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使用窃盗とは? 他人の自転車を後で返すつもりで借りるのは罪?
駅などの駐輪場から他人の自転車を盗めば刑法の「窃盗罪」が成立します。では、偶然にも施錠されていなかった自転車をみつけたので「あとで返す」というつもりで借りる行為はどうなるのでしょうか?
このようなケースは「使用窃盗」に該当します。「使用窃盗」とは他人の物を無断で一時使用することです。「窃盗」という用語が登場しますが、被害の大きさが少ないということで、刑法第235条に定められている窃盗罪は成立しないとされています。したがって、「使用窃盗」で処罰されることはありません。
本コラムでは、使用窃盗の意味や窃盗罪が成立しない理由、使用窃盗で窃盗罪の容疑をかけられた場合に取るべき行動について解説します。
1、そもそも窃盗罪とは
まずは「窃盗罪」がどのような犯罪なのかを整理しておきましょう。
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(1)「窃盗罪」とは
窃盗罪は刑法第235条に規定されている犯罪です。「他人の財物を窃取した者」を罰する旨が明記されており、「盗む」という行為が処罰の対象となります。
保護の対象となるのは「他人の財物」です。「他人の」とは、他人が所有権を持っているという意味で考えれば大丈夫です。
また、「財物」とは、個体、液体、気体などの有体物を指すと考えられています。石やちり紙などの価値が低いだろうと思われる物も有体物なので、窃盗が成立する余地があります。
なお判例では、電気以外の無体物について窃盗罪の成立を求めた事例はありません。そして、電気は、刑法第245条が「電気は、財物とみなす。」と規定しているので、無体物の中では唯一電気が「財物」と取り扱われます。したがって、無体物の中では電気を盗めば窃盗罪が成立します。
窃盗罪で科せられる刑罰は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
もし、窃盗罪にあたる行為をはたらいて7年が経過すると「公訴時効」が完成します。公訴時効が完成すると検察官が刑事裁判を提起できなくなるので、処罰されません。
ただし、犯行から7年が経過していても、被害者が損害および加害者を知ったときから3年、または犯行から20年の間は、民事上の「消滅時効」が未完成のままです。たとえば、犯行から7年が経過したあとで被害者に「私が盗んだ」と告白した場合、以後3年、または犯行から20年の間は、民事での損害賠償請求を受けるおそれが残ります。 -
(2)窃盗罪が成立する要件
窃盗罪が成立するのは、次の3つの要件をすべて満たす場合に限られます。
① 他人の占有する財物であること
単に他人が所有しているだけでなく、他人がその財物を占有している場合に限って、窃盗罪が成立します。「占有している」とは、実際に持っているという状態に限らず、財物を事実上支配している状態も含みます。
また、財物を所有している人と、占有している人が同じでなくても、窃盗罪の成立を妨げるものではありません。
財物を所有している人と、占有している人が同じでないとは、たとば、銭湯の脱衣所に忘れ物をした場合、その忘れ物の所有者は忘れた人ですが、その忘れ物の占有者は脱衣所を管理している銭湯ということになります。したがって、銭湯の脱衣所にある忘れ物を盗んでも、窃盗罪が成立することになります。
② 不法領得の意思があること
不法領得の意思については後で詳しく説明いたしますが、簡単に説明すると、他人の財物を「自分のものにする」という意思があることを意味します。
不法領得の意思について、判例では、「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」とされています。使用窃盗の成否を左右する重要な要件です。
③ 窃取行為があること
他人が占有している財物を自分や第三者の占有に移す行為です。窃取行為が実現しなかった場合は未遂となります。
これら3点のうちひとつでも欠ければ窃盗罪は成立しません。
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2、使用窃盗とは
他人の財物を「あとで返す」という意思をもって無断で一時使用する行為は「使用窃盗」となります。「窃盗」という用語が登場するため、やはり窃盗罪と同じように厳しく処罰されるのではないかと気がかりになる方も多いでしょう。
使用窃盗の意味や典型的な行為について解説します。
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(1)「使用窃盗」とは
実は「使用窃盗」という用語は刑法をはじめとしてどの法律にも登場しないため、正確な定義も存在しません。法学のうえでは「あとで返すつもりで他人の財物を無断使用すること」と解されています。
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(2)使用窃盗にあたる行為
使用窃盗という用語は、あまり広く知られているものではありません。しかし、実際に使用窃盗にあたる行為の典型例をみていくと、誰にでも一度は聞き覚えがあるものだとわかるでしょう。
たとえば、会社の近くにあるコンビニに行こうと外に出たところ、急に雨が降り始めたので「コンビニの行き来に使うだけですぐに返すから」と会社の傘置き場にあった誰かの傘を一時的に拝借したといったケースは使用窃盗です。
なお、駅の駐輪場に施錠していない自転車があったので「近くで遊ぶ間だけ借りて、駅に戻ってきたら返す」というつもりで乗り回したといった場合は、借りていた時間によって、一時使用なのかの判断が別れることになるでしょう。 -
(3)「あとで返すつもり」は基本的には窃盗罪にあたらない
ここで挙げた事例のように「あとで返す」という意思をもって他人の財物を無断で一時使用する行為は、使用窃盗になります。
使用窃盗は、刑法に定められている窃盗罪の要件を満たしていないので「窃盗」という用語がつくものの「窃盗罪」に該当しません。また、使用窃盗そのものを罰する規定も存在しないので、使用窃盗は罪に問われません。使用窃盗のように、法律による刑罰が科せられない行為のことを「不可罰」といいます。
無断で借りたとしても一時使用の範囲内であれば、罪には問われません。しかし、借りている時間が長かったり、借りた場所に戻しておかなかったりした場合には、一時使用の範囲に留まらず、自分の物として権利者を排除する意思があったと認定されて窃盗罪が成立する余地があります。
したがって、あとで返すつもりであれば、すべてが不可罰かというとそうではありません。捜査機関も、一時使用の範囲を超えていないかを念頭に、あらゆる角度から窃盗罪の容疑を追及してきます。いつ、どこから持ち去ったものなのか、返却する意思があったことを証明できるのかといった点をポイントに、厳しい質問を受けることになるはずです。
容疑を晴らすためには、無断使用は認めつつも、返却の意思があったことを客観的な証拠にもとづいて主張しなければなりません。法的なサポートは必須なので、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士に相談しましょう。
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3、使用窃盗が窃盗罪になるかは「不法領得の意思」の有無
使用窃盗と窃盗罪は、きわめて近い関係にあります。両者を区別するのは、窃盗罪の構成要件のひとつである「不法領得の意思」です。
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(1)「不法領得の意思」とは
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の財物を自己の占有下に置き、その経済的用法に従ってこれを利用・処分する意思だと判例や通説で解釈されています。この定義を前段と後段にわけると「排除の意思」と「利用・処分の意思」の2つが存在することがわかります。
● 排除の意思
権利者の所有を排除し、他人の財物なのに「自分が所有者だ」と振る舞う意思
● 利用・処分の意思
自分の物として使う、売却する、隠す、壊すなど、権利者でないと得られない経済的効用を得ようとする意思
排除の意思は、窃盗罪だけでなく他人の財産権を犯す犯罪の総称である「領得罪」の成立要件として広く認められています。利用・処分の意思は、器物損壊罪や建造物損壊罪、文書毀棄(きき)罪といった「毀棄隠匿罪」との区別を支えています。
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(2)なぜ「不法領得の意思」が問題となるのか
使用窃盗と窃盗罪の差を考えたとき、問題となるのは不法領得の意思のうち「排除の意思」です。使用窃盗は、あくまでも「あとで返す」「借りる」という意思にもとづいており、権利者の所有を排除しているとまではいえません。すると「あとで返す」「借りる」と主張しても、すでに無断使用をはじめて長い時間が経過している、すぐに返却できない場所にいるといった状況では、使用窃盗ではなく窃盗罪に問われるおそれがあります。
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4、窃盗罪の成立が認められた判例
使用窃盗を主張しても、刑事裁判で窃盗罪の成立が認められてしまう場合があります。
● 他人の自動車を無断で使用したケース
【昭和55(あ)1081 最高裁 昭和55年10月30日】
深夜、給油所の駐車場にあった他人の自動車について、数時間にわたって完全に自分の支配下に置く意図のもとに所有者に無断で乗り出し、その後4時間余りの間市内を乗り回したケースです。裁判所は、たとえ「使用後に元の場所に戻しておく」というつもりだったとしても不法領得の意思があったというべきだと示し、窃盗罪の成立を認めました。
● 強盗犯が逃走用に他人の船を無断で使用したケース
【昭和26(れ)347 最高裁 昭和26年7月13日】
強盗傷人事件の犯人が追跡から逃れるために、係留されていた肥料船を使用したケースです。裁判所は、たとえ短時間であっても、権利者の所持を完全に奪って自己の所持に移したうえで、さらに「使用後は乗り捨てる」という意思をもっていたことから、不法領得の意思がなかったとはいえないとして、窃盗罪の成立を認めました。
これらの判例からもわかるとおり「あとで返すつもり」という意思さえあれば必ず使用窃盗として不可罰になるわけではありません。使用していた時間の長さや使用後の状況などが総合的に考慮されて、不法領得の意思の有無が判断されます。
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5、窃盗罪で逮捕されるか心配な方は弁護士に相談を
自分では使用窃盗のつもりでも、窃盗罪の容疑をかけられてしまうと逮捕・刑罰の危険が高まります。不安を感じるなら、直ちに弁護士に相談しましょう。
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(1)逮捕の回避をサポートしてくれる
警察に逮捕・勾留されると、起訴・不起訴の判断が下されるまでに最長23日間の身柄拘束を受ける可能性があります。身柄拘束を受けている期間は自宅へ帰ることも会社・学校に通うこともできないので、社会的な影響は計り知れません。
逮捕を回避するには、財物の所有者=被害者との示談成立を目指しましょう。真摯(しんし)に謝罪したうえで被害弁償を尽くすことで、被害届や刑事告訴の取り下げを実現すれば、捜査はそこで終了するので逮捕を回避できる可能性が高まります。
被害者のなかには、加害者との接触を好まない人も少なくありません。示談交渉を円滑に進めるには、弁護士に対応を一任したほうが安全です。 -
(2)逮捕後の弁護活動も依頼できる
窃盗罪で有罪になれば、最長で10年の懲役が科せられます。実刑判決を受けると長期にわたって刑務所に収監されるため、厳しい刑罰を回避するためにも弁護士のサポートは必須です。
窃盗の容疑で逮捕されても、弁護活動を尽くせば早期の釈放を実現できる可能性があります。さらに、実刑判決が執行猶予付きの判決に、懲役が罰金に軽減される可能性も高まるでしょう。
素早い社会復帰や事件後の影響を抑えたいと考えるなら、直ちに弁護士に相談しましょう。
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6、まとめ
「他人の物を無断で一時使用すること」を使用窃盗といいます。窃盗罪の成立要件である不法領得の意思を欠くため、使用窃盗は不可罰であり、刑罰は科せられません。
ただし、窃盗罪の容疑をかけられてしまうと逮捕され、刑事裁判を経て刑罰を科せられる危険があります。使用窃盗にあたる行為が問題となった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
使用窃盗や窃盗罪に関するトラブルで、逮捕や刑罰に不安を感じているなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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