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弁護士コラム

2022年01月27日
  • 財産事件
  • 業務上横領罪
  • 構成要件

業務上横領罪とは? 構成要件・窃盗罪との違い・発覚後の対処方法など

業務上横領罪とは? 構成要件・窃盗罪との違い・発覚後の対処方法など
業務上横領罪とは? 構成要件・窃盗罪との違い・発覚後の対処方法など

ニュースなどの報道に目を向けると「業務上横領で逮捕」といった見出しが目にとまる機会は少なくありません。会社の経理担当者が口座からお金を着服していたなどの事例が典型的ですが、なかには過払い金として消費者金融から取り戻したお金を依頼主に返還せず着服したなど、悪質な事例も存在します。

お金を扱う仕事をしていると、つい魔が差してしまったり、「少しくらいならバレないのではないか?」などと甘く考えてしまったりして、横領を犯してしまうケースも少なくありません。もし業務上横領にあたる行為をしてしまった場合は、どのような罰を受けるのでしょうか?

本コラムで「業務上横領罪」について、成立するための構成要件や実際の事例・判例を解説します。

1、業務上横領罪とは

まずは「業務上横領罪」がどのような犯罪なのかを確認しておきましょう。

  1. (1)業務上横領罪とは

    業務上横領罪は、刑法第253条に規定されている犯罪です。刑法には横領に関する罪について、横領罪(単純横領罪)・業務上横領罪・遺失物等横領罪の3つを規定しています。それぞれ適用される要件が異なりますが、いずれも「横領」を罰するものという点では同じです。

    ただし、財産の占有に対する侵害や委託・信任関係に背いた強さの程度に応じて刑罰の重さが異なり、業務上横領罪は3つのなかでも最も厳しい刑罰が規定されています

  2. (2)窃盗罪との違い

    「他人の財産を自分のものにする」という点に注目すると、業務上横領罪と刑法第235条の「窃盗罪」は近い関係にある犯罪です。これは業務上横領罪だけでなく横領罪・遺失物等横領罪でも同様です。

    横領に関する罪と窃盗罪を区別する最大のポイントは、対象となっている財物を「誰が持っているのか」という点です。窃盗罪は他人が持っている他人の物が対象ですが、横領に関する罪では基本的に「自分が預かっている他人の物」が対象となっています。

    また、窃盗罪は懲役だけでなく罰金も予定されている犯罪ですが、業務上横領罪には懲役しか予定されていないという違いもあります。

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2、業務上横領罪の構成要件

ある犯罪が成立するための要件を「構成要件」といいます。業務上横領罪の構成要件は、条文をみると次の4点に分解できます。

  1. (1)「業務上」とは

    業務上横領といえば、典型的には「会社のお金を着服した」などのように「仕事」に関する横領行為を罰するものというイメージがあるでしょう。ここでいう「業務上」とは、まさに「仕事」という意味はもちろんですが、さらに法的な解釈では「社会生活上の地位にもとづいて反復・継続しておこなう事務」と定義されています。
    したがって、営利・非営利は問題にならないので、会社の仕事だけでなく、会社内の組合・非営利団体の活動・サークル活動・PTAなどの任意団体の活動も「業務」に含まれます

  2. (2)「自己の占有する」とは

    「占有」とは、財物を事実上支配する状態を指します。典型的には「手に持っている」「かばんに入れている」などの状態が考えられますが、現に手にしているわけではなくても「自宅に置いている」「マイカーに収納している」といった状態も占有があるといえます。

    すると、業務上横領罪でいう「自己の占有する」とは、業務上の役割に応じて預かり保管中であったり、取り扱いの権限を与えられていたりする状態を指すものと考えられます。一方で、たとえばコンビニやスーパーのレジ係員のように機会的にお金のやり取りをするだけの立場であれば、保管・管理・取り扱いの権限を任されているとはいえません。この場合は、業務上横領罪ではなく窃盗罪に問われるのが一般的です。

  3. (3)「他人の物」とは

    業務上横領罪が保護するのは「他人の物」です。単純には「他人に所有権がある物」だと解釈できるため、たとえば「修理のために預かっている時計」や「委託販売のために預かっている車」などは本罪の保護を受けます。

    ここで問題となりやすいのが金銭です。過去の数々の判例から、金銭については次のような性格のものについて「他人の物」としています。


    • 使途を定めて寄託された金銭
    • 債権取立受任者が取り立てた金銭
    • 集金人が取り立てた売掛代金など
  4. (4)「横領した」とは

    業務上横領罪における実行行為は「横領」です。横領とは、すでに占有している他人の物について、委託者に無断でその所有者でなければ許されない方法で処分することと解されています。

    使い果たすことを意味する「費消」や自分の物にする「着服」のほかにも、売却・贈与・質入れ・隠匿などが横領行為となります

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3、業務上横領罪の罰則内容

業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役です。横領の罪の基本形となる刑法第252条の横領罪(単純横領罪)は法定刑が5年以下の懲役なので、刑罰の上限が2倍に加重されていることになります。

厳しい刑罰が規定されているのは、業務上横領罪が業務における信頼関係に背くという重大な行為であるという点に注目しているからです。

予定されているのは懲役のみなので、刑事裁判で有罪判決を受けると必ず懲役が言い渡されます。3年を超える懲役には執行猶予がつかないので、法定刑が加重され、より悪質だととらえられてしまう業務上横領事件では、実刑判決が下されてしまう危険が高まると考えるべきです。

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4、業務上横領罪に該当するケース

業務上横領罪に該当する主なケースは、出張費・交際費・交通費などを着服したり、会社の金銭を会社の預金口座から自分の口座へ振り込んだりする行為が挙げられます。会社の備品を自分のものにする行為も業務上横領罪に該当する可能性があります。

ここからは実際に業務上横領罪に問われた事例を見ていきましょう。

  1. (1)郵便局の会計責任者が収納済み切手を換金していた事例

    【東京地裁 令和3刑(わ)497 令和3年5月10日】
    郵便局の会計担当課長として勤務していた被告人が、郵便料金として納められた切手を大量に持ち出して換金し、多額の現金を得ていた事例です。この事件では、約1年10か月に合計164回の着服を繰り返し、被害に遭った切手の数は370万枚、額面約1億7600万円に上っていました。

    着服した切手を換金して交際相手との関係を維持するための個人的な使途に費消しており、被害の大きさや常習性の高さについて裁判所は「なお厳しい非難に値する」と評価しています。被害額の大部分にあたる約1億7000万円を弁済し、さらに200万円の追加弁償も申し入れていましたが、懲役3年の実刑判決という厳しい処分が下されました。

  2. (2)遺言執行者の司法書士が預かっていた遺産を横領した事例

    【神戸地裁 平成25(わ)953 平成26年9月2日】
    遺言執行者として遺産相続手続きを進める立場にあった司法書士が、故人の口座から自己名義の口座に振込入金をさせて横領した事例です。被告人となった司法書士は、銀行の窓口で「解約してほしい」と求められて口座を解約したのち、急きょ解約することになったので「キャッシュカードを持っていたので振込先を自己名義の口座を指定した」旨を説明し、横領の意思はなかったと主張しました。
    ところが、各種の証拠からこの主張は事実ではないことが明らかになり、さらに会計を記帳するソフトにも本件の入金を記録していなかったという事実も指摘されています。

    横領した現金はアルバイトの給与など個人的に費消されており、司法書士の業務に対する社会の信用を失墜させるものとして、社会的影響は重いと判断されました。一方で、一時的な流用であること、すでに相続人と和解して被害弁済が終了していること、懲戒処分によって司法書士登録を取り消されていることなどから、懲役2年6か月・執行猶予3年の判決が下されています。

  3. (3)総務課長が5900万円を横領した事例

    【高知地裁 平成30(わ)307 平成31年3月25日】
    総務課長として勤務し、会社の資金の管理などの経理業務に従事していた被告人が、約4年で現金合計5900万円を横領した事例です。被告人は会社の代表取締役名義で振り出された小切手を銀行に提示して現金の支払いを受け、自己の用途に費消する目的で、自己が外国為替証拠金取引口座として使用していた銀行の口座に振込入金するという方法で横領を繰り返していました。

    裁判所は、被告人が約10年間にわたって同様の行為を繰り返しており会社の被害額はさらに多額に上ることも予想されること、上司らからの厚い信頼を悪用して長期間にわたって常習的に横領を繰り返しており、被害弁償も737万円余りにとどまっていることなどを指摘し、「悪質性が高く、被告人の刑事責任は重い」と評価しました。
    量刑にあたっては、被告人が社会復帰後の被害弁償を誓約しており、勤務態度がまじめだったこと、解雇や配偶者との離婚など一定の社会的制裁を受けていることなどが考慮されましたが、懲役3年6か月の実刑判決という厳しい処分が下されました。

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5、業務上横領が発覚した後にするべきこと

業務上横領にあたる行為が会社などに発覚してしまったら、ただちに対策を講じる必要があります。

  1. (1)ただちに弁護士に相談する

    横領行為が事実であっても、まずは弁護士に相談してサポートを受けるのが賢明です。業務上横領が発覚しても、その事実が公になってイメージダウンを招いてしまう事態を嫌って事件化は希望しないという意向を示す会社は少なくありません。
    会社との交渉を弁護士に任せることで、事件化を回避した穏便な解決が期待できます。

  2. (2)発覚前なら、みずから会社に打ち明けるのも有効

    横領行為が、まだ会社側に発覚していないなら、みずから会社に横領行為をしたことを打ち明けて解決を目指すのも有効です。被害額が比較的少額で弁済が可能なら、深い反省の意思を示すことで事件化が見送られる可能性があります。

    ただし、たとえ弁済を尽くしても、刑事責任と民事責任は別のものなので「お金さえ支払えば許される」と考えるのは間違いです。どのような方法で会社に打ち明けるのか、その後の交渉はどうやって進めていくのかも含めて、弁護士に相談してアドバイスを受けたほうが安全でしょう。

  3. (3)横領額が大きく弁済が難しい場合は自首も検討する

    横領額が大きい、公務員である、あるいは社内のコンプライアンス規定の問題から刑事告訴は避けられないといったケースでは、会社のアクションを待たずに警察へ自首したほうがよいこともあります。まだ捜査機関が認知していない業務上横領事件について、みずから罪を告白して捜査協力を約束し、処罰を求める意向を示せば「逃亡・証拠隠滅のおそれはない」と評価され、逮捕を避けられる可能性が高まります。

    ただし、自首すれば確実に事件化されるため、横領の事実があれば起訴されて有罪判決を受ける危険も高くなるのは確実です。個人で自首すべきかどうかを検討するのは難しいので、必ず弁護士に相談したうえで判断しましょう。

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6、まとめ

業務上横領は、会社側が被害届の提出・刑事告訴しなければ警察に発覚することはほとんどありません。ただし、ひとたび発覚すれば厳しい対応は免れず、逮捕される危険も高い犯罪です。

有罪となれば重い刑罰が科せられることになり、実刑判決を受けてしまうおそれも強いので、できれば会社に発覚するよりも先に解決に向けた対策を講じておくためにも、弁護士への相談をおすすめします。また、発覚後であっても個人で対応するのは難しいので、やはり弁護士のサポートは欠かせません。

業務上横領罪にあたる行為で逮捕や刑罰に不安を感じているなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

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※本コラムは公開日当時の内容です。
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