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通貨偽造罪で逮捕された場合どのような罪に問われるのか
偽物のお金を作る行為は法律で厳しく禁止されています。
令和元年9月には福岡県内の学校の売店で偽の1000円札が発見され、同校の中学生が書類送検される事件がありました。偽の1000円札は中学生が自宅のプリンターでカラーコピーしたもので、決して精巧なものではありませんでした。
しかし、中学生が短絡的に作成した偽札に対してさえこのような騒ぎになってしまうくらい、通貨偽造は厳しく対応されている犯罪です。本コラムでは、通貨偽造とはどのような犯罪なのか、なぜ、重い刑罰が規定されているのかなど、通貨偽造罪の概要や逮捕の実例などを解説します。
1、日本の通貨を偽造するとどのような罪に問われるのか
日本国内で流通している通貨、つまり「お金」を偽造する行為は、通貨偽造罪(刑法第148条1項)として厳しく罰せられます。
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(1)「通用する貨幣」とは?
刑法第148条1項は「通用する貨幣・紙幣または銀行券」について偽造・変造を罰すると規定しています。貨幣・紙幣・銀行券は、厳密な意味をみると別のものですが、ここではいわゆる「お金」を指していると考えて差し支えありません。
「通用する」とは「国において強制通用力があること」と説明されます。できるだけわかりやすく理解するには「額面どおりの効力がある」と解釈すればよいでしょう。
現行で流通している硬貨・銀行券のほか、すでに発行が終了している旧硬貨・旧銀行券、催事などに合わせて発行された記念硬貨なども含まれます。ただし、現行の通貨単位とは異なる古銭などは対象外です。 -
(2)通貨偽造が重い罪になる理由
通貨偽造罪の法定刑は無期または3年以上の懲役です。
最低でも3年、有期懲役なら最長で20年、最高で無期懲役となる非常に重い刑罰が規定されていることには驚く方も多いでしょう。
通貨偽造に重い刑罰が規定されている理由は「通貨に対する公共の信用性」を保護するためです。もし、通貨の信用性が失われてしまったら、どのような事態が起きてしまうのかということを想像すれば、厳しい処罰が設けられているのも当然といえます。 -
(3)偽造通貨に関係する犯罪
通貨偽造に関連している犯罪を紹介します。
- 偽造通貨行使罪(刑法第148条2項) 偽造・変造の通貨を行使、つまり使用した場合のほか、行使の目的で他人に交付したり、輸入したりすると、通貨偽造罪と同じく無期または3年以上の懲役に処されます。
- 偽造通貨等収得罪(刑法第150条) 偽造・変造の通貨と知りながら収得した場合(他人から譲り受ける、買い受ける、拾得するなど)は、3年以下の懲役が科せられます。
- 偽造通貨収得後知情行使等罪(刑法第152条) 収得した後に偽造・変造の通貨だと知り、これを行使または行使の目的で人に交付した場合は、額面価格の3倍以下の罰金または科料(ただし2001円以上)となります。
- 通貨偽造等準備罪(刑法第153条) 通貨を偽造・変造する目的で機器や原料を準備した場合、3か月以上5年以下の懲役が科せられます。偽札を作るためのプリンターや用紙・インクなどを購入したなどのケースが対象です。実際に偽造・変造をした場合は、通貨偽造罪に吸収されます。
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2、外国通貨の場合
通貨偽造罪(刑法第148条1項)は、日本国内で通用する通貨について、偽造・変造を禁止しています。偽造・変造したのが日本国内で流通する「外国の通貨」の場合、外国通貨偽造罪(刑法第149条1項)の対象となります。
日本国内で「通用」している必要はなく、範囲が限定的でも、事実上「流通」していればよいと考えられています。たとえば、国内におかれた米軍基地内のみで流通しているドル軍票は、本罪の客体となると判断されています(最判昭和30年4月19日)。
法定刑は2年以上の有期懲役です。日本の通貨を偽造した場合と比べるとやや軽くなっていますが、最長で20年の懲役刑が下される可能性があるという点で、やはり重罪だといえるでしょう。
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3、通貨偽造で有罪とされた事例
通貨偽造で有罪とされた事件について、過去の裁判例をご紹介します。
- 通貨偽造・同行使 自宅のコピー機で1万円札を偽造し、出会い系サイトで知り合った女性に対して性的なサービスを受ける対価として偽札を支払った事例では、懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が下されました。
- 通貨偽造・同行使・同未遂 自宅のコピー機を使用して1000円札を偽造し、商品代金や飲食代金の支払いにあてた事例では、同時に罪に問われた覚せい剤事件とあわせて懲役4年の実刑判決が下されました。生活費欲しさの短絡的で身勝手な犯行であること、偽造通貨の枚数も少なくなく計画的な犯行であること、実際に店舗などで偽造通貨が使用されたことなどを考慮し、「被告人の行為は厳しく非難されるべきである」と評価されました。
家庭用のコピー機を利用した「すかし」もない稚拙な偽造でしたが、出会い系サイトで知り合った相手なら警察へは届け出をしないだろうという考え、発覚を免れるための小細工(茶封筒に入れて行使した)等の諸事情から悪質な犯行と評価されました。ただし、行使の相手には真正な通貨も支払っているため経済的な損失はなく、偽造通貨はすべて警察に押収され、被害が拡大していないことなどから、法定刑の下限である懲役3年に執行猶予が付された判決となりました。(さいたま地裁平成21年10月22日判決)
他方、店舗への被害弁済が済まされていることや、被告人の心身の状態などが、被告人にとって有利な事情として評価を受けています。(奈良地裁平成19年5月30日判決)
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4、逮捕された場合に弁護士ができること
通貨偽造にかかる罪の疑いで逮捕されてしまった場合は、直ちに弁護士に相談しましょう。弁護士のサポートを得ることには、次のようなメリットがあります。
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(1)執行猶予の獲得や減刑に向けた活動ができる
通貨偽造は3年以上の懲役刑が科せられる重罪です。3年を超える懲役の判決が下される場合、執行猶予はつきません(刑法第25条1項)。
通貨に対する公共の信用を保護するために規制されているわけですから、個人的なお金欲しさや貧困は、刑を軽くする理由になりません。ただし、社会に混乱を招く危険性が低かった、被害弁償がされているなどの事情の下、執行猶予が付く可能性も残されています。
通貨偽造により迷惑をかけた被害者への謝罪や被害弁償は、逮捕されて自由に動くことのできない本人には非常に困難な活動です。残された家族が行うとしても、被害者とどう接するか、取り交わす書面の内容に問題はないかなど、その不安や負担は計り知れません。弁護士に依頼することで、その負担を軽減することができますし、謝罪や被害弁償の手続きを迅速に行うことができるでしょう。 -
(2)無罪の主張をサポート
たとえば、何者かが偽造した偽札が自分の手元に流通し、それを知らないまま真正な通貨と思って使用した際に偽造通貨だと発覚した場合、何も知らない自分に疑いの目が向いてしまう可能性があります。
偽造通貨行使や偽造通貨等収得などが成立するには、「偽造・変造された通貨と知りながら」という故意が必要です。何も知らないで偽造通貨を利用してしまった場合は、犯罪が成立しません。もっとも、刑事手続から早期に開放されるためには、裁判に移る前の段階でできる限りの対策を講じておく必要があります。
たとえば、検察官から不起訴処分を獲得するため、「偽造通貨だとは知らなかった」と主張するだけでなく、「偽造通貨だとは知らなかった」といえる事情を集めて、本人の無実を証明していくことが挙げられます。
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5、まとめ
通貨偽造は、単純な思いつきやちょっとした出来心であっても、非常に厳しい刑罰が科せられる犯罪です。それでも、できる限りの対策を講じれば、一定程度の酌量を受けることのできる余地もあります。
偽造通貨にかかる罪を犯してしまい逮捕されてしまった、警察から事情を尋ねられているなど、偽造通貨に関するご相談は、ベリーベスト法律事務所へご連絡ください。行使先への謝罪や被害弁償、有利な事情の収集などによって、刑の減軽や不起訴処分の獲得を目指します。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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