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間接正犯とは? 成立する要件と、共同正犯・教唆犯との違い
他人の意思を完全に支配し、犯罪を実行させることを「間接正犯」といいます。たとえば医師が事情を知らない看護師に対し、必要な投薬だとだまして患者を殺害させた場合、医師は自ら直接に手を下さなくても殺人の罪に問われます。
もし自分の家族が他人の共犯として警察に逮捕された場合、自分の家族はだまされただけであって、間接正犯の被利用者として罪に問われないのではないかと考えるかもしれません。
では、間接正犯はどのような要件を満たすと成立するのでしょうか?本コラムでは間接正犯の概要と成立要件、共同正犯や教唆犯との違いについて解説します。
1、間接正犯とは?
間接正犯とは、他人を道具のように利用して犯罪を実現させることをいいます。間接正犯は、自ら直接に犯罪を実現させた場合(正犯)と同様に処罰されます。つまり自分の手を汚さなくても、人を利用して罪を犯せば、事実上罪を犯した本人として罰せられます。
たとえばAが来客のCを殺害するつもりで来客用の飲み物に毒物を入れ、これを何も知らない家政婦のBに差し出させてCを殺害したケースです。このケースではAに対して殺人罪が成立し、事情を知らずに飲み物を差し出したBは殺人の故意がないので無罪です。この場合のAを間接正犯といいます。
「道具のように利用して」というのは、上記のケースの家政婦Bのように事情を何も知らない人を利用するほかに、是非善悪の判断能力を欠く方をそそのかして利用した場合も該当します。たとえば3歳の幼児をスーパーに連れて行き、「あのお菓子を持って店の外に出ておいで」とそそのかして万引きをさせた場合です。
是非善悪の判断能力がある方をそそのかして犯罪を実行させても、道具のように利用したとはいえないため、間接正犯は成立しません。是非善悪の判断能力があれば、万引きが悪いことであると判断し、万引きをやめようとする意思を持てるからです。
ただし、是非善悪の判断能力がある者を利用した場合でも、一定の事情のもとでは間接正犯が成立する場合があります。
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2、間接正犯が成立する主な要件
間接正犯は刑法に明文化されているわけではないため、成立要件については見解が分かれています。主流の見解をもとにした成立要件は以下のとおりです。
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(1)他人を利用して犯罪を実現させる意思があること
他人を意のままに利用して犯罪を完遂させる故意が必要です。ここでいう「他人」とは、犯罪の故意がない者や是非善悪の判断能力がない者などのことをいいます。たとえば事情を全く知らない第三者や幼児、重度の精神障害者、心神喪失者などです。
これに対し、「他人」が刑法上の責任能力を欠く14歳未満の者であっても、是非善悪の判断能力がある場合には、意思の抑圧などの事情が存在しない限り、間接正犯は成立しません。 -
(2)他人を一方的に利用して犯罪結果の実現を支配したといえること
「支配」とは上下関係や従属的関係といった意味ではないので、何も知らない赤の他人を利用して犯罪を実行させても間接正犯は成立します。ここでいう支配とは、犯罪が実現する過程や結果に対する支配を意味します。
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3、間接正犯と共同正犯、教唆犯の違い
間接正犯と間違えやすい概念に、共同正犯、教唆犯があります。それぞれの違いについて、判例を交えて解説します。
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(1)共同正犯との違い
共同正犯とは、2人以上が共同して犯罪を実行した場合をいいます(刑法第60条)。成立要件は、「共同で犯罪を実行する意思」と「共同で犯罪を実行した事実」です。
共同正犯は、犯罪の一部しか行っていない場合でも、発生した結果の全体について刑事責任を負います。つまり全員がすべての実行行為をする必要はなく、役割を分担して実行したようなケースでも全員が同じ責任を負うことになります。
たとえばA・B・Cの3人で銀行強盗を企て、AとBが銀行に侵入して現金を強奪し、Cが逃亡用の車で待機していた場合、全員が強盗罪に問われます。
共同正犯は共同で犯罪の実行行為におよぶことで成立しますが、間接正犯は、自らは何ら実行行為をしていなくても成立します。
● 12歳の長男を利用した強盗で間接正犯ではなく共同正犯が成立するとされた事例
スナックのホステスであった被告人が、生活費欲しさから同スナックの経営者から金品を強取しようと企て、当時12歳10か月(中学1年生)だった長男に強盗を実行させた事例です。
被告人は長男に対し、覆面をし、エアーガンを突き付けて脅迫するなどの方法により金品を奪い取るよう指示命令しました。長男は指示された方法で経営者を脅迫したほか、自分の判断で店の出入り口のシャッターを下ろしたり、経営者をトイレに閉じ込めたりしたうえで現金約40万円とショルダーバッグ1個を強取したというものです。
この事例では、長男には是非弁別の能力があり、被告人の指示命令は長男の意思を抑圧するに足る程度のものではなく、長男は自らの意思によりその実行を決意して臨機応変に強盗を実行させたのだから、被告人に間接正犯は成立しないと判示されました。
そのうえで、被告人は強盗を計画して実行を命令し、長男が強取した現金を自ら領得したことから、被告人には共同正犯が成立するとしました。
【最高裁判例 事件番号 平成12(あ)1859】 -
(2)教唆犯との違い
教唆犯とは、犯罪の実行を決意していない方をそそのかして、犯罪の実行を決意させるものをいいます(刑法第61条)。「教唆の故意」をもって「教唆行為」を行い、さらに「正犯が実行した」場合に成立し、正犯として扱われます。
間接正犯は、犯罪の実行行為をする者(被利用者)に犯罪を実行する故意はありません。これに対して教唆犯は、犯罪の実行行為をする者(被教唆者)に犯罪の実行を決意させるものなので、被教唆者には犯罪の故意が存在します。
教唆犯が成立するケースは、たとえば親が自分の子ども(13歳)をそそのかして窃盗行為をさせた場合です。13歳という年齢は、刑法の責任能力を欠くものの、是非善悪を判断する能力はあるので、親の道具とはいえません。したがって、この親に間接正犯は成立せず、教唆犯が成立します。しかし、一定の事情のもとでは間接正犯が成立するとした判例があります。
● 12歳の養女を利用した窃盗で間接正犯が成立するとされた事例
被告人が当時12歳の養女を連れて四国を巡礼中、養女に対してさい銭泥棒を命じて実行させた事例です。被告人は、日頃から養女に対して顔面にタバコの火を押しつける、ドライバーで顔をこするなどの暴行を加え、自己の意のままに従わせていました。
この事例では、12歳の養女が是非善悪の判断能力を有する者だとしても、養女が被告人の日頃の言動に畏怖して意思を抑圧されているという事情のもとでは、養女は被告人の意のままに行動したにすぎないため、間接正犯が成立すると判示されました。
【最高裁判例 事件番号 昭和58(あ)537】
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4、まとめ
間接正犯とは、故意がない者や是非善悪の判断能力がない者を道具のように利用して犯罪を実行させることです。他人を利用した者は正犯と同じく処罰され、刑の減軽事由などにも該当しません。一方、間接正犯の被利用者に該当する場合は、犯罪の故意がないので罪に問われません。
とはいえ、間接正犯に該当するか、共同正犯や教唆犯に該当するのかは法的知識を要する難しい問題です。仮に間接正犯の被利用者に該当する場合であっても、警察の捜査を受け、逮捕されてしまうおそれは十分にあるため、刑事事件に巻き込まれた場合はなるべく早く弁護士へ相談されることをおすすめします。
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