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前科があると海外旅行は行けない? パスポートの取得は可能?
罪を犯して刑事裁判で有罪判決が言い渡されると、実刑判決でも執行猶予つき判決でも「前科」がついた状態になります。
前科があると希望の職業に就けない、国家資格の制限を受けるなどさまざまな影響がありますが、海外渡航の制限も気になる影響のひとつでしょう。海外旅行に行きたい、職場で海外赴任や出張を命じられたといったケースでも問題なくパスポートやビザを取得し、海外渡航できるのでしょうか?
本コラムではそもそも前科とは何か、前科が消えることはあるのかといった基本知識を説明したうえで、前科がある場合にパスポートやビザの取得で制限があるのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。前科があると渡航が難しい国や渡航に必要な手続きも確認しましょう。
1、前科とは
「前科」とは刑事事件で起訴され、裁判で有罪判決を受けた履歴をいいます。
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(1)刑罰を受けた事実=前科なのか
日本の刑罰は刑法第9条の規定により死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料と定められています。
懲役、禁錮などの自由刑で実刑判決を受けた場合はもちろん、罰金などの財産刑を受けた場合や判決に執行猶予がついて刑務所への収監は免れた場合も前科がつきます。
逮捕されても必ず前科がつくわけではなく、逮捕後に不起訴になれば前科になりません。反対に、逮捕はされずに身柄拘束を受けていない在宅事件の場合でも、起訴され有罪判決が言い渡されれば前科がつきます。 -
(2)前科と前歴の違い
「前歴」は過去に捜査機関の捜査対象になった履歴のことをいい、前科よりも幅広い概念です。
逮捕されたものの不起訴になった、起訴されたが裁判で無罪判決を言い渡された、といったケースは前歴にあたります。少年審判で保護処分を受けた事実も前科はつきません。ただし、家庭裁判所には処分結果の記録が、警察には前歴が残ります。
前歴は刑事裁判で有罪になったわけではないため、原則として法律上、何かしらの不利益を被ることはありません。ただし不起訴のうち起訴猶予は罪を犯した事実が存在するため、再度犯罪を行った際に不利な事情として扱われる場合があります。 -
(3)交通違反の反則金を納付しても前科にならない
道路交通法違反については、運転者が比較的軽微な交通違反をした場合(いわゆる青切符を切られた場合)は反則金を納めることで刑罰を受けずに済む仕組みがあります。「交通反則通告制度」といい、この制度による反則金を納付した場合は前科になりません。交通違反点数の累積によって免許の取り消し・停止処分を受けても、これ自体は行政処分であって前科ではありません。
ただし、交通反則通告制度の対象となる違反行為をした者が、期限内に反則金を納付せず刑罰を科された場合は前科となります。また、飲酒運転や無免許運転といった重大な交通違反はそもそも交通反則通告制度の対象外なので、有罪判決を受ければ前科がつきます。 -
(4)前科は亡くなるまで消えない
前科情報は検察庁のデータベースに記録され、犯罪捜査や裁判の資料として参考にされます。
犯歴事務規程第18条によれば、前科情報は犯歴担当事務官が対象者の死亡を知ったときに抹消手続きが行われます。言い換えると、少なくとも対象者が死亡するまで前科情報が消えることはありません。
また罰金以上の前科は対象者の本籍地の市区町村が管理する「犯罪人名簿」に記録され、選挙権・被選挙権の確認に使われます。
もっとも、前科情報は極めて秘匿性の高い個人情報として厳重に管理されているため、外に漏れることはありません。職務上の権限がないのに検察庁のデータベースや市区町村の犯罪人名簿を調べることは、他人はおろか本人でさえもできないのです。 -
(5)前科による影響はなくなる場合がある
前科情報が消えなくても刑の言い渡しの効力が消えることはあります。刑の言い渡しの効力が消えると、一定の資格や職業の制限を受けていた人がその制限を受けなくなるなど、前科による法的影響がなくなります。また、検察庁のデータベースには残り続けますが、市区町村の犯罪人名簿からは抹消されます。
刑の言い渡しの効力が消えるまでの期間は、実刑判決の場合は以下のとおりです(刑法第34条の2第1項)。- 禁錮以上の刑を受けた者が、その後罰金以上の刑を科せられずに10年が経過したとき
- 罰金以下の刑を受けた者が、その後罰金以上の刑を科せられずに5年が経過したとき
執行猶予つき判決の場合は、執行猶予を取り消されることなく猶予期間を経過したときに刑の言い渡しの効力が失われます(同第27条)。
2、前科とパスポート取得について
出入国管理及び難民認定法第60条・61条により、有効なパスポート(旅券)を所持していなければ日本人が出国・帰国することはできません。したがって、海外旅行や海外出張に行くにはパスポートが必須です。
では前科がある場合にパスポートを取得することは可能なのでしょうか?
旅券法第13条1項各号では、外務大臣または領事官によるパスポート発給の制限について定めています。「発給または渡航先の追加をしないことができる」という規定なので必ず制限されるわけではないですが、以下のいずれかに該当するとパスポートを取得できない場合があります。
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(1)渡航先の法律により入国が認められない場合(1号)
渡航先に施行されている法規により、その国に入ることを認められない者はパスポートが発給されない場合があります。たとえば、外国で罪を犯して刑罰を受けた者や、何らかの理由により外国から強制退去処分を受けたことがある者などが該当します。
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(2)一定の罪で刑事裁判中または身柄拘束が予定されている場合(2号)
死刑、無期もしくは長期2年以上の刑に当たる罪で刑事裁判にかけられている者、またはこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状、鑑定留置状が発せられている者はパスポートを取得できない場合があります。刑事裁判中の者や身柄の拘束が予定されている者が出国すれば、裁判や捜査に影響が出てしまうためです。
前科があっても、上記の罪に該当しなければ2号による発給制限は受けません。 -
(3)仮釈放中や執行猶予期間中の場合(3号)
禁錮以上の刑に処せられ、その執行が終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者もパスポートが取得できない場合があります。禁錮以上の前科がある者のうち、以下に該当する場合が想定されます。
- 禁錮、懲役の実刑判決を受けて服役したが仮釈放されているケース
- 刑の執行が停止されて出所中のケース(例:心神喪失や高齢、妊娠などによる刑の執行停止)
- 禁錮、懲役の言い渡しを受けて執行猶予期間が経過していない
なお、パスポートの申請書類に虚偽の記載をして、仮釈放や刑の執行停止、執行猶予期間中である旨を隠していた場合は、旅券法第23条1項1号の規定により「5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科」に処せられるおそれがあります。
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(4)旅券法第23条の規定により刑に処せられた場合(4号)
旅券法第23条違反による前科があるとパスポートの発給が制限される場合があります。たとえば、虚偽の記載をしてパスポートの交付を受けた者や他人名義のパスポートを不正に使用した者などが該当します。
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(5)公文書偽造罪などの前科がある場合(5号)
パスポートや渡航書を偽造し、または偽造されたパスポートや渡航書を行使して刑に処された者はパスポートの発給が制限される場合があります。刑法第155条の公文書偽造罪、同第158条の偽造公文書行使罪、またはこれらの未遂罪による前科がある場合を指します。
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(6)国援法の適用により帰国したことがある場合(6号)
国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律(国援法)を適用されて帰国したことがある人はパスポートが発給されない場合があります。国援法は海外渡航した日本人が生活困窮のために自己負担で帰国できなくなった場合の帰国費の貸し付けなどを定めた法律です。
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(7)日本国の利益や公安を害するおそれがあると認められた場合(7号)
外務大臣があらかじめ法務大臣と協議し、著しく、かつ、直接に日本国の利益または公安を害する行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者もパスポートを取得できない場合があります。これはテロ行為や国際的な麻薬取引などをした前科がある場合を想定しています。
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3、前科とビザの取得について
パスポートが発行されれば確実に海外旅行へ行けるわけではなく、渡航先によってはビザの取得が求められます。ビザを申請する際には前科を申告しなければならず、前科の内容によってはビザが取得できない場合もあります。
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(1)パスポートとビザの違い
パスポートとは、日本国政府が渡航者の国籍・身分を公に証明するものです。発行するのは日本国であり、海外旅行ではパスポートが必須です。
ビザとは、渡航予定の国がその人を入国させてもよいかどうかを事前に審査し、審査を通過した場合に発行される入国許可証のことです。ビザはパスポートがないと発行してもらえませんが、パスポートがあっても必ずビザが発行されるわけではありません。
ビザを発行するのは渡航予定の国です。ビザがなくても入国できる国とビザがないと入国できない国があります。もっとも、後者の国であっても、ビザさえあれば必ず入国できるわけではありません。入国の際に前科の有無を質問され、ビザがあってもまれに入国審査で拒否される場合があります。最終的な判断は入国審査官に委ねられます。
ビザの発給要件は国ごとに異なります。要件が突然変わる場合もあるため、実際にビザを申請する際は渡航先の大使館や領事館へ確認する必要があります。 -
(2)ビザがないと入国できない国
日本は外国からの信頼性が高い国なので、日本のパスポートがあれば海外旅行などの短期滞在についてはビザ不要で入国できる国も多くあります。
一方で、前科・前歴の有無にかかわらずビザがないと入国できない国もあります。
令和4年1月の時点では、下記の国々に入国するためには、基本的にビザの取得が必要とされるのです。ロシア、北朝鮮、アルジェリア、アンゴラ、ブルキナファソ、ブルンジ、カメルーン、チャド、中央アフリカ、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、コートジボアール、赤道ギニア、エリトリア、ガンビア、ガーナ、リビア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、シエラレオーネ、南スーダン、イラク、シリア、サウジアラビア、イエメン、キューバ、ナウル、アフガニスタン、ブータン、トルクメニスタン、パキスタン、リベリア
このような国へ旅行に行きたい場合は、パスポートとビザの両方を取得する必要があります。
4、前科があると渡航が難しい国
前科があっても基本的に海外旅行は可能ですが、テロ行為や不法就労者への対策として、海外からの入国者に対して厳しい審査を行う国もあります。
入国者への審査が厳しい代表的な国は、アメリカ、カナダ、オーストラリアです。海外旅行で人気のヨーロッパの国々はアメリカなどに比べると制限が比較的緩やかでしたが、令和7年からはETIAS(エティアス)が導入される予定なので、前科・前歴がある場合の渡航が以前と比べて難しくなると予想されます。
ETIAS(エティアス)とは、ビザ免除国の国民がその国へ入国する適格性があるかを事前に審査するヨーロッパ版の電子渡航認証システムのことです。アメリカはESTA(エスタ)、カナダはeTA(イータ)、オーストラリアはETAS(イータス)という名称で、すでに同様のシステムが導入されています。
これらは簡易版ビザのようなものであり、海外旅行のような短期滞在の際にはビザの申請が不要となるため便利ですが、パスポートがあっても電子渡航認証システムの申請が通らないと入国できません。
そして電子渡航認証システムを申請する際には事前に前科・前歴に関する質問があり、その内容によって申請が通らないことが予想されます。虚偽の回答をすれば渡航認証許可が取り消され、今後はその国への渡航が困難になります。
システム申請が拒否される目安は国によって異なりますが、たとえば殺人や強盗、詐欺など他人の身体や財産に重大な損害を与えた犯罪、薬物犯罪、過失致死をともなう飲酒運転など悪質な交通違反による前科・前歴があると申請が通らない場合があります。
なお、電子渡航認証システムの申請が通らなくても、ビザ申請により渡航に正当な理由があると認められれば渡航できます。ただし、ビザの申請には書類や面談などによる厳しい審査があり、特にアメリカビザの申請は審査が非常に厳しいことで知られています。
5、刑事事件を起こしてしまった場合、前科をつけないためにできること
上述のとおり、前科がついてしまうと海外渡航が制限されてしまいます。また海外渡航以外にも前科がつくことで国家資格の制限を受けたり、就職・転職の際に不利になったりといった影響があります。そのため、刑事事件を起こしてしまったら、前科をつけないように適切に対応することが大切です。
とはいえ自分の力だけで刑事事件を解決するのは困難ですので、まずは弁護士への相談を検討すべきといえます。弁護士なら代理人として被害者との示談交渉、捜査機関や裁判官に対する交渉・働きかけ、取り調べに対するアドバイスといった弁護活動が可能です。早い段階で弁護士に依頼することで、さまざまな弁護活動を尽くすことができます。
刑事事件を起こして逮捕された場合、検察官が起訴・不起訴を判断するまでの期間は最大で23日間です。長いように感じるかもしれませんが、23日間の間で、不起訴処分の獲得に向けて被害者との示談交渉をしたり、釈放を求める弁護活動をしたりする必要があります。したがって、前科をつけないようにするためには、早急に弁護士に相談し、適切な弁護活動を依頼することが肝心です。
6、まとめ
前科があっても海外旅行に行くことは可能ですが、前科の内容によってはパスポートの取得に制限がかかる場合があります。また渡航先によっては電子渡航認証システムやビザの申請が必要となり、その際に前科が影響することも予想されます。
このように前科があると今後の生活で不利益を受ける場合があるため、刑事事件を起こしてしまったら前科がつかないよう活動することが重要です。犯罪の疑いをかけられてお困りであれば刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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