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詐欺罪の立証は難しい? 詐欺事件を起こしたら取るべき対応
詐欺罪は、数ある犯罪のなかでも特に「立証が難しい」といわれています。
令和4年10月には、水道トラブルの解消工事の依頼を受けた工事会社が、実際には工事を実施していないのに代金などをだまし取ったとされる刑事裁判において、被告人となった工事会社の社長に無罪判決が言い渡されました。裁判官は「過大な内容を説明するなどの行為はあるものの、有罪とはいえない」と述べており、改めて詐欺罪の立証の難しさを世間に知らしめる事例になったといえるでしょう。
詐欺罪にあたる行為をはたらいた、あるいはすでに詐欺の嫌疑をかけられているという状況の方にとって「立証が難しい」という情報は、不起訴や無罪を期待する材料になるはずです。しかし、なぜ立証が難しいといわれるのか、立証が難しいという理由で事件化や刑罰を避けられる可能性があるのか、正確な情報は知らないという方も多いでしょう。
本コラムでは、詐欺罪の立証ポイントや実際の詐欺事件の動向などを紹介しながら「詐欺罪の立証は難しいのか?」という疑問を解消していきます。また詐欺事件を起こした場合に取るべき対応についても、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、詐欺罪とは? 成立の要件や刑罰の重さ
詐欺罪の立証について考えるためには、詐欺罪とはどのような犯罪で、どういった条件を満たせば詐欺罪が成立するのかを理解しておく必要があります。
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(1)詐欺罪の成立要件
詐欺罪は刑法第246条において定められている犯罪です。人を欺いて財物を交付させた者、財産上不法の利益を得た者を罰する犯罪で、簡単にいえば「金品などをだまし取る」という行為を処罰の対象にしています。
ただし、単に「だました」というだけでは詐欺罪は成立しません。
詐欺罪が成立するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
● 欺罔(ぎもう)
うそをついて相手をだます行為です。ここでいう「うそ」は詐欺の目的でつくものであり、財物をだまし取る行為につながる内容のうそでなければなりません。詐欺罪の立証でもっとも重要になるのが、この「欺罔(ぎもう)」です。
● 錯誤
相手がうそを信じこんだ状態になることです。
● 交付(処分行為)
錯誤に陥った相手が、自ら財物や利益を差し出す行為です。手渡しはもちろん、口座への振り込み送金や郵送なども含みます。
これらの3点が一連となって、財物や利益が加害者のもとへと移転すると詐欺罪が成立します。
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(2)詐欺罪で科せられる刑罰
詐欺罪には、10年以下の懲役が科せられます。罰金の規定はないので、有罪判決を受けると必ず懲役が科せられる重罪です。
2、詐欺罪は立証が難しい?
統計上の検挙率や起訴率をみると、詐欺罪の立証は難しいと考えられますが、なぜ数ある犯罪のなかでも詐欺罪は特に立証が難しいといわれるのでしょうか?
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(1)詐欺罪の立証ポイントは「内心」
詐欺罪を立証するうえで重要なポイントとなるのが「内心」です。
詐欺罪が成立するには、欺罔(ぎもう)の時点をとらえて、加害者に「被害者にうそをついて財産をだまし取る意思があったのか?」という点が問われます。
「財産をだまし取るつもりだった」という内心は、犯行時点でどんなに頭のなかで考えていても形のある「物」として残るわけではありません。窃盗事件なら家宅捜索によって盗んだ物が発見されたり、傷害事件なら防犯カメラに暴力を振るう様子が記録されていたりしますが、内心を明らかにする物理的な証拠など存在しません。
そして、詐欺罪で問題となる行為は、しばしば経済的な取引とも評価できるやり取りとなり、盗むや奪うのように、行為だけからすぐに内心を評価しにくいところがあります。
これが、詐欺罪の立証が難しいといわれている最大の理由です。
詐欺罪を立証しようとする警察・検察官は、内心を固めようとして自白を得ることに固執します。形のない内心を供述調書に書き記すことで「本人が認めた」という証拠にするためです。 -
(2)内心を客観的に証明する必要がある
たとえ加害者が「最初からだますつもりだった」と自白しても、それだけでは有罪にはなりません。日本国憲法第38条3項は、誰であっても「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合」は有罪とされることも、刑罰を科せられることもないと定めています。
捜査機関は、自白に加えて客観的な証拠を集める必要があるので、取り調べと並行してさまざまな証拠の収集を進めます。うその電話やメールの記録の保全、口座の動きによる加害者の経済力の分析などによって内心の自白を補強し、あるいは否認を覆そうとしますが、裁判官の確信を得るのは容易ではありません。
客観的な証拠が集まりにくいという点も、詐欺罪の立証を難しくする理由のひとつだといえるでしょう。
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3、詐欺罪で検挙される割合は?
「立証が難しい」ということは、つまり「検挙されにくい」「事件化されても処罰されにくい」という結果につながるはずです。本当に詐欺罪は検挙・処罰されにくいのでしょうか?
公開されているデータから検証してみましょう。
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(1)詐欺事件の検挙率は42.4%
令和5年版の犯罪白書によると、令和4年中の詐欺事件の認知件数は全国で3万7928件でした。
検挙件数は1万6084件なので、検挙率は42.4%です。
検挙率だけで単純に考えると、警察が認知してもおよそ半数の事件は検挙に至らないままということになります。検挙率42.4%という数字は主要な犯罪のなかでも低く、詐欺事件は警察に認知されても検挙されにくいといえるでしょう。 -
(2)詐欺事件の起訴率は48.0%
詐欺事件を起こして警察に検挙されても、検察官が起訴しなければ刑事裁判は開かれません。刑事裁判が開かれなければ、当然、刑罰も受けません。
令和4年分の検察統計によると、全国の検察庁で処理された詐欺事件のうち、起訴に至ったのは7669件、不起訴処分となったのは8324件でした。起訴率は48.0%です。
警察に検挙されて検察官へと送検されても、およそ半数は起訴されないまま事件が終結しています。検察官が起訴に踏み切れない背景にも、やはり立証の難しさが影響していると考えられます。
とはいえ、この統計はあくまでも「割合」の数字をあらわしたものであって「確率」をあらわすものではありません。運が悪くて検挙・起訴されたのではなく、事件の内容や証拠の有無、事件後の対応などが影響した結果なので「検挙されるのは半数だけ」「送致されても半数は起訴されない」などと安心するのは危険です。
4、詐欺事件を起こした場合に取るべき対応
詐欺罪は立証が難しいといわれますが、しかし「立証が難しい」という情報を過信して「捕まらない」「処罰されない」と考えるのは賢明ではありません。逮捕や厳しい刑罰を避けたいと望むなら、積極的に解決を図るべきです。
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(1)被害者との示談交渉を進める
詐欺罪は金品などを対象とした「財産犯」と呼ばれる犯罪です。被害額の算定は容易で、理屈のうえでは金銭的な賠償さえ尽くせば実害は解消できることになります。
ただし、「お金を返せば罪を問われない」というわけではありません。詐欺罪は財産の交付・移転が生じた時点で完成しているので、あとで同額を賠償してもすでに発生した犯罪は帳消しにはなりません。すると「だまし取ったお金は返しても返さなくても関係ない」のかといえば、それも間違いです。
そもそも、詐欺事件の被害者には、加害者に対して「だまし取ったお金を返還せよ」と求める権利があり、不法行為をはたらいた加害者はその返還義務を負います。刑罰を受けたあとでも、賠償を放置したままであれば、さらに被害者から損害賠償請求を受けるおそれが残ります。
そう考えると、あとで賠償を尽くすよりも、刑事的な処分を受けるより前に賠償を尽くして、加害者にとって有利な事情を増やすほうが得策だといえるでしょう。
詐欺事件を起こしてしまったとき、何よりも最優先すべきは「被害者との示談交渉」です。
早いタイミングで被害者との示談を成立させれば、被害届の取り下げによる事件化・逮捕の回避や検察官の不起訴処分につながります。
しかし、被害者は加害者に対して強い処罰感情を抱いていることが多く、加害者やその家族からの直接の示談交渉は応じてもらえないでしょう。またそもそも被害者の連絡先を知らなければ連絡すらできず、通常、捜査機関が加害者に連絡先を教えてくれることはありません。そのため、示談交渉は弁護士に一任するべきといえます。弁護士であれば、加害者に連絡先を伝えないことを約束したうえで捜査機関から連絡先を教えてもらえる可能性が高く、示談交渉を進められる可能性が高まります。 -
(2)弁護士に依頼してサポートを求める
詐欺事件の解決に向けて力強い味方になるのが弁護士です。
一般的なイメージでは、弁護士によるサポートは刑事裁判における弁護活動がメインになるように感じられるかもしれませんが、被害者との示談交渉、警察・検察官へのはたらきかけ、不起訴処分を得るための効果的な材料の収集なども一任できます。また、取り調べを進める捜査機関にどのように対応すればよいのかなど、取り調べに対するアドバイスも得られます。
もちろん、刑事裁判に発展した場合も、できる限り有利な処分になるよう、弁護士は弁護活動を行います。立証に難しい面が多いからこそ、刑事裁判においても反論するポイントや材料が多いのが詐欺罪の特徴だといえます。
また詐欺罪の刑罰には罰金の規定はないので、有罪となれば懲役が科されます。判決に執行猶予がつかなければ、最大で10年にわたり刑務所に収監される可能性もあるため、執行猶予などの有利な処分を望むなら、弁護士のサポートは欠かせません。
5、まとめ
詐欺罪が、「立証は難しい」といわれている理由は、詐欺罪が成立するために必要な「内心」の立証が難しいからです。しかし、警察・検察官には数多くの詐欺事件を取り扱ってきたノウハウがあり、内心を補強するための捜査活動を知り尽くしているので、単純な言い訳では通用しません。
立証が難しいという情報を過信して「どうせ捕まらない」などと油断していると、突然逮捕され、刑罰を受ける事態になりかねません。
詐欺事件を穏便に解決するには、早いタイミングで被害者との示談交渉を尽くすのが最善です。もちろん、捜査機関への対応や刑事裁判に向けた証拠収集も大切です。個人で対応するのは難しいため、刑事事件の解決実績をもつ弁護士に相談してサポートを求めましょう。
弁護士は、被害者との示談交渉や取り調べへのアドバイス、捜査機関へのはたらきかけなどを行いながらサポートいたします。詐欺事件を起こしてしまった、家族が詐欺罪の疑いで逮捕された場合などは、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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