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幇助犯の成立要件とは:犯罪の手助けをしたと認定される事例を解説
刑法では、「共犯」についていくつかの形態が規定されています。共犯といえば「犯罪行為を一緒にはたらいた」という意味にとらえられるのが一般的ですが、実際の犯罪行為をはたらいていないのに共犯として処罰されるものとして、「幇助犯」が存在します。
本コラムでは、幇助犯とはどのような場合に成立するのか、ほかの共犯とどのような違いがあるのかを確認しながら、幇助犯が受ける処罰の内容や幇助犯として容疑をかけられた場合の弁護活動について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
1、幇助犯とは
まずは「幇助犯」とはどのようなものなのかについて、定義から解説します。
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(1)幇助犯とは
幇助犯は、刑法第62条1項に規定されている共犯の種類のひとつです。刑法の条文では「正犯を幇助した者は、従犯とする」と規定されています。
「正犯」とは、自ら実行行為を行った者のことを意味します。これに対比されるのが、「従犯」です。まさに犯罪を実行した者に対して、幇助とは「正犯者の実行行為を容易にするよう手助けすること」と定義されており、正犯者が処罰される場合には従犯として幇助犯も処罰の対象になるのです。 -
(2)共犯の種類
刑法には、大きくわけて3つの共犯が規定されています。
- 共同正犯(刑法第60条)
- 教唆犯(刑法第61条1項)
- 幇助犯(刑法第62条1項)
一般的な共犯のイメージに近いのが、共同正犯です。条文では「2人以上共同して犯罪を実行した者」と示されており、それぞれが自分の犯罪として犯罪を実行した場合に成立します。
幇助犯と同じく、みずからは犯罪の実行行為がなくても共犯となるのが、教唆犯です。条文によると「人を教唆して犯罪を実行させた者」と規定されており、他人をそそのかして犯罪を実行させると、みずからは実行行為をはたらかない場合でも処罰の対象となるのです。
このように共犯の種類を並べると、共同正犯が共犯として扱われるのは当然として、教唆犯や幇助犯のようにみずからは犯罪を実行していなくても、共犯となって処罰を受けることがわかります。
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2、幇助犯と教唆犯の違い
教唆犯は幇助犯と似た性質をもっており、区別が難しいという特徴があります。幇助犯と教唆犯の違いについて、紹介します。
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(1)教唆犯とは
「教唆」とは、「人をそそのかす」という意味です。共犯のひとつである教唆犯は、教唆行為によって正犯に犯罪実行を決意させた場合に成立します。
教唆犯は、みずからは犯罪の実行行為をはたらかないという点では、幇助犯と非常によく似た存在です。ただし、幇助犯は正犯がすでに抱いている犯罪実行の意思を手助けし、容易にするものであることに対して、教唆犯は他人をそそのかして新たに犯罪実行を決意させるという点に違いがあります。
また、幇助犯は従犯としての刑が科される一方で、教唆犯は正犯の刑が科されます。したがって、教唆犯の法定刑は実際に犯罪を実行した者と同じものになるのです。 -
(2)教唆犯の例
教唆犯として罪を問われる行為の典型例が、「犯人隠避」の教唆です。
たとえば、令和3年6月には、無免許運転のうえで多重衝突事故を起こした男子高校生が、無免許運転の発覚をおそれて助手席に乗っていた女性に身代わりを依頼した件で、犯人隠避教唆として逮捕されています。
身代わりを依頼された女性は、実際に身代わりとして名乗り出ることで男子高校生による犯罪を隠したことになり、刑法第103条の犯人隠避罪に問われました。しかし、その女性が犯人隠避を実行するには、男子高校生からの依頼によって決意したという背景があるため、男子高校生は無免許運転などのほかに犯人隠避教唆の罪にも問われることになったのです。
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3、幇助犯と共同正犯の違い
共同正犯は、多くの方がイメージする「共犯」の典型的な形態ですが、幇助犯・教唆犯との区別が難しいケースも存在します。共同正犯はどのような場合に成立するのかについて、幇助犯との違いとともに、解説いたします。
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(1)共同正犯とは
共同正犯は、2人以上の者が共同して犯罪を実行した場合に成立するものです。
なにをもって「共同した」といえるのかという点に関しては、次の二種類に分かれます。
● 実行共同正犯
実際に共犯者全員が実行行為を分担した場合
● 共謀共同正犯
共同実行の意思のもとで複数人が謀議し、そのなかの一部の者だけが実行行為をはたらいた場合
一般的なイメージにおける「共犯」とは、実行共同正犯でしょう。共謀共同正犯は実際に実行行為を行っていない場合でも共犯となるという点で、幇助犯や教唆犯ともよく似ています。
共同正犯と幇助犯・教唆犯を区別するポイントは「共同実行に向けた正犯としての意思」、つまり「自分の犯罪として複数人と共同し実行したのか」という点にあります。共犯者が自分の犯罪として関与したのであれば共同正犯となり、他人の犯罪として手助けすれば幇助犯、そそのかして他人に犯罪を実行させれば教唆犯となるのです。
共同正犯の場合には、共犯者全員が正犯として厳しく罰せられます。 -
(2)共同正犯の例
平成29年6月、千葉県内で発生した拳銃発砲事件について、組員に銃撃を指示した暴力団組長が銃刀法違反などの罪で逮捕されました。少なくとも4人の組員に銃撃を指示して実行させた行為は、謀議のうえで自分の犯罪行為と認識したうえで実行させているため、共謀共同正犯にあたると判断されたようです。
共同正犯は、暴力団や特殊詐欺グループといった組織的な犯罪に適用されるケースが多数です。
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4、幇助犯の成立要件
幇助犯が成立するための四つの要件について、それぞれ解説いたします。
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(1)幇助行為があること
幇助犯が成立するうえでは、「幇助行為」が存在することが前提となります。幇助行為の手段や方法に制限はありません。凶器を調達する、逃走資金を渡すといった物理的な幇助だけでなく、正犯者を激励することで犯罪実行の意思を強化するなどの精神的な幇助も、幇助行為にあたると考えられるのです。
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(2)幇助の意思があること
たとえ正犯者の犯罪実行を手助けしても、その行為が「幇助の意思」に支えられたものでなければ、幇助とはいえません。
たとえば、ホームセンターでナイフを購入した者がそのナイフを使って殺傷事件を起こした場合、ナイフを販売したホームセンターは正犯者の犯罪実行を手助けしたことになります。しかし、ホームセンター側には「正犯者を幇助する」という意思はなく、まさか他人を殺傷するために購入したとは予想できないため、幇助とはいえないのです。 -
(3)正犯者が犯罪を実行していること
幇助犯は正犯に連動する従犯として扱われるため、正犯者が犯罪を実行したという結果が生じて、はじめて幇助犯が問題となります。
これは、正犯者が実行行為をはたらいていない限りは犯罪そのものが生じていないため従犯も存在しないという法的な解釈と、実行行為がなければ幇助行為が犯罪の発生を手助けして法益侵害の危険を高めたとはいえないという実質的な根拠が関係しています。 -
(4)幇助行為と正犯の実行行為の間に因果関係があること
正犯者が犯罪を実行するに至った背景に幇助行為が関係していなければ、幇助犯は成立しません。
たとえば、トラブルの相手を殺害しようと企てた正犯者に対して、凶器として拳銃を与えたところ、実際には拳銃を使用せずにみずから用意した刃物で相手を殺傷した場合には、幇助者が拳銃を用意した行為と正犯者が相手を殺傷した結果との間に因果関係が存在しないので、相手を殺傷した部分については幇助犯が成立しないと考えられます。
ただし、このケースに照らすと、物理的幇助が成立しなくても拳銃を所持していることで犯罪実行の決意を強くさせたとする精神的幇助が成立する余地は残されています。
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5、幇助犯の処罰
幇助犯は、正犯者の犯罪実行を容易にしているという点から、みずからが実行行為をはたらいていない場合でも処罰されます。幇助犯が受ける処罰について、解説いたします。
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(1)幇助犯が受ける処罰の内容
幇助犯は従犯として扱われることになり、従犯は刑法第63条によって「正犯の刑を減軽する」という規定があります。「減軽」とは、刑事裁判で刑罰が言い渡される際に、法定刑を減じて考慮することをいい、刑法第68条の規定によって次のとおり減じられるのです。
- 死刑……無期の懲役・禁錮、10年以上の懲役・禁錮
- 無期の懲役・禁錮……7年以上の有期の懲役・禁錮
- 有期の懲役・禁錮……その長期および短期の二分の一
- 罰金……その多額および寡額の二分の一
- 拘留……その長期の二分の一
- 科料……その多額の二分の一
刑罰は、適用する犯罪に設けられた法定刑の範囲内で科せられますが、減軽されると法定刑の上限が引き下げられます。そのため、実際に言い渡される刑罰も同様に引き下げられる、という考え方です。
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(2)幇助犯と認められた事例
近年、幇助犯が成立する例として目立っているのが、飲酒運転や無免許運転などの運転行為に関する事例です。
たとえば、平成20年2月に発生した飲酒運転のうえで対向車と衝突し相手を死傷させた事件では、職場の後輩が飲酒運転をすることを制止することなく同乗した先輩二名について、飲酒運転の意思をより強固なものにしたと判断し、危険運転致死傷幇助の罪が成立すると判示されました。
平成20年当時、危険運転致死傷罪は刑法第208条の2として規定されており、人を死亡させた場合の法定刑は一年以上の有期懲役でした。有期懲役の幇助犯は「その長期・短期の二分の一」に減軽されるため、このケースでは「6か月以上の有期懲役」の範囲で刑罰が下されたことになります。
【平成23(あ)2249 最高裁 危険運転致死傷幇助被告事件】
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6、幇助犯で逮捕された場合の弁護活動
幇助犯として容疑をかけられ逮捕されてしまった場合は、ただちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
減軽されるとはいえ、みずからが犯罪を実行していなくても厳しい刑罰を受ける事態になることは間違いありません。被害者に対して真摯に謝罪したうえで被害届の取り下げを願い、検察官の不起訴処分を目指すのがもっとも穏便な解決策となるでしょう。早急に弁護士に依頼して示談交渉を進めてもらうことが賢明です。
また、取り調べで事実と異なる供述をすれば、のちに裁判となった際の証拠として採用されるおそれがあります。したがって、取り調べに適切に対応するためのアドバイスを受ける必要があります。逮捕からの72時間以内に本人と面会できるのは弁護士だけであるため、早急に弁護士に連絡して面会を行いましょう。
ベリーベスト法律事務所では、刑事事件のご相談をいつでも受け付けております。迅速な対応をいたしますので、ぜひご連絡ください。
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7、まとめ
たとえみずからが犯罪の実行行為をはたらいていない場合でも、正犯者の実行行為を容易にするよう手助けすれば「幇助犯」として罰せられる可能性があります。思いがけず幇助犯として容疑をかけられて逮捕されてしまうケースも存在するので、早い段階で弁護士に相談し、サポートを求めるのが最善策です。
ご家族が幇助犯として逮捕されてしまった場合は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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