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弁護士コラム

2022年02月22日
  • 財産事件
  • 不動産侵奪罪

不動産侵奪罪とは? 罰則内容や成立要件を具体的に解説!

不動産侵奪罪とは? 罰則内容や成立要件を具体的に解説!
不動産侵奪罪とは? 罰則内容や成立要件を具体的に解説!

土地境界線のトラブルは市民にとっても身近な問題です。日本弁護士連合会が実施した「市民の法的ニーズ調査」によると、全国の法律相談センターや法律事務所で受けた近隣トラブルに関する相談のうち、40%が「土地の境界線」に関するものでした。

土地に関するトラブルのなかでも典型的なのが「無断で土地を占有された」と訴えられるケースです。土地だけでなく「無断で建物を占拠された」といった訴えを受けるケースもあり、普段どおりの生活を送っていただけなのに突然犯罪の容疑をかけられて、困惑する方もいるでしょう。

本コラムでは「不動産侵奪罪」とはどのような犯罪なのか、成立要件や刑罰、実際に不動産侵奪罪が成立した事例や関係する犯罪・違法行為について解説します。

1、不動産侵奪罪とは

「不動産侵奪罪」という罪名は、多くの方にとって耳慣れないはずです。警察庁の統計でも年間で20~30件程度の認知・検挙が確認されているだけの犯罪なので、身近に感じている方はほとんどいないでしょう。

まずは不動産侵奪罪がどのような犯罪なのかを確認していきます。

  1. (1)不動産侵奪罪の法的根拠

    不動産侵奪罪は、刑法第235条の2に規定されている犯罪です。「他人の不動産を侵奪した者」を罰する目的で定められています

    不動産侵奪罪が置かれているのは、刑法第36章「窃盗及び強盗の罪」の一節です。つまり、この犯罪は「窃盗」の一類型だといえます。

    実は、不動産侵奪罪は刑法が制定された当初には存在しない犯罪でした。昭和27年、大阪市内の私有地が無断で占拠され、60軒あまりのバラック小屋が建てられたため、土地所有者が建設会社に依頼して撤去させる事件が発生します。この事件では、無断占拠にもかかわらず土地所有者が建造物損壊罪の容疑で逮捕され、刑事裁判の第一審で有罪判決、第二審では無罪が言い渡されました。

    この事件をきっかけに、不動産の不法占拠を犯罪とする「不動産侵奪罪」が昭和35年の改正で誕生したという経緯があります。

  2. (2)不動産侵奪罪で科せられる刑罰

    不動産侵奪罪に対して法律が定めている刑罰は「10年以下の懲役」です。刑事裁判で有罪になった場合に言い渡されるのは懲役のみで、罰金の規定はありません。言い渡される量刑が3年を超えると原則として執行猶予の対象外となり、実刑判決が下されます。

    公訴時効は7年です。不動産を侵奪した事実から7年が経過すると、検察官が起訴できなくなり罪には問われません。

    また、不動産には「取得時効」が存在します。たとえ無断占拠にあたるケースでも、民法第162条1項の規定に従い、占有から20年が経過すれば不動産の所有権を取得することが可能となる場合があります。

  3. (3)親族間における不動産侵奪罪の特例|親族相盗例

    不動産侵奪罪は、刑法第244条に定められた「親族相盗例」の適用を受けます。配偶者・直系血族・同居の親族との間で起きた不動産侵奪罪は、同条1項の規定によって刑が免除されます。

    配偶者は法律上の婚姻関係を結んだ者に限られ、事実婚関係は含まれません。直系血族とは、自分を中心として直上・直下の関係にある血族です。父母・祖父母、子・孫がこれにあたります。

    また、これらの関係にない他の親族との間で起きた不動産侵奪罪では、告訴がない限り検察官は起訴できません。

    なお、これらの規定は親族関係がある者のみに適用されるものです。たとえば、親族ではない共犯者が存在するケースでは、共犯者に親族相盗例は適用されません。

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2、不動産侵奪罪の成立要件

不動産侵奪罪が成立するのは「他人の不動産を侵奪した」場合です。条文を分解しながら、不動産侵奪罪が成立する要件を確認していきましょう。

  1. (1)「他人の不動産」とは

    不動産侵奪罪における「他人」とは、個人はもちろん、法人も含みます。「不動産」とは、土地・建物です。土地といえば、地表や地下をイメージするのが一般的ですが、ここでは「空中」も含むと考えられます。

  2. (2)「侵奪」とは

    「侵奪」とは、不動産に対する他人の占有を排除して自己または第三者の占有を設定することをいいます。「占有」とは、物に対する事実的支配を意味する法律用語であり、窃盗罪でも問題となります。たとえば、窃盗罪における占有では、被害者が実際に手に持っている状況だけでなく、かばんに入れたまま置いてその場を離れている、自宅の金庫に保管しているといった状況でも占有が認められます。

    不動産侵奪罪においても同様で、その不動産に住む、倉庫を建てるといった行為はもちろん、本来の所有者が自由に使用できない状況にすれば占有に対する侵奪があったものと考えるのが通説です。もっとも、不動産に対する事実的な支配の侵害が必要になるので、不動産登記の改ざんや、虚偽の申請による登記名義の不正取得については、不動産侵奪罪は成立しません。

    なお、被害者に「侵奪された」という認識があるかどうかは問題にはなりません。

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3、不動産侵奪罪が成立するケース

実際に不動産侵奪罪が成立すると認められた過去の裁判例を見ていきましょう。

  1. (1)土地所有者に使用中止を求められたあとに倉庫を建てて使用したケース

    【最高裁 昭和42(あ)1480 昭和42年11月2日】
    被告人は、板塀で囲んで上部をトタン屋根で覆ってある他人所有の土地について、建築資材などの置き場に使用していました。被告人とその土地の所有者との間に契約は存在しなかったものの、所有者は黙認していました。この時点では、まだ不動産侵奪罪が施行されていなかったため、この行為は特に問題にはなりません。

    ところが、不動産侵奪罪の施行後、台風によって板塀などの囲いが倒壊しました。所有者はその修繕工事をしないよう強く申し入れましたが、被告人はその申し入れを拒み、土地の周囲に高さ2.75メートルのコンクリートブロック塀を構築したうえで、上部をトタン板で覆った倉庫を建てて、引き続き建築資材の置き場として使用しました。

    被告人は、不動産侵奪罪が施行される以前から所有者黙認のもとで土地を使用していたため、憲法第39条の「遡及処罰の禁止」を主張しました。実行のときに適法であった行為は、その後新たに法律が整備されて犯罪になったとしても刑事責任は問われません。

    第一審・第二審では、ともに不動産侵奪罪が成立するとして有罪とされ、最高裁でも「不動産侵奪罪の施行後におこなわれた新たな行為を有罪としている」として、上告が棄却されました。本件では、被告人はすでに土地を使用していましたが、コンクリートブロック塀を築造したことによりその占有に変化が生じた点をとらえて、不動産侵奪罪の成立が認められています。

  2. (2)土地の無断転借人が簡易施設を改造して本格的店舗を構築したケース

    【最高裁 平成12(あ)840 平成12年12月15日】
    不動産会社Aは、自社が所有する126.15平方メートルの宅地について、Bに「転貸禁止、ただちに撤去可能な屋台営業だけを認める」という条件を付して無償で貸し渡しました。これを受けてBは、鉄パイプ・トタンの波板・ビニールシートによる仮設の店舗を構築してこの土地で飲食業を営んでいましたが、別のCに対して条件を伝えて賃貸します。さらにCはBから引き継いだ仮設店舗を利用して飲食業を営んでいましたが、条件を伝えて被告人に賃貸しました。

    被告人は「ただちに撤去可能な屋台営業のみ可能」という条件があるにもかかわらず、工事を加えて内壁・床面・天井を作ったうえで、さらに内部を化粧ベニヤ板で区切って個室を作り、各部屋にシャワー・トイレを設置して風俗営業のための店舗を建てました。

    裁判所は、被告人が新たに建てた店舗について、不動産会社Aからの貸し渡しを受けたBが構築したときと比較すると大いに構造が異なるうえに、解体・撤去の困難さも格段に増加しているとし、被告人の建物構築は「不動産会社Aの土地に対する占有を新たに排除した」と評価できるとして、不動産侵奪罪の成立を認めました。

  3. (3)撤去が容易な簡易建物を無断で構築し、撤去要求に従わなかったケース

    【最高裁 平成12(あ)451 平成12年12月15日】
    被告人は、東京都の公園予定地の一部に無断で簡易建物を構築し、中古家庭電気製品などのリサイクルショップとして利用していました。建てられた建物は約37平方メートルの木造ビニールシート葺平屋で、同様の簡易建物が2軒連なっていました。

    この事件では、このような簡易建物の構築が「侵奪」といえるのかが争点になりました。この簡易建物は、解体業者6名がハンマーなどを用いて約1時間で解体撤去できる程度のもので、その費用も26万円ほどしかかかりませんでした。また、東京都の管理状況も比較的に緩やかで、時折警告を与えて「土地を明け渡すように」と伝える程度でした。

    このような点から「侵奪」とはいえないというのが被告人側の主張でしたが、裁判所は「容易に倒壊しない構造で、土地の有効利用が阻害されていたうえに、相当期間にわたる退去要求にも従わなかったので占有侵害の態様は高度である」と示し、不動産侵奪罪の成立を認めています。

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4、不動産侵奪罪に似た土地に関する罪

不動産侵奪罪と同様に、土地トラブルにおいて成立しやすい犯罪・不法行為についても解説します。

  1. (1)境界損壊罪

    土地トラブル、特に境界線に関するトラブルで問題になりやすいのが、刑法第262条の2が定める「境界損壊罪」です。刑法のうえでは「境界損壊罪」という罪名が用いられていますが、警察が逮捕状を請求する際や検察官が起訴して刑事裁判に発展した際は「境界毀損罪」とされます。法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

    境界損壊罪は、刑法第40章「毀棄及び隠匿の罪」に置かれています。不動産侵奪罪は窃盗の罪の一形態でしたが、境界損壊罪は「器物損壊」の一種です。

    境界損壊罪は、境界標を損壊・移動・除去するなどの方法によって、土地の境界を認識できないようにした場合に成立します。

    「境界標」とは、権利者が異なる土地の境界を示す目印です。杭・柵・塀・敷石などによるものが一般的ですが、実際に境界の目印として認識されていれば足るため、自生している樹木なども含まれます。条文では「損壊・移動・除去など」と例示されていますが、必ずしもこれらの行為のみに限定されるわけではありません。たとえば境界標を「埋める」という行為も処罰の対象です。

    「土地の境界」とは、一般的には所有権を指しますが、地上権・抵当権・賃借権のほか、さらに自治体の境界も含みます。境界標を損壊・移動・除去するなどの方法で土地の境界を「認識できない」ようにすると、境界損壊罪が成立します。つまり、たとえ損壊・移動・除去などの行為があった場合でも、土地の境界が認識できる状況であれば境界損壊罪は成立しません。

    どのようなケースが境界損壊罪にあたるのかについて、わかりやすい判例があります。被告人Aが、隣接するBの土地との間に境界標として設置されていた有刺鉄線張りの丸太32本を根元からのこぎりで切り倒したという事例です(最高裁 昭和42(あ)2891 昭和43年6月28日)。

    この事例では、被告人Aが境界標を損壊したという事実は明白でしたが、切り倒された境界標はすべて地表すれすれのところで切断されており、また、根元付近には有刺鉄線をつけたまま放置されていたので、切り株の位置を発見することは容易でした。すると「土地の境界を認識できないようにした」という事実がないことから、裁判所は境界毀損罪の成立を否定しました。

    境界損壊罪は、境界標そのものを物理的に破壊・移動・除去することを罰するのではなく、あくまでも「境界線を認識できないようにする」行為を罰するものです。つまり、境界標を保護しているわけではないので、たとえ自分が設置した境界標であっても、境界線を認識できないようにすれば境界損壊罪の成立は妨げられません。

    なお、他人が設置した境界標であれば、境界損壊罪の成立が否定されたとしても器物損壊罪が成立する余地はあります。

  2. (2)民法上の不法行為

    不動産侵奪罪や境界損壊罪が成立しないケースでも、他人が所有する土地を無断で使用すると民法上の不法行為として責任を問われるおそれがあります。

    たとえば、空き地になっているからといって所有者の許可を受けずに車を駐車する行為は、車を移動させれば占有侵害の状態が容易に解消されるため不動産侵奪罪は成立しません。もちろん、境界標の損壊などもなければ境界損壊罪は成立せず、立入禁止などの表示や柵などによる囲いがなければ建造物侵入罪の成立も考えられないでしょう。

    ただし、民法第709条は「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と明記しています。これを「不法行為責任」といいますが、ここでいう「不法」とは刑法などの定めに触れる犯罪行為に限られません。

    不動産侵奪罪などが成立しない状況でも、土地所有者には土地を無断で使用されない権利や土地を活用して利益を得る権利が存在しています。これらの権利が侵されて、土地所有者が本来の使用法をできなかったために損害が生じた場合、加害者にはその損害を賠償する責任が発生すると考えられます。

    ただし、不法行為責任はその行為が違法である場合に限って生じるものです。たとえば、運転中に車が故障してコントロールを失い、対向車との接触を避けるためにハンドルを切って他人の敷地で停止したといった状況なら、緊急避難として違法性が阻却される可能性があります。もちろん、このような状況ではただちにレッカー車を手配して無断使用の状況を解消する努力を尽くさなくてはなりません。

    土地の無断使用・無断占拠は、土地所有者との間で難しいトラブルに発展してしまうケースも多数です。たとえ犯罪が成立しない場合でも、過大な損害賠償請求を受けて交渉が前進しないおそれもあります。個人での力だけで解決するのは難しい問題なので、弁護士への相談をおすすめします。

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5、まとめ

不動産に関するトラブルは民事的な問題だととらえられがちですが「侵奪」と判断される状況では刑法の不動産侵奪罪が成立するおそれがあります。また、近隣トラブルから境界標の役目を果たしていた柵や塀を壊したなどの状況があれば境界損壊罪という別の罪が成立する危険もあり、刑事裁判で有罪判決が下されれば厳しく罰せられてしまいます。

土地・建物といった不動産トラブルが刑事事件に発展してしまった場合は、弁護士に相談してサポートを求めましょう。不動産侵奪罪などの容疑をかけられてお困りなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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監修者
萩原 達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

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※本コラムは公開日当時の内容です。
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