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偽計業務妨害罪とは? 構成要件や威力業務妨害罪との違いを解説
令和3年10月、沖縄県那覇市のマンションで「男2人組に襲われて現金200万円を奪われた」と虚偽の110番通報をした男が逮捕される事件がありました。容疑は「偽計業務妨害罪」です。逮捕された男は喫茶店の雇われ店長で、何らかの金銭トラブルを抱えていたとみられています。
このように、偽計業務妨害罪はいたずら半分とも思えるようなケースにも適用され、逮捕されるおそれのある犯罪です。厳しい刑罰が科せられる場合もあり、決して軽く捉えることはできません。
本コラムでは、偽計業務妨害罪が成立する際の構成要件や典型的なケース、まぎらわしい威力業務妨害罪との違いについて弁護士が解説します。
1、偽計業務妨害罪とは
まずは「偽計業務妨害罪」がどのような犯罪なのかを確認しておきましょう。
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(1)偽計業務妨害罪の法的根拠
偽計業務妨害罪は刑法第233条に規定されている犯罪です。条文には「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者」を罰する旨が記載されています。
この条文には2つの犯罪が含まれており、前段が信用毀損罪、後段が偽計業務妨害罪を指しています。つまり、信用毀損罪と偽計業務妨害罪は非常に近い存在であるといえます。
また、次条となる第234条には威力業務妨害罪が定められています。このような点からも、業務妨害に関する罪はいずれも近い関係にあり、非常にまぎらわしいものだといえるでしょう。 -
(2)偽計業務妨害罪の罰則
偽計業務妨害罪の罰則は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
起訴される場合は、略式起訴による罰金刑となる可能性があります。略式起訴とは簡易裁判所が管轄する100万円以下の罰金・科料に相当する事件について、正式裁判によらず書面のみの審理を求める起訴手続きのことです。
一方で、最長で3年の懲役が科せられるという点に注目すれば、決して軽い罪とはいえません。悪質なケースであれば実刑判決がくだるおそれもあります。
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2、偽計業務妨害罪の構成要件
ある犯罪が成立するための条件を「構成要件」といいます。偽計業務妨害罪の構成要件は、ここで挙げる3つです。
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(1)虚偽の風説を流布したこと
「虚偽の風説の流布」とは、客観的な真実に反する事実を不特定・多数に伝え広めることをいいます。いわゆる「デマを流す」と呼ばれる行為です。つまり、伝え広めた内容が真実である場合は本罪の対象にはなりません。
また、虚偽の風説の流布は、不特定・多数に広まる危険のある行為そのものが対象です。実際に不特定・多数に広まったという結果までは求められず、相手が特定・少数であっても広く伝播されるおそれがあれば成立します。 -
(2)偽計を用いたこと
「偽計」とは、人を欺罔・誘惑する、あるいは人の錯誤や不知を利用することを意味します。偽計にあたるかどうかの判断は難しい問題なので過去の判例に照らして判断されますが、虚偽内容の犯罪予告などのほかにも、海底に障害物を沈めて漁網を破損させる、電話機の課金装置に細工をして動作不能にするといった行為も偽計にあたるとされています。
行為そのものが機械などに向けられた場合でも、人の適正な判断や業務の円滑な遂行を誤らせるに足りる手段・方法であれば偽計にあたると考えるのが通説です。 -
(3)人の業務を妨害したこと
ここでいう「業務」とは、社会生活上の地位にもとづいて継続しておこなう事務を指します。もっとも典型的なのは会社・企業・店舗・団体などの仕事ですが、ここでは営利・非営利は問題になりません。営利目的の会社に対して業務妨害を加えた場合はもちろん、非営利のボランティア活動が対象であっても本罪の対象です。
ただし、業務とみなされるのは継続性がある事務であるため、たとえば一度限りの行事などは対象に含みません。
また、公務も基本的には業務に含まれますが、強制力を行使する権力的公務については業務に含まれないとされています。
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3、威力業務妨害罪との違い
偽計業務妨害罪と近く、まぎらわしい存在となるのが「威力業務妨害罪」です。業務妨害行為について偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪のどちらが成立するのかが問題になるケースも少なくありません。
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(1)威力業務妨害罪とは
威力業務妨害罪は、刑法第234条に定められている犯罪です。条文には「威力を用いて人の業務を妨害した者」を罰することが明記されています。また、罰則は「前条の例による」とされているため、前条となる偽計業務妨害罪と同じく、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
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(2)両者の違いは「手段」
偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪を区別するのは、業務妨害の「手段」です。
偽計業務妨害罪は虚偽の風説の流布・偽計を用いるのに対して、威力業務妨害罪は「威力」を用いた場合に成立します。ここでいう「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を使用することを指します。殴る・蹴るといった暴力、「殺すぞ」などの文言による脅迫のほかにも、大声を出す、多人数で押しかけるなどの行為は「威力」にあたると考えられます。
偽計業務妨害罪は「うそ」を利用し、威力業務妨害罪は「暴力・威圧」を利用すると区別しておけばおおむね間違いはありません。
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4、偽計業務妨害罪になり得るケース
自分では「ちょっと驚かしてやろう」「面白いからやってみよう」と感じて行ったとしても、偽計業務妨害罪が成立して罪に問われてしまうことがあります。身近な行為を中心に、偽計業務妨害罪が成立するおそれのあるケースをみていきましょう。
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(1)企業に対する誹謗中傷
インターネットの口コミサイトで「この店で食事をしたら異物が混じっていた」と投稿したり、通販サイトで「不良品が届いた」と投稿したりといった行為は、その内容がうそであれば企業に対する誹謗中傷にあたります。
また、転職サイトの口コミや自身のSNSなどで「うちの会社はひどいパワハラが横行している」「反社会的勢力とのつながりがある」などと投稿する行為も、やはり誹謗中傷にあたるでしょう。
これらの投稿によって、クレームの電話やメールが殺到して対応に追われてしまったり、店舗に人が押し寄せて混乱してしまったりといった結果が生じるおそれがあります。このように業務を妨害するに足りる行為があれば偽計業務妨害罪が成立します。また、業務に支障がなかった場合でも、経済的な信用能力をおとしめる危険がある行為なので信用毀損罪が成立する余地もあります。 -
(2)うその情報を流して業務を妨害する
他人の名前をかたって飲食店に出前を注文したり、架空名義で宴会の予約を入れて宴席や料理を用意させたりといった行為も偽計業務妨害罪にあたります。また、インターネット掲示板で「◯◯駅で無差別殺人を実行する」「地震のせいで動物園からライオンが逃げた」などのうその情報を流し、周辺の警備を強化させるなどの行為も同様です。
なお、110番などで警察に向けてうその情報を流し、多数の警察官を出動させたといったケースでは、偽計業務妨害罪が成立するのか、公務執行妨害罪が成立するのかといった問題が生じます。
この点は、公務執行妨害罪が「公務員が職務を執行するにあたって暴行・脅迫を加えた者」を罰する犯罪であるため、暴行・脅迫がない場合は偽計業務妨害罪が適用されることになります。 -
(3)いわゆる「バイトテロ」
主にアルバイト従業員などが店内で不衛生な悪ふざけをしている様子を撮影し、動画投稿サイトやSNSなどに投稿・拡散させる行為は「バイトテロ」と呼ばれています。バイトテロは、その店舗では衛生管理がずさんであるかのように不特定・多数に広める内容であるため偽計業務妨害罪に該当します。
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5、偽計業務妨害罪に問われたら弁護士に相談を
偽計業務妨害罪の容疑をかけられてしまったら、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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(1)逮捕直後でも接見が可能
警察に逮捕されてしまうと、逮捕直後の72時間はたとえ家族が相手でも面会が認められません。今後の身柄拘束の長期化を防ぐためにも重要なタイミングであるのに、誰とも面会できずアドバイスも得られないという状況は、被疑者にとって大変な不利益となるでしょう。
逮捕直後のタイミングであっても制限なく接見が許されるのは弁護士だけです。弁護士に相談すれば、なぜ逮捕されてしまったのか、今後はどのような流れで事件が進むのかといった疑問の解消に加えて、取り調べに対してどのような姿勢で応じればよいのかといったアドバイスも得られます。
突然の逮捕で家族や勤務先とも連絡が取れなくなってしまうので、連絡役としても弁護士の存在が欠かせません。 -
(2)被害者との示談交渉を一任できる
偽計業務妨害罪の疑いで逮捕されたからといって、必ず厳しい刑罰が科せられるというわけではありません。検察官が起訴した事件に限って刑事裁判が開かれ、刑事裁判で有罪になれば刑罰を受けます。つまり、不起訴になれば刑罰は科せられません。
偽計業務妨害事件で不起訴を得るためにもっとも効果的なのが被害者との示談交渉です。被害者に謝罪のうえで慰謝料を含めた示談金を支払い、被害届や刑事告訴の取り下げを請います。当事者間で示談が成立すれば、検察官は「双方が納得のうえで和解した」と評価するため、よほど社会的な影響が大きな事件でなければ不起訴となる可能性は高いでしょう。
ただし、被害者のなかには示談交渉を拒んだり、多額の示談金を求めてきたりする者も少なからず存在します。相手が会社・法人であれば、示談交渉は困難を極めるでしょう。
加害者本人やその家族による示談交渉は難しいので、公平中立な第三者である弁護士に一任するのが最善策です。 -
(3)否認をサポートしてもらえる
偽計業務妨害罪にあたる行為がなかったのに容疑をかけられてしまう事態も考えられます。たとえば、投稿の意味を取り違えられてしまった、虚偽内容の通報ではなかったのに事実が発生しなかったので虚偽を疑われた、その場に加わっていないのにバイトテロの共犯にされてしまったなどのケースが想定されます。
実際に偽計業務妨害罪にあたる行為がなかったのであれば、事実を否認して無罪判決を目指すことになるでしょう。ただし、自分だけで「やっていない」と主張していてもよい結果は期待できません。犯人ではないという証拠の収集や検察官・裁判官へのはたらきかけが重要なので、弁護士にサポートを依頼するべきです。
また、逮捕や勾留が不当である、捜査機関に違法な捜査や不当な処遇があったなどのケースでは、勾留に対する不服申し立てである「準抗告」などの対抗策も用意されています。このような手続きを進めるにも難しい法的な知識と経験が欠かせないので、弁護士にサポートを依頼しましょう。
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6、まとめ
たとえちょっとした嫌がらせや悪ふざけであっても、法律上の要件を満たせば偽計業務妨害罪が成立し、逮捕・起訴されるおそれがあります。長期の身柄拘束を受ければ社会復帰も難しくなり、前科がつけば職業の制限を受けるなどの不利益も生じるため、素早い対応が必要です。
偽計業務妨害罪の容疑をかけられてしまい、早期の釈放や刑罰の回避を望むなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所におまかせください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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