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器物損壊罪とは? 罰則内容や逮捕されるケースについて
令和3年9月、コンビニの駐車場に止めてあった乗用車に人の排泄物とみられる汚物を付けたとして、神奈川県在住の男が器物損壊罪で逮捕される事件がありました。乗用車の所有者がコンビニを通じて警察に通報し、周辺の防犯カメラの映像から男が被疑者として特定されたようです。
器物損壊罪について、「軽い犯罪」「逮捕されない」などと考えている方もいるようですが、この事件のように器物損壊罪では逮捕される場合があります。逮捕されて有罪になるとどんな罰則が適用されるのでしょうか?
本コラムでは器物損壊罪をテーマに、犯罪の成立要件や罰則の内容、逮捕されるパターンなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、器物損壊罪とは
器物損壊罪が成立する要件と器物損壊罪に該当するケース・しないケースについて解説します。
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(1)器物損壊罪の成立要件
刑法第261条は「前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した」場合に器物損壊罪が成立するとしています。
「前三条」とは公用文書等毀棄罪(同第258条)、私用文書等毀棄罪(同第259条)、建造物等損壊罪(同第260条)のことです。したがって、器物損壊罪における「物」とは、これらの罪の対象にならない他人の物すべてを指します。土地などの不動産や動産、動植物も含みます。私有物か公共物かどうかは関係ありません。
「損壊」とは物理的に壊すことや、物の本来の効用を害することです。事実上使えない状態にする、または感情的に使えない状態にすることも損壊とみなされます。「傷害」とは動物を殺傷するなどしてその効用を害することです。 -
(2)器物損壊罪に該当するケース
陶器を叩き割る、車のボディにコインや金属で傷をつけるなどの行為が器物損壊罪に該当するのはイメージしやすいでしょう。一方、一般的な用語としての「壊す」「傷つける」といった意味でなくても器物損壊罪が成立するケースがあります。
- 物を隠した……事実上使えない状態になるため、器物損壊罪に該当し得ます。
- 食器に放尿した……いくら洗ってもそれを使うのは感情的に難しいので、割れたりひびが入ったりしていなくても器物損壊罪にあたります。
- 他人の家の壁に落書きした……落書きによって美観が損なわれ、本来の効用を害したといえる場合は器物損壊罪が成立します。なお、落書きをした場所によっては、建造物等損壊罪や文化財保護法違反などほかの罪にあたる場合もあります。
- 他人のペットを殺傷した、逃がした……動物は法律上、「物」として扱われるため器物損壊罪が成立します。なお、ペットの殺傷は動物愛護法違反に問われる場合もあります。
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(3)器物損壊罪に該当しないケース
器物損壊罪が成立するには、他人の物を損壊または傷害する認識(故意)が必要です。不注意やミスで他人の物を壊したケースは故意がないため器物損壊罪に該当しません。たとえば、うっかり店の商品を床に落として壊してしまった、車の運転ミスでガードレールを曲げてしまったなどのケースです。
もっとも、泥酔状態で本人が覚えていない場合などでも故意は否定されないため注意が必要です。また、故意がなく犯罪が成立しなくても民事上の損害賠償責任は負うため、壊した物を弁償する必要があります。
以下のケースも器物損壊罪にはあたりません。
- 14歳未満の子どもが人の物を壊した……刑法第41条では14歳未満は罰しないと規定しているため、器物損壊罪はおろか、ほかの罪に問われることもありません。
- 自分のペットが人の物を壊した……刑法は人の行為を処罰する法律なのでペットがした行為は処罰の対象外です。
- 壊そうとしたものの実際には壊せなかった……器物損壊罪には未遂罪の規定が存在しないため罪になりません。
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2、器物損壊罪の罰則
器物損壊罪にあたる行為をするとどんな刑罰を受けるのでしょうか?罰則の内容を確認しましょう。
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(1)器物損壊罪の罰則
器物損壊罪の法定刑は「3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料」です。
「懲役」とは刑務所に収監されたうえで刑務作業に従事させられる刑のことです。器物損壊罪はほかの刑法犯と比べて刑罰が軽い犯罪だといえますが、理論上は最長で3年の懲役を科すことも可能なので甘く見ることはできません。
判決に執行猶予がつかなければ刑務所に収監され、社会とは隔離された生活を送ることになってしまいます。
「罰金」とは1万円以上の金銭を徴収される刑を、「科料」とは1000円以上1万円未満の金銭徴収を受ける刑を指します。
なお、他人のペットを殺傷したケースでは動物愛護法第44条の規定により「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」が適用される場合もあります。 -
(2)実際に言い渡される刑はどれくらい?
裁判で実際に言い渡される刑を「量刑」といい、量刑は法定刑の範囲内で裁判官が決定します。量刑は事件の内容によって大きく異なるため、個別の事件の量刑については弁護士に見通しを確認するのがよいでしょう。
もっとも、ある程度の傾向はあります。まず選択される刑ですが、科料は適用される事例が少ないため、懲役か罰金となる可能性が高いでしょう。また悪質なケースや前科があるケースなどを除けば、懲役の場合は執行猶予がつく可能性も高いと考えられます。 -
(3)略式手続きが適用される可能性がある
器物損壊罪は法定刑に罰金と科料が含まれているので略式手続きが適用される可能性もあります。
略式手続きとは、公開の法廷ではなく書面のみの審理によって進められる簡略的な裁判手続きをいい、100万円以下の罰金または科料を科すことができる犯罪が対象です。公開の裁判と比べて迅速に裁判手続きが終わる、判決は罰金か科料となるなど被告人に有利な面がある手続きですが、必ず有罪になります。前科がつくことになるため、略式手続きを受け入れるどうかは慎重に判断しなければなりません。
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3、器物損壊罪で逮捕されるケース
器物損壊罪ではどのようなケースで逮捕されやすいのでしょうか?
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(1)器物損壊罪は親告罪
まず知っておきたいのは、器物損壊罪は親告罪であるということです。
親告罪とは検察官が起訴するために被害者の告訴を必要とする犯罪をいいます。多くの犯罪は非親告罪なので、犯罪事実が発覚すれば被害者の告訴がなくても逮捕・起訴される危険があります。一方、親告罪で被害者の告訴がない場合は検察官が起訴できないので、逮捕されることも裁判にかけられることもありません。 -
(2)現行犯逮捕されるケース
現行犯逮捕とは、現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者を、逮捕状によらず逮捕する逮捕手続きです(刑事訴訟法第212条1項、213条)。
現行犯逮捕に限っては、警察官などの逮捕権を有する者だけでなく、私人にも可能です。基本的に犯行を現認したうえでの逮捕なので犯人を取り違えるおそれがないためです。ただし、私人が現行犯逮捕したときは、ただちに警察官などに引き渡さなければなりません(同第214条)。
器物損壊罪では、他人の所有物に傷をつけているところを被害者に見つかって取り押さえられた、居酒屋で酔っ払って店の物を壊したので店員に通報され、駆けつけた警察官に身柄を確保されたといったケースが想定されます。 -
(3)通常逮捕(後日逮捕)されるケース
通常逮捕とは、裁判官が発付した逮捕状にもとづく原則的な逮捕手続きをいいます。逮捕は被疑者の身柄を強制的に拘束する手続きなので、現行犯逮捕を除いては必ず逮捕状によらなければなりません(日本国憲法第33条、刑事訴訟法第199条1項)。
器物損壊事件で通常逮捕されるのは、冒頭の事例のように被害者が通報したために捜査が開始され、防犯カメラの映像から被疑者が特定されたケースが典型的です。特に、高額な物を壊した、何件もの器物損壊事件を起こしているなどのケースでは重い刑が予想されることから逃亡・証拠隠滅の可能性が上がるため、通常逮捕される危険があります。
逮捕後は、留置場に身柄を拘束されたうえで警察・検察から取り調べを受け、72時間以内に釈放または勾留請求が判断されます。勾留されると最長で20日間の身柄拘束が続き、勾留の満期までに起訴または不起訴が決定します。 -
(4)警察に自首して逮捕されるケース
捜査機関に犯罪事実が発覚する前に、自らの処罰を求めて罪を申告すると、法律上の自首が成立します(刑法第42条1項)。
自首をしても、任意での事情聴取を受けたうえで、その日のうちに逮捕される場合があります。一方で、自首をした事実は逮捕の要件である「逃亡または証拠隠滅のおそれ」を否定する方向にはたらくため、逮捕を回避できる可能性も高まります。
実際に自首するべきか否かは慎重な検討が必要です。器物損壊罪の場合、自首の前に被害者と示談を成立させるという選択肢もあります。器物損壊罪の被害者は物の弁償を第一に希望するケースも多いので、真摯に謝罪して示談金を支払えば示談に応じる可能性は比較的に高いといえるでしょう。
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4、器物損壊罪で逮捕されたら弁護士に相談を
自分の家族が器物損壊罪の疑いで逮捕されたら速やかに弁護士に相談し、サポートを求めましょう。弁護士に相談するべき理由を解説します。
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(1)示談交渉をしてもらえる
器物損壊罪は親告罪なので、告訴しない、または告訴の取消しを含む示談が成立した場合には不起訴となります。事件の早期解決には被害者との示談交渉が極めて重要です。
しかし、被害者の処罰感情が強く冷静な話し合いが難しい、慰謝料と称して法外な示談金を請求されるおそれがあるなどの理由から、ご家族が直接の示談交渉に臨むのは避けるべきでしょう。示談交渉は弁護士に一任するのが賢明です。
弁護士なら客観的な第三者の立場として冷静な話し合いができるほか、示談金の相場観もあるため適切な額で示談を成立させられる可能性があります。法的に有効な示談書の作成や示談の結果を検察官へ的確に伝えることもできます。
なお、器物損壊罪における示談金は、原則として損壊した物の金額や修理費用などが基準となり、慰謝料は含まないケースが多数です。ただし、被害者の思い出の品を壊した、被害者の処罰感情が強いといったケースでは、慰謝料も支払う場合があります。 -
(2)早期釈放に向けた活動をしてもらえる
逮捕されると最長で23日間もの身柄拘束を受けてしまうため、日常生活への影響は甚大です。そこで弁護士は早期釈放に向けて、検察官には勾留を請求しないように、裁判官には勾留を認めないようにはたらきかけます。
たとえば、被害者に対して誠意ある対応を行っている事実や本人が深く反省している事実を、謝罪文や反省文、示談書の控えなどの客観的証拠をもとに示します。適切な身元引受人を確保する、家族が監督できる状況を説明するなどして、逃亡・証拠隠滅のおそれを否定し、勾留の必要がない旨を主張するのも弁護士の重要な活動です。
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5、まとめ
器物損壊罪は故意に他人の物を損壊・傷害した場合に成立する犯罪です。親告罪であること、法定刑が比較的軽いことなどから甘く考えられがちですが、悪質なケースや被害額が大きいケースなどでは告訴され、逮捕、起訴される危険があります。弁護士に相談して対応を依頼しましょう。
いたずら半分で他人の物を壊してしまった、家族が逮捕されてしまったといった状況でお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事弁護の経験豊富な弁護士が全力でサポートします。
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