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薬物事件で逮捕につながる薬物の種類は? 規制する法律は?
覚せい剤や大麻などの薬物が法律で規制されているのは、多くの方がご存じでしょう。しかし薬物にもさまざまな種類があり、規制される法律も異なるため、詳しくは分からない、誤解しているといったケースも多々あります。
薬物は一度手を出すと依存症に陥ってしまい、何度も逮捕・起訴されて刑務所への収監を繰り返してしまうケースが多数です。もしも自分や家族が薬物に関わってしまったら、どのような流れで逮捕され、どんな刑罰を受けることになるのでしょうか?
本コラムでは薬物事件の逮捕をテーマに、逮捕につながる薬物の種類と薬物を取り締まる主な法律・罰則、逮捕されるケースなどについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。薬物事件の裁判例や薬物依存からの回復に向けた活動についても確認しましょう。
1、逮捕につながる薬物の種類と法律
どのような薬物に関わると逮捕につながるのでしょうか? 薬物の種類と規制する法律について解説します。
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(1)薬物四法が規制する薬物
薬物を規制する代表的な4つの法律を指して「薬物四法」と呼びます。
- 覚せい剤取締法(覚醒剤取締法)
- 大麻取締法
- あへん法
- 麻薬及び向精神薬取締法
それぞれの法律で規制される薬物には以下のような種類があります。
- 覚せい剤取締法……覚せい剤(アンフェタミン、メタンフェタミン)、覚せい剤の原料(エフェドリン、フェニル酢酸など)
- 大麻取締法……大麻草(カンナビス・サティバ・エル)およびその製品(大麻樹脂を含む)
- あへん法……あへん、ケシ、ケシガラ
- 麻薬及び向精神薬取締法……ヘロイン、モルヒネ、コカイン、MDMA、LSD、マジックマッシュルーム など
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(2)薬物四法が禁止する行為
薬物四法が禁止する行為は主に「輸出」「輸入」「製造」「栽培」「譲渡」「譲受」「所持」「使用」です。
ただし適用される法律によって禁止行為が異なります。たとえば薬物四法のうち大麻取締法には自己使用を禁止する規定がありません。
また条文上、行為の表記方法が異なる場合もあります。たとえば、あへんの使用は条文上、「吸食」と表記されています。表記が違っても禁止行為は同じなので注意が必要です。 -
(3)薬物事件で逮捕される可能性
薬物四法に違反して禁止行為をすると逮捕される可能性があります。逮捕とは、被疑者が逃亡または証拠隠滅をはかるおそれがある場合になされる身柄拘束の強制手続きです。
薬物事件の場合、薬物をトイレに捨てる、共犯者(購入元など)と口裏を合わせるなど、ほかの犯罪以上に証拠隠滅をはかるおそれが高いことから、逮捕される可能性も高くなります。 -
(4)危険ドラッグを規制する医薬品医療機器等法とは
薬物四法のほかにも、医薬品医療機器等法の違反として逮捕される場合があります。この法律で規制されるのは、いわゆる危険ドラッグです。
薬物四法で規制されていなくても危険ドラッグだと認められると逮捕される可能性があります。
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2、覚せい罪取締法とは
覚せい剤取締法の概要と主な禁止行為、罰則について解説します。
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(1)覚せい罪取締法とは
覚せい剤取締法は、覚せい剤および覚せい剤の原料の取り扱いを規制する法律です。
違法薬物はそれ自体に依存性が指摘されており、大変危険です。覚せい剤はほかの薬物と比べても特に依存性が高く、身体や精神に与える影響も大きい危険な薬物といえます。そのため刑罰も、大麻や麻薬などを取り締まるほかの法律以上に重く定められています。 -
(2)覚せい剤取締法違反の罰則
覚せい剤取締法違反の罰則は、禁止行為ごとに、また非営利目的か営利目的なのかで異なります。当然、営利目的のほうが重い罰則を科せられます。違法薬物を広く流通させ、社会に与える影響が大きいからです。
以下、罰則の内容を解説します(第41条、41条の2、41条の3)。
- 非営利目的で所持、譲渡、譲受、使用した場合 所持、譲渡、譲受、使用した場合の罰則は「10年以下の懲役」です。
- 営利目的で所持、譲渡、譲受けた場合 営利目的で所持、譲渡、譲受けた場合の罰則は「1年以上の有期懲役」です。有期懲役とは1か月以上20年以下の期間を定めて科せられる懲役刑をいいます。
- 非営利目的で輸出、輸入、製造した場合 輸出、輸入または製造した場合の罰則は「1年以上の有期懲役」です。
- 営利目的で輸出、輸入、製造した場合 営利目的で輸出、輸入または製造した場合の罰則は「無期もしくは3年以上の懲役」と非常に重いものです。情状により、「1000万円以下の罰金が併科」される場合もあります。
非営利目的であっても、罰金刑の規定はないため、起訴されれば必ず刑事裁判が開かれます。有罪になれば、執行猶予が付かない限り刑務所へ収監されることになります。
また情状により、「500万円以下の罰金が併科」される場合もあります。併科とは、刑事裁判で同時に2つ以上の刑に処せられることです。覚せい剤取締法違反で罰金だけが科せられることはありません。懲役のみ、あるいは懲役・罰金の両方を言い渡されます。
また最大で無期懲役が規定されているため、起訴された場合は裁判員裁判で審理されます。
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3、大麻取締法とは
大麻取締法の概要と主な禁止行為、罰則について解説します。
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(1)大麻取締法とは
大麻取締法とは、大麻取扱者の免許や禁止行為などについて定めた法律のことです。日本では、大麻は免許制になっており、都道府県知事の免許を受けた大麻取扱者のみが栽培、所持、譲渡、譲受、研究のための使用が許可されています。
この法律で規制対象となるのは大麻草およびその製品です。大麻草の花穂や葉っぱ、樹脂にはTHC(テトラヒドロカンナビノール)という人体に極めて有害な成分が含まれており、濫用すると幻覚・幻聴や意識障害などを引き起こす危険性があります。
ただし、大麻草の成熟した茎と種子およびその製品はTHCがほとんど含まれていないため規制の対象外です。産業用としても利用されています。 -
(2)大麻の使用は処罰されない?
令和3年4月現在、大麻には自己使用を処罰する規定がありません。これは、規制対象外の成熟した茎・種子および製品を使用した場合、微量であっても尿検査で陽性反応が出る可能性があり、尿検査の結果からは違法部位か合法部位かを区別できないからです。
大麻の自己使用が不処罰であることをもって「大麻は有害ではない」と主張する人がいますが、決してそうではありません。
また違法部位を故意に使用した場合、所持や譲受などの禁止行為がともなうため、使用で処罰されずとも所持や譲受などの罪で処罰されます。 -
(3)大麻取締法違反の罰則
大麻についても、禁止行為と非営利目的・営利目的によって罰則が異なります。営利目的のほうが、罰則が重く定められています。
以下、罰則の内容を解説します(第24条、24条の2)。
- 非営利目的で所持、譲渡、譲受した場合 自己使用目的での所持、譲渡・譲受は「5年以下の懲役」に処せられます。
- 営利目的で所持、譲渡、譲受した場合 営利目的での所持、譲渡・譲受は「7年以下の懲役」を科されます。情状により、「200万円以下の罰金が併科」される場合もあります。
- 非営利目的で栽培、輸入、輸出した場合 自己使用目的で栽培、輸入、輸出した場合の罰則は「7年以下の懲役」です。栽培や輸入、輸出は、自己使用目的であっても社会に与える影響が大きいため、所持などと比べて重く罰せられます。
- 営利目的で栽培、輸入、輸出した場合 営利目的で栽培、輸入、輸出すると「10年以下の懲役」または情状により「300万円以下の罰金が併科」されます。
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4、あへん法とは
あへん法の概要と主な禁止行為、罰則について解説します。
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(1)あへん法とは
あへん法は、医療や学術研究の用に供するあへんの供給の適正をはかるため、あへん、ケシ、ケシガラを規制する法律です。ケシから採取した液汁を凝固させたものをあへん、ケシの麻薬を抽出できる部分をケシガラといいます。
あへん、ケシ、ケシガラのそれぞれに禁止行為と罰則が設けられています。 -
(2)あへん法違反の罰則
罰則は次のとおりです(第51条、52条、52条の2)。
- あへんの採取(製造)、輸出、輸入、譲渡、譲受、所持、吸食(使用) 採取(製造)、輸出、輸入は「1年以上10年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上の有期懲役」または情状により「500万円以下の罰金が併科」されます。
- ケシの栽培 非営利目的の場合は「1年以上10年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上の有期懲役」または情状により「500万円以下の罰金の併科」です。
- ケシガラの輸出、輸入、譲渡、譲受、所持、吸食(使用) 輸出、輸入は「1年以上10年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上の有期懲役」または情状により「500万円以下の罰金の併科」です。
譲渡、譲受、所持は「7年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上10年以下の懲役」または情状により「300万円以下の罰金が併科」されます。
吸食(使用)は「7年以下の懲役」です。
譲渡、譲受、所持は「7年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上10年以下の懲役」または情状により「300万円以下の罰金の併科」です。
吸食(使用)は「7年以下の懲役」です。
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5、麻薬及び向精神薬取締法とは
麻薬及び向精神薬取締法の概要と主な禁止行為、罰則について解説します。
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(1)麻薬及び向精神薬取締法とは
麻薬及び向精神薬取締法は、麻薬と向精神薬を取り締まる法律です。麻薬にはヘロインやコカイン、MDMAなど、向精神薬には睡眠薬や精神安定剤(不適正使用の場合)などが含まれます。
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(2)麻薬及び向精神薬取締法違反の罰則
麻薬の罰則は、ヘロインとヘロイン以外で違いがあります。ヘロインは依存性が強いことから覚せい剤同様の重い罰則が設けられています。
【麻薬の罰則】(第64条、64条の2、65条、66条、66条の2、68条)
- ヘロインの輸出、輸入、製造、譲渡、譲受、所持、施用(使用) 輸出、輸入、製造は「1年以上の有期懲役」、営利目的の場合は「無期もしくは3年以上の懲役」または情状により「1000万円以下の罰金の併科」です。
- ヘロイン以外の輸出、輸入、製造、譲渡、譲受、所持、施用(使用) 輸出、輸入、製造は「1年以上10年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上の有期懲役」または情状により「500万円以下の罰金の併科」です。
譲渡、譲受、所持は「10年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上の有期懲役」または情状により「500万円以下の罰金の併科」です。施用(使用)は「10年以下の懲役」です。
譲渡、譲受、所持は「7年以下の懲役」、営利目的の場合は「1年以上10年以下の懲役」または情状により「300万円以下の罰金の併科」です。施用(使用)は「7年以下の懲役」となります。
また、みだりに輸出入する目的であることを知りながら、種子を含む麻薬原料を提供・運搬した場合は「5年以下の懲役」となります。
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【向精神薬の罰則】(第66条の3、66条の4)
- 向精神薬の輸出、輸入、製造 「5年以下の懲役」、営利目的の場合は「7年以下の懲役」または情状により「200万円以下の罰金の併科」です。
- 向精神薬の譲渡、譲渡目的での所持 「3年以下の懲役」、営利目的の場合は「5年以下の懲役」または情状により「100万円以下の罰金の併科」です。
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6、危険ドラッグを規制する医薬品医療機器等法とは
危険ドラッグを規制する医薬品医療機器等法の概要と主な禁止行為、罰則について解説します。
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(1)危険ドラッグとは
危険ドラッグとは、規制薬物や指定薬物に化学構造を似せて作られ、これらと同様の薬理作用を有する薬物をいいます。
規制薬物とは、覚せい剤や麻薬などのように精神に影響を与える薬物のことです。
指定薬物とは、幻覚などの作用を有し、使用した場合に健康被害が生じるおそれのある物質で、医薬品医療機器等法によって指定された薬物をいいます。
危険ドラッグは合法ハーブやお香、アロマオイルなどと称して販売されていますが、身体や精神にどんな影響が出るのかは解明されていません。深刻な健康被害を生じさせる場合があり、非常に危険です。 -
(2)医薬品医療機器等法とは
医薬品医療機器等法とは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略称です。かつての薬事法ですが、平成26年11月の改正によって内容および法律の題名が改められました。
薬物四法で規制の対象となっていなくても、指定薬物に指定された物質が含まれたものを所持、使用などすれば医薬品医療機器等法で処罰されます。 -
(3)医薬品医療機器等法違反の罰則
指定薬物を製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲受、医療用途以外の用途に使用した場合は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」またはこれらの併科です(第76条の4、84条)。
業として製造、輸入、販売、授与、所持した場合は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」またはこれらの併科です(第76条の4、83条の9)。
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7、薬物事件での逮捕と、その後の流れ
薬物事件では具体的にどんなケースで逮捕に至るのでしょうか? 逮捕されるパターンと逮捕後の流れを解説します。
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(1)職務質問からの現行犯逮捕
不審な挙動が見られると警察から職務質問を受ける場合があります。たとえば自動車の蛇行運転をしている、路上をふらふらと徘徊しているなどのケースです。職務質問の際、車内や所持品から薬物らしきものが見つかると、その場で簡易検査が実施されます。陽性反応が出れば現行犯逮捕されるでしょう。
また身分証の提示を求められ、薬物事件の前科があることが分かると、再犯を疑われて任意での尿検査が行われる場合があります。薬物が見つからなくても、尿検査で陽性反応が出れば通常逮捕されます。 -
(2)正式鑑定からの通常逮捕
簡易検査で陰性だった場合でも、職務質問の受け答えで不審な点が見られる場合などには正式な鑑定が実施される可能性があります。
鑑定の結果、違法薬物が検出されれば逮捕状を請求され、通常逮捕されるでしょう。 -
(3)家宅捜索からの現行犯逮捕
捜索差押許可状をもとに家宅捜索を受け、自宅から薬物が見つかったため現行犯逮捕されるケースもあります。
家宅捜索を受ける可能性があるのは、薬物の売人の顧客リストに氏名が記載されていた、大麻をマンションの一室で栽培していたら同じマンションの住民から通報されたなどのケースです。 -
(4)芋づる式の逮捕
薬物の売人や一緒に薬物を使用していた友人などが逮捕されると、その人たちの供述や通話履歴、顧客リストなどから芋づる式的に捜査対象となる場合があります。捜査の結果、薬物の使用や所持などの証拠が見つかれば通常逮捕されます。
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(5)逮捕された場合のその後の流れ
逮捕されると72時間以内に警察官・検察官から取り調べを受けます。検察官は引き続き身柄拘束の必要があると判断すると裁判官に勾留を請求し、勾留が認められると原則10日間、延長も含めると最長で20日間の身柄拘束が続きます。
薬物事件では被疑者の身柄を釈放すると証拠隠滅が容易に行われるおそれがあるため、勾留となる可能性が高いでしょう。
勾留の満期までに検察官は起訴・不起訴の判断を行います。起訴されると刑事裁判へ移行し、保釈されない限りは身柄拘束が続きます。不起訴の場合は即日で釈放され、事件は終了します。
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8、薬物依存とは? 回復に向けた支援
薬物依存の特徴と回復に向けて必要な支援について解説します。
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(1)薬物依存とは
薬物依存とは、薬物が欲しいという強い渇望を自分でコントロールできず、薬物を容易にやめられない状態のことです。薬物依存は精神依存と身体依存に分けて考えることができます。
精神依存とは、薬物を摂取したいという強い欲求を抱き、自制がきかなくなった状態のことです。
たとえばニコチンは精神依存を引き起こす作用が強いといわれており、喫煙者は常にたばこをきらさないよう行動するなどしてたばこに固執します。覚せい剤も同様に強い精神依存を引き起こし、家族や友人にお金の無心をするなど、覚せい剤を何としても手に入れようと極端な行動を起こします。
身体依存とは、薬物を反復摂取することで身体が薬物の作用に適応し、薬物を摂取しないと幻覚や意識障害、手のふるえなどの離脱症状が生じることです。
薬物には精神依存だけが現れるものと、精神依存と身体依存の両方が現れるものがあります。たとえばアルコールは精神依存と身体依存の両方を引き起こしますが、ニコチンや覚せい剤は精神依存のみを引き起こします。
したがって薬物依存の治療の中心は精神依存へのアプローチになりますが、薬物依存に陥ってしまった脳は元の状態には戻らないと考えられているため、依存症を完全に治すことはできません。 -
(2)薬物依存からの回復
薬物依存を完治させるのは困難ですが、薬物を断ち、正しい治療を受けることで、通常の社会生活を営めるようになります。これを回復といいます。
回復は、まず薬物によって疲弊した身体が正常化し、次に思考力や記憶力など脳が正常化します。さらに歪んでしまった考え方や心が正常化し、最後には家族や周囲の人との人間関係が正常化していくという段階を踏みます。こうして長い期間をかけ、薬物依存によって失われたものを少しずつ取り戻していくことになるのです。 -
(3)薬物依存からの回復を促す施設や支援
薬物依存からの回復を自分ひとりで達成させるのは困難です。家族や周囲の人はもちろん、専門的な知識をもつ医療機関やダルク(薬物依存症回復支援施設)などの支援が必要になります。
医療機関は主に回復の初期段階での役割を果たします。医療機関で規則正しい生活を送る、状況に応じて投薬を受けるなどすれば、幻覚や妄想などの症状が改善されていきます。
しかしこの段階で回復に向けた行動を終えてしまうと、またすぐに依存状態に戻るおそれがあります。そのためダルクへ通所・入所して適切なプログラムを受ける、自助グループに参加するなどしながら、時間をかけて心や人間関係の回復も目指していきます。
薬物依存の場合は、刑務所で服役するケースも多いでしょう。服役だけでの回復は困難ですが、近年では施設内で薬物依存離脱指導なども行われており、強制的に薬物を断てるという利点もあります。服役をきっかけとして出所後の治療へつなげていくことが大切です。
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9、薬物事件の裁判例
薬物事件の量刑や量刑判断に影響を与える要素を知るために、裁判例を4つ紹介します。
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(1)覚せい剤の使用および覚せい剤・大麻所持の事案
覚せい剤の使用と、自己使用目的での覚せい剤・大麻所持の罪に問われた事案です。
裁判官は、被告人が覚せい剤を毎日のように使用し、大麻を常に自宅に置いて所持するなどしていたことから、違法薬物に対する抵抗感の希薄さや依存性が認められるとして、刑事責任を軽視できないと指摘しました。
他方で、被告人が違法薬物および関係者との関係を断つ旨を誓約していること、保釈後にダルクへの通所を開始し、今後も継続する旨を述べていて通所の効果が期待できることなど、酌むべき事情も認められるとしました。
被告人は社会の中での更生の機会を与えるのが相当とされ、懲役2年、執行猶予4年を言い渡されました。(宮崎地方裁判所令和2年10月1日判決・令和2年(わ)第35号) -
(2)執行猶予中に薬物を所持・使用し、逃亡をはかった事案
覚せい剤・大麻の所持、覚せい剤の使用、犯人隠匿・隠避の教唆、無免許運転の罪に問われた事案です。
被告人は別の薬物事犯の執行猶予中であるにもかかわらず、①覚せい剤および大麻を所持し、②覚せい剤を使用しました。
また当該事案の裁判が係属中に保釈条件を遵守しなかったことにより保釈を取り消され、警察署に連行される際に、③逃亡し、知人に対して自らをかくまうよう依頼し、犯人隠匿および隠避を教唆しました。
さらに、④知人に自動車を供与させたうえで、逃走をはかるために無免許運転を行いました。
判決では、①および②の事件から薬物事犯に対する被告人の規範意識の低さは明らかであり、③と④の事件についても、刑事手続きを軽視しており、身勝手な行動にでた被告人の責任を軽くみることはできないとされました。
裁判官は、被告人が反省していることなど、被告人にとって酌むべき事情をすべて考慮しても執行猶予を付すことはできないとして、懲役3年6か月の実刑判決を言い渡しました。(大阪地方裁判所令和2年11月6日判決・令和2年(わ)第5135号) -
(3)警察官が大麻を譲渡、所持した事案
警察官による大麻の譲渡、所持事案です。
被告人は①2年間にわたり密売人から購入するなどして大麻を使用して所持に至り、②6回にわたり大麻を別の警察官に譲渡し、違法薬物の拡散に関与しました。
裁判官は、被告人は法を遵守すべき警察官の職にありながら犯行におよんでおり、その刑事責任は重いと強く非難しました。
他方で、被告人が更生意欲を示していること、父親が監督を約束していること、懲戒免職処分となり一定の社会的制裁を受けていることなどが考慮され、懲役1年2か月、執行猶予3年が言い渡されました。(大阪地方裁判所令和2年9月16日判決・令和2年(わ)第1949号) -
(4)ラグビー選手が麻薬および大麻を所持した事案
社会人ラグビーチームに所属中のラグビー選手が、麻薬(コカイン)および大麻を所持した事案です。
裁判官は、被告人が来日前から大麻を吸引していた経験があること、当該事案の3年近く前から公式試合がない時期に吸引していた事実を認めていることなどから、違法薬物との関係性が深く、刑事責任は相当に重いと指摘しました。
他方で、被告人が専門家の治療を受けるなどして更生する旨を誓っていること、妻による監督が期待できること、チームからの解雇と報道によって社会的制裁を受けていることなどが考慮され、懲役2年、執行猶予3年が言い渡されました。(名古屋地方裁判所令和元年9月30日判決・令和元年(わ)第290号)
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10、薬物事件での逮捕に関する弁護活動
薬物事件で逮捕されてしまったら、速やかに弁護士へ相談しましょう。弁護士は以下の活動を通じて本人およびご家族をサポートします。
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(1)取り調べの助言を与える
本人は取り調べに際し、逮捕された動揺や取調官の圧力などから、やってもいないことまで供述するなどし、後の処分に影響を与えてしまうおそれがあります。そのため早期に本人と面会して取り調べに関する助言を与える必要がありますが、逮捕段階の72時間はたとえご家族であっても面会できません。
しかし弁護士だけは唯一、逮捕直後から本人と面会し、取り調べの対応や被疑者の権利に関する助言を与えられます。 -
(2)違法捜査を監視する
捜査機関による違法捜査を監視し、違法捜査があれば抗議するなどして被疑者の人権を守るのも弁護士の役割です。薬物事件の場合、令状の提示なしに所持品の捜査が行われる、任意同行なのに被疑者を羽交い締めにするなど有形力を行使するといった違法捜査が考えられます。
また、違法捜査にもとづく報告書などを裁判の証拠から排除する旨の主張をする場合もあります。 -
(3)即決裁判制度の利用を求める
自己使用目的でごく少量の薬物を所持していた、前科前歴がなく容疑を認めて反省しているなどのケースでは、弁護士が検察官に対して即決裁判を申し立てるよう求めます。即決裁判とは、事案が明白で軽微な自白事件について、通常の裁判よりも迅速に審理する裁判のことです。
起訴後2週間以内で裁判が終了し、懲役・禁錮には必ず執行猶予が付くため、早期に社会復帰し、更生に向けた取り組みを開始できるという利点があります。 -
(4)専門家のサポートを受けさせる
できるだけ早期に、医療機関やダルクへの通所、自助グループへの参加などの行動を開始することが、薬物依存からのと回復と更生につながります。またこれらの活動が、結果として裁判官から再犯のおそれが低いと判断され、執行猶予を付されるための要素となります。
そのためには保釈を獲得し、裁判中から専門家のサポートを受けることが大切です。弁護士が専門機関との調整を行い、医師の診断書や施設の申込履歴などの客観的事実を裁判官に示せば、保釈が認められる可能性が高まります。 -
(5)更生に向けた取り組みをサポートする
専門家の支援以外にも、更生のためにさまざまな活動が必要です。たとえば家族と一緒に暮らして監督してもらう、薬物につながった歪んだ交友関係を清算するなどの活動があります。
弁護士は本人および家族と話し合い、どんなサポートが必要か、何ができるのか、なぜ薬物依存に陥ってしまったのかなどを一緒に考えます。
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11、まとめ
薬物は薬物四法をはじめとする複数の法律で取り締まられており、罰則の内容も非常に重いものです。薬物事件では証拠隠滅のおそれから逮捕・勾留される可能性も高いため、自分や家族が薬物に関与してしまった場合は早急に弁護士へ相談しましょう。
弁護士は身柄釈放や刑の減軽に向けた活動だけでなく、薬物依存からの回復や更生に向けた調整・支援まで、本人や家族の人生全体を考えた幅広いサポートを行います。薬物事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くしますので、まずはご相談ください。
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ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。