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弁護士コラム

2022年09月07日
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  • 死刑
  • 少年法

少年法改正のポイント 死刑になるような重い事件はどう扱われる?

少年法改正のポイント 死刑になるような重い事件はどう扱われる?
少年法改正のポイント 死刑になるような重い事件はどう扱われる?

令和4年4月1日から、改正少年法が施行されます。少年法の改正を巡ってさまざまな議論が活発化していたため、その行方に注目していた方も多いのではないでしょうか。死刑に該当するような少年の重大事件はどのように扱われるのかも気になる点かもしれません。

今回の改正では、少年法の適用となる20歳未満の少年のうち、18歳と19歳の年長少年に関する特別の規定が定められました。今後、18歳と19歳の少年が犯罪や非行におよんだ場合には、18歳未満の少年とは異なる取り扱いがなされます。

本コラムでは、改正少年法を取り上げ、改正の主なポイントや各方面で指摘されている課題などについて解説します。あわせて、近年の少年事件で死刑が確定した事例も紹介します。

1、少年法とは

少年法改正のポイントを知る前に、まずは少年法の概要や特徴を確認しておきましょう。

  1. (1)少年法の定義・目的

    少年法とは、少年の健全な育成を図るため、非行少年に対する処分やその手続きなどについて定めた法律です。非行少年に対する少年審判の手続きや、例外的に成人と同じ刑事手続きを受けることになった場合の取り扱いなどを定めています。

    少年法の目的は、少年の健全な育成を図り、非行のある少年に対して性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることです(少年法第1条)。犯罪や非行をした少年に適切な矯正教育を与え、その少年の個性に見合った成長発達を遂げさせることを理念としています。

  2. (2)少年法の特徴

    成人の刑事事件では、検察官が起訴または不起訴処分を決定し、起訴された場合は刑事裁判で審理され、有罪になると刑罰(懲役、罰金など)を科される仕組みになっています。

    一方、少年事件では検察官が処分を決めるのではなく、すべての事件が家庭裁判所に送致され、家庭裁判所が処分を決定します。これを全件送致主義といいます。家庭裁判所は、少年に対し、原則として刑罰ではなく保護処分(少年院送致など)を課します。

    少年はいまだ成長・発達の過程にあることから、成人のように制裁を目的とした刑罰を与えるのではなく、少年が更生するためにもっとも適した処分を与えることが必要だと考えられているのです。

  3. (3)家庭裁判所による保護処分とは

    家庭裁判所が少年を更生させるためにくだす処分を保護処分といいます。

    家庭裁判所に送致されると、家庭裁判所の調査官が少年の生い立ちや家庭環境、性格などさまざまな観点から調査し、心理テスト、行動観察なども行います。家庭裁判所はこの調査の結果を受けて保護処分を決定します。

    保護処分は以下の3種類です。


    • 保護観察……保護観察官や保護司の指導・監督のもとで更生を図る処分です。施設に収容されることはなく、遵守事項を守りながら会社や学校へ行くなどの社会生活を送ります。
    • 少年院送致……少年院に収容して矯正教育を受けさせる処分です。社会の中での更生が難しいと判断された場合に適用され、保護処分の中でもっとも重い処分にあたります。
    • 児童自立支援施設等送致……比較的低年齢の児童が非行をした場合に、開放的な施設に入所させて必要な指導を行う処分です。


    また家庭裁判所が行う処分には保護処分以外にも以下のものがあります。


    • 検察官送致
    • 知事または児童相談所長送致
    • 不処分
    • 審判不開始
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2、少年に対する死刑判決の最高裁判例(石巻3人殺傷事件)

【平成26(あ)452 最高裁判所 平成28年6月16日】
ここで、犯行時少年だった被告人の死刑判決が確定した事例を紹介します。平成21年に裁判員裁判制度が始まって以降で、少年の被告人に初めて死刑が言い渡された事件として注目を集めた事例です。

当時18歳だった被告人は、同棲相手の女性に対して模造刀や鉄棒で数十回全身を殴打するなどの激しい暴行を加え、全治約1か月を要する傷害を負わせたため、女性は自身の実家に身を寄せました。被告人は女性を略取しようと考えて女性の実家に侵入したものの、女性の身を案ずる女性の姉に阻まれ、また女性の友人が警察に通報したため逃げ出すのを余儀なくされました。

そこで被告人は女性を取り返すことを邪魔する者を殺害しようと考え、翌日、女性の実家において女性の姉、友人を牛刀で胸部などを突き刺して殺害し、その場に居合わせた姉の知人にも傷害を負わせ、さらに女性を車に乗せて略取したというものです。

被告人は無抵抗の姉の肩をつかみながら腹部を牛刀で突き刺した上で2、3回前後に動かす攻撃を加え、命乞いをする女性の友人の胸などを数回突き刺すなどしていました。

裁判所は、被告人の動機は身勝手で酌むべき余地はなく、殺害行為の様態も冷酷かつ残忍であり、被告人の深い犯罪性に根ざした犯行というほかないと指摘しました。被告人が当時18歳で前科がないこと、一定の反省の念や被害者および遺族に対する謝罪の意思を表明していることなど被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、被告人の刑事責任は極めて重大であって、第二審が維持した第一審の死刑判決を是認せざるを得ないとしました。

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3、少年法改正の背景

今回の少年法改正はどのような背景のもとで行われたのでしょうか?死刑があり得るような重大犯罪に関する改正はあったのでしょうか?

  1. (1)少年事件の厳罰化を求める声

    現行の少年法は昭和23年7月に公布されて以来、何度も改正が行われてきました。

    平成期には、社会に強い衝撃を与える少年事件が相次ぎ、大々的に報道されたことで少年事件の厳罰化や被害者保護の必要性が叫ばれるようになりました。平成9年には当時14歳の少年が小学生5人を殺傷した「神戸児童連続殺傷事件」、平成11年には当時18歳の少年が主婦の女性と乳児を殺害した「光市母子殺害事件」などが起きています。

    光市母子殺害事件の加害者である少年については、平成24年に死刑判決が確定し、再審請求が行われていましたが、令和2年12月に最高裁が特別抗告を棄却し、再審開始を認めない判断が確定しました。

    少年による凶悪重大事件を背景に、平成13年4月には少年法が約半世紀ぶりに改正されました。刑事処分を可能とする年齢が「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられ、犯行時16歳以上で故意の犯罪行為により人を死亡させた事件は原則として検察官に逆送される、いわゆる原則逆送事件が新設されるなど、大規模な改正が行われています。

    その後も少年による凶悪重大事件が起こるたびに少年事件の厳罰化を求める声が強まり、世論に応えるかたちで少年法は改正を重ねてきました。平成19年11月の改正では少年院送致の対象年齢が「14歳以上」から「おおむね12歳以上」に拡大され、平成26年5月の改正では不定期刑の長期と短期の上限について「10年」と「5年」から「15年」と「10年」に引き上げられるなどしています。

    今回の改正も、厳罰化を求める世論や少年犯罪の被害者、遺族の声が背景にあります。

  2. (2)18歳以上20歳未満の少年に関する法改正

    近年に行われた18歳以上の少年の権利に関する法改正も、今回の少年法改正の大きなきっかけとなりました。

    平成26年6月には憲法改正のための国民投票に関する手続きを定める「日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票法)」の改正法が施行され、憲法改正国民投票の投票権年齢が18歳に引き下げられました。また平成28年6月には公職選挙法の改正法が施行され、選挙権年齢が18歳に引き下げられています。さらに平成30年6月には民法の一部を改正する法律が成立し、民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、令和4年4月1日から施行されます。

    このように、18歳以上20歳未満の少年は成人と同じく重要な権利や自由を認められるようになり、責任ある立場としての社会への参加が期待されるようになりました。そこで少年法についても、重大な罪を犯した場合には18歳未満の少年より重い責任を負うべきだとの議論が高まり、今回の改正で18歳・19歳の少年に関する変更が行われています

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4、少年法改正におけるポイント

令和3年5月、少年法等の一部を改正する法律が成立し、令和4年4月1日から施行されます。少年のうち、18歳と19歳の少年に関するさまざまな改正が行われたので、主な改正点を取り上げ、ポイントを解説します

  1. (1)「特定少年」の規定の追加

    少年法における少年とは20歳に満たない者をいいます(少年法第2条1項)。性別は問われないため男児も女児も対象です。

    今回の改正にあたり、少年法における少年の年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるかどうかが社会の大きな関心事でした。世論は賛否が分かれ、少年の年齢引き下げなどに関する審議を続けてきた法制審議会少年法・刑事法部会の採決までには約3 年半という長期を要しましたが、最終的には年齢の引き下げ自体は見送られました。したがって、20歳未満の少年が非行や犯罪をした場合はこれまで通り家庭裁判所による保護処分などの処分を受けることになります。

    しかしその代わり、改正少年法では第5章に「特定少年の特例」が追加されることになりました。特定少年とは18歳以上の少年、つまり18歳と19歳の者をいいます。

    今後、特定少年については18歳未満の少年とは異なるカテゴリーとして扱われ、これまで20歳未満の少年すべてに適用されてきた多くの規定が除外されるなどし、より成人に近い取り扱いがなされるようになります。以前であれば家庭裁判所の保護処分を受けたようなケースでも、今後は成人と同じように刑罰を科されるケースが増えると予想されており、事実上の厳罰化だと言われています

  2. (2)逆送事件の対象が拡大

    少年事件は、すべての事件が警察や検察、あるいは児童相談所から家庭裁判所に送致されますが、一定の場合には家庭裁判所がふたたび検察官に送致し、成人と同じように刑事手続きを受けることになります。これを「逆送」といいます。

    一定の場合というのは①調査の結果、家庭裁判所が刑事処分を相当だと判断した場合と②法律で原則として逆送することが定められている事件(原則逆送事件)だった場合です。

    ① 刑事処分が相当と認める場合の対象事件の限定がなくなる
    現行法では、家庭裁判所が刑事処分を相当だと認めて検察官に逆送する事件は「死刑、懲役、または禁錮にあたる罪の事件」に限定されています(少年法第20条1項)。

    しかし改正後は、特定少年に関しては事件の限定が撤廃されるため、刑事処分が相当だと判断されれば、すべての事件で逆送されます。たとえば、これまでは法定刑が罰金刑以下の過失傷害(刑法第209条)などの軽微な犯罪で逆送されることはありませんでしたが、今後はこれらの犯罪でも検察官に送致されるケースが出てくる可能性があります。

    ② 原則逆送事件の範囲が拡大される
    現行法では、「16歳以上の少年のとき犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」のみが原則として逆送される事件として定められています。たとえば殺人罪(刑法第199条)や傷害致死罪(同第205条)などの事件が該当します。

    しかし改正後は上記に加え、特定少年のときに起こした事件については「死刑、無期、法定刑の下限が1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」も原則逆送事件となります。

    「被害者を死亡させた」という要件を満たさなかったために原則逆送事件の対象にならなかった現住建造物等放火罪(刑法第108条)、強制性交等罪(同第177条)、強制わいせつ致傷(同第181条1項)、強盗罪(同第236条)なども、新たに原則逆送対象事件に加えられます。

    たとえば現住建造物等放火罪は現に人が住居に使用し、現に人がいる建造物などを焼損する犯罪であり、人を死亡させるおそれが極めて高いことから、法定刑には「死刑」が含まれています。

    改正前はこのような死刑になり得る重大犯罪であっても、家庭裁判所が刑事処分を相当だと判断した場合に限って検察官に送致されていたため、保護処分で済まされるケースもありました。しかし今後は特定少年については原則逆送されるため、成人と同じように刑罰を科されるおそれが強まったことになります。そのため、法律上は「死刑が適用される範囲が拡大した」と考えられます

    もっとも、少年法第55条では、逆送された事件であっても、裁判所が事実審理をした結果、少年を保護処分に付することが相当だと認めるときは家庭裁判所に移送しなければならないと定めており、この規定は改正後も維持されます。すなわち特定少年が検察官に送致された場合でも必ず刑罰を科されるわけではなく、ふたたび家庭裁判所に戻され、保護処分を受ける可能性もあるということです。

    ③ 死刑が適用される範囲はこれまで通り
    少年事件の死刑適用に関して、現行法では18歳未満の少年に死刑を言い渡すべきときは必ず無期刑に緩和される規定がありますが、18歳と19歳の少年はもともとこの規定の対象外です(少年法第51条1項)。
    したがって、特定少年は事件の内容によっては死刑判決が言い渡される場合があります

    人間性の未熟さや周囲の環境による影響などから犯行におよぶケースも多い少年に関しては、18歳未満にとどまらず、18歳と19歳の少年も死刑が緩和されるべきだとの指摘もありますが、今回の改正でも死刑緩和が18歳未満のみに適用される規定はそのまま残りました。

    もっとも、少年の死刑適用については慎重論も根強く、実際の事件で死刑が求刑されたケースはそれほど多くはありません。


    【改正前】
    (少年法第20条)
    • 1 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
    • 2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。(ただし書き省略)


    【改正後新設】
    (少年法第62条)
    • 1 家庭裁判所は、特定少年に係る事件については、第二十条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
    • 2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。(ただし書き省略)
      一 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るもの
      二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であって、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)
  3. (3)推知報道の一部解禁

    特定少年のときに犯した罪については条件付きで推知報道が解禁されます。

    ① 推知報道の禁止とは
    少年法第61条では、少年審判を受けた少年または少年のときの犯罪で起訴された者について、氏名、年齢、職業、住居、容ぼうなどによって犯人が誰か分かるような記事、写真などを新聞やその他の出版物に掲載してはならない旨が定められています。推知報道の禁止と呼ばれており、報道などにより少年の更生が妨げられないよう設けられている規定です。報道機関ではこの規定にもとづき、少年事件を報道する際には「○○県の無職の少年(19歳)」のように本人を特定できない表現を用いているのでしょう。

    なお、推知報道の禁止が適用されるのは罪を犯したときに少年であった者なので、逆送事件で起訴された時点で20歳に到達しても、本人だと分かるような報道は許されません。

    ② 推知報道の禁止の一部解禁
    特定少年については推知報道の禁止の規定が一部解禁となります。

    民法の成年年齢の改正などにより社会的に責任ある立場となった18歳以上の少年が起訴され公開の裁判で刑事責任を追及されるような事件を起こした場合には、社会的な批判や論評の対象となり得ることが適当だという理由による改正です。これにより、今後は18歳と19歳の少年が刑事事件を起こした場合には実名や写真なども含めて報道されるケースが増えると予想されています

    特定少年の推知報道が可能となるのは、特定少年のときの犯罪で検察官に逆送され、起訴された段階からです。特定少年が起こした事件であっても逮捕された段階や家庭裁判所へ送致された段階の推知報道は引き続き禁止されます。特定少年の事件のすべてに適用される規定ではないため注意が必要です。

    また、検察官に逆送された場合でも、略式起訴だった場合には推知報道は解禁されません。略式起訴とは、非公開での書面審理を求める例外的な起訴手続きをいい、100万円以下の罰金または科料を科すことができる事件で、本人が手続きに同意している場合に適用されます。


    【改正前】
    (少年法第61条)
    家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。


    【改正後新設】
    (少年法第68条)
    第六十一条の規定は、特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については、適用しない。ただし、当該罪に係る事件について刑事訴訟法第四百六十一条の請求がされた場合(同法第四百六十三条第一項若しくは第二項又は第四百六十八条第二項の規定により通常の規定に従い審判をすることとなった場合を除く。)はこの限りでない。
  4. (4)犯情の軽重を考慮した保護処分の決定

    特定少年については、保護処分の決定にあたり「犯情の軽重を考慮すること」が明文化されます。また、特定少年の少年審判の際には、犯情の軽重を考慮して保護処分の期間が明記されるようになります。

    ① 「犯情の軽重を考慮すること」が明文化される
    現行法では、家庭裁判所が少年の保護処分を決める際には、非行事実だけでなく「要保護性」が重視されています。要保護性とは、簡単にいうと少年が将来ふたたび非行に走るおそれがあることをいい、犯罪的危険性、矯正可能性、保護相当性の3つの要素から成り立っています。

    たとえば非行事実が軽微であっても、少年が自分のした行為と向き合えず、家庭環境の改善も見込めないといった場合には要保護性が高いとして少年院送致のような重い処分になる場合があります。反対に、非行事実が比較的重くても、少年が深く反省しており、保護者との関係性も改善されて家庭内での監督に期待できる場合などには要保護性が解消されているとして保護観察となり、社会内で更生を図ることができるケースもあります。

    保護処分の決定に際して要保護性が重要な要素とされるのは、犯した罪や非行事実の大きさのみに着目するのではなく、少年の実情にあった柔軟な保護処分をくだすことで、少年の更生が進みやすいという考え方が根底にあります。これは、犯した罪の重さによって刑罰を科される成人の刑事事件との大きな違いです。

    しかし今回の改正では、特定少年については保護処分を決定するにあたり「犯情の軽重」が考慮されることが条文に明記されます。「犯情」とは犯行様態や犯行動機、被害の重さなど犯罪に関わるすべての事情です。

    明文化により、家庭裁判所が保護処分を決定する際に犯情の軽重を考慮することが強調されたことになります。そのため今後は、更生できる環境が整っているなど要保護性が低い場合でも、柔軟な処分がくだされずに成人と同じように犯した罪の重さに応じた厳しい処分を受けるケースが出てくると予想されています

    ② 保護観察や少年院送致の具体的な期間が示される
    現行法では、保護観察や少年院送致が決定した場合には、少年審判時に具体的な期間が示されることはなく、以下のように規定されています。


    • 保護観察……保護観察を継続する必要がなくなったと認めるとき(更生保護法第69条)
    • 少年院送致……少年院の長の申出があった場合において、退院を相当と認めるとき(更生保護法第46条1項)、第23条第1項に規定する目的(矯正教育の目的)を達したと認めるとき(少年院法第136条1項)


    しかし改正により、特定少年にかかる少年審判の際には以下の期間が明示されることになりました。


    • 保護観察……6か月または2年
    • 少年院送致……3年以下の範囲で定められた期間


    これまでは具体的な期間の明示がなかったため、少年自身や家庭環境の改善状況などに応じて保護観察の解除、少年院の退院を決定することが可能でしたが、特定少年については今後そのような柔軟な措置は難しくなります。


    【改正前】
    (少年法第24条)
    • 1 家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。(ただし書き省略)
      一 保護観察所の保護観察に付すること。
      二 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
      三 少年院に送致すること。


    【改正後新設】
    (少年法第64条)
    • 1 第二十四条第一項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、第二十三条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、少年が特定少年である場合には、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において、決定をもって、次の各号に掲げる保護処分のいずれかをしなければならない。ただし、罰金以下の刑に当たる罪の事件については、第一号の保護処分に限り、これをすることができる。
      一 六月の保護観察所の保護観察に付すること。
      二 二年の保護観察所の保護観察に付すること。
      三 少年院に送致すること。
    • 2 (省略)
    • 3 家庭裁判所は、第一項第三号の保護処分をするときは、その決定と同時に、三年以下の範囲内において犯情の軽重を考慮して少年院に収容する期間を定めなければならない。
    • 4 (省略)
  5. (5)虞犯(ぐ犯)少年の適用除外

    特定少年は虞犯(ぐ犯)少年の適用から除外されることになりました。

    ① 虞犯少年とは
    虞犯少年とは、以下の虞犯事由があり、かつその性格または環境に照らして将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年のことです(少年法第3条1項3号)。


    • 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
    • 正当な理由なく家庭に寄りつかないこと
    • 犯罪性のある人や不道徳な人と交際したり、いかがわしい場所に出入りしたりしていること
    • 自分や他人の徳性を害する行為をする性癖のあること


    たとえば、中学生や高校生の女子が援助交際をして金銭を得ている、お酒を飲んだりたばこを吸ったりといった20歳未満には認められていない行為を繰り返しているケースなどが考えられるでしょう。

    成人の刑事事件では、犯罪行為をしたときに限り、逮捕や起訴などの刑事手続きを受けます。素行が悪く、いつか犯罪に手を染めそうだからといった理由で刑事手続きに付されることはありません。

    一方、虞犯は犯罪ではありませんが、家庭裁判所に送致されて少年審判に付される場合があります。犯罪をしたわけではないのになぜ家庭裁判所に送致されることがあるのか、不思議に感じる方もいるでしょう。
    これは、虞犯の規定が、犯罪には至らない少年を早期に発見して保護を与えることにより少年の健全な育成を図ること、犯罪の発生を未然に防ぐことを目的としているからです。

    虞犯少年が発見された後の手続きについては、14歳未満、14歳以上18歳未満、18歳以上で流れに違いがありますが、現行法上はどの年齢でも要件に該当すれば虞犯少年として扱われる場合があります。

    ② 特定少年は虞犯少年として扱われない
    改正後は、特定少年については虞犯少年として扱われなくなります。特定少年は、民法上は成年にあたり社会的に責任のある立場になるので、将来罪を犯すおそれがあることを理由とした保護処分は行わずに、20歳以上と同じように扱うべきだとの趣旨から改正されました。

    これまでは18歳と19歳の少年は虞犯少年として家庭裁判所に送致されるケースがありましたが、今後は虞犯を理由に送致されることはありません。18歳以上の少年からすると家庭裁判所に送致されるケースが減るため喜ばしいことのように思えるかもしれませんが、犯罪には至らない段階では国の機関から保護を受けることがなくなるため、健全育成が図られずに将来罪を犯してしまうおそれが残ってしまうことになります。


    【改正前】
    (少年法第3条)
    次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
    • 一 罪を犯した少年
    • 二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
    • 三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
      イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
      ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
      ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
      ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。


    【改正後新設】
    (少年法第65条)
    • 1 第三条第一項(第三号に係る部分に限る。)の規定は、特定少年については適用しない。
  6. (6)不定期刑をはじめとする特例の適用除外

    特定少年が逆送され刑事裁判で有期の懲役または禁錮を言い渡される場合は、不定期刑の規定から除外されます。不定期刑以外についても、特定少年は刑事裁判手続きにおけるさまざまな特例の適用から除外されます。

    ① 不定期刑とは
    成人の刑事裁判では、裁判官が判決で有期懲役または有期禁錮を言い渡すときは、たとえば「懲役10年」のように刑期を定めて言い渡します。これを定期刑といいます。また、有期懲役・有期禁錮は刑期の上限が20年と定められていますが、これを加重する場合には最長で30年に引き上げられます。

    一方、現行の少年法では、少年が逆送され、刑事裁判で裁判官が有期懲役または有期禁錮を言い渡すときには、刑の長期と短期の両方が定められます。実際に言い渡される刑期は、たとえば「3年以上6年以下の懲役」のように一定の幅をもたせられます(少年法第52条)。

    この規定を不定期刑といい、日本では少年事件でのみ採用されている規定です。また、不定期刑では刑の長期(上限)は15年、短期(下限)は10年を超えることができません。

    少年法に不定期刑が規定されている趣旨は、可塑性(心や考え方が変化すること)に富む少年は成人と比べると矯正指導により更生する可能性が高いため、刑期に幅をもたせて言い渡すことで弾力的な処遇を図ることです。たとえば刑の執行中に少年が内省を深め、改善が進んだ場合などには社会復帰の時期をはやめることができます。

    ② 特定少年は不定期刑の適用から除外される
    改正後は、特定少年については不定期刑が適用されなくなります。したがって、特定少年が逆送され刑事裁判で有期懲役または有期禁錮を言い渡されるときは、成人の刑事裁判と同じく「懲役7年」のように定期刑が言い渡されます。

    不定期刑における刑の上限規制も適用されないため、特定少年には成人と同じ上限が適用され、刑の上限は最長で30年になります。

    ③ その他特例からの適用除外
    少年法では、少年が刑事手続きに付されることになった場合には不定期刑以外にも以下のような特例を設けていますが、特定少年に関してはこれらの特例の適用から除外され、20歳以上の成人と同様に扱われます。


    • 検察官はやむを得ない場合でなければ勾留を請求できない(第43条3項)
    • 少年の被疑者または被告人は、他の被疑者または被告人と分離して、なるべく接触を避けなければならない(第49条1項)
    • 刑事施設などに収容する際は成人と分離して収容しなければならない(同第3項)
    • 無期刑は7年、不定期刑・有期刑は刑期の3分の1が経過した後に仮釈放することができる(第58条)
    • 少年のときに犯した罪の前科について、人の資格に関する法令の適用を受けない(第60条)
    など


    【改正前】
    (少年法第52条)
    • 1 少年に対して有期の懲役又は禁錮をもつて処断すべきときは、処断すべき刑の範囲内において、長期を定めるとともに、長期の二分の一(長期が十年を下回るときは、長期から五年を減じた期間。次項において同じ。)を下回らない範囲内において短期を定めて、これを言い渡す。この場合において、長期は十五年、短期は十年を超えることはできない。
    • 2 (省略)
    • 3 (省略)


    【改正後新設】
    (少年法第67条)
    • 1 (省略)
    • 2 (省略)
    • 3 (省略)
    • 4 第五十二条、第五十四条並びに第五十六条第一項及び第二項の規定は、特定少年については、適用しない。
    • 5 (省略)
  7. (7)「少年更生」の原則は不変

    今回の改正は18歳・19歳の少年を特定少年と位置づけて18歳未満とは異なる扱いをし、一部の規定で少年法による保護の対象から外すものです

    しかし特定少年も少年法の適用となるという基本的な枠組みは維持されており、原則としてすべての事件で家庭裁判所による保護処分の対象とする点に変わりはありません。18歳・19歳という年長少年であっても20歳以上の成人と比べて十分に成熟しているとは言い難く、それゆえに教育・指導による更生の期待は十分にあるからです。
    少年が更生するために適した処分を行うべきだという少年法の考え方は、特定少年だからとの理由で排除されるわけではありません。

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5、少年法改正における課題

今回の改正では、少年法の適用年齢を下げずに、18歳と19歳の少年に対しても少年法の基本的枠組みを維持することについて評価の声がある一方で、さまざまな課題や問題点が指摘されています。

  1. (1)矯正教育を受ける機会が減るとの指摘

    今回の改正で18歳と19歳の特定少年がさまざまな規定から除外されることにより、矯正教育を受ける機会が減ってしまうとの声があります

    たとえば逆送対象事件の拡大により特定少年の事件では検察官に逆送され、起訴されるケースが増えると予想されますが、刑事裁判の判決には執行猶予がつく場合や罰金などの財産刑が言い渡される場合があります。執行猶予がつけばそのまま社会に戻されて日常生活を送ることになるため、従来なら保護観察所や保護司らの監督指導を受けながら更生を図ることができたのが、その機会が失われます。

    罰金刑についても罰金を納付して事件が終結するため、指導を受ける機会は得られません。年齢的に資力が乏しく、実際には親が罰金を肩代わりして終わってしまうケースもあるでしょう。

    また、家庭裁判所が少年審判で処分をくだす際に犯情の軽重を重視することで、犯情さえ軽ければ不処分や審判不開始などの処分で済まされるケースが出てくるかもしれません。これまでは犯情が軽くても要保護性が高い場合には少年院送致などで矯正指導を受ける機会が与えられたのが、これができなくなります。

    さらに虞犯少年の適用除外についても、家庭環境などの問題から将来罪を犯すおそれがあるにもかかわらず、犯罪行為に及ぶ前に国家の介入により道を正してもらえる機会が失われることになります。

  2. (2)更生可能性が減少するとの指摘

    矯正教育を受ける機会が失われることで、特定少年が更生できる可能性が減少してしまうとの声があります

    これまでは家庭裁判所や少年院、保護観察所・保護司などのきめ細やかな指導により更生することができたケースでも、更生ができなくなるケースも出てくるだろうと問題視されています。特定少年が国の機関の支援を受けられなかった場合、自らの意思や行動のみで更生を目指すことになりますが、20歳以上の者と比べて精神的に未成熟な部分が大きく、国の支援がなければ周囲の環境改善がなされないままのケースも多くなるため、更生は簡単ではないでしょう。

  3. (3)再犯のおそれが強まるとの指摘

    今回の改正は再犯防止の観点から逆効果となるおそれがあるという指摘もあります。矯正教育を受ける機会が減少し、更生可能性も減ることは、特定少年がふたたび罪を犯すおそれにつながるからです。

    改正法では、特定少年にかかる少年審判の際には犯罪の軽重に応じた期間をあらかじめ定めることになったため、少年院送致になった少年の改善状況に応じて弾力的に退院時期を決めることができなくなります。すると、従来であれば早期に社会復帰できたケースでも社会復帰が遅れ、就職で不利になるなどの影響が生じ、自暴自棄になるなどして再犯におよぶケースが出てくるかもしれません。

    推知報道の一部解禁についても、再犯のおそれを加速させるのではないかとの声があります。実名などがひとたび報道されると、仕事や就職に影響が出る、学校に戻りづらくなるなどして居場所が失われ、更生の妨げとなり、さらなる非行・犯罪におよぶおそれがあるとの懸念です。

    昨今はインターネット上での新聞記事の掲載などにより情報が半永久的に残る危険が高いため、推知報道の一部解禁には慎重さと配慮が求められています

  4. (4)その他に問題点として指摘されていること

    その他にもさまざまな点が指摘されています。


    • 厳罰化を必要とする立法事実がない
    • 少年事件は世間の耳目を集めやすいため、報道などの影響もあり少年事件が増加していると思われがちですが、近年の少年事件は件数そのものも、人口比でも減少傾向にあります。これは現行の少年法が犯罪抑止のために有効に機能している証拠であり、厳罰化を必要とする立法事実は存在しないとの指摘があります。

    • 少年法の保護対象年齢をほかの法律と連動させる必要はない
    • 今回の改正は選挙権年齢や民法の成年年齢の引き下げなどを背景にしたものですが、そもそも他の法律が定める権利義務に関する年齢と、少年法の保護対象年齢とを連動させる必要性に乏しいとの声があります。実際、飲酒や喫煙、公営ギャンブルなど、満20歳からでないと許されない規定が維持されているケースも多く存在します。

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6、まとめ

今回の少年法改正では18歳と19歳の少年を特定少年と定義し、18歳未満の少年とは異なる取り扱いをする旨の変更が行われました。特定少年については少年法による保護の規定から除外されるケースが増えるため、事実上の厳罰化にあたると言われています。

一方で、少年の健全育成と更生を目指すという原則は変わらないため、18歳と19歳の少年が刑事事件を起こした場合でも、引き続き少年の状況に応じたきめ細やかな対応が求められます。

自分や身近な方の少年事件について不安な点があれば、まずは弁護士へ相談することをおすすめします。今回の改正点も踏まえてアドバイスするとともに、少年の状況に応じたサポートに期待できるでしょう。少年事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くします。自分やご家族だけで悩まず、まずはご相談ください。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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