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訴訟詐欺とは? 通常の詐欺罪との違いや罪が成立するケースも解説
人にうそを言って財物や財産上の利益をだまし取る行為は「詐欺罪」にあたります。だまし取るものには「財産上の利益」も含まれるため、たとえば代金支払いの義務を免れるなどの行為も処罰の対象です。
これと同じ考えかたで「有利な判決」をだまし取る犯罪を「訴訟詐欺」と呼びます。
本コラムでは、訴訟詐欺がどのような場合に成立するのか、通常の詐欺罪とはどのような点が違うのかなどを弁護士が解説します。
1、訴訟詐欺とは
詐欺罪は、対象となる財物やだまし取る方法・口実によってさまざまな手口に分類されます。本コラムのテーマである「訴訟詐欺」は詐欺罪の手口のひとつです。
裁判官にうその供述や証拠を示して欺き、不当に勝訴判決や執行判決といった有利な判決を得ることで、財物や財産上の利益を交付させる行為だと定義されています。
近年では、架空の内容で損害賠償請求などの訴訟を起こしたうえで「どうせ詐欺だ」と放置した相手を敗訴させて、合法的に財産を差し押さえる手口が横行しています。すでに市民の間で「架空請求でも放置すると敗訴してしまう」という知識も広まっているため、相手の住所を偽って訴訟を起こし、付郵便送達という制度で相手が知らないまま訴訟が進行するという手法も確認されるようになりました。
従来、訴訟詐欺は学説でも判例でも成立に否定的な判断が多い手口でした。ところが、裁判制度を悪用した新たな手法によって多数の被害者が生じたという想定外の事態が起きたため、改めて問題視する声が高まっている状況です。
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2、通常の詐欺罪との違い
訴訟詐欺は、通常の詐欺罪の成立要件とは一線を画した手口です。訴訟詐欺と通常の詐欺罪の違いを、成立要件の面からみていきましょう。
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(1)詐欺罪の構成要件を確認
犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。詐欺罪の構成要件は大きく5つに分解されるので、各要件をチェックしていきましょう。
● 欺罔行為があること
「欺罔(ぎもう)」とは、虚偽の内容を相手に伝えて欺く行為で、詐欺罪の成否を決めるうえでもっとも重視される要件です。
たとえば、借金を申し込む際に、実際にはそのような事実もないのに「来月には多額の遺産が手に入る」と伝えて間違いなく返済できるように装えば欺罔があったと判断されます。
一方で、実際に遺産相続が発生する予定があったものの手続きの遅れなどで期待どおりの収入がなく返済できなかったといったケースでは「欺いた」「だました」とはいえません。このような場合は欺罔行為があるとは認められないので詐欺罪は成立せず、民事上の債務不履行について責任を負うことになります。
● 相手が錯誤に陥ること
欺罔を受けた相手が、そのうそにだまされて信じ込んでいる状態を「錯誤」といいます。
● 財物の処分行為があること
「処分行為」とは、お金を渡す、口座に振り込むなどの行為を指します。別の呼び方では「交付」とも表現される要件です。欺罔を受けて錯誤に陥った相手が自ら財物を差し出すことで成立します。
● 財物・利益の移転があること
欺罔・錯誤・処分行為によって、財物や財産上の利益が加害者の手に移転した時点で詐欺罪が成立します。たとえば、現金が加害者の手に渡った、加害者が指定した口座に振込が完了したといった事実があれば「移転した」といえます。
一方で、被害者が詐欺に気づいてお金を渡さなかった、すでに口座が凍結されていて振込できなかったといったケースでは「移転がない」ため詐欺罪は既遂に達せず「未遂」となります。
なお、詐欺罪は未遂処罰規定があるため、たとえ未遂に終わっても既遂の場合と同じく処罰の対象です。
● 財産的損害が発生していること
一連の行為によって「財産的損害が発生していること」も要件のひとつだと考えられています。たとえば、虚偽を伝えて本来の支払日よりも少し早く代金を支払わせたといったケースでは、そもそも代金支払いを受ける権利を有しているため、実質的な損害は発生していないことになり、詐欺罪は成立しないと考えるのが妥当です。
詐欺罪の構成要件は特に難しい面が多いため、別の記事でも詳しく解説しています。
【参考:詐欺罪の定義。刑法において詐欺罪が成立する構成要件と刑罰について】 -
(2)訴訟詐欺の特徴
通常の詐欺罪は「だまされた人」と「財物をだまし取られて被害を受ける人」が一致しています。ところが、訴訟詐欺においてだまされるのは「裁判所の裁判官」であり、実際に財物をだまし取られて被害を受ける人とは異なるという特徴があります。
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3、三角詐欺とは
訴訟詐欺のような手口を、通称で「三角詐欺」といいます。
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(1)「三角詐欺」の定義
三角詐欺とは、欺罔をはたらく行為者、欺罔を受けて錯誤に陥り処分行為をした者、実際に損害を受けた被害者の3者が存在する詐欺をいいます。
主に問題となるのは、処分行為をした者と実際に損害を受けた被害者の関係です。通常、この両者は同一となりますが、従業員がだまされて店舗経営者が損害を被ったなどのケースでも問題なく詐欺罪が成立するため、両者が異なるとしても詐欺罪の成立は妨げられません。
ただし、処分行為をした者と実際に損害を受けた被害者の間には、一定の関係性が必要であり、判例によれば、「被欺罔者において被害者のためにその財産を処分しうる権能または地位」があることが必要とされています。たとえば、従業員と店舗経営者の関係であれば、従業員には「交付の権限」があるため詐欺罪が成立します。
一方で、まったく無関係な人を使って財物を持ってこさせたなどの場合は詐欺罪が成立せず、窃盗罪などに問われる可能性があります。 -
(2)三角詐欺の典型的なケース
三角詐欺が成立する典型的なケースとして挙げられるのがクレジットカードの不正使用です。
他人名義のクレジットカードで買い物をする行為は詐欺罪に問われます。また、自己名義のクレジットカードであっても、支払う意思も能力もないのに買い物をする行為は詐欺罪に問われます。本人による買い物であり正当な決済であるとして商品を渡した加盟店や、正当な決済であるとして請求を受けたクレジットカード会社がだまされたことになります。
学説・判例に争いがあるものの、クレジットカードの不正使用詐欺は三角詐欺の典型だといえるでしょう。
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4、訴訟詐欺が成立するケースと成立しないケース
訴訟詐欺が成立するケースと成立しないケースをみていきましょう。
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(1)訴訟詐欺が成立するケース
訴訟詐欺が成立するのは、裁判官が錯誤に陥ったことで不当な判決を下し、その効力が被害者に及ぶ場合です。
たとえば、Aを相手取って建物明渡訴訟を起こしたBが、裁判で虚偽の証拠や証言によって勝訴し、Aの土地・建物を強制執行によって取得した場合は、裁判所がその財産を処分できる立場にあるため訴訟詐欺が成立します。 -
(2)訴訟詐欺が成立しないケース
たとえ裁判官に対する欺罔があり不当な判決が下されたとしても、訴訟詐欺が成立しないケースが存在します。
たとえば、Aを相手取って建物明渡訴訟を起こしたBが、共犯者CをAの替え玉として出廷させたケースや、登記簿謄本を偽造して共犯者Cを土地・建物の所有者になりすまさせたといったケースでは、判決の効力がAに及ばないため訴訟詐欺が成立しません。
また冒頭で紹介したように、Aの住所を偽って訴訟を起こし、付郵便送達の制度を悪用してAが知らないまま訴訟を進め、欠席裁判で勝訴を得るケースも同様です。
この場合、判決の効力がAに及ばないため、訴訟詐欺は成立しません。
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5、詐欺罪で逮捕されたらどうなるか
訴訟詐欺を含めて、詐欺罪の容疑で逮捕されると法律の定めにもとづいた刑事手続きを受けることになります。逮捕後の刑事手続きの流れを確認していきましょう。
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(1)逮捕による身柄拘束
警察に逮捕されると、48時間を限界とした身柄拘束を受けます。逮捕された瞬間から自由な行動は大きく制限され、自宅に帰ることも、家族に電話をかけることもできません。逮捕されている期間は、警察官による取り調べを受けます。容疑の認否に加えてどのような手口を用いたのかを厳しく追及されるため、精神的にも大きな重圧を感じることになるでしょう。
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(2)検察官への送致
警察の逮捕から48時間が経過するまでに、被疑者の身柄や関係書類が検察官へと引き継がれます。この手続きを「送致」といい、ニュース・新聞などでは「送検」と表現されています。
送致されず釈放されるケースもありますが、詐欺事件では特に逮捕状請求までの段階で捜査が尽くされており、逮捕直後に真犯人が発覚するなどの可能性は低いので、不送致による釈放を期待するのは難しいでしょう。
送致を受け付けた検察官は、さらに被疑者を取り調べたうえで24時間以内に起訴、釈放又は勾留請求の判断をすることになります。重要な判断を下すためには捜査が不十分な場合も珍しくありませんので、多くのケースでは検察官が勾留による身柄拘束の延長を請求します。
令和2年版の犯罪白書によると、検察官へと送致された詐欺事件の98.9%について勾留が請求されており、請求が却下される割合は1%未満でした。詐欺事件の被疑者として送致されると、極めて高い割合で勾留されるといえます。 -
(3)勾留による身柄拘束
裁判官が勾留を認めると、初回は原則10日以内、延長請求で10日以内、合計20日以内の身柄拘束を受けます。勾留中の被疑者の身柄は警察に戻されて、検察官の指揮を受けながら警察が取り調べなどの捜査をおこないます。
勾留が決定した段階からは家族などとの面会が許可されますが、共犯者との連絡や証拠隠滅を防ぐために面会が禁止されることもあります。これを「接見禁止」といいます。 -
(4)起訴・不起訴の判断
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴又は釈放の判断をすることになります。起訴されれば刑事裁判へと移行しますが、不起訴になると刑事裁判は開かれず直ちに釈放されます。
検察官は、起訴前に証拠の精査などを尽くして有罪判決を得られる可能性が高い事件を厳選したうえで起訴・不起訴を決定しています。起訴有罪率は99%を超えているため、ほとんどのケースで前科がつくことになるでしょう。
前科がつけば一定の職業・資格で制限を受ける、勤務先の規定により解雇されてしまうといった不利益を受けるおそれがあります。
厳しい刑罰や前科を回避するためには不起訴を目指すのが最善策です。深い反省を示して再犯にいたらないことを誓約する、被害者との示談交渉を進めるといった対策が必要でしょう。
また、たとえ無実であっても起訴されれば冤罪となる危険は高いので、取り調べでは断固として否認を貫くなど、取り調べに対するアドバイスも欠かせません。
訴訟詐欺の容疑をかけられて厳しい刑罰や前科がついてしまう事態を避けるためには、弁護士のサポートが不可欠です。逮捕される危険がある、突然逮捕されたなどの状況があれば、直ちに弁護士に相談しましょう。
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6、まとめ
訴訟詐欺は、うその証拠や供述によって裁判官をだまして有利な判決を得る犯罪です。成立するケースは限定的ですが、容疑をかけられて逮捕・勾留されれば長期にわたって社会から隔離されてしまいます。厳しい刑罰も予定されているため、事件後の社会生活への悪影響を抑えるためには弁護士のサポートが欠かせません。
訴訟詐欺をはじめとした詐欺事件・刑事事件の容疑をかけられてしまいお困りであれば、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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