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上告棄却とは? 上告の概要、および条件と棄却されるケースを詳しく解説
テレビニュースや新聞の報道を見ていると「上告が棄却された」といったフレーズを耳にすることがあります。
令和3年9月には、東名高速道路であおり運転の被害に遭った夫婦が死亡した事故について、インターネット掲示板に無関係な会社の情報を書き込んだとして、名誉毀損の罪に問われていた被告人の上告が棄却されたと報道されました。
上告棄却の報道では、セットになっているかのように「一審および二審の判決が確定した」「有罪が確定した」とも報じられるため、上告が棄却されれば被告人にとって不利な状況になることは想像できるのではないでしょうか。
本コラムでは、上告の要件や流れを確認しながら「上告棄却」となるケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、上訴とは
上訴とは、未確定の裁判に対し、上級裁判所の司法的救済を求める不服申立ての制度をいいます。上訴には、控訴および上告などがあります。そこで、「上告」および「控訴」とはどのような制度なのか、「上告棄却」の意味、について確認していきましょう。
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(1)「上告」および「控訴」とは
日本では、公正で慎重な裁判によって人権を保護する目的で、ひとつの事件について3回まで審理を求めることができる「三審制」が採用されています。
第一審の判決に不服があれば第二審の裁判所へ不服を申し立てる「控訴」、第二審の判決にも不服がある場合は第三審の裁判所に不服を申し立てる「上告」という制度があります。
たとえば、地方裁判所の判決に不服がある場合には高等裁判所へ控訴を申し立て、高等裁判所の判決に不服がある場合には最高裁判所へと上告を申し立てることになります。
控訴審は、事後審が採用されています。事後審とは、第一審の下した判決に事実認定や法令違反がないかを審査するものであり、第一審と同じやり方で証拠の取り調べや証人尋問が行われるケースは少なく、書面での審理が中心となります。
他方、上告審は、事後審であるとともに違憲審査権(憲法81条)を有する最高裁判所への不服申立制度であるので、第二審までの判決が憲法または判例に違反していないかという点が書面で審理されることになります。
被告人のみならず、検察官も控訴および上告をすることができます(刑事訴訟法第351条第1項)。有罪判決に不服がある被告人が控訴または上告に踏み切るというイメージが強いかもしれませんが、無罪または求刑よりも軽い判決となった場合において、検察官が控訴または上告するというケースも存在しています。 -
(2)「上告棄却」とは
第三審にあたる上告には、厳密な要件が設けられています。そのため、要件を満たしていない場合や裁判所が上告の理由を認めなかった場合は「棄却」となります。
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2、刑事事件で上告できる条件
刑事事件における上告は、刑事訴訟法第405条において定められた理由に該当する場合に限って認められます。
上告の理由にあたる3点について、確認していきましょう。
● 憲法違反または憲法の解釈に誤りがあること(刑事訴訟法第405条第1号)
原判決において、憲法違反または憲法の解釈に誤りがある場合は、上告の理由となります。上告における「原判決」とは、第二審である高等裁判所の判決を指します。
「憲法の解釈に誤り」とは、原判決が控訴趣意に対する判断または職権による判断において、憲法上の解釈を示している場合に、それが誤りであるものをいいます。
他方、「憲法の違反」とは、それ以外の場合を指し、原判決およびその訴訟手続における憲法違反をいいます。
● 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと(刑事訴訟法第405条第2号)
最高裁判所の判例がない場合において大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例またはこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと(刑事訴訟法第405条第3号)
判例と相反する判断をしたとは、原判決に示された法律判断が比較の対象となる判例の法律判断と相反することをいいます。相反する判断があったと認められるためには、その判例と相反する法律判断が原判決に示されている必要があります。
● 職権破棄
刑事訴訟法第411条には、刑事訴訟法第405条第1号ないし第3号に該当しない場合でも「原判決を破棄しなければ著しく正義に反する」と認めたときに限り、原判決を破棄することができると規定されています。これを「職権破棄」といいます。
職権破棄が認められるのは、次の5つに該当する場合です。
- ① 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
- ② 刑の量刑が甚だしく不当であること。
- ③ 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
- ④ 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
- ⑤ 判決があった後に刑の廃止もしくは変更または大赦があったこと。
令和2年の司法統計によると、上告事件の終局総人員1881人のうち、憲法違反は444人、判例違反は96件にとどまっています。一方で、法令違反は166人、量刑不当または事実誤認は810人となっており、取り下げなどの364人を除けば、全体の約64%が職権破棄にあたる計算です。
このように上告を検討するケースでは、憲法違反または憲法解釈の誤り、判例違反に加えて、法令違反、量刑不当、事実誤認といった要件に該当するかどうかを慎重に判断することになります。
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3、上告から上告棄却までの流れ
刑事事件における、上告から上告棄却までの基本的な流れを解説します。
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(1)上告の申し立て
第二審である控訴審の判決に不服がある場合は、控訴審の判決宣告日の翌日から14日以内に(刑事訴訟法第358条、同法第414条、同法第373条)、「上告申立書」を原裁判所(高等裁判所)に対して提出します。
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(2)上告趣意書の提出
上告の申し立てを受けた最高裁判所は、上告の申立人に対して「上告趣意書」の提出を通知します。上告趣意書とは、刑事訴訟法に規定されている上告の理由に該当していることを上告申立人側が説明する書面です。
上告趣意書を差し出すべき最終日は、その指定の通知書が上告申立人に送達された日の翌日から起算して28日目以後の日でなければなりません(刑事訴訟規則第252条第1項)。
原判決の問題点を具体的に指摘する重要な書面で、上告趣意書の内容が上告の可否を左右するため、詳細かつ慎重な作成が求められます(刑事訴訟規則第253条参照)。 -
(3)上告が棄却されなかった場合
上告趣意書の提出を受けた最高裁判所は、上告趣意書を原判決までの訴訟記録に照らして精査します。
最高裁判所で公判期日が開かれて弁論が行われるのは、原判決で死刑を言い渡されている重大な事件や、原判決破棄の可能性がある事件など、ごく例外的な場合に限られています。
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4、上告棄却されるケース
上告棄却は、厳密には「上告棄却の判決」と「上告棄却の決定」に分類されます。
「上告棄却の判決」の具体例として、
- 上告申立てに違法がある場合(刑事訴訟法第414条、同法第395条)
- 上告理由に該当する事由が認められない場合(刑事訴訟法第414条、396条)
- 上告理由に該当する事由が認められるが判決に影響を及ぼさないことが明らかである場合(刑事訴訟法第410条第1項但書)
- 判例違反が認められるが上告裁判所がその判例を変更して原判決を維持するのを相当とする場合(刑事訴訟法第410条第2項)
などが挙げられます。
「上告棄却の決定」の具体例としては、
- 上告申立てに違法がある場合(刑事訴訟法第414条、同法第385条第1項)
- 上告趣意書に違法がある場合(刑事訴訟法第414条、同法第386条第1項)
などが挙げられます。
なお、上告裁判所の裁判には、上告棄却のほかに、「原判決破棄」もあります。
「原判決破棄」の具体例として、
- 上告理由に該当する事由が認められる場合(刑事訴訟法第410条第1項)、
- 刑事訴訟法411条に該当する場合、誤った管轄である場合(刑事訴訟法第412条)
などが挙げられます。
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5、上告棄却された後の流れ
上告審を担当する最高裁判所は、わが国の裁判所の頂点にある存在です。したがって、最高裁判所が下した判断は三審制における最終判断であり、上告が棄却されると、原則として裁判で争うことはできなくなります。
ただし、上告棄却の判決の場合には、判決宣告の日から10日以内に、判決訂正の申し立てをすることができます(刑事訴訟法第415条)。
上告棄却の決定の場合には、3日以内に、最高裁判所に異議の申し立てをすることができます(刑事訴訟法第414条、同法第386条第2項、同法第385条第2項、同法第422条)
上告棄却を受けて期限内に訂正の申し立て、異議の申し立てがなかった、またはこれらの申し立てが認められなかった場合には、上告棄却の決定または判決が確定します。
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6、上告において弁護士の支援が必要な理由
刑事事件の被告人が上告に臨む場合は、弁護士の助力なしで対応するのは難しいでしょう。
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(1)上告趣意書の作成を依頼できる
上告趣意書は、上告が認められるか否かを左右する重要な書面です。
原判決の問題点を具体的に指摘したうえで、なぜ上告が認められるべきなのかを、日本国憲法や刑事訴訟法の定めに基づいて正確に述べる必要があります。そのため、個人で作成しようとするのは、現実的には非常に困難といえるでしょう。
弁護士に依頼すれば、期日までに要点を押さえた的確な上告趣意書を作成してもらうことができます。 -
(2)身柄解放に向けた活動が期待できる
刑事裁判が継続している期間は、被告人としての勾留が続きます。勾留が長期にわたればそれだけ社会から隔離される時間も長引いてしまうので、保釈や勾留の取り消しといった身柄解放に向けた活動を弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
早期の身柄解放には、被告人が逃亡や証拠隠滅を図るおそれがないことを具体的に説明する必要があるため、弁護士に対応を依頼するべきといえます。
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7、まとめ
わが国の刑事裁判は三審制を採用しているため、不利な判決を受けても、覆すチャンスがあると考えるかもしれません。しかし、第三審にあたる上告審をするためには、厳格な要件を満たす必要があり、簡単なことではありません。そのため、上告審を望む場合は、弁護士の助けは欠かせません。
第二審までに不利な判決を受けており上告を検討している場合は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。上告が可能か否かについての判断から、上告趣意書の作成など、全力でサポートします。
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