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威力業務妨害とは? 有名な判例や偽計業務妨害との違いも解説
執拗な迷惑電話やクレーム、いたずらのつもりの犯罪予告などは、法律の定めに照らすと「威力業務妨害罪」にあたります。警察に逮捕され、刑罰を受けるおそれもあるので、どのような行為が威力業務妨害罪にあたり、事件になるとどのような事態になるのかを知っておくべきでしょう。
本コラムでは「威力業務妨害罪」の概要や成立する要件、刑罰、実際の判例、類似するほかの犯罪との違いを解説します。
1、威力業務妨害罪とは
ニュースや新聞報道などで「威力業務妨害罪」という犯罪を見かける機会は少なくありません。ばく然と「他人の仕事を妨害した」という容疑であることは想像できると思いますが、法律の定めに目を向けると、さらに細かい要件が設けられています。
まずは「威力業務妨害罪」がどのような犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)威力業務妨害罪とは
威力業務妨害罪は、刑法第234条に定められている犯罪です。「威力を用いて人の業務を妨害した者」を罰するもので、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
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(2)威力業務妨害罪の構成要件
刑法第234条の条文に注目すると、威力業務妨害罪が成立するための構成要件は3つに分解できることがわかります。
- 威力を用いること
- 他人の業務に向けられること
- 妨害すること
「威力」とは、単なる暴力行為だけを指すものではありません。相手の自由意思を制圧する行為と解釈されているので、電話・メール・SNSなどによる脅しや嫌がらせといった迷惑行為も威力にあたる可能性があります。
「業務」にあたるもっとも代表的なものが、会社などの仕事でしょう。ただし、本罪でいう業務とは、さらに広く「人が社会生活上の地位にもとづいて反復・継続しておこなう事務」と解釈されています。営利・非営利の区別はないので、ボランティア活動や宗教活動、PTAなどの任意団体や組合の活動も業務性を帯びます。
「妨害」とは、暴力や迷惑行為を用いて業務の執行を妨害する行為はもちろん、広く業務を妨げる行為も含まれます。直接的ではない行為でも、正常な業務の遂行を阻害する行為は「妨害」となります。
また、実際に業務が妨害されたという事実までは必要としないので「業務を妨害するおそれ」さえあれば本罪の成立は妨げられません。実際に業務を妨害したという結果が発生していなくても威力業務妨害罪が成立するため、未遂犯を処罰する規定はありません。 -
(3)威力業務妨害罪が成立する例
威力業務妨害罪が成立するケースを挙げてみましょう。
- 執拗に迷惑電話をかけたり店頭で長時間にわたってクレームをつけることで、従業員の正常な業務を妨害した
- 官公庁に犯罪予告のメールを送り、警備・警戒や来庁者の避難などを強いた
また、最近の事例では、感染症予防のためにマスクの着用を求められていた航空機において着用を拒否し、乗務員に対して執拗にクレームをつける、暴力行為をはたらくなどしたうえで目的地よりも手前で臨時着陸させた男に、威力業務妨害罪が適用されています。
ほかにも、役所の窓口で感染症に罹患していると虚偽を伝えることで、役所の閉鎖や庁舎内の消毒作業などを強いた事例でも、威力業務妨害罪が適用されました。
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2、偽計業務妨害罪との違い
威力業務妨害罪と同じく「業務妨害罪」のひとつとされているのが「偽計業務妨害罪」です。偽計業務妨害罪は刑法第233条に規定されています。
両者の違いは業務妨害の手段です。威力業務妨害罪の手段は「威力」ですが、偽計業務妨害罪の手段は「虚偽の風説の流布」または「偽計」です。デマを流す、人をあざむく、不知を利用するといった手段で業務を妨害した場合に成立します。
とはいえ、威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪を区別する基準は明確ではありません。たとえば「デマ」という行為は、威力業務妨害罪にあたるケースがあれば偽計業務妨害罪に問われるケースも存在します。
両者を区別する基準のひとつと考えられているのが「公然か、非公然か」という点です。相手の自由意思を制圧するのが威力、相手の錯誤を誘発するのが偽計なので、公然と障害の存在を示す場合は威力業務妨害罪となり、目に見えない非公然のかたちで障害の存在による不安を与える行為が偽計業務妨害罪となります。
なお、偽計業務妨害罪の法定刑は威力業務妨害罪と同じで3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
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3、そのほか関連する罪
偽計業務妨害罪のほかにも、威力業務妨害罪と近い関係にある犯罪を挙げていきましょう。
● 信用毀損罪(刑法第233条)
偽計業務妨害罪と同じ条文のなかで示されている犯罪で、虚偽の風説・偽計によって他人の経済的な信用を傷つけた場合に成立します。法定刑は業務妨害となる両罪と同じで3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
● 名誉毀損罪(刑法第230条)
公然と事実を摘示して他人の社会的名誉を害した場合は名誉毀損罪に問われます。デマを流す行為が威力業務妨害罪・偽計業務妨害罪に問われる一方で、その情報が他人の社会的名誉にかかわるものであれば、真実であっても名誉毀損罪に問われます。法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
● 脅迫罪(刑法第222条)
生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を告知することで成立します。法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
● 公務執行妨害罪(刑法第95条)
公務員の職務執行に対して暴行・脅迫を加えた者を罰する犯罪です。3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科せられます。
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4、威力業務妨害の主な判例
実際に威力業務妨害罪が適用された判例にも目を通しておきましょう。
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(1)卒業式で大声・怒号を発した事例
【最高裁 平成20(あ)1132 平成23年7月7日 威力業務妨害被告事件】
平成15年10月、都立高校の卒業式において、国歌斉唱に反対する元教諭が、来場した保護者に対して「国歌斉唱のときは着席してほしい」と大声で呼びかけたほか、その行為を制止した教頭らに対して怒号し、卒業式の開始が遅延した事例です。
大声を出す、怒号を発するという行為が威力にあたり、卒業式の円滑な遂行を妨げたという事実が業務の妨害にあたるとされたほか、本件で問題となったのは日本国憲法第21条1項によって保障された「表現の自由」との関係でした。この点について裁判所は「たとえ意見を外部に発表するための手段であっても、他人の権利を不当に害するようなものは許されない」と判示しています。 -
(2)公共工事を阻止するために座り込みをした事例
【最高裁 平成10(あ)1491 平成14年9月30日 威力業務妨害被告事件】
平成8年1月、東京都が新宿区内にいわゆる「動く歩道」を設置する際、設置予定地で生活していた路上生活者が、これを阻止するためにバリケードを構築するなどして座り込みを続けた事例です。
本件は、環境整備を目的とするものであって強制力を行使する公務ではないことから、公務執行妨害罪ではなく威力業務妨害罪と判断されました。ダンボール製の簡素なものとはいえ、住み処を奪われたとの訴えが問題になりましたが、裁判所は財産的不利益がわずかであること、行政が臨時の居所を設置し事前に通知していたことなどを評価し、保護されるべき「業務」であることを認めています。
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5、威力業務妨害罪で逮捕された後の流れ
威力業務妨害罪の容疑で逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
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(1)刑事手続きの流れ
警察に逮捕されると、72時間にわたる身柄拘束を受けたのちに、検察官の請求によって勾留を受けます。勾留されると、さらに最長で20日間にわたって身柄を拘束されるため、帰宅することも会社へ行くこともできません。勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴すれば刑事裁判へと移行します。裁判官による審理で有罪となれば刑罰が言い渡されます。
なお、逮捕されずに在宅事件となった場合は、72時間・20日間といった身柄拘束を受けません。ただし、検察官が起訴・不起訴を判断し、起訴されれば刑事裁判に移行するという点は同じです。在宅事件だからといって、罪が軽くなるわけではないということは覚えておきましょう。 -
(2)被害者から損害賠償請求を受けるおそれもある
業務妨害が問題となったケースでは、刑事責任とは別に民事的な責任も追及されるケースが多数です。刑罰を受けたからといって、民事的な責任が免除されるわけではありません。
直接の請求で和解に至らない場合は相手が民事訴訟に踏み切る危険が高まります。解決までに時間がかかってしまえば大きな負担となるので、素早い解決が大切です。
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6、威力業務妨害罪に問われたときの弁護活動
威力業務妨害罪の疑いをかけられてしまった場合は、弁護士にサポートを求めましょう。
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(1)被害者との示談交渉
弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉による解決が期待できます。真摯に謝罪のうえで被害弁済を尽くし、被害届や刑事告訴を見送ってもらうことで事件化の回避が可能です。すでに届出がなされている場合でも、被害届・刑事告訴の取り下げが期待できます。
示談交渉が功を奏するのは刑事責任の面だけではありません。裁判外で責任を尽くすことで、民事訴訟に対応する労力や時間を大幅に軽減できる可能性があります。 -
(2)処分の軽減を目指したはたらきかけ
警察に容疑をかけられたからといって、必ず有罪になるわけではありません。刑事裁判で罪を問う必要があるかどうかを判断するのは検察官に限られます。また、実際の刑事裁判で有罪・無罪を判断して言い渡すのは裁判官です。
弁護士にサポートを依頼することで、検察官へのはたらきかけによる起訴の回避や、裁判官への主張による執行猶予などの有利な処分が期待できます。
不起訴となれば刑事裁判が開かれないので刑罰を受けることはありません。執行猶予つきの判決や罰金で済めば、刑務所へと収監されて社会から隔離される事態も回避できます。
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7、まとめ
いたずらや軽い嫌がらせのつもりが威力業務妨害罪にあたり事件化されてしまうケースは少なくありません。逮捕・刑罰を受ける危険があるのか知りたい、できる限り穏便に解決したいと考えるなら、弁護士の助けは必須です。
威力業務妨害罪の容疑をかけられてしまいお困りなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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