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裁判例から見る強盗致死事件の量刑とは?
強盗は他人の財物を暴行や脅迫によって無理やり奪う犯罪であり、非常に重い罪といえます。その際、相手を死亡させてしまうと刑罰はさらに重くなります。
ただ、具体的にどの程度の量刑となるかは、過去の事例との兼ね合いで判断される部分も大きく、裁判例を検討する必要があります。
今回は裁判例を踏まえ、強盗致死事件においてどの程度の刑罰が科されるのか、また刑罰の重さを左右する要素にはどのようなものがあるのかについて弁護士が解説します。
1、強盗致死の量刑は死刑もしくは無期懲役なのか?
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(1)強盗致死罪の規定
強盗で人を死亡させたときは、死刑または無期懲役の刑罰が定められています。罰金刑や有期懲役ではなく、量刑としては死刑か無期懲役しかありません。これは非常に重い罪といえます。
強盗が人を殺してしまう強盗殺人罪との違いは、殺意の有無です。積極的に殺害しようという意思や、相手が死んでもかまわないという意思を有していた場合、強盗殺人罪となります。いずれも法定刑は変わりませんが、どちらの罪とされるかによって裁判における量刑判断に大きな違いが生じてきます。 -
(2)有期刑と強盗致死罪
一般論としては、個別の事情が考慮された結果、強盗致死罪を犯した場合でも裁判で有期刑が言い渡されることがないわけではありません。たとえば初犯であり、事件の悪質性や再犯可能性が低く、加害者の深い反省があって、被害者遺族との示談が済んでいるといったケースです。
ただ、そもそも強盗を働いたうえに被害者を死なせてしまったというだけで、十分に事件は悪質と見なされますし、初犯であることや再犯の可能性が低いこともそこまでプラスの要素にはならないと考えられます。罪が減軽されたとしても非常に長期の刑となることは免れないでしょう。
実際の事例と刑罰をいくつか確認してみましょう。
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2、裁判例① 共犯者4名で強盗行為をし、被害者を死亡させた事例
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(1)具体的事例
共犯者4名と共謀して強盗行為をおこない、被害者を死亡させた事案です。
共犯者4名(そのうち2名は少年)が、援助交際の名目でおびき寄せた当時54歳の男性に対し、駐車場で殴りつけてあおむけに転倒させたうえで顔面や腹部を殴る、蹴るなどの暴行を加えました。そして現金約1万4000円と運転免許証など27点が入った財布1個(時価2000円相当)を奪い、外傷性くも膜下出血によりその男性を死亡させたという事件です。
なお、本件では別の少年への暴行事件、万引窃盗事件も同時に審理されていますが、ここでは強盗致死罪について取り上げます。 -
(2)刑罰
本件では、当時の少年に対する有期懲役刑の最高刑である懲役5年以上10年以下の刑罰が下されています。つまり、死刑や無期懲役に比べると一段階軽くなっているわけです。
判決では、動機が「カラオケに行きたい」という希望をかなえるためだったこと、手段は女性をおとりにして援助交際名目で男性をおびき出し、同人に暴行を加えて金を奪うという「オヤジ狩り」を計画し実行したものであることなどを挙げ、利欲に基づく短絡的な動機に酌量の余地はまったくないと述べられています。
その一方で、被告人は恋人から被害者に胸を触られたなどと聞かされて衝動的に激しい暴行におよんだものであること、犯行当時18歳であって犯行が若年ゆえの思慮の浅さによるともいえること、被告人なりに反省の言葉を述べ、遺族に対し数通の謝罪の手紙を書いていること、父親が証人として出廷し、今後家族で力を合わせて被告人を更生させていきたい旨証言していることなどの事情も考慮されています。
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3、裁判例② 強盗目的で被害者宅に侵入し被害者を殺害し現金を窃取した事例
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(1)具体的事例
共犯者と共謀して強盗目的で被害者宅に侵入し、被害者の顔面や胸を複数回殴打したことなどが原因で死亡させ、盗んだ被害者のキャッシュカードを用いて合計300万円を窃取した事案です。
なお、本件では被害者宅への住居侵入罪も扱われていますが、それは強盗致死罪の手段であるため、強盗致死罪として処理されています。 -
(2)刑罰
本件では、酌量減軽のうえで懲役28年が言い渡されました。やはり死刑や無期懲役に比べると一段階軽くなっています。
判決では、被告人は金銭面で困窮していたところ、共犯者から多額の資産を有する老人宅に侵入し金品を奪う計画を持ちかけられ、多額の報酬を得る目的で被害者方の下見に行くなど意欲的に犯行に関与していること、犯行自体は被害者を縛る部隊・被害者を始末する部隊・キャッシュカードを探す部隊・現金を引き出す部隊に分かれて実行され、計画性が非常に高いものであったこと、老齢で体力の劣る被害者に対し腕を折るなどの激しい暴行を加えたこと、奪われた金額も300万円と多額であったことなどを挙げ、被害者は1名だが相応に重い事案だと述べられています。
その一方で、被告人は犯行計画の詳細や実態を知らされないまま犯行におよんだことや、ほかの共犯者よりも少ない報酬しか受け取っていないことなどもあり、無期懲役刑は重過ぎるとの量刑判断がなされています。
また、被告人は犯行を認め、遺族に対しても謝罪し反省の態度を示しており、前科もなく、被告人の帰りを待つ家族もいることなどが考慮されました。
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4、裁判例③ 韓国在住の被告人が民家に押し込み強盗した際に1名を死亡させた事例
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(1)具体的事例
韓国在住の被告人が複数人の韓国人らと強盗をおこなっており、約6か月の間に日本と韓国を行き来して、日本にいる際に合計9軒の民家に侵入。民家にあった金品を強取したうえに11名に負傷を負わせ、1名を死亡させた事案です。
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(2)刑罰
本件では、無期懲役が言い渡されています。条文にあるとおりの刑罰であり、重い罪と判断されていることが見て取れます。
判決では、韓国在住の被告が起こし、実行犯らは犯行後の帰国を繰り返していたこと、合計で9件の強盗のうち7件で被害者が負傷していること、日本刀や金属バット、スタンガンを用いるなど手口が凶悪であること、財産的被害も現金で4600万円、物品被害で3800万円にもおよぶこと、甚大な人的被害・高額の金銭的損害を生じさせ、さらには落ち度のない被害者の命を奪ったことなどを挙げ、酌量減軽を相当とするような事情があるとは判断されませんでした。
本件において、被告人は犯行を自供し反省の態度も示しており、殺傷の意図もなかったとされていますが、それでも罪の減軽に至るほどではないと判断されたのです。
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5、強盗致死で逮捕された場合、弁護士ができること
裁判例を見てわかるとおり、強盗致死の場合であっても一律に死刑か無期懲役というのではなく、事件の内容に合わせて個別に量刑判断がなされます。そこで、刑の減軽を求めるのであれば弁護士への依頼を速やかにおこなうことが大事です。
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(1)取り調べに対するアドバイス
取り調べにおける供述は非常に重要です。たとえば殺意がない場合でも、殺意があるように誘導尋問されて、安易に返答してしまうと殺意の自白につながる可能性もあります。取り調べに対してどのように応じるかなど弁護士がアドバイスをおこなうことで、そうした事態を避けられるでしょう。
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(2)弁護士を通じての示談交渉
強盗致死という犯罪に巻き込まれた被害者遺族はとても深い悲しみに包まれていることは想像に難くありません。謝罪や示談交渉にも慎重さが求められ、弁護士が代理人となって対応することが最善といえます。
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(3)弁護活動次第で減軽の可能性も
個別の事案によりますが、弁護活動によっては強盗致死罪以外での起訴になる可能性も否定できません。その場合、執行猶予がつく可能性も考えられます。
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6、まとめ
今回は、強盗致死罪について実際の裁判例を見ながら、どのような量刑と判断されたか説明をしてきました。
強盗致死罪では条文に無期懲役もしくは死刑しか記載されていませんが、強盗致死事件の裁判例を見ると、量刑判断は個別の事案によって大きく異なります。加害者としては遺族の処罰感情を少しでも和らげていくことや情状を正確に伝え、不当に重い刑罰を受けないことが大切といえるでしょう。
ベリーベスト法律事務所には刑事事件の実績が豊富な弁護士が在籍しています。刑事事件を起こしてしまいお困りの方は当事務所までご相談ください。
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