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路上痴漢で逮捕されたら何罪? 逮捕・前科を回避する方法


路上で見知らぬ人の身体を触った場合、たとえその場を逃げ切ったとしても、後日になって防犯カメラ映像や目撃証言などから身元が特定され、逮捕される可能性は十分にあります。
そして一度逮捕されると、最大で23日間にも及ぶ身体拘束、起訴による前科のリスク、社会生活への重大な影響が生じかねません。
本コラムでは、路上痴漢で問われる罪や後日逮捕のリスク、前科を避けるために取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事で分かること
- 痴漢行為が迷惑防止条例違反か不同意わいせつ罪のどちらになるかの基準
- 路上痴漢で後日逮捕された実例
- 逮捕や前科を避けるために弁護士ができること
1、路上痴漢で問われる罪とは? 罪名や刑罰の重さ
痴漢行為が犯罪であることは広く知られていますが、実は「痴漢」という名称の罪は法令上存在しません。
路上での痴漢行為を含め、痴漢行為は各都道府県が定める「迷惑防止条例」違反、または刑法上の「不同意わいせつ罪」(旧:強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪)のいずれかによって処罰されます。
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(1)迷惑防止条例違反が適用されるケース
痴漢行為を取り締まる代表的な規定は、各都道府県が制定している「迷惑防止条例」です。
迷惑防止条例は、一般市民に迷惑をかける暴力的な不良行為などを防止して市民生活の平穏を維持する目的で定められています。
迷惑防止条例という名称は総称で、たとえば東京都では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」というのが正式名称です。
例:東京都の場合
東京都の迷惑防止条例 第5条1項1号では、以下の行為を禁止しています。公共の場所・乗り物において、衣服そのほか身に着ける物の上から、または直接、人の身体に触れる行為
この行為が、正当な理由がなく、相手を著しい羞恥心や、不安を与える場合は、条例違反として処罰の対象となります。
東京都では、以下の罰則が定められています。- 初犯の罰則は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 常習と判断された場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
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(2)不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪)が適用されるケース
もうひとつ、痴漢行為に適用される可能性があるのが「不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪)」です(刑法第176条)。
・対象年齢
不同意わいせつ罪は、その同意なく、または同意が自由な意思に基づかない状態で、わいせつな行為をした者を処罰の対象としています。
・処罰の対象
暴行や脅迫に限らず、相手の自由な意思を抑圧する程度の有形力の行使、威迫、あるいはその意思形成に影響を与える行為も処罰の対象となります。
たとえば、強く押さえつける行為や、抵抗を困難にさせる態様の痴漢行為そのものも不同意わいせつ罪に該当し得ます。
・法定刑
法定刑は6か月以上10年以下の拘禁刑とされ、罰金刑の規定はありません。 -
(3)迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪を区別する基準
痴漢行為について、迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪)のどちらが適用するのかという明確な基準は存在しません。
一般的に、衣服の上から胸や尻などを触るなど比較的軽微な行為は「迷惑防止条例違反」、衣服の下に手を差し入れて身体を触る行為や、衣服の上からでも陰部を触れる行為など、悪質性が高い場合は「不同意わいせつ罪」が適用される傾向にあります。
この区別は、行為の態様や悪質性、「被害者の同意の有無」「羞恥心・恐怖心への影響度」など総合的な事情により判断されます。
また、わいせつ行為の強度が高いほど、刑罰も重くなり、不同意わいせつ罪が適用される可能性が高まります(刑法第176条)。
たとえば、衣服の上からでも執拗(しつよう)に胸を触る、強く尻をもむといった行為があった場合には、単なる迷惑防止条例違反では済まず、不同意わいせつ罪で立件されるリスクが高まると考えておくべきでしょう。
2、路上痴漢は逃げても後日逮捕される?
痴漢行為は、被害者本人や助けを呼ぶ声を聞いた周囲の人などによって確保され、現行犯逮捕されるケースが多いという特徴があります。
そのため、「その場から逃げ切ることさえできれば逮捕されないのでは」と考える人がいるかもしれませんが、その考え方は間違いです。たとえ逃走できた場合でも、後日逮捕される可能性があります。
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(1)通常逮捕(後日逮捕)と現行犯逮捕の違い
項目 通常逮捕(後日逮捕) 現行犯逮捕 逮捕できる人 原則、警察官・検察官 警察官・検察官・私人(一般市民) 逮捕状の必要性 必要(裁判官が発付) 不要 逮捕されるタイミング 犯行から時間が経過した後でも可能 犯行中または犯行直後に限る 逮捕の理由・要件 犯罪の嫌疑+逃亡や証拠隠滅のおそれ 犯行現場での目撃・現認 逮捕後の流れ 勾留・起訴など通常通り進行 通常逮捕と同じ
・後日逮捕とは
いわゆる後日逮捕とは、裁判官が発付した令状にもとづいて逮捕する「通常逮捕」を指します。通常逮捕は日本国憲法の令状主義に従った原則的な逮捕で、逮捕の基本形といえるでしょう。
・現行犯逮捕とは
もう一方の現行犯逮捕は、犯罪が行われている最中やその直後に執行される逮捕です。
現場で犯行を直接目撃しているため、犯人の取り違えリスクが低く、緊急性も高いことから、裁判官の令状を待たずにその場で逮捕できます。
さらに、現行犯逮捕に限り、警察官などの捜査機関だけでなく、一般市民(私人)でも逮捕を行うことが許されています(刑事訴訟法第213条)。
・「通常逮捕」と「現行犯逮捕」の違い
なお、通常逮捕と現行犯逮捕は「逮捕に至る要件」が異なるだけであり、逮捕後の手続きや適用される罪の重さに違いはありません。 -
(2)「痴漢=現行犯でなければ逮捕できない」は誤解
たしかに痴漢行為は現行犯逮捕されるケースが多い犯罪です。
しかし、痴漢を含め、どのような犯罪であっても「現行犯でなければ逮捕できない」というルールは存在しません。
日本国憲法では、令状主義(憲法第33条)を掲げており、原則として逮捕は裁判官の発付する逮捕状に基づく「通常逮捕」で行うべきものとされています。
つまり、通常逮捕できない犯罪は基本的に存在せず、痴漢事件も例外ではありません。
たとえ路上痴漢の犯行後に逃走できたとしても、警察はさまざまな捜査手法を駆使して被疑者の特定を行います。
たとえば、防犯カメラの映像解析や、目撃者からの証言の収集によって容疑者を絞り込むケースが多くあります。また、被害者の身体や着衣、現場に遺留されたDNAなどの科学的証拠(鑑識資料)によって特定されることも珍しくありません。
完全に証拠を残さずに犯罪を遂行することは、現実にはほぼ不可能です。
現行犯で逮捕されなかった場合でも、後日逮捕される可能性は十分にあることを認識しておきましょう。 -
(3)路上痴漢で後日逮捕された実例
実際に、全国では路上痴漢で後日逮捕された事例が数多く存在しています。
- 路上を歩いていた20代女性の太ももや尻を触った男が、約2か月後に強制わいせつの被疑で逮捕
- 路上で30代女性の尻を触った男が、約4か月後に迷惑防止条例違反の被疑で逮捕
- 路上で自転車に乗っていた女子高生に対して自転車で追い抜きざまに身体を触った男が、2日後に迷惑防止条例違反の被疑で逮捕
事件発生から数日~数カ月を経て逮捕された事例が多いので、現行犯逮捕されなくても安心してはいけません。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、路上痴漢で逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
路上痴漢をしたことが発覚して警察に逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
刑事手続きの流れを順に確認していきます。

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(1)逮捕・勾留による身体拘束を受ける
警察に逮捕されると、まず48時間以内の身体拘束を受けます。
取り調べなどを終えると検察官のもとへと送致され、ここでもさらに24時間以内の身体拘束を受けることになります。ここまでが逮捕の効力による身体拘束です。
さらに検察官からの請求によって裁判官が勾留を許可すると、10日間の身体拘束が始まります。
勾留が許可されると警察での身体拘束が続き、検察官の指揮のもとで警察が取り調べなどの捜査が進められます。
10日間で捜査が遂げられなかった場合は一度に限り10日間以内の延長が可能なので、勾留の期限は最低10日間・最大20日間です。
逮捕段階で最大72時間、勾留段階で最大20日間、合計すると最大で23日間にわたって社会から隔離されてしまうので、社会的な悪影響は避けられません。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴等のその後の処遇を決定します。
起訴とは刑事裁判を提起することで、不起訴とは刑事裁判の提起を見送るという意味です。
日本の法律では、公平な裁判を経て有罪とならなければ刑罰は科せられないので、起訴されるか、不起訴となるかは、刑罰を科せられるかどうかの瀬戸際になるといえます。
起訴されると被疑者の立場は刑事裁判を受ける「被告人」となり、一時的な身体拘束の解除である保釈が認められない限り、刑事裁判が終わるまで釈放されません。
一方で、不起訴となると刑事裁判が開かれないので身体拘束の必要もなくなり、即時釈放されます。 -
(3)刑事裁判が開かれる
検察官の起訴からおよそ1~2か月後に初回の刑事裁判が開かれます。
以後、おおむね1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の公判を経て最終回の日に判決が言い渡されるのが一般的な流れです。
罰金が言い渡されれば期限内に納付することで刑が終了しますが、懲役が言い渡され執行猶予が付かなければ刑務所へと収監されてしまいます。
4、路上痴漢での逮捕や前科がつくことによる影響とは?
路上痴漢で逮捕されると、実名報道や職場・学校での処分、資格への影響など、思わぬ不利益を受けるおそれがあります。
ここでは、痴漢事件による社会的・法的な影響について解説します。
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(1)実名報道の可能性
痴漢事件で逮捕されると、報道機関によって実名報道される可能性があります。
特に、再犯や悪質性の高いケース、被害者が未成年の場合などは報道されやすく、ネット上に半永久的に情報が残るおそれもあります。一度名前が出れば、名誉や信用の回復は極めて困難です。 -
(2)会社や学校で処分を受ける可能性
痴漢で逮捕された事実が勤務先や通っている学校に知られると、懲戒処分や退学処分の対象になることがあります。たとえ不起訴であっても「警察沙汰になった人物」として扱われ、職場復帰や就学継続が困難になるケースもあるため、初動対応が極めて重要です。
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(3)一部の資格・職業に制限が生じる
痴漢事件で前科が付くと、一定の資格や職業に就けなくなる可能性があります。
たとえば、- 教員
- 保育士
- 公務員
- 士業(弁護士・行政書士など)
は欠格事由に該当し、資格の取得や登録が認められない場合があります。
職業の選択肢を狭めないためにも、前科の回避は重要です。
5、路上痴漢で逮捕の回避、前科をつけないためにできること
路上痴漢で逮捕された場合でも、適切な対応をとることで処分を軽減できる可能性があります。
ここでは、逮捕や前科を避けるために検討すべき具体的な行動について解説します。
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(1)自首する
路上痴漢をしてしまった場合、自ら警察に出頭して罪を認める「自首」によって、刑事処分の軽減や逮捕の回避が期待できる場合があります。
そのため、正しい手続きで自首を行うためには、まず弁護士に相談し、弁護士が同行するかたちで出頭するのが望ましいです。
自首が成立するには、捜査機関に犯行が発覚する前に、自発的に申し出る必要があります(刑法第42条)。
ただし、自首のつもりでも、発覚後であれば法的な意味での自首とみなされない可能性があります。
事前に弁護士と相談して対応すれば、身体拘束を避ける可能性が高まり、処分の軽減にもつながります。 -
(2)被害者と示談交渉をする
路上痴漢事件で逮捕や前科を避けるために極めて重要なのが、被害者との示談交渉です。
示談が成立すれば、被害者の処罰感情が和らいだと評価され、不起訴や軽い処分につながる可能性があります。
しかし、痴漢事件では被害者が見知らぬ相手であることが多く、加害者が直接連絡を取るのは不可能です。
また、被害者は強い感情を抱いている場合もあり、加害者本人からの連絡には応じないケースも少なくありません。
このような場合でも、弁護士に依頼すれば、捜査機関を通じて被害者側の意向を確認しながら、慎重に示談交渉を進めることが可能です。
早期に弁護士に相談することで、事件の穏便な解決が見込めるでしょう。 -
(3)弁護士に相談する
路上痴漢で逮捕や前科を避けたい場合は、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、適切な自首や示談交渉を通じて、不起訴や処分の軽減、身体解放の可能性を高める弁護活動を行うことができます。
次章では、弁護士に依頼することでどのようなサポートが受けられるかを詳しく解説します。
6、路上痴漢で逮捕や厳しい刑罰を避けたいなら弁護士に相談を
路上痴漢をしてしまい、逮捕による身体拘束や厳しい刑罰を避けたいと望むなら、弁護士への相談を急ぐべきです。
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(1)示談成立に向けて粘り強い交渉ができる
痴漢事件で示談を検討する際には、弁護士を通じて交渉をしましょう。
具体的には、被害者の感情やプライバシーへの配慮、慎重な連絡手段の選定、謝罪文や示談書の作成など、刑事事件特有の配慮が求められます。
弁護士は、被害者側との距離感を考慮しながら、状況に応じて柔軟な対応を行い、被害者の意思を尊重した形で話し合いを進めることが可能です。
また、示談の進捗(しんちょく)状況などを捜査機関へ丁寧に伝えることで、事件の終結に向けた判断材料を提供する役割も担います。
こうした対応を通じて、示談成立の可能性を高め、早期の解決につながることが期待されます。 -
(2)厳しい刑罰の回避に向けた弁護活動が期待できる
少しでも刑罰を軽減したいと望むなら、加害者にとって有利となる事情を集める活動が欠かせません。
- 前科前歴のない初犯で深く反省している
- 家族が監督強化を誓約している
- すでに謝罪と弁済を尽くして被害者との示談が成立している
- 性的な嗜好(しこう)を矯正するための医学的なプログラムに取り組む姿勢がある
このような事情を客観的な証拠を添えて示すことができれば、検察官が不起訴としたり、刑事裁判の判決が軽い方向へと傾きやすくなったりする可能性が高まるでしょう。
どのような要素が有利な事情となるのかは、個別の事案によって異なります。
個人で判断して対応するのは困難なので、経験豊富な弁護士にサポートを依頼するとよいでしょう。 -
(3)早期の身体拘束からの解放に向けた対策がとれる
逮捕や勾留は、罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれを要件として行われます。路上痴漢でいえば、被害女性との接触可能性が大きな理由になります。
一方で、路上で見知らぬ相手ということであれば、基本的に接触する手段は乏しいことになります。そのため、適切な計画と監督体制を作れば、身体拘束からの解放が認められる可能性は十分にあります。
7、路上痴漢は後日逮捕のリスクも。早期に適切な対応をとることが重要
路上で見知らぬ女性の身体を触る行為は、たとえその場で逃げたとしても、防犯カメラ映像や目撃証言などから特定され、後日逮捕される可能性があります。
こうした行為は、各都道府県の迷惑防止条例違反や、不同意わいせつ罪(旧:強制わいせつ罪)に該当する可能性があり、有罪となれば罰金刑や拘禁刑といった重い処分を受けることになります。
また、実名報道や職場・学校への影響、資格制限など、刑事処分以外にも社会的なダメージは大きく、今後の人生に深刻な影響を及ぼすおそれもあるのです。
路上痴漢に心あたりがあり、できるだけ穏便に解決したいと望むなら、今すぐ弁護士に相談してアドバイスを受けましょう。
痴漢事件の解決は、ベリーベスト法律事務所におまかせください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、逮捕の回避や処分の軽減を目指して全力でサポートします。

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