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執行猶予付き判決とは? 実刑判決との違いや獲得するためにできること
裁判の結果が報道されるニュース番組などでは、「執行猶予」や「実刑判決」という単語が流れることがあります。執行猶予が付けば、有罪となっても刑務所に入ることなく仕事などの日常生活を送ることができます。
しかし、執行猶予付き判決となるためには、さまざまな要件をクリアしたうえで、示談成立などの情状を訴える必要があるのです。
今回は、執行猶予付き判決の概要を説明しながら、執行猶予の要件や執行猶予付き判決を目指すためにすべきことなどについて、弁護士がわかりやすく解説します。
1、執行猶予付き判決とは
そもそも「執行猶予」とは何か、実刑判決との違いなどについて解説します。
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(1)執行猶予付き判決の定義
執行猶予とは、有罪判決を言い渡すにあたり、情状によって、一定の期間、刑の執行が猶予される制度のことです。この制度は、刑法第25条~27条によって定められています。また、執行猶予は、刑の言い渡しと同時に言い渡されなければなりません(刑事訴訟法第333条2項)。
令和2年の犯罪白書によれば、令和元年に有期の懲役刑・禁錮刑を言い渡された4万9162人のうち、3万1065人(約63.2%)に全部執行猶予が付いています。
執行猶予が付けられる目的とは、犯罪の情状が軽く、刑を執行する必要性がそれほど大きくない犯人に対し、刑の執行や前科の及ぼす影響をできるだけ避けるとともに、その取消しを警告し、同時に希望を持たせることによって再犯を防止することです。たとえば「懲役1年、執行猶予3年」という判決の場合には、猶予期間の3年間を何事もなく過ごし終えれば懲役刑が免除されます。
ただし、あくまでも有罪判であるため、執行猶予であっても「前科」は付きます。そして、前科が付くことにより、資格や職業が制限される場合もあるのです。
また、猶予期間に罪を犯して禁錮以上の実刑判決を受けた場合などには、執行猶予は取り消されます(刑法第26条)。罰金刑であっても、裁判官の判断により取り消されることがあるのです(刑法第26条の2)。 -
(2)執行猶予の期間
執行猶予期間は、裁判が確定した日から「1年以上5年以下」と定められています(刑法第25条)。過去の裁判例をみると、言い渡された懲役刑・禁錮刑の1.5~2倍の期間となることが多くなっています。
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(3)実刑判決との違い
実刑判決とは、執行猶予が付かない有罪判決です。罰金刑に執行猶予が付くのは極めて例外的なケースであるため、一般的には、実刑判決とは「執行猶予が付かない懲役刑・禁錮刑」のことを指すことも多いです。実刑判決が出れば、ただちに刑務所に収監されることになります。一方、執行猶予付き判決が下ると、再犯などがない限り刑務所に収監されることはありません。
実刑判決には、刑の一部は実刑で、残りの期間が執行猶予となる「一部執行猶予」があります(刑法第27条の2)。
たとえば「懲役2年、刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予」という判決の場合、1年6か月は刑務所に収容され、残り6か月の懲役については、その後2年間を何事もなく経過すれば免除されるのです。 -
(4)逮捕から執行猶予付き判決までの流れ
刑事事件で逮捕されたら、まず警察で取り調べがあり、逮捕後48時間以内に検察官に「送致」するかどうかが判断されます。検察官が引き続き被疑者の身柄を拘束して捜査する必要があると判断すると、送致後24時間以内に裁判所へ勾留を請求します。
勾留請求が認められた場合には10日間、延長された場合にはさらに10日間、起訴されるまで留置場や拘置所に留置されます。
起訴から裁判が開始するまでは1~2か月かかるのが一般的です。裁判の審理期間は、容疑を認めている自白事件では審理が1回で終わり、その2週間後くらいに判決となるケースもあります。
自白事件では、起訴されてから判決が出るまでの期間は、2~3か月が目安となります。
そして、執行猶予付き判決が言い渡されたら、その日のうちに釈放されることになるのです。 -
(5)保護観察との関係
薬物犯罪や性犯罪、暴力犯罪のように更生プログラムの実施が必要な場合や、家族などに指導監督する適切な人物がいない場合には、執行猶予付き判決に保護観察が付くケースがあります。
保護観察とは、罪を犯した人が更生できるように、保護観察官が保護司と協働しながら指導監督と自立した生活のための支援をする制度のことです。
保護観察の対象者には、保護観察官や保護司との面接、転居や旅行の届出など、遵守事項が課せられます。遵守事項に違反した場合には、執行猶予が取り消され、刑務所に入らなければならなくなるおそれがあります。
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2、執行猶予付き判決を目指す理由
懲役刑や禁錮刑となっても、執行猶予が付けば刑務所に収監されることはありません。起訴後に保釈されず留置施設での身柄拘束が続いていても、判決の後に釈放されて自宅に戻ることができます。猶予期間中は、通勤や通学など通常の社会生活を送ることができます。就職や転職、進学、引っ越し、旅行などをすることも可能です。
また、実刑判決では制限される場合がある資格や職業も、執行猶予付き判決ならば制限されないことがあります。
たとえば、会社の取締役が実刑判決を受けてしまうと、会社法第331条の取締役の欠格事由に該当することになり、取締役を退任しなければならなくなります。しかし、執行猶予付き判決ならば取締役の欠格事由に該当しないので(会社法違反の罪その他一定の罪を除く)、退任する必要はなく、そのまま取締役の業務を続けることができるのです。
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3、執行猶予が付きやすいケース
執行猶予は、具体的にどのような要件を満たせば付くのでしょうか?
執行猶予が付きやすいケースについて、解説します。
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(1)前提条件となる判決の内容
刑法第25条1項は、刑の全部の執行を猶予できるのは、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」と定めています。したがって、執行猶予が付くには判決の内容が3年以下の懲役・禁錮・50万円以下の罰金であることが前提条件となります。
殺人や強盗、現住建造物等放火など懲役・禁錮の下限が3年を超えている場合には、刑が減軽されない限り、基本的に執行猶予はつきません。
また、刑法では「執行を猶予することができる」としているだけであり、実際に執行猶予が付くかどうかは裁判官の裁量に委ねられます。裁判官は、事件の状況や更生の可能性などの情状を検討したうえで、判断します。 -
(2)初犯のケース
刑法第25条1項1号では執行猶予が付く条件として「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」を挙げています。初犯はこれに含まれるため、執行猶予が付きやすいケースのひとつとなります。
執行猶予はあくまでも裁判官の裁量で付くものであるため、初犯だからといって必ず執行猶予が付くわけではありません。しかし、初犯に加えて以下のような情状があれば、執行猶予が付く可能性は上がります。- 被害が重大でない
- 被告人が深く反省している
- 被害者との示談が成立している
- 被害者の処罰感情が高くない
- 再犯防止策が整っており更生の可能性が高い
なお、初犯でなく前科がある場合でも、罰金刑以下の前科であれば執行猶予の対象となります。
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(3)5年以内に禁錮以上の刑を受けていないケース
以前に禁錮以上の刑を受けた場合でも、酌むべき情状があり、刑の執行または免除から5年間、懲役または禁錮の刑を受けていない場合には、執行猶予の対象となります(同条第1項2号)。
このケースにおいても、情状が認められるためには、被告人の反省や被害者との示談、更生の可能性といった点が重要になります。 -
(4)執行猶予中の再犯でも執行猶予が付くケースがある
執行猶予中の再犯は基本的に執行猶予が付きませんが、情状に特に酌量すべきものがあり、今回の判決で言い渡される刑が「1年以下の懲役または禁錮」であれば、執行猶予が付く可能性があります(同条第2項)。
ただし、前回の判決で保護観察が付いている場合には、執行猶予の対象とはなりません。また、このケースでは情状に「特に」酌量すべきものが必要であり、ほかのケースと比べて情状の要件が厳格となります。被告人の反省や示談などは情状にあたるものの、執行猶予が付くハードルは高い、と認識しておきましょう。
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4、執行猶予の獲得を目指すためにできること
執行猶予の獲得を目指すためには、要件を満たすことに加えて、情状面での立証・主張をすることが重要です。情状とは、量刑や起訴・不起訴を判断するうえで考慮される事情のことです。裁判では、次のようなことを立証・主張して、裁判官に情状酌量を訴えることになります。
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(1)被害者との示談を成立させる
暴行や詐欺、性犯罪など被害者がいる事件では、被害者との間で示談が成立していることが有効です。示談が成立して、被害者に示談金を支払い、示談書に宥恕(ゆうじょ)の文言があれば、「被害者からの許しをある程度得られた」と判断されるからです。
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(2)贖罪寄付をする
贖罪寄付とは、反省と謝罪の意思を示すために、日本弁護士連合会や弁護士会、犯罪被害者の支援団体など公的な団体に寄付をすることです。薬物犯罪や脱税、贈収賄など被害者がいないので示談ができなかったり、損害を弁済できなかったりする事件では、贖罪寄付が有効となる可能性があります。
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(3)反省を示す
執行猶予は、再犯しないことを条件に、刑の執行を猶予して社会生活の中で更生を促すことを目的としています。そのため、「被告人は十分に反省しており、社会で更生することができる」ということを示す必要があります。具体的には、被害者に対する謝罪に加えて、「二度と罪を犯さない」という意思を示した反省文を提出する、裁判の被告人質問で改悛の情を示すなどして、被告人の真摯な気持ちを裁判官に伝えることが必要となるのです。
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(4)家族などに監督してもらう
社会復帰をして更生していくためには、周囲のサポートが必要となります。したがって、裁判においては、家族がいることや定職があること、周囲の人が監督していくことを主張・立証することで、更生の環境が整っているという点を示すことが必要になるのです。
たとえば家族や勤務先の上司などが身元引受人として、「被告人をきちんと監督していくこと」や「薬物治療プラグラムに参加させること」など、更生への協力を約束する旨を記載した誓約書を提出します。これらの人に裁判で情状証人として証言してもらうことも、有効な手段となるでしょう。
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5、まとめ
執行猶予付き判決を得るためには、刑法が定める要件を満たすとともに、情状酌量を訴えることが重要です。被害者のいる事件では示談を成立させることが有効な方法のひとつとなります。しかし多くの事件では、加害者本人や家族が被害者と示談交渉をすることは困難です。示談交渉は、被害者感情に配慮した適切な対応ができる弁護士に依頼しましょう。
「執行猶予を付けるためには、どうすればよいのか…」とお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。刑事事件の実績豊富な弁護士が、示談交渉から更生計画の作成、裁判まで、全力でサポートします。
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