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覚醒剤の再犯で逮捕されると刑罰は重くなる? 執行猶予は付く?
覚醒剤は極めて依存性・中毒性の高い薬物です。
令和4年9月には有名女優の次男が覚醒剤の所持で逮捕されましたが、なんと覚醒剤に関する罪での逮捕は五度目でした。以前の事件では実刑判決を受けて刑務所に収監された経歴もあるので、覚醒剤とのかかわりを断ち切ることがどれだけ難しいのかを物語る事例だといえるでしょう。
以前にも覚醒剤事件を起こしたことがあり、再び覚醒剤事件を起こして「再犯」となった場合、刑罰は重くなるのでしょうか? 本コラムでは「覚醒剤の再犯」について、刑罰が加重される場合の考え方や執行猶予が付く可能性などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、覚醒剤取締法で禁止される行為と罰則
覚醒剤は医療において活用される薬物ですが、強力な依存性・中毒性をもつため「覚醒剤取締法」によって取り扱いが厳しく規制されています。
ここでは、覚醒剤取締法によって規制される行為と各行為に対する罰則を確認していきましょう。
なお、本法は令和2年3月まで「覚せい剤取締法」と表記されていましたが、現在はほかの法令と統一するため「覚醒剤取締法」という表記が使用されているので、本文中でも「覚醒剤取締法」と表記します。
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(1)覚醒剤取締法によって禁止される行為
覚醒剤取締法では、次の行為を禁止しています。
- 覚醒剤の所持
- 覚醒剤の使用
- 覚醒剤の譲渡・譲り受け
- 覚醒剤の輸出入
これらの行為は、都道府県知事や厚生労働大臣の許可を受けた業者や機関でなければ違法となります。もちろん、許可にあたっては厳格な審査を経る必要があり、一般の個人に許可されることはないので、ここで挙げた行為はすべて違法となると考えてください。
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(2)覚醒剤取締法違反に対する罰則
覚醒剤取締法違反に対する罰則は、各行為の目的が個人的なものなのか、それとも営利の目的なのかによって異なります。
- 所持・使用・譲渡・譲り受け
単純目的……10年以下の懲役
営利目的……1年以上の有期懲役、または情状によって1年以上の有期懲役と500万円以下の罰金の両方 - 輸出入
単純目的……1年以上の有期懲役
営利目的……無期もしくは3年以上の有期懲役、または情状によって無期もしくは3年以上の有期懲役と1000万円以下の罰金の両方
個人的な目的よりも、営利目的での行為に対する罰則が重く定められています。
単純な興味や嗜好(しこう)として覚醒剤に手を染めるよりも、社会に覚醒剤をまん延される危険のある行為のほうが厳しく罰せられるのだと理解しておきましょう。 - 所持・使用・譲渡・譲り受け
2、覚醒剤事犯の現状と再犯の関係
覚醒剤を使用すると一時的に多幸感を得られますが、効果が切れたときの不安感や幻覚・幻聴など離脱症状が強烈なので「もうやめよう」と頭では理解していても繰り返し使用することになります。
結果、覚醒剤とのかかわりを断ち切れなくなり、いったんは医療的なアプローチなどによってやめることに成功しても再び手を出してしまうケースが後を絶ちません。
ここでは、覚醒剤事犯の現状と再犯の関係を紹介します。
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(1)覚醒剤事犯の現状
令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に覚醒剤取締法違反の被疑で警察に検挙された人数は7970人でした。
昭和55~60年ころのピーク時は2万人を超えていたので大幅に減少しているとはいえ、1日単位に換算すると全国で20人以上が検挙されているのが現状です。
世間では若者の薬物乱用が問題視されていますが、覚醒剤事犯の検挙者の最多を占めるのは40歳代の32.3%、次いで多いのが50歳代の29.9%で、20歳代は13.0%、20歳未満は1.5%でした。
この統計からも、興味本位で覚醒剤事犯を起こしてしまった人よりも、以前から覚醒剤を使用しており覚醒剤とのかかわりを断ち切れないままでいる再犯者が多いという状況がうかがえます。 -
(2)刑務所への収容が3回以上の者が多数
同じく令和4年版の犯罪白書によると、覚醒剤取締法違反事件で懲役の言い渡しを受けて令和3年中に刑務所へと収容された人員のうち、男性は3530人でした。
うち、61.9%にあたる2186人は収容が3回以上で、極めて再犯性が高いことがわかります。
なお、女性の収容人員は541人で、収容3回以上の者は194人でしたが、もっとも多かったのは初めて収容された227人でした。
覚醒剤の再犯性は、男性のほうが高く、女性は低いという特徴があります。
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3、覚醒剤の再犯で逮捕されると刑罰は重くなるのか? 執行猶予の可能性は?
以前も覚醒剤取締法違反で検挙され、再び覚醒剤の所持や使用などの被疑で逮捕されてしまった場合は「再犯」として刑罰が重くなるのでしょうか?
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(1)「再犯」の意味
一般的には「以前にも罪を犯し、再び罪を犯すこと」と解釈されていますが、法律の考え方に照らすとこの解釈は正確ではありません。
刑法第56条1項によると、再犯とは「懲役に処せられた者が、その執行を終えた日またはその執行の免除を得た日から5年以内にさらに罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するとき」と明記されています。
この定義に照らすと、たとえば以前の事件で罰金が科せられた場合や、すでに刑務所を出所して5年を超える時間が経過している、5年以内でも罰金の言い渡しを受けたといった場合は、法律上の再犯にはあたりません。
なお、再犯に該当する場合は、刑法第57条の規定によって懲役の上限が「長期の2倍以下」となります。
たとえば覚醒剤の単純所持であれば、10年以下の懲役が20年以下の懲役へと加重されるので、結果として刑罰が重くなる可能性が高いでしょう。 -
(2)再犯にあたらない場合
以前に覚醒剤取締法違反で逮捕されて有罪判決を受けた経歴があっても、すでに刑務所から出所して、あるいは執行猶予の期間が満了して5年が過ぎていれば、法的な意味での再犯にはあたらず、刑の加重も受けません。
ただし、過去に覚醒剤事犯を起こしたうえで覚醒剤とのかかわりを断ち切れず再び罪を犯したという事実は重く評価されます。再犯加重を受けなくても、罰則の範囲内で重い方向へと傾く事態は避けられないでしょう。 -
(3)執行猶予中の再犯の場合
令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に覚醒剤取締法違反で有罪判決を受けた人のうち、全部執行猶予が38.4%、一部執行猶予が13.4%でした。
全部・一部を合計すると半数以上の人に執行猶予付きの判決が言い渡されていることになります。
懲役に執行猶予が付されると、刑務所に収監されず社会生活を送りながら更生を目指すことが許されますが、期間中にさらに覚醒剤事犯を起こすと、基本的に執行猶予が取り消されます。
制度上は再度の執行猶予もあり得ますが、新たな事件の判決が1年以下の懲役である、保護観察中ではない、特に酌量すべき情状があるなど条件が厳しいので、特に覚醒剤事犯においては、再度の執行猶予を認める条件を現行のルールだと満たせません。
執行猶予が取り消されると、以前の事件と新たな事件の刑罰の両方を受けることになります。それまでに過ごした執行猶予の期間は加味されないので、長期にわたって刑務所に収容される事態は避けられません。
4、覚醒剤取締法違反の被疑で逮捕されてしまったら弁護士に相談を
覚醒剤事犯は、いずれの行為も懲役を避けられない重罪です。
過去にも覚醒剤取締法違反の被疑で逮捕され刑罰を受けた経歴があるなら、再び逮捕された場合は厳しい処分を覚悟することになるでしょう。
できる限り処分を軽減したいと望むなら、弁護士のサポートが欠かせません。
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(1)素早い接見で取り調べに対するアドバイスが得られる
逮捕された直後から勾留が決定するまでの72時間以内は、たとえ家族であっても逮捕された本人との面会は認められません。
また、勾留が決定したあとでも、接見禁止がついてしまえば面会が許されないこともあります。
弁護士に相談・依頼すれば、逮捕直後のタイミングからでも接見が可能です。
特に逮捕直後は、自白を得たい警察によって不当な取り調べがおこなわれるケースも少なくないので、どのように対応すればよいのかのアドバイスを受けて、不利な状況に陥る事態を避けましょう。 -
(2)処分の軽減を目指した弁護活動が期待できる
覚醒剤取締法違反の再犯として逮捕された場合は、過去の事件を反省していない、覚醒剤とのかかわりを断ち切れていないという評価につながりやすく、厳しい判決を受ける事態へとつながってしまいます。
処分の軽減を望むなら、弁護士のサポートが欠かせません。
弁護士に依頼すれば、過去の再犯防止対策をさらに強化した更生プランや薬物依存症から立ち直るための治療プランの提示など、事案に応じた弁護活動で裁判官によい情状をアピールできます。法律上の再犯にあたらない場合は、判決に執行猶予が得られる可能性もあるでしょう。
とはいえ、本人が「反省している」「二度と覚醒剤に手を出さない」と口にするだけでは裁判官の信用は得られません。裁判官によい情状をアピールするためには、弁護士のサポートを得て具体的な対策を示すべきです。
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- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
5、まとめ
一度でも手を出してしまうと離脱が難しいのが覚醒剤の特徴です。
警察に逮捕され刑罰を受けていったんは深く反省しても、再び覚醒剤事犯を起こしてしまう人は後を絶ちません。
覚醒剤の再犯には厳しい処分が下される可能性が高いので、早い段階で弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕されてしまった場合は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。覚醒剤事犯の弁護実績を豊富にもつ弁護士が、処分の軽減を目指して全力でサポートします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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