交通の危険を発生させる煽り運転は、近年世間の関心を集めています。加害者の危険な行為をとらえた映像がニュースなどで流れる機会も多いので、運転中にカッとしてしまう、頭に血が上ると運転が荒くなってしまう、煽り運転をしてしまったことがあるという方は気になる話題ではないでしょうか。
通常、不注意から起こした交通事故で被害の程度が軽い場合は、警察から事情は聴かれますが、逮捕や長期間の身柄拘束にいたるケースはまれでしょう。
しかし、煽り運転による事故は危険性や悪質性が高いので、逮捕されて実刑判決を受ける可能性もあります。具体的にはどのような罰を受けるのでしょうか。逮捕後の流れなどとあわせて解説します。
1、煽り運転はどのような法令違反や刑罰に該当するのか
煽り運転は、重大な交通事故につながりかねない危険かつ悪質な運転を指します。たとえば次のような行為が該当するでしょう。
- 車間距離を極端につめる
- 危険な幅寄せをする
- 強引に割り込む
- クラクションを鳴らしながら前方の車両を追いかける
令和元年12月の段階で、煽り運転自体が直接罰せられる法律はありません。しかし行為の内容や結果によって複数の法令に違反する可能性があります。
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(1)煽り運転を理由とする法令違反と刑罰
煽り運転により、道路交通法違反、刑法上の危険運転致死傷罪、暴行罪などに該当する可能性が考えられます。
- 道路交通法 煽り運転は、道路交通法が定める「車間距離の保持義務」「進路の変更の禁止」「急ブレーキの禁止」などに違反します。
- 危険運転致死傷罪 危険運転致死傷罪とは「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の第2条に規定された罪です。人や車の通行を妨害する目的で重大な危険を生じさせる方法で運転をし、人を負傷または死亡させると適用されます。
- 暴行罪 暴行罪とは、「刑法」の第208条に規定された罪で、人の身体に対し不法な有形力を行使する犯罪です。暴行罪と聞くと、直接的に暴力を与える、つまり殴る蹴るというケースを想像する方が多いかもしれません。しかし、暴行罪の成立には必ずしも直接的な身体への接触を要しません。そのため、歩行者や他の自動車に対して危険を生じさせるような運転に対しても適用されています。
平成29年には、警察庁が煽り運転に対して直接の暴力がなくても積極的に暴行罪での立件を検討するよう全国の警察に指示をだしたという報道がありました。今後も、暴行罪で逮捕されるケースがあるかもしれません。 -
(2)煽り運転から発展した行為で該当する可能性がある刑罰
煽り運転から、さらにエスカレートした行為に発展するケースもあります。
たとえば、無理やり割り込んで相手の車両を道路上で停止させ、窓を開けさせて暴力を加えて怪我をさせる、「殺す」と叫ぶなどの行為です。この場合は道路交通法違反にとどまらず、傷害罪(刑法第204条)や脅迫罪(刑法第222条)などが適用される可能性があります。
平成30年7月の堺市で起きた煽り運転の事案では、被告人が殺人罪に問われており最高裁での決着が待たれています。
その他、煽り運転でほかの車両に追突すれば、故意に物を壊したとして器物損壊罪に問われる可能性もあるでしょう。
※ 令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
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2、煽り運転で実刑になった場合
まず、煽り運転で適用される可能性がある罪名別の法定刑を確認しておきましょう。
- 危険運転致死傷罪 人を負傷させると15年以下の懲役、死亡させると1年以上の有期懲役に処せられます。
- 暴行罪 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留(1日以上30日未満の刑事施設拘置のこと)若しくは科料(1000円以上1万円未満の罰金のこと)に処せられます。
- 脅迫罪 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。
- 殺人罪 死刑または無期懲役、若しくは5年以上の懲役です。
「実刑」とは、執行猶予がつかない懲役又は禁錮にあたる有罪判決を受けたことを指します。
上記のいずれの犯罪にも懲役刑が含まれています。実刑になれば社会生活から隔離され、刑期中は刑務所で過ごすことになります。
実刑と聞くと、殺人や強盗などいわゆる重罪と呼ばれる犯罪のイメージがあるかもしれません。しかし、煽り運転でも行為様態が悪質である、再犯であるなどの事情があれば、実刑を受ける可能性は十分にあるといえるでしょう。
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3、煽り運転で逮捕される可能性
現場から逃げてしまえば逮捕される可能性は低いと考える方もいるかもしれません。しかし、後日逮捕される可能性もあります。
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(1)証拠が残りやすい
煽り運転が多発していることを受けて、自身の車両にドライブレコーダーを搭載する人が増えています。また、被害車両の助手席に乗っている人や、煽り運転を目撃したほかの車両の搭乗者などがスマートフォンのカメラで撮影するケースもあります。
これらの映像により、違法行為をする車両のナンバーや、煽り運転の行為そのものが記録として残るため、警察に提出されれば有力な証拠になります。また、現場から逃げたとしても、これらが証拠となり後日逮捕されるという可能性があります。
その他、撮影者がSNSや動画サイトなどに投稿して拡散され、事件が発覚するケースも考えられます。インターネット上に、違法な行為とあわせて顔なども掲載されるとそれが残ってしまう可能性もあり、日常生活への影響も否定できません。インターネット上で身元などが晒されてしまい、本人のみならず家族へ影響が及ぶことも考えられます。 -
(2)煽り運転は厳罰化の方向に
令和元年12月、警察庁は道路交通法を改正し、「あおり運転罪」を設けて直接規制する方針を固めました。懲役刑の導入や違反行為1回のみによる免許の取り消し、免許の再取得までに少なくとも1年以上必要とするといった運用も検討しているようです。
煽り運転を原因とする悲惨な事故や社会的関心の高まりを受け、厳罰化の方向に動いていることは間違いないでしょう。
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4、煽り運転で逮捕された場合、弁護士ができること
煽り運転で逮捕されると、警察で最長48時間にわたって取り調べを受けることになります。その後、検察官へ事件が送致され、24時間以内に勾留請求をするか判断されます。
この72時間、外部との連絡や面会は原則として許されません。そのため、取り調べへの対処法を自分ひとりで考えなければいけません。この期間に面会でき、アドバイスや捜査機関への働きかけができるのが弁護士です。
特に、早い段階で取り調べの対応を知っておくのは有効です。
また、被害者と示談をする場合でも、弁護士が力になることができるでしょう。
被害者が、煽り運転をされたことで恐怖や怒りを感じていることも考えられ、加害者本人はもちろんのこと、加害者家族に会うことを拒まれることも想定されます。このような場合も、弁護士が間に入ることで、示談交渉に応じてもらえる可能性が高まるでしょう
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5、まとめ
令和元年において、煽り運転を直接規制する法律はありません。しかし道路交通法違反や暴行罪などが適用される可能性があります。煽り運転から発展したトラブルによって、脅迫罪や殺人罪に問われるケースもあり得るでしょう。煽り運転罪がないからといって、煽り運転をしても罰せられない、ということではありません。
昨今は、ドライブレコーダーやスマートフォンの普及により、煽り運転の証拠が残されるケースが増えています。警察も煽り運転の撲滅に向けて積極的な活動を続けているので、証拠をもとに捜査が始まり逮捕される可能性は高いといえるでしょう。
煽り運転をしてしまった方も、まずは弁護士へ相談することをご検討ください。状況を整理し、今後の対応についてアドバイスします。また、ご家族からの相談も受け付けています。特に、ご家族が逮捕されてしまった場合には、迅速な対応が求められますので、ぜひベリーベスト法律事務所にお問い合わせください。
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