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過失傷害で適用される罪は? 過失と傷害の違いについても説明
令和3年12月、近所の民家から逃げた飼い犬が3歳の女児をかんで大けがをさせた事件が発生しました。法律によって裁かれる対象に動物は含まれないので、動物は罪を問われません。しかし、動物を管理していた人、この場合は犬の飼い主が「過失傷害」の刑事責任を問われることになります。
不注意やミスが原因だとしても、他人に傷害を与えたという結果が生じれば犯罪となることもあるのです。刑罰が科せられるおそれがあるので、厳しい刑罰や前科がついてしまう事態を回避したいと考えれば弁護士のサポートは欠かせません。
本コラムでは過失傷害の場合に問われる刑事責任や弁護士にサポートを依頼した場合に期待できる弁護活動について解説します。
1、過失傷害で適用される罪とは
「過失傷害」の場合に適用される罪はひとつではありません。状況に応じて、ここで挙げるいずれかの罪に問われます。
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(1)過失傷害罪
過失により人を傷害した者は、刑法第209条1項の「過失傷害罪」に問われます。不注意やミスによって他人にけがをさせてしまった場合に成立する犯罪です。誤って人にぶつかりけがをさせた、管理不足で飼い犬が逃げて他人をかんでしまったといったケースが想定されます。
法定刑は30万円以下の罰金または科料です。金銭刑が規定されているのみで、懲役・禁錮といった自由を制限する刑罰は科せられません。
なお、過失によって人を死亡させてしまった場合に適用されるのは、刑法第210条の「過失致死罪」です。法定刑は50万円以下の罰金に引き上げられます。 -
(2)業務上過失致死傷等罪
業務のうえで必要な注意を怠って人を死傷させてしまうと、刑法第211条前段の「業務上過失致死傷罪」に問われます。ここでいう「業務」とは、単なる「仕事」という意味ではなく、「人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれがあるものをいう」とされているので、行為の有償・無償とは無関係です。「必要な注意を怠る」とは、その業務にあたって求められる程度の注意義務を払わなかったという意味だと解釈されています。
法定刑は5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。過失傷害・過失致死と比較すると格段に重い刑罰が予定されています。 -
(3)重過失致死傷等罪
重大な過失によって人を死傷させると、刑法第211条後段の「重過失致死傷罪」に問われます。「重過失」とは、注意義務違反の程度が著しいことをいいます。
冒頭で紹介した飼い犬による傷害といったケースでも、犬種や管理方法によっては重過失となります。例えば、攻撃性の高い闘犬を放し飼いにしていたといったケースでは、ペットとしての愛玩犬とは異なり飼い主に求められる注意義務がより強くなるため、過失傷害・過失致死ではなく重過失致死傷となる可能性があります。
法定刑は業務上過失致死傷と同じで、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。 -
(4)自動車運転死傷処罰法違反罪
旧来、交通事故で人を死傷させてしまうと業務上過失致死傷が適用されていました。しかし、悲惨な交通死亡事故への厳罰化を求める声が高まったことで、平成19年の改正で刑法に自動車運転過失致死傷が新設され、平成26年には同罪が「自動車運転死傷処罰法」へと移行されています。
自動車運転死傷処罰法は、正しくは「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」という名称です。同法第5条には、刑法から移行された「過失運転致死傷」が定められており、自動車を運転するうえで求められる必要な注意を怠って人を死傷させた場合、つまり不注意によって人身事故の加害者となった場合が該当します。
法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金ですが、傷害が軽いときは、情状によりその刑を免除することができるとされています。
なお、不注意やミスではなく、同法が定める危険運転に該当する行為が原因となって人身事故を起こした場合は「危険運転致死傷罪」が適用されます。
八つの危険行為が定められており、これらの行為が原因で人を負傷させてしまうと15年以下の懲役、人を死亡させると1年以上の有期懲役に処されるほか、アルコール・薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、その影響で正常な運転ができなかったために人を負傷させると12年以下の懲役、人を死亡させると15年以下の懲役です。
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2、過失と傷害の違い
過失傷害に関する罪について詳しくみていると「過失」や「傷害」という用語がたびたび登場します。
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(1)「過失」の意味
「過失」という用語には、一般的には「不注意・ミス・あやまち」といった意味があります。法的にみてもこのような意味が間違いになるわけではありませんが、さらに詳しくみると「結果の発生を予見できて、それを回避できる可能性もあるのに、回避する義務を怠った」と解釈されます。
過失の反対語は「故意」です。刑法第38条1項には「罪を犯す意思がない行為は罰しない」と規定されています。故意による犯罪のみを罰する旨の規定であり、過失による結果も罰する旨が特別に設けられている場合を除いては処罰されないのが原則です。 -
(2)「傷害」の意味
「傷害」とは、人の生理機能に障害を与えること、あるいは人の健康状態を不良にさせることを意味します。単純には「けがをさせる」という意味となり、擦り傷や打撲程度の軽傷でも、骨折などの重傷でも傷害となりうるほか、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患を起こさせる行為も含まれうると解釈されています。
他人への傷害を罰する犯罪としては、刑法第204条の「傷害罪」が典型です。傷害罪は「人の身体を傷害した者」を罰する犯罪で、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。 -
(3)過失と傷害の法的な違い
刑法第204条の傷害罪における「傷害」は、故意がある場合に限って成立します。故意に暴力を振るって相手にけがを負わせたような場合です。
一方で、過失傷害に関する罪では、過失が原因であり相手に対して積極的に暴力を振るうといった意思はありません。すると、刑法第38条1項の「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」という規定に従って罪には問われないと考えるのが原則です。ただし「他人に傷害の結果を与えた」という重大性から、過失が原因であっても一定の刑事責任を負うことが定められています。
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3、過失傷害で逮捕される可能性
ニュースなどでさまざまな刑事事件の報道をみていると、犯罪の容疑をかけられた人が逮捕されたという情報が目立つため「容疑者は逮捕される」と考えがちです。しかし、逮捕は人の自由を強く制限する処分であり、単に容疑があるというだけで必ずしも逮捕されるとは限りません。
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(1)逮捕の条件
警察捜査の基本を定めている「犯罪捜査規範」には、第99条に「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行わなければならない」と定められています。これを「任意捜査の原則」といいます。
また、刑事訴訟法第199条・217条は、30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪の事件について、次のように逮捕の制限を設けています。【逮捕状による逮捕の場合】- 被疑者が定まった住居を有しない
- 正当な理由がなく出頭の求めに応じない
【現行犯逮捕の場合】- 犯人の住居もしくは氏名が明らかではない
- 犯人が逃亡するおそれがある
過失傷害の法定刑は30万円以下の罰金・科料であるため、ここで掲げた条件に合致しない限り逮捕されません。ただし、過失傷害が発生した現場において氏名や住居を明かさない、逃亡の気配を見せる、後日の事情聴取に応じようとしないなどの状況があれば、逮捕されてしまう危険があります。
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(2)過失傷害は「親告罪」
刑法第209条2項には、過失傷害について「告訴がなければ公訴を提起することができない」と明記されています。このような犯罪を「親告罪」といい、検察官が起訴するには被害者からの告訴が必要です。
したがって、過失傷害の罪を犯してしまった場合、被害者が告訴しなければ逮捕されてしまうことはほぼないでしょう。
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4、逮捕・勾留されたら弁護士に相談を
過失傷害に関する罪で警察に逮捕されると、48時間以内の身柄拘束を受けたうえで検察官へと送致され、さらに検察官による24時間以内の身柄拘束を受けます。検察官が必要と認めて裁判官の許可を受けた場合は最長20日間にわたる勾留を受けることになるため、逮捕・勾留によって最長23日間も社会から隔離されてしまいます。
逮捕・勾留による不利益を回避するには弁護士のサポートが欠かせません。
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(1)被害者との示談成立を目指す
刑事事件における「示談」とは、加害者が被害者に謝罪の意思を示したうえで治療費や慰謝料などの示談金を支払ったり、処罰を求める届け出を取り下げてもらったりすることを意味します。
被害者との示談が成立し、告訴が取り下げられた場合、親告罪である過失傷害では刑事裁判を提起するための条件が失われるため検察官が起訴できなくなります。また、親告罪としての規定をもたない業務上過失致死傷・重過失致死傷などでも、被害届が取り下げられることで「被害者には加害者を罰してほしいという意思がない」と評価されることになるでしょう。
告訴が取り下げられたタイミングが送致前であれば、検察へ事件が送られる前に事件が終結する可能性が高いといえます。もし送致された後の場合でも、検察官が起訴できない、あるいは起訴を見送った場合は「不起訴」となります。
不起訴になれば刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることも、前科がついてしまうこともありません。刑事裁判を開かなければ身柄を拘束しておく必要もなくなるので、即日で釈放されます。
また、親告罪にあたらない事件で起訴された場合でも、被害者に対して謝罪と賠償を尽くしたという事実は情状酌量の検討材料となります。処分が軽減されて、懲役・禁錮に執行猶予がついたり、罰金・科料で済まされたりする可能性も高まるといった効果も期待できるでしょう。 -
(2)示談交渉を弁護士に依頼すべき理由
示談は裁判外で当事者同士が話し合って解決する手段なので、法律上の制限はありません。加害者本人や加害者の家族が被害者との示談交渉を進めることも可能です。
ただし、犯罪被害者の多くは加害者に対して強い怒りや嫌悪の感情を抱いています。示談交渉をもちかけてもかたくなに拒絶されてしまうケースはめずらしくないので、被害者感情に配慮すると弁護士を代理人として交渉を進めたほうが賢明でしょう。
また、個人による交渉では、被害者側から過度に高額な示談金の支払いを求められてしまうこともあります。同様の事例で適切とされる示談金の相場を理解したうえで交渉を進める必要があるため、経験豊富な弁護士を代理人として対応を一任したほうがよいでしょう。
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5、まとめ
不注意やミスが原因でも、他人にけがをさせてしまうと「過失傷害」という犯罪になります。死亡させてしまえば過失致死、業務上の過失や重過失が認められれば業務上過失致死傷・重過失致死傷といった別の罪に問われて厳しい刑罰が科せられてしまうでしょう。
逮捕・勾留による身柄拘束からの早期釈放や厳しい刑罰の回避を望むなら、弁護士のサポートは必須です。過失傷害の容疑をかけられてしまった場合は、直ちに刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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