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脱税と節税の違い。判断基準と脱税に逮捕に至るケースを解説
日本の国税は、納税者自らが正しく申告し、税金を納付する申告納税制度が採用されています。
納税者の高い意識やコンプライアンスによって制度が支えられている一方で、一部の企業や個人の不正行為による「脱税」が問題になるケースもあります。国税庁の発表資料によると、令和元年の脱税に関する告発件数は116件、脱税総額は93億円でした。
では、このように脱税事件として告発されるのは、どのようなケースなのでしょうか? 何をもって脱税と判断されるのでしょうか? このコラムでは、脱税の定義や節税との違いを解説したうえで、脱税の判断基準や脱税の影響、逮捕にいたるまでの流れなどについて解説します。
1、脱税と節税の違い
最初に、脱税の定義や節税、租税回避との違いを解説します。
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(1)脱税の定義
脱税とは、偽りその他不正の行為により、税を免れ、または還付を受ける行為のことです(所得税法第238条、法人税法第159条など)。たとえば架空の経費を計上する、売り上げを過少申告するなどして、本来支払うべき税金の支払いを免れる行為が該当するでしょう。
脱税の手段についてはとくに限定されていないため、何らかの偽計や工作をおこなえば脱税にあたる可能性があります。 -
(2)節税の定義
節税とは、法律で定められた範囲で、制度や控除枠を利用して税額を抑えることをいいます。たとえば個人が住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)やふるさと納税(寄附金控除)などの制度を利用し、税負担を減らすのも節税のひとつです。
脱税が裏工作をして納税を免れる違法行為であるのに対し、節税は法律が想定した方法によって税負担の軽減を図る行為であり、もちろん合法です。 -
(3)租税回避は違法か?
租税回避とは、法律が想定していない不自然な取引によって税負担の軽減を図る行為です。典型的には、企業が日本よりも法人税率の低い地域に本社や子会社を移し、現地の低い税率で課税されるため国内よりも多くの利益を確保する行為が挙げられます。
租税回避は課税の不公平をもたらす行為として議論の対象になっていますが、必ずしも違法行為といえるわけではありません。日本の税法には特定の分野を対象とした租税回避の否認規定はあるものの、すべての分野を対象とした包括的な一般規定が存在しません。
法律で定められていない方法で税を課すことはできないため、少なくとも現時点では形式的に合法的な行為です。
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2、脱税の判断基準
自分では節税や租税回避だと思っていた行為が、実は脱税にあたる場合もあります。脱税かどうかの判断は何を基準になされるのでしょうか?
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(1)意図的な行為が脱税にあたる
課税の要件に該当するにもかかわらず意図的に税を免れたり還付を受けたりした場合が、脱税にあたります。意図的ではなく、計算ミスや仕訳ミスなどによって本来の納税額よりも少なく申告した場合は「申告漏れ」と呼ばれます。つまり、脱税の判断基準は「意図的かどうか」が分岐点です。
意図的かどうかは内面の問題なので難しい判断を要しますが、結局は税務当局がどう判断するのかにかかっています。二重帳簿や帳簿書類の改ざんなどの客観的な証拠があれば、意図的だと判断される可能性が高いでしょう。 -
(2)所得隠し・課税逃れとは
売り上げを本来より低く申告する、支払っていない経費を計上するなどして税を免れる行為を一般に「所得隠し」や「課税逃れ」と呼びます。いわばうっかりミスである申告漏れと異なり、所得隠しや課税逃れは意図的な工作をした場合に使われる言葉です。
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(3)所得隠しと脱税の違い
「所得隠し」も「脱税」も法律用語ではないため、両者に明確な線引きがされているわけではありません。意図的という意味で所得隠しも脱税行為のひとつだと考えられます。
もっとも、メディアなどでは、事実を隠ぺい・仮装して重加算税を課せられた場合を「所得隠し」、所得隠しのうち金額が多額で悪質であるために検察庁へ告発された場合を「脱税」と区別して呼んでいるようです。
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3、脱税が発覚する経緯
脱税は以下のようにさまざまな経緯によって発覚します。
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(1)税務署の税務調査
脱税が発覚する代表的なケースは、税務署の税務調査です。任意調査なのでいきなり調査員が自宅や会社にやってくることは基本的にありません。事前に通達され、同意を得たうえで実施されます。
ただし、任意といっても税務署の職員からの質問に答えない、正当な理由なく帳簿書類を提出しないなどの場合には罰則が定められています(国税通則法第74条の2~6、第128条)。 -
(2)国税局の査察調査
国税局の査察部(いわゆるマルサ)による査察調査によって脱税が特定される場合もあります。査察調査が入るのは、年単位で内偵調査が実施されており、脱税の容疑がほぼ固まっている場合です。
また任意の税務調査と異なり、裁判所の令状にもとづく強制調査なので、調査を拒否することはできません。 -
(3)資産状況から発覚
資産状況から脱税が発覚する場合もあります。たとえば不動産を購入すると法務局で不動産の登記をおこないますが、この情報は税務署も確認するため、誰が不動産を購入したのかがすぐに分かります。
年収に見合わない価格の不動産を購入した場合や一括で購入した場合など不自然な動きがあれば、税務調査の対象となる可能性があります。 -
(4)情報提供から発覚
国税庁ではホームページ上や面談、郵送などの方法で、一般市民から課税・徴収漏れに関する情報提供を受け付けています。たとえば自分が経営する会社で裏帳簿を作成するなどの不正行為をしていたところ、元従業員から通報されるケースなどが考えられるでしょう。
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4、脱税が発覚した場合の影響
脱税が発覚すると、どのような影響が生じるのでしょうか?
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(1)差額分を納める
まずは、確定申告や修正申告の際に申告した税額と、本来払うべき税額の差額が追徴課税されます。この差額は本来であれば納付するべき税金なので、原則として一括での納付を求められます。
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(2)延滞税・利子税を納める
法律が定めた期限までに本来の税額を納付していないことにより、延滞税が課されます(国税通則法第60条)。利息のようなものですが、ペナルティーとしての意味合いもあります。
延滞税は、本来納付すべき税額に対し、完納までの日数に応じて計算されます。追徴課税分を納付する日が遅くなるほど延滞税がかかるということです。
また、事業の休業などにより、納付期限までにどうしても追徴課税分を一括で支払うのが難しいと、最長1年間の範囲で納税の猶予が認められる場合があります。このようなときにかかるのが利子税です(国税通則法第64条)。猶予された期間までにも納税できないと、延滞税と利子税の両方がかかります。 -
(3)行政上のペナルティーを受ける
法定期限までに納付しなかった行政上のペナルティーとして、加算税が課されます。
加算税は以下の4種類があります。
- 過少申告加算税 法定期限までに申告はしていたものの、本来納税する額よりも低かった場合に課される税金です。税務署の調査によって修正申告を指示された場合などが該当します。
- 無申告加算税 法定期限までに申告しなかった場合に課される税金です。納税すべき金額があるのに確定申告書を提出しない場合などがこれにあたります。
- 不納付加算税 源泉徴収税を法定期限までに納付しなかった場合に課される税金です。企業が従業員に給与を支払う際に所得税を差し引いたが、それを国へ納めなかった場合などが該当します。
- 重加算税納税 から逃れるための隠ぺい工作などをした場合に、上記の加算税に代えて課される税金です。悪質なケースに適用されるため税率が最大で40%と非常に高いのが特徴です。さらに過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあると10%が加算されるため、50%もの税金がかかる場合もあります。
なお、これらの加算税と延滞税・利子税をあわせて付帯税といいます。
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(4)刑事罰を科せられる
脱税で告発・起訴され有罪判決を受けると、刑事罰を科されます。延滞税や加算税はあくまでも行政上のペナルティーなので、それとは別に懲役刑や罰金刑を受けることになるわけです。
罰則は「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金または併科」です(所得税法238条、法人税法159条など)。刑事罰を科せられると、法人の代表者や個人に前科がつきます。このような事態に発展した場合、取引先や金融機関などへの信用失墜は必至でしょう。事業内容によっては許認可の更新ができずに事業の継続が困難になる可能性もあります。
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5、脱税で逮捕されるケース
ここからは、脱税と逮捕の関係について見ていきましょう。実際に脱税で逮捕されるのはどのようなケースなのでしょうか?
税務署の職員や国税局の査察官に逮捕の権限はないため、税務調査や査察調査の最中に逮捕されることはありません。しかし検察庁へ告発されれば逮捕される可能性があります。とくに国税局の査察調査は、指導を目的とする税務調査とは違って告発が目的です。また、金額が多額で悪質なケースが対象となるため、告発される可能性が高いでしょう。
告発を受けた検察官は捜査を実施し、必要性がある場合に逮捕します。逮捕の必要性とは、逃亡または証拠隠滅のおそれがある場合を指します(刑事訴訟法第199条2項ただし書き、刑事訴訟規則第143条の3)。
もっとも、脱税は社会的身分の高い人が捜査対象になるケースが多く、世間に存在を知られていることから、逃亡のおそれは認められにくいと考えられます。そのため、逮捕される可能性が高いのは、証拠隠滅のおそれがあると認められた場合です。たとえば証拠があるのに脱税を否認する、捜査に協力しない、関係者に連絡して口裏合わせをしている疑いがあるといったケースが該当するでしょう。
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6、逮捕までの流れ
脱税が発覚してから逮捕されるまでの流れを整理しましょう。
基本的には以下の流れで逮捕・起訴にいたります。
- 調査
- 告発
- 捜査
- 逮捕・起訴
調査には、税務調査と査察調査があります。
税務調査はあくまでも指導を目的とした行政調査なので、その時点で逮捕される可能性は低いでしょう。申告漏れなどがあれば指摘されるので、すぐに修正申告し、本税および延滞税・加算税を払うなどの誠実な対応をすれば逮捕されることは基本的にありません。ただし、税務調査によって悪質な脱税行為が明らかになった場合には、査察調査に切り替わり、逮捕される可能性がでてきます。
査察調査は、脱税者の告発を目的として、犯罪調査に準ずる方法で実施される強制調査です。査察官には臨検、捜索、差し押さえなどの権限があります(国税通則法第131条、132条など)。査察調査が入った段階では逮捕の可能性が高まっているといえるでしょう。
調査の結果、検察庁へ告発されると、検察官が捜査をおこないます。検察官は必要に応じて逮捕・勾留し、刑事罰を科すべきと判断すると起訴します。
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7、脱税の容疑がかかったら弁護士に相談
脱税は逮捕・起訴され、刑事罰を科せられる可能性のある行為です。有罪になれば刑に処され前科がつくため、その後の影響は計り知れません。もしも脱税の容疑をかけられたら弁護士へ相談しましょう。
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(1)意図的な行為ではない旨を主張してもらえる
経理処理上のミスや無知識など、意図的な行為ではなかったと認められれば、告発・逮捕されることはありません。しかし、捜査対象となった本人が「わざとではない」と主張しても簡単には通らないでしょう。弁護士が故意のないことを証明する証拠を集め、ミスをしてしまった理由を含めてしっかりと査察官や検察官へ説明し、脱税に該当しない旨を主張します。
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(2)取り調べについてアドバイスをもらえる
捜査機関による取り調べで不用意な発言をすれば、不利な状況に陥るおそれが高まります。これを回避するため、弁護士が取り調べ対応に関するアドバイスをおこないます。
とくに逮捕されてしまったケースでは、逮捕後の数日間に本人と面会できるのは弁護士だけです。はやい段階で弁護士へ相談すれば、万が一逮捕された場合でもすぐに面会し、取り調べの対応や今後の見通しについてアドバイスしてもらえるでしょう。 -
(3)逮捕・勾留の阻止に向けた活動をしてもらえる
脱税事件では逮捕・勾留される可能性も十分にありますが、弁護士が検察官に対して逃亡や証拠隠滅のおそれがない旨を主張することで、逮捕されずに在宅捜査に切り替わる可能性があります。
勾留についても、弁護士が裁判官と面談し、勾留の理由がない旨や勾留による不利益の大きさを主張するなど、勾留を阻止するために活動します。 -
(4)刑の減軽に向けた弁護活動をしてもらえる
脱税で刑事事件に発展すると、起訴される可能性が高いでしょう。起訴されるとほとんどのケースで有罪判決がくだり、懲役の実刑や多額の罰金を科せられてしまいます。しかし弁護士に依頼し、悪質性が低いことの主張や修正申告・納税などの適切な活動を実施すれば、執行猶予つきの判決や罰金の減額となる可能性が生じます。
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8、まとめ
脱税行為が発覚した場合、本来納付すべき税金を納めるだけでなく、行政上のペナルティーとして付帯税を課され、さらに刑事罰に処せられる可能性があります。脱税と判断されるのは意図的かどうかが境界線となりますが、疑いをかけられた本人が意図的ではない旨を主張・立証するのは困難です。できるだけはやい段階で弁護士へ相談し、適切に対応するのがよいでしょう。
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