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即決裁判手続とは? 手続の流れや対象となる事件、略式裁判との違い
刑事裁判には公開の法廷で慎重に審理される通常の裁判のほかに、「即決裁判手続」や「略式手続」があります。即決裁判手続と略式手続はいずれも通常の裁判手続を簡略化したものですが、2つの手続には大きな違いが存在します。
もし刑事事件の被疑者となり、これらの手続を選択するべきか悩んだら、どのような点に留意すればよいのでしょうか?
本コラムでは、ベリーベスト法律事務所の弁護士が、即決裁判手続の特徴やメリット・デメリットを中心に解説しながら、略式裁判や通常の裁判との違いについても見ていきます。
1、軽微で明白な犯罪に適用される即決裁判手続
最初に、即決裁判手続の概要と利用状況について解説します。
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(1)即決裁判手続とは
即決裁判手続とは、一定の要件を満たす事件について、通常の裁判と比べて簡易・迅速に行う裁判手続のことです。裁判手続の効率化や被告人の負担の軽減などを目的として、平成18年に導入されました。
検察官は、事案が明白かつ軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれること等、その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、起訴するのと同時に即決裁判手続を申し立てることができます(刑事訴訟法第350条の16)。
即決裁判手続は通常の裁判を簡略化した手続なので、適用されるにはいくつかの条件があります。後半で詳しく解説します。 -
(2)即決裁判手続の利用状況
即決裁判手続と聞いても、あまりピンとこない方が多いでしょう。それもそのはずで、即決裁判手続が利用されるケースは決して多いとはいえません。
令和2年度の司法統計によると、令和元年の通常第一審事件では、地方裁判所で終局総人員数4万7117人に対して163人、簡易裁判所で3900人に対して5人しか利用されていません。
利用が少ない理由として、即決裁判手続が可能な事件であれば、通常の裁判でも迅速に手続が終わるため、即決裁判手続にするメリットがそれほど大きくないと思われます。また、執行猶予がつくとはいえ、懲役・禁錮を相当とする事案も含まれるため、被告人に反省を促し再犯を防止する観点から即決裁判手続になじまないケースが多いというのも理由でと思われます。
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2、即決裁判手続と略式手続との違い
即決裁判手続の他に、簡略化された裁判手続として「略式手続」もあります。
略式手続とは、簡易裁判所が管轄する100万円以下の罰金または科料に相当する事件で、公開の裁判によらず、書面のみの審理で命令を言い渡す、簡易的な裁判手続のことです。即決裁判手続と異なり利用されるケースが多い手続ですが、両者には違いがあります。
まず、即決裁判手続が公開の法廷で審理される手続なのに対して、略式手続は書面のみで審理される非公開の手続です。日本国憲法第37条は被告人の公開裁判を受ける権利を保障していますが、略式手続では、検察官が提出した書類を裁判官が読んで審理するだけで命令が言い渡されます。そのため、手続の利用に際しては、必ず被疑者に略式手続によることについての異議がないことが必要です。この点、即決裁判手続は、被疑者の同意に加えて、弁護人の同意も必要となります。
また、即決裁判手続は罰金または執行猶予つきの懲役もしくは禁錮が言い渡される可能性がありますが、略式手続では必ず「罰金」または「科料」が言い渡されます。
さらに、即決裁判手続は簡易裁判所または地方裁判所で行われるのに対し、略式手続は簡易裁判所のみで行われるという違いもあります。
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3、即決裁判手続のメリットは執行猶予がつくこと
即決裁判手続の主なメリットを解説します。
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(1)必ず執行猶予がつく
即決裁判手続の大きなメリットは、判決に必ず執行猶予がつくことです。裁判所は、判決で懲役または禁錮の言い渡しをするときは、刑の全部の執行猶予の言い渡しをしなければなりません(刑事訴訟法第350条の29)。
執行猶予がつくと、直ちには刑務所へ収監されることはありません。もし、執行猶予がつかず、懲役や禁錮となった場合は刑務所に収監されてしまいます。その場合、空白期間ができて出所後の再就職のハードルが上がり、社会復帰がしづらくなるでしょう。しかし、執行猶予がつけば、社会内で更生に努めることができ、会社や学校へ通うなど、これまで通りの生活を送ることが可能です。
また、執行猶予がつくことがあらかじめ確定している点もメリットでしょう。通常の裁判では、執行猶予が見込まれる事案でも、判決が言い渡されるまでは本当に執行猶予がつくか確実ではありません。
そのため、弁護士から判決の見込みを聞かされていても、被告人やご家族は不安を感じるものです。しかし、即決裁判手続では懲役・禁錮の場合は、必ず執行猶予がつくため、通常の裁判と比べると精神的な不安が少なくて済みます。 -
(2)手続から早期に解放される
通常の裁判では、起訴から初公判までは1カ月程度はかかります。また、単純な自白事件を除けば、審理が複数回におよぶケースもあります。さらに、判決も即日ではなく、あらためて別日を指定されて言い渡されることが多いです。
特に逮捕・勾留されていた場合は、保釈されない限り起訴後も身柄の拘束が続き、裁判が結審するまで釈放されないため、被告人が受ける心身の負担は大きいでしょう。
これに対して、即決裁判手続の第1回公判期日は、原則として起訴から14日以内の日に指定され、即日で判決が言い渡されます。審理にかかる時間も30分程度なのであっという間に終わります。起訴から判決までスピーディーに裁判手続が進められるため、被告人の心身の負担が少ないのが特徴です。
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4、即決裁判手続のデメリットはある?
即決裁判手続のデメリットも確認しましょう。
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(1)事実誤認を理由とする上訴ができない
即決裁判手続では裁判所が認定した事実が誤っていること(事実誤認)を理由とする上訴(控訴・上告)ができません。これは即決裁判手続が被疑者の同意を前提として、簡易的かつ迅速に進められる手続だからです。
事実誤認を理由とした上訴が可能であれば、裁判が長引き、結局は即決裁判手続を利用した意味がなくなってしまいます。そのため、事実を争いたい場合は、通常の裁判を行う必要があります。 -
(2)通常の裁判手続に付される場合がある
即決裁判手続は、裁判所の決定をもって開始されます。この決定は、裁判所が、即決裁判手続によることが相当でないものであると判断した場合や被疑者または弁護人の同意が撤回された場合、被告人が、有罪である旨の陳述をしなかった場合等には、することができません。また、いったん即決裁判手続による審判をする旨の決定が、裁判所によってなされたとしても、判決の言い渡し前に、被告人または弁護人が即決裁判手続によることについての同意を撤回したときなどは、当該決定は、取り消されることになります。
この場合は、通常の裁判手続が行われることになります。 -
(3)本人の反省につながりにくい
即決裁判手続では必ず執行猶予がつくため、被告人自身が「どうせ執行猶予がつく」という感覚になりやすいようです。手続がスピーディーに終わることで自身の罪とじっくり向き合って反省する時間が減る可能性があります。
自分がしたことの重大性を自覚できず、結果として再犯防止の効果も低くなるといった点はデメリットといえるかもしれません。
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5、即決裁判手続になりうる事件とは
「死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮にあたる事件」は、即決裁判手続の対象事件から除かれます(刑事訴訟法第350条の16第1項ただし書き)。具体的には、殺人罪や強盗罪、現住建造物等放火罪、強制性交等罪、危険運転致死傷罪などの重大犯罪は対象外になるため、即決裁判手続が利用できません。
即決裁判手続になりやすい事件の典型は薬物犯罪のようです。特定の被害者がいないこと、初犯の軽微な薬物事件では執行猶予がつきやすいこと、薬物や尿検査の結果など客観性の高い証拠が存在していて立証が容易であることなどから、即決裁判手続になじみやすい犯罪だといえます。
ほかには軽微な窃盗罪や出入国管理法違反、住居侵入罪なども即決裁判手続になりうる事件と考えられます。
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6、即決裁判手続になる場合は被疑者と弁護人の同意が必要
即決裁判手続を利用する際の条件を確認しましょう。
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(1)被疑者本人と弁護人の同意
検察官は、即決裁判手続の申し立てをする場合、被疑者の同意を得なければなりません。
同意は書面でしなければならず、その際に検察官は、被疑者に対し、即決裁判手続を理解するのに必要な事項を説明する義務があります。このように、被疑者の意思に反して手続が進められることがないように慎重な手続となっています。
また、簡略化された手続とはいえ有罪判決が確定するため、被疑者が適切な判断を行い、不利益を受けないために弁護人の同意も必要です。弁護人の積極的な同意がなくても反対意見を表明していない限りは手続が進められますが、弁護人は、同意の有無を速やかに明らかにする必要があります。
被疑者および弁護人の同意は、第一審の判決の言い渡しまで撤回できます。 -
(2)本人が初公判で有罪であると認める
即決裁判手続では、本人の出廷が義務づけられています。そして、即決裁判手続は、自白事件に限って採用される手続です。したがって、冒頭手続で、被告人が被告事件について陳述する際に、被告人自らが、有罪である旨の陳述をする必要があります。
有罪である旨の陳述をしなかった場合は、裁判所は、即決裁判手続によって、裁判を進めることはできません。無罪を主張する場合は、通常の裁判で審理を尽くす必要があるためです。 -
(3)弁護人が公判の法廷に出席する
即決裁判手続は、通常の裁判における厳格な証拠調べの方式は大幅に緩和されています。また、事実誤認による上訴ができないなどの制限があります。弁護人の出廷が義務づけられているのは、被告人が不利益を受けないようにするためです。
そのため、私選弁護人がいればその弁護人が出廷し、いなければ裁判所が職権で国選弁護人を選任します。
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7、即決裁判手続と一般的な刑事裁判との進み方の違い
最後に即決裁判手続の流れについて、通常の裁判との違いを踏まえて解説します。
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(1)一般的な刑事裁判の流れ
起訴から1カ月~1カ月半後に第1回公判期日が開かれ、次の流れで手続が進められます。
● 冒頭手続
人定質問、起訴状朗読、権利告知、被告事件に対する陳述(罪状認否)が行われます。
● 証拠調べ手続
最初に、検察官が冒頭陳述で証拠によって証明する事実を明らかにし、証拠調べ請求や証拠物の取り調べ、証人尋問などが行われます。
● 弁論手続
検察官が意見を述べる論告、どのような刑罰を求めるかを明らかにする求刑があり、弁護側の最終弁論、被告人の最終陳述へと続きます。
● 判決
通常は2週間~1カ月後に判決の言い渡しがあります。 -
(2)即決裁判手続の流れ
できる限り起訴から14日以内の日を定めて第1回公判期日が開かれます。
● 冒頭手続
冒頭手続の被告事件に対する陳述(罪状認否)の段階で、被告人が有罪である旨の陳述を行い、裁判所の決定により手続が開始されます。
● 簡易な方法による証拠調べ手続
通常ならここで検察官による冒頭陳述がありますが、即決裁判手続では、冒頭陳述が省略され、適当な方法によってこれを行うことができるとされています。
● 弁論手続
● 判決
被告人の最終陳述が終わると、裁判所は、できる限りその日のうちに判決を言い渡すこととなっています。 -
(3)即決裁判手続は保釈が認められやすい
起訴されると被告人は一時的に身柄が釈放される「保釈」を請求できます。保釈は、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことなどの要件がありますが、即決裁判手続では、通常の裁判に比べて保釈が認められやすくなる傾向があります。
手続に同意が必要な以上は証拠隠滅を図るおそれがないといえますし、懲役または禁錮の言い渡しをする場合は、必ずその刑の全部の執行猶予の言い渡しとなるため、近いうちに身柄を釈放されることから逃亡のおそれもないと言えるからです。
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8、まとめ
即決裁判手続は、懲役または禁錮の言い渡しをする場合は、必ず執行猶予がつく、手続が迅速に終わるなどのメリットがあります。しかし、確実に有罪判決となるため、安易に同意せずに慎重な判断が必要です。弁護人の同意が義務づけられているため、即決裁判手続に同意する影響を、担当の弁護士からよく説明してもらったうえで納得した場合に限り同意しましょう。
即決裁判手続でなくても、弁護士の活動によって不起訴処分や執行猶予つき判決を得て早期に社会復帰できるケースは存在します。自分や家族が刑事事件を起こし、早期に社会復帰したいと望むなら、刑事弁護の知見が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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