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準強制わいせつの量刑判断はどうなる? 逮捕後の対処法についても解説
泥酔状態や就寝中などで抵抗できない人に対してわいせつな行為をすると、「準強制わいせつ罪」で逮捕される可能性があります。
起訴され有罪になると重い罰を科されるおそれがありますが、具体的にはどの程度の量刑になり、どのような点が量刑判断へ影響を与えるのでしょうか。
この記事では準強制わいせつ罪の量刑をテーマに、量刑を左右する事情など、弁護士が解説します。
令和5年7月13日に準強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へ、準強制性交等罪は「不同意性交等罪」へ改正されました。
この刑法改正によって、犯罪が成立する要件が明文化され、処罰の対象となる行為が拡大されました。
1、準強制わいせつとみなされる行為
刑法第178条は、次の者を準強制わいせつ罪として罰すると定めています。
- 人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じてわいせつな行為をした者
- 人を心神喪失もしくは抗拒不能にさせてわいせつな行為をした者
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(1)「心神喪失」「抗拒不能」と認められる状況
心神喪失とは、精神や意識の障害によって正常な判断ができない状態をいいます。失神中や睡眠中、酩酊(めいてい)状態などがこれにあたります。
抗拒不能(こうきょふのう)とは、心神喪失以外の理由で心理的または物理的に抵抗が困難な状況におかれている場合です。たとえば医療従事者が病気の治療のために必要だと偽り、わいせつ行為におよんだ場合は、被害者は誤信によって心理的に抵抗できなかったので抗拒不能状態にあったといえるでしょう。
「乗じて」とは「その状態であるのをいいことに」という意味です。典型的には泥酔して意識がない人や電車の中で眠っている人を狙ってわいせつ行為をするケースです。
「させて」とはわざとその状態に陥らせるという意味です。わいせつ行為をする目的で強引に飲酒させる、睡眠薬を飲ませるなどの行為が該当するでしょう。 -
(2)わいせつな行為とはどんな行為をさすのか?
わいせつな行為の定義は「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とされています。かみくだいていえば、自らの性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ一般の人が性的に恥ずかしいと感じる行為を指しており、具体的には次のような行為が該当します。
- 胸や陰部を触る
- 性器をもてあそぶ
- 衣服や下着を脱がせる
- キスをする
なお、性交等(性交・口腔性交・肛門性交)をした場合は、準強制わいせつ罪ではなく準強制性交等罪に問われます(刑法第178条)。これらの行為が未遂に終わり、結果としてわいせつ行為でとどまった場合でも、目的が性交等であれば準強制性交等罪の未遂罪で罰せられる可能性があります。
2、逮捕後の流れ
準強制わいせつ罪で逮捕されると、次のような流れで刑事手続きが進められます。
- 逮捕後48時間以内……警察による取り調べ、送致
- 送致後24時間以内……検察官による取り調べ、勾留請求
- 勾留決定……原則10日間、延長10日間の身柄拘束
- 勾留期間満期まで……起訴・不起訴の決定
ここまでで、最長23日間の身柄拘束が続きます。不起訴になれば身柄の拘束を解かれますが、起訴されてしまうと刑事裁判が開かれるのは約1~2か月後です。その後、判決がでるまで裁判がおこなわれ、保釈が認められない限りは引き続き勾留されます。
3、準強制わいせつの量刑はどれくらい?
準強制わいせつ罪の法定刑は「6か月以上10年以下の懲役」です。罪名に「準」とつきますが軽い罪という意味ではなく、強制わいせつ罪と同じ法定刑が適用されます。
量刑は法定刑の範囲内で決まります。準強制わいせつ罪は罰金刑がないため、有罪になった場合は必ず懲役刑となります。実刑判決となれば刑務所へ収監され、刑期までを過ごすことになります。刑の程度は裁判官が複数の事情を判断材料にし、総合的に判断します。
犯行そのものに対する量刑の事情として、犯行の態様や手段、方法、動機や目的、計画性の有無などがあります。たとえば用意周到に計画し、わいせつ目的で被害者に近づいたのであれば、悪質性が高いと判断され量刑が重い方向に傾きやすいでしょう。被告人本人の事情として、性格や反省の度合い、余罪や前科前歴の有無なども影響します。
また、被害者の状況も考慮されます。被害の大きさ、被害回復や弁済の状況、被害者の処罰感情などです。たとえば被害者が事件後に外出することが怖くなった、人と話ができない、被害者の怒りの感情が強く示談ができないといったケースなどでは、量刑が重い方向に傾くでしょう。
このように量刑判断には複数の事情が影響するため、類似の事件であっても実際に言い渡される刑の重さが異なります。
量刑に関して今から何ができるのかという意味では、犯行の態様や動機などは動かしようのない事実であるのに対し、被害回復や弁済の状況、反省の度合いなどは変えられる可能性がある要素です。事件を起こしてしまった自分を見つめ直し、被害者に対して真摯(しんし)な謝罪をおこない、慰謝料を払うなどして被害を回復させるよう努めることが重要になるでしょう。
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4、準強制わいせつで執行猶予がつく場合、つかない場合
日本における刑事裁判の有罪率は99%以上であるため、起訴された場合には有罪になる可能性が極めて高いといえます。
しかし有罪になっても執行猶予がつく可能性はあり、執行猶予がつけば直ちに刑務所へは行かずに、社会生活を送りながら更生を目指すことができます。
準強制わいせつ罪で執行猶予がつく可能性があるのは、初犯で余罪もなく深く反省しており、被害者へ謝罪をして示談が成立しているようなケースです。性依存症治療への取り組みや家族による監視体制の構築なども評価され得る材料となります。
一方、犯行が計画的で悪質性が高く、被害状況も深刻で被害者が示談に応じていないようなケースでは、執行猶予がつかず、実刑判決がくだる可能性が高いといえます。初犯ではなかったり、余罪があるようなケースも社会生活の中での更生が難しいと判断され、執行猶予がつかない可能性があるでしょう。
5、逮捕後は早期に弁護士へ相談すべき5つの理由
準強制わいせつ罪で逮捕された後は、速やかに弁護士のサポートを受けることが大切です。
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(1)逮捕直後からの面会
弁護士だけが唯一、逮捕直後から本人と面会できます。面会がもたらす効果は大きくわけて二つあります。
ひとつは取り調べに対するアドバイスです。取り調べでは取調官が取り調べの内容を書面化します。この書面を供述調書といいますが、言ってもいないことが書かれている供述調書に署名押印をしてしまえば、その後の刑事裁判でとても不利な影響を及ぼすことになります。このように取り調べにあたって注意すべき点などのアドバイスを受けておくことで不当に重い罪に問われることを回避することができます。
もうひとつは本人への精神的なサポートです。日常から隔離され孤独な状況下で取り調べは数日にわたって続く可能性があります。そのような厳しい環境の中で家族からの励ましの言葉を伝えたり、弁護士から現在の状況や今後の事件の見通しを整理して説明したりすることで、本人の精神的な安心感につながるでしょう。 -
(2)被害者との示談交渉
被害者の感情を考えれば、加害者本人やその加害者家族からの示談交渉は拒否される可能性が高いでしょう。仮に交渉が開始されたとしても、性犯罪の示談は非常に繊細な内容が求められるため、一般の方が示談を成立させるのは困難です。弁護士であれば被害者感情に配慮しながら慎重に交渉をおこない、示談成立につなげられる可能性が高まります。
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(3)保釈請求
保釈請求は、加害者家族にも請求する権利がありますが、加害者自身が保釈請求をするのは難しいのが現実です。保釈金さえ払えば済む話ではなく、保釈が相当である理由を具体的かつ説得力をもって伝える必要があるからです。弁護士は保釈規定について熟知しているため、保釈が相当である旨を正しく伝えて保釈につなげることができます。
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(4)犯行を認める場合の弁護活動
犯行を認める場合には、加害者家族による管理体制の構築や性犯罪治療の専門家と連携するなどし、本人の更正や再犯防止に向けて環境を整えていくとともに、被害者との示談交渉を行います。示談ができない場合には示談金の供託をする、反省文を提出するなどし、本人の謝罪や反省の気持ちを示し続けます。こうした活動を書面にし、検察官や裁判官に提出することで、少しでも有利な判決が得られるよう活動します。
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(5)犯行を否認する場合の弁護活動
犯行を否認する場合には弁護士のサポートが不可欠です。合意があったと主張する場合は、事件当日の足取りや相手方との関係性、メールのやり取りなどを通じ、合意のうえでの行為であったことを明らかにします。
身に覚えがない場合は、本人のアリバイを証明する、相手方や目撃者の供述の矛盾点を追及する、DNA鑑定を依頼するなどして、犯行が不可能だと主張します。
やみくもに否認しても身柄拘束につながるリスクが高いため、弁護士と相談しながら慎重に対応する必要があるでしょう。
6、まとめ
準強制わいせつ罪の量刑は、事件の内容や被害の状況などさまざまな点が考慮されます。事件を認める場合、特に被害者への誠実な謝罪と示談の成立が大きく影響するといってよいでしょう。否認する場合には相手方が酩酊(めいてい)状態などで記憶がはっきりしないケースが往々にしてあり、立証が難しい場合も少なくありません。いずれの場合も弁護士のサポートを得たうえで適切な対応をすることが大切です。身内が準強制わいせつ罪で逮捕されお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。弁護士が力を尽くします。
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