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窃盗罪は刑法でどのように規定されている? 詐欺罪や横領罪との違いとは
刑法では財産に対する罪として、窃盗罪や詐欺罪、横領罪などが規定されています。これらの犯罪はそれぞれ処罰対象となる行為や法定刑が異なります。
しかし、部分的ではありますが行為態様が重なっているようにみえる面もあります。逮捕されたときは、どのような行為がどの罪名に当たるのかという区別が重要となるケースもあるのです。また、各犯罪を知ることにより、取り調べなどへの対処法も見えてくるでしょう。
今回は、窃盗罪の行為や刑罰について整理した上で、類似する詐欺罪や横領罪、事後強盗罪といった犯罪との異同を解説します。
1、窃盗の刑法を解説! 懲役や罰金刑はある?
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(1)何をしたら窃盗罪になるのか
窃盗罪は、刑法第235条に定められています。処罰対象者は、条文にあるとおり「他人の財物を窃取した者」です。
一般的に窃取といえば、ひそかに盗み取ることという意味で解釈されることがあります。しかし、刑法上で示される「窃取(せっしゅ)」は、ややその意味が異なります。法律用語を使用して説明すると、財物の占有者の意思に反し財物の占有を取得することと定義されることがあります。
「財物(ざいぶつ)」とは、一般的に金銭や物品などを指します。管理できる物であれば目に見えないものであっても財物に含まれると解されることもあります。他方、「占有(せんゆう)」とは、財物が事実上人の支配下に置かれている状態を指します。
かみ砕いて説明すれば、他人の持ち物(所有権のない預かり物も含む)を盗みとり、自分または他の誰かの持ち物にしてしまうことが「窃取」です。つまり、こっそり盗み取る万引きも「窃取」にあたりますし、相手から奪って持ち去るひったくりも窃取にあたります。したがって、万引きもひったくりも「窃盗罪」によって裁かれることになる可能性が高いでしょう。 -
(2)窃盗罪の重さと時効について
窃盗罪を犯した場合、10年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑罰が科されます。
「懲役(ちょうえき)」とは受刑者を受刑施設に拘禁して、労務作業を行わせるという刑罰です。労務作業の中には、刑務所の運営に必要な炊事や洗濯、掃除のほか、更生につながる無償ボランティア活動、かばんや服、木工製品などの生産などがあるようです。また、「罰金(ばっきん)」はお金を徴収される刑罰です。
窃盗罪の公訴時効は7年であり、罪を犯してから7年以上たてば、原則として起訴されません。
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2、窃盗は未遂でも犯罪になる?
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(1)窃盗罪の未遂とは何か
刑法第44条で定められている「未遂(みすい)」とは、犯罪行為をしかけたものの、構成要件に定められている犯罪が成立しなかった場合を指します。具体的には、刑法で予定する結果が発生しなかったケースと、行為と発生した結果の間に因果関係がなかったケースが該当します。
ただし、犯行が未遂になったことが明るみに出たとしても必ず処罰されるわけではありません。刑法に定めがある犯罪に対してのみ、未遂罪に問われることになります。「窃盗罪」の場合は刑法第243条に未遂罪が定められています。したがって、未遂であったとしても、犯罪として罪が問われる可能性があります。 -
(2)実行の着手と既遂時期
犯罪に該当する行為を開始することを、「実行の着手」と呼びます。未遂罪が成立するためには実行の着手がなければなりません。たとえば、頭の中で「あの店の宝石を盗みたい」と思っただけでは窃盗未遂罪は成立しないということです。ただし、どの時点から実行の着手があると認められるかについては見解が分かれています。一つの見解として「結果発生に対する現実的危険性が生じる行為をした時点」とするものが有力です。
過去の裁判では、以下のタイミングで「実行の着手」が認められています。
- 住居侵入窃盗 他人の家へ侵入後、金品物色の目的でたんすに近寄ったとき(昭和9年10月19日 大審院判決)
- 土蔵内での窃盗 窃盗目的で倉庫への侵入行為をしたとき(昭和25年11月14日 名古屋高判)
他方、既遂とは犯罪を実行し結果が発生したことを言います。窃盗罪の既遂となるのは、他人の財物の占有を自分が得るか、第三者に得させた時点です。 -
(3)未遂と刑の減免
未遂罪の場合、既遂罪と比べて刑が減軽されることがあります。これを裁量的減軽といい、刑を軽くするかどうかは裁判所の判断に委ねられます。
また、自分の意思で犯罪を中止した場合は刑の減軽か免除がなされます。これは必要的減免といい、裁判所は減軽または免除をしなければなりません。いずれも刑法第43条に定めがあります。
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3、窃盗罪と詐欺罪や横領罪との違いとは
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(1)窃盗罪と詐欺罪はどう違う?
窃盗にせよ詐欺にせよ、他人の財物を自分のものとするという行為については同様です。
しかし、詐欺罪の場合は、人を「欺いて」財物を交付させるという行為態様が要求されています。なお、詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、窃盗罪と比べて「50万円以下の罰金」という刑罰が存在しません。つまり、有罪となって執行猶予がつかなければ、原則として必ず刑務所に入らなければならないということであり、窃盗罪よりも刑が重いのです。
これは、単に財物を窃取するよりも、人を欺くことで財物を騙し取るほうが、より悪質性の高い行為だと考えられているためという点が一つの根拠といわれています。 -
(2)窃盗罪と横領罪はどう違う?
横領とは、判例によれば、自己の占有する他人の物を不法に領得し、不法領得の意思を実現する行為と定義されています。横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背き、所有者しかできないような処分を無権限で行う意思のことです。
他人の物を盗り、自分の物として処分するという意味では、横領罪も窃盗罪も似ています。ただ、横領罪では他人の占有する財物ではなく、自己の占有する他人の物が対象とされています。
横領罪の法定刑は5年以下の懲役、業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役です。単純な横領罪の場合、罰金刑はないものの懲役刑の上限は窃盗罪よりも低く、業務上横領罪の場合、詐欺罪と同様に窃盗罪より重い刑罰となっています。これは横領という行為が、その前提となる委託信任関係を裏切るものであるがゆえに、詐欺罪同様の懲役刑が設定されているのだと考えられています。
ちなみに、誰かから預けられた物ではなく、占有を離れた物を横領する遺失物横領罪や占有離脱物横領罪では、法定刑が1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料と軽くなっています。つまり、たとえば落とし物の誰も管理占有していないスマートフォンを勝手に持ち去り自分の物にしてしまうと、遺失物横領罪などに問われる可能性があるということです。
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4、窃盗罪が事後強盗罪になることもある
たとえば物を盗もうとして見つかり、取り返されそうになったり逮捕されそうになったりしたために暴行や脅迫をした場合、単なる窃盗罪ではなく、事後強盗罪が成立する可能性が出てきます。
事後強盗罪とは、最初から強盗をする目的ではなかったものの、後から結局強盗と同じ行為態様となった場合を犯罪として定めるものです。事後強盗罪は強盗として扱われるため、法定刑が5年以上の有期懲役となります。窃盗罪の「10年以下の懲役」だと、量刑判断によっては最短で1ヶ月という可能性もありますが、強盗罪では減刑されない限り最短で5年となるため、詐欺罪や横領罪と比べても非常に罪が重くなるといえるでしょう。
これは、強盗罪を処罰する理由となる保護法益が財産だけではなく人の生命や身体も含まれていることによります。刑法上、財物を奪うときの暴行などは類型的に危険性が高いとみなされています。
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5、窃盗罪で訴えられそうになったら弁護士に相談を
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(1)窃盗罪と起訴
窃盗罪では、被害額が大きい、態様が悪質であるといった事情がないような場合に、初犯であれば、罰金刑となることもあります。
罰金刑となる略式起訴でも懲役刑となる正式な裁判を行う起訴であっても、たとえ未遂罪であっても有罪は有罪であり、前科がついてしまうことになります。また、捜査機関に詐欺罪や横領罪と判断された場合、刑がより重くなることも考えられますし、逃げようとして暴力を振るえば事後強盗罪と判断されるおそれもあります。
懲役刑となれば、それだけ周囲への影響も大きくなり、社会復帰も大変になるでしょう。 -
(2)弁護士への相談で早期対応を
弁護士に依頼し、被害者に対する被害弁償や謝罪の気持ちを伝えてもらうことで示談交渉をまとめられれば、刑法上の犯罪に当たる場合でも不起訴となる可能性がでてきます。また、有罪となったとしても執行猶予がつくことがあるでしょう。
犯してしまった罪へのフォローを速やかに行うことにより、負担を減らし、更生へ向けて歩み始めることができます。窃盗罪で逮捕され、起訴されそうな場合は、なるべく早めに弁護士へ相談されることをおすすめします。
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6、まとめ
今回は刑法における窃盗罪の定めと、詐欺罪や横領罪、事後強盗罪との異同について説明しました。
窃盗罪は未遂でも犯罪となり、罰金刑や懲役刑に科せられる可能性もあります。また、取り調べでの対応によっては、もっと重い詐欺罪や横領罪と判断されるおそれもある犯罪です。不当に重い刑罰を科せられないためにも、犯した罪を償い、反省することが重要となります。
ご家族が窃盗罪の容疑で逮捕された場合などは、ベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。被害者との示談交渉や身柄の早期解放へ向けた手続きなど、さまざまなサポートを行います。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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