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詐欺未遂罪とは? 成立する要件や刑罰、詐欺罪との違いを解説
詐欺罪は人をだまして金銭などの財物を得る犯罪ですが、結果的に財物を得られなかった場合にも未遂として処罰されます。近年は、オレオレ詐欺などの特殊詐欺事件で現金を受け取る役割の「受け子」が、現金を受け取る前に逮捕される詐欺未遂事件が全国で相次いでいます。
実際に財産的損害が発生していなくても、人をだます行為があれば詐欺未遂として処罰され得ます。未遂とはいえ厳しい刑を受けるおそれがある重大犯罪ですが、具体的にはどのくらいの刑を受けるのでしょうか?
本コラムでは詐欺未遂罪が成立する要件や詐欺罪との違い、刑罰の内容について、判例とあわせてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、詐欺未遂罪とは? 未遂でも処罰される?
詐欺未遂罪とはどのような犯罪をいうのでしょうか?詐欺未遂罪の定義と構成要件について解説します。
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(1)詐欺未遂罪とは
詐欺未遂罪とは、人を欺いて財物を交付させようとしたが財物を得られなかった場合に問われる罪です。
刑法では既遂を処罰するのが原則ですが、各犯罪の条文に規定がある場合に限り、未遂でも罪に問われます。詐欺罪も未遂を処罰する規定が存在します(刑法第250条)。
詐欺未遂罪の場合、実際には財産上の被害が生じていないため軽い処分で済まされると考えがちです。しかし未遂であっても逮捕・起訴される場合や実刑判決がくだる場合があるため軽く捉えることはできません。 -
(2)詐欺未遂罪の構成要件
詐欺未遂罪が成立するには、実行行為がなされることが必要です。詐欺罪の実行行為とは、欺罔(ぎもう)行為を指し、欺罔行為とは財物の交付に向けて人を錯誤に陥られせる行為のことで、簡単にいうなら相手を欺こうとする行為といえるかもしれません。たとえば存在しない会社への投資話を持ちかける、相手の親族を装ってお金が必要だと電話をかけるなどの行為が該当します。
詐欺未遂罪は欺罔行為があれば成立し得るため、以下のようなケースでも罪になります。- 相手に虚偽の情報を伝えてだまそうとしたが、相手がだまされなかった
- 相手がだまされたが不審に感じた家族が通報したため、財産を取得する前に逃亡した
また、主観的構成要件として故意も必要です。故意とは結果に対する認識・認容を指します。結果の発生に対する確定的な認識・認容までは必要ではありません。
たとえば知人から「簡単にお金が稼げる方法がある」などと言われて深い事情を知らずに詐欺に関与した場合、詐欺であることの確証まではなくても、不自然に高額な報酬であれば何らかの犯罪であることは推察できるため、故意が認定される可能性は高いでしょう。
2、詐欺罪と詐欺未遂罪の違いとは?
詐欺罪の定義と構成要件を確認したうえで、詐欺未遂罪との違いを見ていきましょう。
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(1)詐欺罪とは
詐欺罪とは、人を欺いて、財物を交付させる犯罪です(刑法第246条第1項)。悪徳商法や結婚詐欺などの古典的な詐欺から、オレオレ詐欺や架空請求詐欺など対面によらない特殊詐欺までさまざまな種類があります。
人を欺いて財産上不法の利益を得、または他人に得させた場合も詐欺罪にあたります。飲食店での無銭飲食など、本来支払うべき代金の支払いを不当に免れる行為が該当します(同第2項)。 -
(2)詐欺罪の構成要件
詐欺罪の構成要件は以下のとおりです。
- 欺罔行為
詐欺未遂罪と同様に相手をだます行為が必要です。 - 錯誤
欺罔行為によって、相手が錯誤に陥ることです。錯誤とは被害者が虚偽の情報を信じ込む状態を指します。欺罔行為があっても相手が錯誤に陥らなければ、詐欺未遂罪が成立します。 - 財産の処分行為
錯誤によって被害者が自分の意思で財産を交付することです。錯誤にもとづく処分が必要なので、別の動機、たとえば被害者が加害者を気の毒に思って財産を交付した場合などには詐欺未遂罪が成立します。 - 財物・利益の移転
財物や利益が移転することが必要です。ここまでの要件を満たしても最終的に財産・利益が移転しなかった場合には詐欺未遂罪の成立にとどまります。
また詐欺未遂罪と同様に故意も必要です。故意は内面の問題ですが、客観的事実に基づいての有無が判断されます。たとえば借用書の氏名・住所が虚偽だった、警察官になりすまして電話をかけたなどの事実があれば、故意が認定されやすくなります。
- 欺罔行為
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(3)詐欺罪と詐欺未遂罪の違い
詐欺罪は4つの構成要件をすべて満たし、各要件が因果関係で結びついている場合に成立します。一連の行為により、犯人は財物または利益の取得という目的を遂げています。
一方、詐欺未遂罪は欺罔行為があったものの、犯人は結果的に財物・利益の取得という目的を遂げていません。
また詐欺未遂罪では被害結果が生じていないことから、既遂の場合と比べて処分が軽くなる可能性があります。
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3、詐欺未遂罪の刑罰は?
詐欺未遂罪の刑罰と公訴時効について解説します。
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(1)詐欺未遂の刑罰
詐欺未遂罪の法定刑は、詐欺罪と同じ10年以下の懲役です。
懲役とは刑事施設での刑務作業を強制される刑罰をいいます。選択刑として罰金刑などの規定はないため、有罪になれば懲役刑は免れません。未遂罪であっても、執行猶予がつかない限りは刑務所へ収監されます。
ただし、未遂罪には刑法第43条の未遂減免が適用される場合があるため、裁判官の量刑判断においては詐欺罪よりも刑が軽くなる可能性があります。詐欺未遂罪で減軽された場合は、長期の2分の1が減軽されるため懲役は最長で5年となります(刑法第68条)。
特に、自分の意思で犯罪を中止した「中止未遂」の場合は、刑が必ず減軽または免除となります。
通報されたため財物を得られなかったなど、外部的要因によって犯罪を完遂できなかった場合は、裁判官の裁量で減軽される可能性があるにとどまります。 -
(2)詐欺未遂罪の時効
公訴時効とは、一定の期間が経過することによって、検察官が起訴できなくなる制度を指します。
詐欺未遂罪の公訴時効は7年です。犯罪行為が終わってから7年が経過すると起訴されないため、刑事裁判にかけられることがありません。詐欺未遂罪の場合、時効の起算日は実行行為が終了した時点となるため、被害者に虚偽の情報を伝えるなどの欺罔行為が終わった時点から進行します。
ただし、時効は停止する場合があります。停止とは時効の進行が一時的にストップすることをいい、以下の事由が該当します(刑事訴訟法第254条、255条)。- 国外にいる場合
- 犯人が逃げ隠れているために起訴状の謄本の送達ができなかった場合
- 共犯者のひとりが起訴された場合
4、家族が詐欺未遂罪で逮捕された場合にできること
詐欺未遂罪では実刑判決がくだる場合があり、執行猶予がついた場合も前科になってしまいます。また逮捕・勾留による身柄拘束が続けば、解雇や退学など不利益な処分を受けるおそれがあります。これらの不利益を避けるためにも、自分の家族が詐欺未遂罪で逮捕されたら早期に弁護士に相談してサポートを受けましょう。
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(1)示談交渉を行う
詐欺事件は被害者がいる犯罪なので、被害者と示談が成立していれば裁判官の量刑判断に際して有利に扱われる可能性があります。
判決に執行猶予がつけば社会の中での更生を図ることができ、会社や学校に通うことが可能です。実刑判決となった場合でも刑が減軽されれば社会復帰がはやまります。
特に詐欺未遂罪にとどまる場合は被害者に損害が発生していないため、深い反省の気持ちがある、初犯であるなどの事情も加われば、執行猶予つき判決を受ける可能性が高まるでしょう。
とはいえ、被害者は自分をだまして財産的な損害を与えようとした相手を警戒するため、加害者本人が交渉するのは困難です。それは、加害者のご家族であっても変わりはありません。公平中立な第三者の立場である弁護士からの交渉によって被害者に安心してもらい、示談交渉を進めるのが最善の方法です。 -
(2)勾留請求・決定を阻止する
勾留が決定すると、逮捕から最長で23日間にわたる身柄拘束を受け、会社や学校、家庭など日常生活への影響が大きくなってしまいます。特にオレオレ詐欺などの組織的な詐欺事件では共犯者と接触して証拠隠滅を図るおそれが高いため、勾留となる危険性は上がります。
しかし勾留は被疑者の逃亡や証拠隠滅を防止するための措置なので、逃亡や証拠隠滅のおそれを否定する弁護活動によって、検察官の勾留請求や裁判官の勾留決定を回避できる可能性があります。
弁護士が検察官に対し、ご家族の監督誓約書や示談書といった証拠を提出するなどし、勾留の必要がない旨を説得的に主張していきます。勾留請求された場合も、準抗告などの活動によって勾留の決定を阻止するようはたらきかけます。
5、詐欺未遂罪の判例
何をすると詐欺未遂罪に問われ、どれくらいの刑を言い渡されるのでしょうか?実際にあった事件の概要と刑罰の内容を紹介します。
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(1)オレオレ詐欺の被害者からさらに現金を騙し取ろうとしたが失敗した事例
【平成29(あ)322 詐欺未遂被告事件】
被害者のおいになりすました共犯者が被害者に「仕事の関係で現金が至急必要」などとうそを言い、おいの同僚になりすました別の者に現金100万円を交付させました。翌日、被告人は警察官になりすまし、「前日の100万円を取り返すので協力してほしい」などとうそを言って信じ込ませ、被害者に預金口座から払い戻しさせたうえで現金を交付させようとしました。しかし警戒中の警察官に職務質問を受けて逮捕されたため、その目的を遂げませんでした。
被告人は実刑判決をくだした第一審に対して控訴したところ、控訴審では、被告人の発言は被害者に現金の交付までを求めるものではなく、欺罔行為にあたらないとして無罪が言い渡されました。
しかし最高裁は、財物交付を要求する直接的な発言がなくとも、財物交付につながる内容の欺罔行為があれば詐欺罪の実行の着手があったと認められると判示しました。
第一審の判決が維持され、懲役2年4か月が確定しています。 -
(2)宝くじの当選金に関する違約金を払わせようとしたが失敗した事例
【平成29(あ)1079 詐欺未遂被告事件】
被告人はほかの犯人と共謀し、被害者に宝くじの特別抽選の当選金を受け取れると誤信させたうえで、「不正があったので違約金を払わないといけない」などとうそを言って現金を配送させてだまし取ろうとしました。しかし被害者が警察官に相談していわゆる「だまされたふり作戦」を開始し、現金が入っていない空箱を発送したため、その目的を遂げませんでした。
第一審は、被告人が事件に加担したのは共犯者による欺罔行為の後であって、加担後はだまされたふり作戦が開始されていたため、詐欺未遂罪の共同正犯とは認められないとして無罪判決を言い渡しました。
これに対して控訴審では、だまされたふり作戦の開始にかかわらず詐欺未遂罪の共同正犯が成立するとしました。
最高裁も控訴審の判断が正当であるとして、懲役3年、執行猶予5年の判決が確定しています。
6、まとめ
詐欺未遂罪は相手をだまして財物を交付させようとしたがその目的を遂げなかった場合の犯罪です。未遂とはいえ、法定刑は懲役のみで罰金刑の規定はありません。そのため有罪になれば、略式罰金などで済まされる可能性はありません。初犯であっても悪質なケースであれば実刑判決がくだるおそれもあります。
早期釈放や執行猶予を目指すには弁護士のサポートが不可欠です。もし自分の家族が詐欺未遂罪の疑いで逮捕されたら早急に弁護士へ相談しましょう。詐欺事件の解決は、刑事弁護の経験豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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