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路上痴漢で逮捕された場合の罪と後日逮捕の可能性
令和5年2月、路上痴漢の被疑で男が逮捕されました。事件があったのは令和4年11月で、30代の被害者女性の身体を触り、逃走したそうです。防犯カメラの映像などから特定された男は、警察の取り調べに対して「触りたくなって女性の身体を触った」と被疑を認めています。
この事例のように、路上痴漢をしてその場から逃走しても、後日になって逮捕される可能性は否定できません。本コラムでは、路上痴漢で問われる罪や後日逮捕の可能性について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、路上痴漢で問われる罪とは? 罪名や刑罰の重さ
痴漢が犯罪行為だということは多くの方が知っているはずですが、実はどの法令をみても「痴漢」という罪名は存在しません。
路上痴漢を含め、痴漢行為は都道府県の「迷惑防止条例」の違反か、または刑法の「強制わいせつ罪」のいずれかが適用されます。
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(1)迷惑防止条例違反が適用されるケース
痴漢行為を罰するもっとも典型的な法令は「迷惑防止条例」です。
迷惑防止条例は、一般市民に迷惑をかける暴力的な不良行為などを防止して市民生活の平穏を維持する目的で、各都道府県によって定められています。
迷惑防止条例という名称は総称で、たとえば全国のモデルになっている東京都では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」というのが正式名称です。
東京都の迷惑防止条例では、第5条1項1号において「公共の場所・乗物において、衣服そのほか身に着ける物の上から、または直接に人の身体に触れること」を禁止しています。
この行為が、正当な理由のないもので、相手を著しく羞恥させたり、不安を覚えたりさせるようなものであれば「痴漢」として処罰の対象となります。
東京都の場合、罰則は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金で、常習と判断された場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金に加重されます。 -
(2)強制わいせつ罪が適用されるケース
もうひとつ、痴漢を罰するのが刑法第176条の「強制わいせつ罪」です。
強制わいせつ罪は、13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者を処罰の対象としています。
本罪における暴行・脅迫とは、殴る・蹴る・脅すといった乱暴な行為だけに限っていません。
相手の意思に反する程度の不法な有形力の行使を指し、力の大小・強弱を問わないというのが法律の考え方なので、抵抗できないように押さえつけるなどの行為のほか、痴漢行為そのものが暴行・脅迫にあたるとも解釈されています。
法定刑は6か月以上10年以下の懲役で、罰金の規定はありません。
刑事裁判で有罪判決が言い渡されると、必ず懲役が科せられます。 -
(3)迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪を区別する基準
痴漢行為について、迷惑防止条例違反を適用するのか、それとも強制わいせつ罪を適用するのかという明確な基準は存在しません。
一般的に、衣服の上から胸や尻などを触った場合は迷惑防止条例違反、衣服の下に手を差し入れて胸や尻を触ったり衣服の上からでも陰部を触ったりした場合は強制わいせつ罪と区別されています。
ただし、この区別も法令などによって示された明確なものではないので、どちらが適用されるのかは現場の状況に応じて変わります。
迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪を区別するひとつの基準となるのが「わいせつ行為の強度」です。
刑罰の重さからもわかるとおり、わいせつ行為としての強度は「迷惑防止条例違反<強制わいせつ罪」と解釈されています。
比較的軽微な痴漢行為は迷惑防止条例違反、より悪質性の高い痴漢行為は強制わいせつ罪が適用されると考えてよいでしょう。たとえば、衣服の上からでも執拗(しつよう)に胸を触り続ける、強く尻をもむなどの行為があると、迷惑防止条例違反ではなく強制わいせつ罪が適用される可能性が高まります。
2、路上痴漢は逃げても後日逮捕される?
痴漢行為は、被害者本人や助けを呼ぶ声を聞いた周囲の人などによって確保され、現行犯逮捕されるケースが多いという特徴があります。すると「その場から逃げ切ることさえできれば逮捕されない」と考える人がいるかもしれませんが、その考え方は間違いです。
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(1)後日逮捕と現行犯逮捕の違い
いわゆる後日逮捕とは、裁判官が発付した令状にもとづいて逮捕する「通常逮捕」を指します。通常逮捕は日本国憲法の令状主義に従った原則的な逮捕で、逮捕の基本形といえるでしょう。
もう一方の現行犯逮捕は、犯罪がおこなわれている最中やその直後に執行される逮捕です。
裁判官の審査を受けていると被疑者が逃亡するおそれがあり、実際に犯行を目撃しているため犯人の取り違えも起きにくいことから、逮捕状の発付を受けなくてもその場で逮捕できます。
また、その場で被疑者の身柄を確保しなければ逃亡を許してしまうので、警察などの捜査機関ではない一般の私人でも逮捕が許されているという点が、通常逮捕と大きく異なる特徴です。
通常逮捕と現行犯逮捕は、逮捕の可否を決めるうえでの要件が異なるだけで、逮捕後の手続きや罪の重さに差は生じません。 -
(2)「痴漢=現行犯でなければ逮捕できない」は誤解
たしかに痴漢行為は現行犯逮捕されるケースが多い犯罪ですが、痴漢を含めてどのような犯罪であっても「現行犯でなければ逮捕できない」というルールは存在しません。
そもそも、日本国憲法の理念に従えば、逮捕の基本は裁判官の審査を経たうえで発付される逮捕状にもとづく通常逮捕なので、通常逮捕できない犯罪など存在するはずもないでしょう。
路上痴漢は、周囲にひと気がなければ逃亡は難しくないかもしれませんが、警察はさまざまな捜査手法で被疑者を特定します。冒頭で挙げた事例のように防犯カメラの映像から特定されたり、目撃証言から割り出されたりするケースも多数です。
また、被害者の身体・着衣や現場に遺留されたDNAなどの鑑識資料から特定されることもあります。
まったく証拠を残さない犯罪などほぼ不可能なので、現行犯でなくても逮捕される可能性があると心得ておいてください。 -
(3)路上痴漢で後日逮捕された実例
実際に、全国では路上痴漢で後日逮捕された事例が数多く存在しています。
- 路上を歩いていた20代女性の太ももや尻を触った男が、約2か月後に強制わいせつの被疑で逮捕
- 路上で30代女性の尻を触った男が、約4か月後に迷惑防止条例違反の被疑で逮捕
- 路上で自転車に乗っていた女子高生に対して自転車で追い抜きざまに身体を触った男が、2日後に迷惑防止条例違反の被疑で逮捕
事件発生から数日~数カ月を経て逮捕された事例が多いので、現行犯逮捕されなくても安心してはいけません。
3、路上痴漢で逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
路上痴漢をしたことが発覚して警察に逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
刑事手続きの流れを順に確認していきます。
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、まず48時間以内の身柄拘束を受けます。
取り調べなどを終えると検察官のもとへと送致され、ここでもさらに24時間以内の身柄拘束を受けることになります。ここまでが逮捕の効力による身柄拘束です。
さらに検察官からの請求によって裁判官が勾留を許可すると、10日間の身柄拘束が始まります。
身柄は警察に戻され、検察官の指揮のもとで警察が取り調べなどの捜査が進められます。
10日間で捜査が遂げられなかった場合は一度に限り10日間以内の延長が可能なので、勾留の期限は最低10日間・最大20日間です。
逮捕段階で最大72時間、勾留段階で最大20日間、合計すると最大で23日間にわたって社会から隔離されてしまうので、社会的な悪影響は避けられません。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を決定します。
起訴とは刑事裁判を提起することで、不起訴とは刑事裁判の提起を見送るという意味です。
日本の法律では、公平な裁判を経て有罪とならなければ刑罰は科せられないので、起訴されるか、不起訴となるかは、刑罰を科せられるかどうかの瀬戸際になるといえます。
起訴されると被疑者の立場は刑事裁判を受ける「被告人」となり、一時的な身柄拘束の解除である保釈が認められない限り、刑事裁判が終わるまで釈放されません。
一方で、不起訴となると刑事裁判が開かれないので身柄拘束の必要もなくなり、即時釈放されます。 -
(3)刑事裁判が開かれる
検察官の起訴からおよそ1~2か月後に初回の刑事裁判が開かれます。
以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の公判を経て最終回の日に判決が言い渡されるのが一般的な流れです。
罰金が言い渡されれば期限内に納付することで刑が終了しますが、懲役が言い渡され執行猶予が付かなければ刑務所へと収監されてしまいます。
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- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
4、路上痴漢で逮捕や厳しい刑罰を避けたいなら弁護士に相談を
路上痴漢をしてしまい、逮捕による身柄拘束や厳しい刑罰を避けたいと望むなら、弁護士への相談を急ぐべきです。
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(1)被害者との示談交渉による穏便な解決が期待できる
痴漢事件をもっとも穏便なかたちで解決できるひとつの方法が、被害者との示談による和解です。
示談とは、捜査機関や裁判所が介在しないかたちで、加害者と被害者の双方による話し合いで解決することを意味します。加害者は被害者に対して真摯(しんし)に謝罪し、被害に遭わせた精神的苦痛に応じた慰謝料などを含めた示談金を支払い、被害者はこれに応えて被害届や刑事告訴を見送ったり取り下げたりして、個人間で解決を図ります。
示談が成立すれば、加害者と被害者との間で事件が解決し、被害者には「加害者を厳しく罰してほしい」という意思がなくなったと評価されやすくなります。
示談成立が早ければ警察への届け出を回避できたり、届け出があった後でも警察の段階で事件が終結できたりする可能性も高まるでしょう。
ただし、路上痴漢の被害者は、加害者に対して強い怒りや嫌悪の感情を抱いているので、加害者が示談交渉をもちかけても示談に応じてもらえないかもしれません。
しかも、路上痴漢では被害者がどこに住んでいる誰なのかもわからないケースが多く、捜査機関がもっている情報の開示が必要になりますが、加害者からの申し出では被害者の情報は教えてもらえません。
安全な交渉を進めるには、公平中立な第三者であり、捜査機関へのはたらきかけも可能な弁護士の力が必須です。 -
(2)厳しい刑罰の回避に向けた弁護活動が期待できる
痴漢行為には厳しい刑罰が科せられます。
少しでも刑罰を軽減したいと望むなら、加害者にとって有利となる事情を集める活動が欠かせません。
- 前科前歴のない初犯で深く反省している
- 家族が監督強化を誓約している
- すでに謝罪と弁済を尽くして被害者との示談が成立している
- 性的な嗜好(しこう)を矯正するための医学的なプログラムに取り組む姿勢がある
このような事情を客観的な証拠を添えて示すことができれば、検察官が不起訴としたり、刑事裁判の判決が軽い方向へと傾きやすくなったりする可能性が高まるでしょう。
どのような要素が有利な事情となるのかは、個別の事案によって異なります。
個人で判断して対応するのは困難なので、経験豊富な弁護士にサポートを依頼するとよいでしょう。 -
(3)一早い身柄解放が狙える
逮捕や勾留は、罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれを要件として行われます。路上痴漢でいえば、被害女性との接触可能性が大きな理由になります。一方で、路上で見知らぬ相手ということであれば、基本的に接触する手段は乏しいことになります。そのため、適切な計画と監督体制を作れば、身柄解放が認められる可能性は十分にあります。
5、まとめ
路上痴漢は、都道府県の迷惑防止条例違反か、刑法の強制わいせつ罪にあたる犯罪行為です。
その場から逃げても警察の捜査によって被疑者として特定され、後日逮捕される可能性も高いので、逮捕や厳しい刑罰を避けたいなら積極的な解決を図ったほうが利口です。
路上痴漢に心あたりがあり、できるだけ穏便に解決したいと望むなら、今すぐ弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
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