを依頼しましょう。ベリーベスト法律事務所の弁護士が迅速に対応します。まずはご相談ください。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

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※本コラムは公開日当時の内容です。
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