殺人・殺人未遂で逮捕・起訴されたら
人を殺してしまった…殺人罪は、裁判になって、長い間、刑務所で懲役刑に服する可能性がとても高く、場合によっては死刑にもなりうる極めて重い犯罪です。
ただ、人を死なせてしまった場合でも、正当防衛が成立して犯罪とならないこともありますし、未遂罪のケースや自首が成立する場合、犯行時の精神状態に重大な問題があった場合、やむにやまれぬ事情など特別な情状酌量の余地があるような場合などには、刑罰の減軽などを受けることもできます。
このページでは、殺人罪で適用される刑罰や殺人罪でも犯罪成立が否定されるケース、刑罰が減軽されるケースと、被疑者・被告人となったときの対処方法などについて、弁護士が解説します。
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1、殺人・殺人未遂とは
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①殺人罪の定義
殺人とは、殺意をもって、本来の死期よりも早く、他人の命を絶つことです。
つまり「殺してやろう」という気持ちのもとに、殺人の実行行為(本来の死期よりも早く他人の命を絶ってしまう現実的な危険がある行為)をし、相手が死亡したら殺人罪が成立します。また、「殺意」については、積極的に「相手を殺そう」と思っている場合だけでなく、「相手が死んでもかまわない」という程度の認識を持っている場合でも殺人の故意(未必の故意といいます)があるとされ、殺人罪となります。
また、殺人の実行行為とは、本来の死期よりも早く他人の命を絶ってしまう結果が生じる現実的な危険がある行為です。たとえばナイフで人のお腹を突き刺したり、ロープで長い時間人の首を絞め続けたりしたら、通常は殺人の実行行為があると言えます。
これに対し、成人に塩水を与えたところ、相手の体質の問題で過剰反応を起こして死亡してしまったケースでは、通常、健康な成人に「塩水を与える」行為には、人を殺すような危険性が認めがたいので、そのような相手の体質を知っていて、あえて与えたなどの状況がなければ、殺人の実行行為とは認めがたいと考えられます。 -
②正当防衛の場合は?
刑法には「正当防衛」というルールが定められています。
正当防衛とは、急迫かつ不正な侵害が迫っているときに、自分や第三者の権利を守るために、やむを得ず行った防御行為です。正当防衛が成立する場合には、違法とはいえなくなるので犯罪が成立しません。
たとえば、突然、相手がナイフを持って襲ってきた場合で、逃げることもできないような状況下では、緊急で反撃などの対応をしないとあなたの方が殺されてしまうかもしれません。そこで、そのような場合に、ほかに取りうる手段がなく、やむなく、その攻撃に見合う程度の反撃を行ったところ、はずみで相手が死んでしまったとしても、その反撃行為は正当防衛として、違法ではないと判断され、殺人罪にはならないことがあります。
ただし、正当防衛が成立するためには、反撃行為が、相手の攻撃(侵害)に対して見合う程度のものでなければならず、そのバランスが取れたものである必要があります。侵害に対して過大な反撃を行うと過剰防衛などとなり、違法とされて犯罪が成立することもあるので注意が必要です。
たとえば、相手が素手で平手打ちをしてきただけなのに、こちらがサバイバルナイフを持ちだして相手をめった刺しにして殺してしまった場合には、そもそも正当防衛が成立しなかったり、あるいは過剰防衛となって、処罰される可能性があります。
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③殺人罪では「殺意」の有無がポイントのひとつ
殺人罪が成立するかどうかについては「殺意の有無」が重要なポイントとなります。
たとえば相手に暴行を振るって死亡させてしまったときにも、殺意がなかったら、殺人罪ではなく「傷害致死罪」が成立し、罪は軽くなります。実際に殺人罪で逮捕された被疑者が「殺すつもりがなかった」として争うケースは多々あります。そのような場合でも、警察などの取調官は、その犯行が行われた状況に応じて、被疑者に対し、殺意を認めるよう誘導したり、説得したりしますが、本当に殺すつもりがなかったというのなら、簡単に殺意を認めると刑が重くなって大変なことになってしまいますので、くれぐれも注意してください。
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2、殺人・殺人未遂容疑で問われる罪や罰則
殺意をもって人を殺したり、殺そうとしたらどのような犯罪が成立し、またどのような刑罰が適用されるのか、みておきましょう。
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①殺人罪
殺人罪は、殺意をもって人を殺したときに成立します。
既遂犯となったときの刑罰は、死刑または無期もしくは5年以上の有期懲役刑(有期懲役の上限は、懲役20年です。刑法12条)であり、非常に重いです(刑法199条)。 -
②同意殺人罪
同意殺人罪には、相手が殺されることに同意していた場合(同意殺人)や、相手に頼まれて殺してしまった場合(嘱託殺人)があります。
介護の現場などで、本人がつらくなって介護者に「殺してほしい」と言って殺人が行われるケースなどが典型です。
刑罰は、6ヶ月以上7年以下の懲役または禁錮刑です(刑法202条)。 -
③殺人未遂罪
殺人未遂罪は、殺人の実行行為に着手したけれども相手が死ななかったケースで成立します。
たとえば相手の首を死ぬほど絞めたけれども相手が死ななかったケースやナイフで相手の心臓を狙って刺したけれども狙いがずれて心臓に刺さらず、相手が死ななかった場合などで成立します。殺人未遂罪の刑罰は殺人罪と同じですが、未遂にとどまったことで、裁判官の裁量によって刑罰が減軽されます(刑法43条)。
また、殺人の実行行為には着手してしまったものの、自分の意思で犯行を中止したことで、相手を死なせずに済んだような場合には(中止犯といいます)、刑罰が減軽されたり免除されなければならないとされています。
3、殺人罪に問われた際の対応
殺人罪で逮捕されたときに、なるべく処分を軽くしてもらうためには、どのように対応したらよいでしょうか。これについては、以下のようなことがポイントとなります。
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①殺意がなかったことを証明する
ひとつは、殺意を争う方法です。
殺意がなかったことを証明できれば殺人罪は成立せず、傷害致死罪などに変わるので、刑罰が軽くなります(傷害致死罪の刑罰は3年以上の有期懲役刑のみで、無期や死刑はありません)。
そこで、殺す気がなかったのであればそのことをきちんと主張し、捜査側に理解させる必要があります。ただし、単に「殺そうとは思っていなかった」と主張するだけでは、まず通用しません。
いくらそのように主張しても、犯行前後の状況や犯行時の状況など(捜査側は、この証拠を積み重ねて殺意を立証します)から、そのような主張が通らないこともあります。捜査側としても、明らかな殺意までは証明しにくいと考える場合でも、捜査官から「心の中には、死んでもかまわないという気持ちがあったはずだろう」「実際に君は、そんな危険なことをしたのだから、死ぬかもしれないという認識はあっただろう」「絶対死なないという確信があったのか」などと理詰めで責められたり、「死んでしまった被害者のことを考えてやれ」などと感情に訴えかけられて、ついには殺意(未必の故意)を認めさせられてしまったり、認めたつもりはないのに事実上殺意を認めたに等しい内容の供述調書を作成されてしまうこともあります。
効果的に殺意を争うには、専門の法的知識を持ち、捜査側の取り調べや捜査方法を熟知している弁護士に対応を依頼して、さまざまな状況に応じたアドバイスを受ける必要性が高くなります。
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②事件を起こしたときの精神状態の重大な問題を主張・証明する
殺人事件を犯してしまう場合には、その被疑者・被告人(「被疑者」は、起訴されると、その呼び名が被疑者から「被告人」に変わります)には、精神的に重大な問題があることもよくあります。
そのような場合には、殺人罪自体が成立しなくなることもありますし、殺人罪は成立するものの、刑罰が大幅に軽減されることもあります。
そのためには、殺人事件を犯してしまったときの精神状態を、精神医学的な判断をもとにしつつ法律的な観点から正確に把握しなければなりませんし、その証拠を集めて効果的に主張したり、証明したりすることが必要になります。
しかし、これを法律知識を持たない被疑者や被告人が自分だけで行おうとしても限界がありますので、刑事事件で問題となる精神状態についての知識を十分に持っている弁護士のサポートが必要になります。 -
③殺人罪の場合、示談での解決はほぼ不可能。では、ほかの手段は。
「被害者のある刑事事件」で処分を軽くしてもらうには、被害者もしくは遺族と示談を成立させることが非常に重要です。
示談が成立して民事賠償問題が解決されていると、被疑者や被告人にとって非常に良い情状となるからです。殺人罪や殺人未遂罪の場合、初犯で、被害者が一人であっても10年を超える実刑判決を受けることが多々ありますが、示談が成立していれば刑期を大きく短縮してもらうことができるでしょう。しかし、未遂罪であればともかく、相手が死亡している場合、その遺族との示談は非常に困難です。殺人罪で示談することは、ほぼ不可能だと思った方が良いでしょう。
相手の遺族は「お金なんかどうでも良いから殺された子どもや家族を返してほしい。それができないなら犯人に厳罰を与えてほしい。死刑にしてほしい」「示談などして犯人の刑を軽くしたくない」と希望していることが多いからです。
たとえ、被疑者や被告人が示談したくても、自分の大切な家族を殺した相手と直接の話し合いに応じる遺族はまずいません。そもそも話すら聞いてもらえず、到底示談を成立させることはできないでしょう。
そのような場合には、示談とまではいかなくても、被害弁償金を一部だけでも遺族に受けとってもらったり、贖罪(しょくざい)寄付を行ったりして反省の気持ちを示すことが可能です。
このような対応も刑事弁護人と相談しながらであれば進めていけるので、殺人罪で逮捕されたり逮捕が心配であったりするならば、早めに弁護士に相談してください。 -
④自首
犯罪を行ったとき、なるべく刑罰を軽くしたい場合には、自首が非常に効果的です。
自首とは、犯罪が捜査機関に発覚する前に、犯人が捜査機関に自分の犯した罪を申告し、その処分に従うことを伝えることです。
自首が成立すると、刑事裁判になったときに裁判官によって刑罰を減軽してもらえる可能性が高くなりますし、情状が良くなるので検察官による処分や検察官が求刑(検察官は、裁判で、被告人を何年の刑にすべきかの意見を述べます)を決めるときにも考慮してもらえます。起訴後の保釈もとりやすくなるでしょう。ただし、自首が成立するためには「捜査機関に犯罪が発覚する前」に申告することが必要です。すでに犯罪行為やその犯人が誰であるか分かっているような場合には、警察に出頭しても自首による減刑を受けられません。自首を検討されているならば、早めに決断することが大切です。
自首について、詳しくは「自首に同行してほしい」のページで解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
また、自首した後どうなるか分からない、自首する気持ちはあるが、踏み切れないなど自分一人で決められないならば弁護士がアドバイスやサポートをいたしますので、ご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士が自首に同行する「任意事情聴取の同行(任意聴取同行サービス)」も実施しております。
4、殺人罪に問われた場合、弁護士のサポートが不可欠
殺人罪や殺人未遂罪のような重大な犯罪をひとりで抱え込んでいては、適切な対応をとることができずに状況がどんどん不利になってしまう可能性が高まります。
ひとりでは、殺意がなかったことや正当防衛の成立、相手は死亡してしまっているので証明してくれないが、実は同意殺人であったなどの主張をすることもできないでしょうし、精神状態に重大な問題があったことを効果的に主張し、裁判で証明することも難しいでしょう。
また、被害者との示談などを進めるためにも弁護士による対応が重要です。
殺人罪や殺人未遂罪で、ケースに応じた的確な主張を行って不利益を小さくするには刑事事件に長(た)けた弁護士によるサポートが必要となるので、お早めにご相談ください。
5、殺人・殺人容疑で逮捕されたら弁護士へ
殺人罪や殺人未遂罪は、言うまでもなく極めて重大な犯罪です。
殺人罪では、もっとも重い場合には、初犯でも死刑になることが考えられます。殺人未遂罪にとどまるケースでも、10年を超える長期の懲役刑が適用されるケースはざらにあります。
正当防衛、殺意がなかった、同意殺人だった、精神状態に重大な問題があった、その他やむにやまれぬ事情など犯人のために酌むべき事情があった、そのようなときに被疑者・被告人の権利を守るのが弁護士です。
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