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建物への落書きは器物損壊? 原状回復したら罪に問われなくなる?
「落書き」といえば子どものいたずら程度の感覚しかなく、特に犯罪として罪を問われるようなイメージがない方も多いでしょう。ところが、落書きの対象や程度によっては、刑法で定められている「器物損壊罪」などに問われるケースもあるので注意が必要です。
令和2年7月には、愛媛県松山市にある「松山城の筒井門」に、鋭利な物を使ってアルファベットのような文字を彫る落書き被害が発生しました。この事件では、器物損壊の疑いがあるとして、松山市が警察に被害届を出しています。
このコラムでは、器物損壊罪の概要などを解説しながら、建物への落書きが器物損壊罪になるケースや、器物損壊の容疑をかけられてしまった場合の解決法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、器物損壊罪とはどのような罪?
「器物損壊罪」とは、他人の持ち物などを故意に壊す犯罪です。まずは器物損壊罪の法的な根拠や罰則、成立要件などをみていきましょう。
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(1)器物損壊罪の法的根拠と罰則
器物損壊罪は、刑法第261条に規定されています。「他人の物を損壊し、または傷害した者」が罪に問われ、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料が科せられます。
「科料」とは、1000円以上1万円未満の金銭を徴収される刑罰で、わが国において規定されている刑罰のなかではもっとも軽いものです。 -
(2)器物損壊罪が成立する要件
器物損壊罪の成立要件は、大きく3つに分解されます。
- 「他人の物」である
- 「損壊または傷害」した
- 「故意」によるものである
まず「他人の物」とは、手に持つことができる物から車・バイクなどのように大きな物、さらには動物まで、広く他人の所有物が含まれます。
ただし、他人が所有している物でも、公用文書や私文書、建造物、土地の境界標などは、それぞれ別の規定で保護されており、それらの規定によって犯罪が成立する場合には器物損壊罪の対象にはなりません。
次に「損壊または傷害」とは、その物の効用を害する一切の行為と定義されています。物理的に破壊してしまえば使うことができないので「効用を害する」ことになるのは当然でしょう。さらに、心理的に使用できなくする行為や、本来持っている価値を低下させる行為も「損壊」にあたります。
また、器物損壊罪は他人が飼育している動物も保護対象です。動物に怪我をさせる、逃がすなどの行為は「傷害」にあたります。
そして、これらの行為はすべて「故意」、つまり「他人の物を損壊または傷害する行為だとの認識がありながら」したものでなければなりません。うっかり物を壊してしまった、誤って動物を逃してしまったなどのケースは、故意ではなく過失になるので、器物損壊罪は成立しません。 -
(3)親告罪としての特徴
器物損壊罪は「親告罪」とされています。親告罪とは、検察官が起訴する際に被害者の告訴を要する犯罪のことです。
「非親告罪」の場合は、被害者の許しを得ていても捜査機関が独断で起訴することができるので、処罰されるおそれがあります。ところが、親告罪の場合は被害者が告訴しない限り検察官は起訴することができないので、処罰されることはありません。
つまり、器物損壊罪では、検察官が起訴する前に被害者に対して謝罪し、示談交渉を進めることで、起訴されて有罪判決を受け、処罰される事態を回避できる可能性があります。
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2、器物損壊罪に該当する行為
器物損壊罪に該当する行為について、具体的にみていきましょう。
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(1)器物損壊罪の典型的なケース
器物損壊罪が成立する典型的なケースとしては、次のような状況が考えられます。
- 酒に酔った勢いで、街頭の立て看板をわざと蹴り壊した
- トラブルに腹を立てて、相手の家の窓ガラスをたたき割った
- いたずらのつもりで、他人の車のボディーに傷を入れたりパンクさせたりした
- 鳴き声がうるさいと感じて、隣家の犬を毒殺した
これらは、具体的な「損壊」や「傷害」が伴うケースです。
また、心理的に使用できなくする行為や本来持っている価値を低下させる行為としては、次のようなケースが挙げられるでしょう。
- 飲用のコップに小便を注いだ
- 掛け軸に落書きをした
- 車のホイールをロックして動かせないようにした
このように「損壊」という用語から一般的にイメージされる「壊す」という行為だけにとどまらず、広く「使えないようにする」という行為が器物損壊罪の対象となります。
なお、「器物損壊行為をしようと思ったが未遂に終わった」という場合は処罰の対象となりません。実際に上記のような行為をした段階で、はじめて器物損壊罪に問われる可能性がでてきます。 -
(2)建物への落書きが器物損壊罪にあたるケース
建物を故意に損壊する行為への罪としては、「建造物損壊罪」が設けられています。しかし、建物への落書きの場合、建造物損壊罪ではなく、器物損壊罪が適用されることもあります。どちらの犯罪になるのかは、建物の「どこ」に落書きをしたのかによって変わり、主に次の2点から判断します。
- ドアや窓のように取り外しが可能な部分か
- 建物の重要部分でないか
落書きをしたのがドアや窓であったり、壁であってもごく一部の狭い範囲などであれば、器物損壊罪が成立する可能性が高いといえます。
一方で、建物の壁一面に落書きをし、そのままの状態で建物を使用し続けることが困難な状態にまで至っていれば、建造物損壊罪が成立する余地があるでしょう。
建造物損壊罪の法定刑は5年以下の懲役と器物損壊罪よりも重く、また、非親告罪なので、被害者の告訴がなくても起訴される可能性があります。
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3、器物損壊罪における示談と原状回復
器物損壊罪にあたる行為を犯してしまった場合は、「示談」と「原状回復」が、厳しい処罰を回避するための大きなポイントとなります。
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(1)「示談」とは
示談とは、トラブルの当事者同士が、裁判所の手続きを介することなく互いの合意によって解決することをいいます。
刑事事件においては、加害者が被害者に謝罪のうえで、被害によって生じた損害の賠償金や精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた示談金を支払うことで、被害申告や処罰意思を宥恕(ゆうじょ)してもらう(寛大な心で許してもらう)という合意を指します。
示談が成立した場合、被害者は被害届や告訴を取り下げるのが一般的です。器物損壊事件においては、被害者の告訴が取り下げられると検察官は起訴することができません。
つまり、器物損壊罪にあたる行為を犯してしまった場合の最善の解決策は「被害者との示談成立」となります。 -
(2)「原状回復」とは
器物損壊事件で示談成立を目指すうえで重要となるのが「原状回復」です。原状回復とは「もとの状態に戻す」ことを意味します。賃貸物件を解約・返還する場合にもよく登場する用語なので、耳にしたことがある方も多いはずです。
器物損壊事件においては、壊した物を修理・修繕してもとどおりの状態に戻すことを意味していると考えればよいでしょう。 -
(3)原状回復の方法
原状回復を目指すには、専門業者やメーカーなどに依頼することになります。場合によっては、同じ物品を購入して交換するケースもあるでしょう。
建物に落書きをして器物損壊罪に問われるケースでは、すでに「原状回復が難しい」という状況が存在しています。
落書きが清掃によってすぐに撤去できる程度であれば、罰則がごく軽い「軽犯罪法」の違反で済むこともありますが、清掃や簡単な補修・修繕では撤去できない場合には器物損壊罪が適用されます。そのため、器物損壊罪で捜査を受けるのは、そもそも原状回復が難しい場合ということになるのです。
器物損壊事件における示談では、専門の清掃業者へ依頼するほか、落書き部分の建材を交換するなどして原状回復をすることが条件とされるケースが目立ちますが、その費用は加害者が負担することになるでしょう。
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4、器物損壊罪で示談を行う場合に弁護士に相談すべき理由
建物への落書きなどで器物損壊罪の容疑をかけられてしまい、被害者との示談交渉を進めたいと考えるなら、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は、加害者に代わり被害者との交渉に臨みます。加害者が真摯に反省していることや原状回復を行う意向があることを弁護士が説明し、被害者の宥恕(ゆうじょ)を得ることで、告訴の取り下げが期待できるでしょう。
器物損壊事件の被害者は、たとえ加害者がいたずらとして行った器物損壊だったとしても、加害者に対して強い怒りや嫌悪感を持っているものです。
加害者本人やその家族などが交渉を進めようとしても「謝って済む問題ではない」「修理してもらっても許せない」とかたくなに拒まれてしまうケースもめずらしくありません。
そのため、弁護士が間に入って示談交渉を進めることで、被害者は加害者と直接会うことを避けることができ、示談が成功する期待は高まるでしょう。
また、弁護士が介入すれば、法外な示談金や原状回復費用を求められてしまった場合でも、適正な金額となるよう交渉できる可能性があります。悪いことをしてしまったとはいえ、無用に過大な負担を強いられないためにも、弁護士に相談してサポートを得るのが賢明だといえるでしょう。
5、まとめ
いたずらのつもりでも、建物への落書きが器物損壊罪にあたるとされてしまえば、逮捕され、処罰されるおそれがあります。器物損壊罪は親告罪であるため、被害者との示談交渉を進めて告訴の取り下げを目指すのがもっとも賢明な行動です。
器物損壊罪の容疑をかけられてしまい、逮捕や処罰に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事事件における示談交渉の経験を豊富に持つ弁護士が、全力であなたをサポートします。
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