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詐欺罪で逮捕されたら実刑? 懲役に執行猶予はつく? 詐欺罪の量刑とは
令和5年3月、特殊詐欺グループの受け子として犯行に加担した被告人に懲役3年の実刑判決が言い渡されました。実刑判決とは懲役などの刑の執行を猶予しないこと、つまり「刑務所に収監される」という判決が言い渡されたという意味です。
特詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役で、罰金の規定はありません。そのため、詐欺罪で逮捕・起訴されて有罪判決となれば言い渡される刑罰は懲役刑となります。ではこの事例のように、詐欺罪の被疑で逮捕されると実刑判決が言い渡される可能性が高いのでしょうか? 執行猶予は期待できないのか、どのくらいの量刑が言い渡されるのか、気がかりになる方も多いはずです。
本コラムでは、詐欺罪の被疑で逮捕されたら実刑になるのか、懲役に執行猶予が付される可能性はどのくらいなのか、実際にどの程度の量刑が言い渡されているのかなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、詐欺罪とは? 成立の要件や刑罰
詐欺罪は、刑法第246条に定められている犯罪です。
どのような行為が詐欺罪として処罰されるのか、詐欺罪に問われるとどんな刑罰が科せられるのかを確認していきましょう。
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(1)詐欺罪が成立する要件
刑法第246条の条文によると、詐欺罪は「人を欺いて財物を交付させた者」を罰する犯罪だと明記されています。
詐欺罪が成立する要件は、次の3点です。
- 欺罔(ぎもう)
うそをついて相手をだます行為です。欺罔(ぎもう)行為があったかどうかが争いとなるケースも多く、詐欺罪の成否を考えるうえでもっとも重要な部分といえます。 - 錯誤
欺罔(ぎもう)を受けた相手がうそを信じ込んだ状態です。そのため、たとえば「うそだと見抜いていたがお金を渡した」といったケースだと、たとえお金が返ってこなくても法律上は詐欺罪の成立が否定されます。 - 交付(処分行為)
錯誤に陥った相手が、自らお金などの財物を差し出す行為です。財物が加害者のもとへと渡った方法によって罪名が変化するので、詐欺罪の成立を左右する重要な要件だといえます。
これらの行為が一連となり、財物が加害者のもとへと移転したときに詐欺罪が完成します。
- 欺罔(ぎもう)
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(2)詐欺罪の成立が「難しい」といわれている理由
詐欺罪は、刑法に定められている犯罪のなかでも特に成立の判断が難しい犯罪だといわれています。
これは、詐欺罪の成立要件である「欺罔(ぎもう)」が内心の意思の問題であるため「だますつもりではなかった」「うそはついたがお金は返すつもりだった」といった反論が可能であるという点が大きな理由です。もしその反論が真実なら、詐欺罪ではなく民事上の債務不履行にあたる可能性が高くなります。
また、被害者が欺罔(ぎもう)を見破っていたものの温情でお金を渡したといった場合も錯誤を欠くので詐欺罪は成立せず、やはり民事上の問題となります。
さらに、被害者が自ら財物を交付したのではなく、隙をみてとった場合は窃盗罪に、無理やり奪えば恐喝罪や強盗罪に、預かったものを自分のものにしたなら横領罪になり、罪名が変化しやすいという点も、詐欺罪の成否を難しくする要因です。
なお、欺罔(ぎもう)・錯誤はあったものの、最終的に被害者が詐欺であることを見破って財物を交付しなかった場合は詐欺罪の未遂となります。詐欺罪には未遂を罰する規定があるので、たとえ財物が加害者のもとへと移転しなくても処罰の対象です。 -
(3)詐欺罪の法定刑
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。
罰金の規定はないので有罪判決が下されれば懲役一択となり、最大10年にわたって刑務所に収監されてしまう可能性もあると考えると、刑罰が非常に重い犯罪だといえるでしょう。
2、詐欺罪には執行猶予がつく? 実刑と執行猶予の割合
詐欺罪は懲役しか規定されていない重罪です。
言い渡される刑罰は懲役一択ですが、有罪になれば必ず刑務所に収監されてしまうのでしょうか?
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(1)「実刑」と「執行猶予」とは?
懲役や禁錮のように刑務所へと収監される刑では、実際に刑務所へと収監されることを「実刑」と呼びます。
一方で、刑法には直ちに刑務所へと収監するのではなく、刑の執行を猶予する制度が存在します。これが「執行猶予」です。
判決に執行猶予が付されると、刑が確定した日から1~5年以下の期間で刑の執行が猶予され、社会生活を通じて更生を目指すことが許されます。執行猶予の取り消しを受けないまま期間を満了できると、言い渡された刑の効力が消滅し、以後は同じ事件を理由として罪を問われません。 -
(2)執行猶予がつく条件と詐欺罪の関係
執行猶予には2種類あり、「全部執行猶予」と「一部執行猶予」があります。単に執行猶予と呼ぶ場合は全部執行猶予を指すのが一般的です。
全部執行猶予の条件は、刑法第25条に定められています。
- 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言い渡しを受けた者が対象
- 以前に禁錮以上の刑を受けていない、または禁錮以上の刑を受けていてもその執行が終わった日または執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑を受けていない
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役ですが、必ず最大限の刑が科せられるわけではありません。過去に前科がない初犯の人なら3年以下の懲役が言い渡され、執行猶予が付される可能性もあるでしょう。
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(3)初犯なら執行猶予がつきやすいのか?
初犯であることは、罪を問われる人にとって有利な事情のひとつとなるので、執行猶予が得られる可能性が高まるのは間違いありません。ただし「初犯だから執行猶予がつくだろう」と軽視するのは間違いです。
近年では、SNSを通じた闇バイト・裏バイトに軽い気持ちで応募して、過去に犯罪経歴のない初犯の人でも特殊詐欺事件に加担してしまうケースが増えています。
警察庁の統計によると、令和5年中は全国で1万9038件の特殊詐欺事件が認知され、被害の合計額は446億8602万4000円にのぼりました。
このような多大な被害を生む悪質な犯罪に加担してしまえば、たとえ初犯であっても執行猶予がつかず実刑判決を受けてしまうかもしれません。 -
(4)実際の詐欺事件で実刑・執行猶予になった人の割合
令和5年度の司法統計によると、全国の地方裁判所で開かれた通常第一審において詐欺罪で有罪判決を受けた人に言い渡された刑の割合は次のとおりでした。
- 実刑………………1336人
- 全部執行猶予……1864人
- 一部執行猶予……0人
総数を比較すると、実刑を言い渡された人よりも執行猶予を付された人のほうが多いというのが実情です。
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3、詐欺罪の刑罰は厳しい? 量刑判断の基準や実際の刑罰
日本では、どのような行為が犯罪となり、どの程度の刑罰が科せられるのかがあらかじめ法律によって決められているという罪刑法定主義が採用されています。
詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役なので、複数の罪で起訴されて加重された場合を除けば、どんなに多額の詐欺事件を起こしても10年を超える懲役が科せられることはありません。
では、実際の詐欺事件ではどの程度の刑罰が科せられているのでしょうか?
ここには「量刑」という考え方が関係してきます。
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(1)「量刑」とは?
刑事裁判の判決は、あらかじめ法律で定められている法定刑を基礎として、まず法律の定めによって刑を加重または減軽する理由を考慮して「処断刑」が決められます。
複数の罪で起訴されて加重される場合のほか、心神耗弱のように必ず減軽される条件に合致している、自首や未遂のように裁判官の裁量によって減軽されるといった流れで処断刑が決まります。
処断刑が決まると、次にその範囲内で裁判官の裁量によって実際に言い渡される「宣告刑」が決まります。この宣告刑を決める作業が「量刑」です。 -
(2)詐欺事件において量刑判断に影響を与える要素
裁判官が量刑を判断する際は、さまざまな事情が考慮されます。
詐欺事件における量刑判断に大きな影響を与える要素には、詐欺の手法などもありますが、「被害額の大小」と「弁済額」も重要です。
詐欺罪は相手に金銭的な被害を与える財産犯であるため、被害の程度は金額で算出されます。単純にいえば、多額なら悪質と判断され、少額なら軽微と評価されるという考え方です。
さらに、財産犯にあたる犯罪では、被害額に相当する金銭の弁済があれば被害者の損害は補塡(ほてん)されます。「お金を返せば罪が消える」というわけではありませんが、全額弁済や一部であっても将来の弁済が確約されていれば被害者の実質的な損害はなくなるので、量刑判断は軽い方向へと傾きやすくなるでしょう。
ほかにも、犯行の悪質性や計画性、本人の反省の有無や性格、前科前歴の有無などが量刑判断に影響を与えます。 -
(3)実際の詐欺事件で言い渡された刑罰の内容
令和5年度の司法統計によると、実際の詐欺事件で言い渡された刑罰の内訳は次のとおりでした。
【実刑】1336人- 15年以下……1人
- 10年以下……10人
- 7年以下……65人
- 5年以下……339人
- 3年……173人
- 2年以上……442人
- 1年以上……255人
- 6か月以上……47人
- 6か月未満……4人
【執行猶予】全部執行猶予1864人・一部執行猶予0人- 3年全部執行猶予……412人
- 2年以上全部執行猶予……651人
- 1年以上全部執行猶予……773人
- 6か月以上全部執行猶予……28人
実刑であっても最大限の10年に処された人数は少なく、1年以上~5年以下に集中しています。被害額の大小や弁済額の影響が大きいものの、実刑の平均的な相場は1年以上~5年以下だといえるでしょう。
4、詐欺罪で有利な処分を望むなら弁護士のサポートが必須
詐欺罪は数ある刑法犯のなかでも重い刑罰が定められている犯罪です。
特に特殊詐欺のような組織的詐欺は社会的にも大きく問題視されているので、厳しい処罰は免れられないでしょう。
しかし、これまでに犯罪経歴がない普通の市民や若者が安易な小遣い稼ぎ感覚で事件に加担してしまう事例も後を絶ちません。厳しい刑罰を科すよりも、社会生活を通じて更生を目指したほうが社会復帰しやすいケースも多々あるはずです。
詐欺罪の被疑をかけられてしまったもののできる限り処分を軽くしたいと望むなら、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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(1)早期の示談成立による不起訴処分が期待できる
詐欺罪は財産犯であり、金銭の賠償が尽くされれば被害者の実質的な損害が解消されるという特性があります。詐欺事件を起こしてしまっても、早期に被害者との示談交渉を進めて謝罪と弁済を尽くし、被害者の許しを得られれば、検察官が「すでに実害が補塡(ほてん)されており、処罰の必要がない」と判断して、不起訴処分を得られる可能性が高まるでしょう。
ただし、詐欺事件の被害者との示談交渉は容易ではありません。加害者に対して強い怒りや警戒心を抱いている被害者が多く、そもそも一度はだましたのだから誠心誠意の謝罪や弁済の約束さえ信用してもらえないのは当然です。
被害者との示談交渉を円滑に進めるには、公平な第三者である弁護士が窓口となるのが最善策となるでしょう。 -
(2)刑事裁判への対応によって執行猶予が期待できる
検察官が起訴に踏み切った場合は刑事裁判が開かれます。
刑事裁判では有罪・無罪が審理されますが、お金などをだまし取ったという事実があるなら無罪判決は簡単には期待できないので、刑務所への収監を避け執行猶予つきの判決を目指すのが現実的でしょう。
執行猶予を付すかどうかの判断には被害者への謝罪・弁済が大きく影響するので、やはり示談交渉は欠かせません。ほかにも、再犯をしないことの対策として、本人の深い反省を示す反省文の提出、就職など定まった収入の確保を目指す活動、家族による監督強化の誓約、詐欺に関連する交友関係との断絶などを尽くす必要があります。
どのような対策が有利な判断につながるのかは事案によって千差万別で、個人で判断するのは困難なので、弁護士に相談して、サポートを依頼しましょう。
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5、まとめ
詐欺罪の法定刑に罰金の規定はありません。有罪判決となれば懲役刑が言い渡されることになり、厳しい刑罰が設けられている重罪です。
事案の内容や被害額の大きさによっては、初犯であっても実刑判決を免れられないかもしれません。ただし、起訴を回避できず刑事裁判が開かれたとしても半数以上で執行猶予が付されているので、刑務所への収監を回避するためにあらゆる対策を尽くすべきです。
厳しい刑罰を避けたいと望むなら、弁護士のサポートは欠かせません。
詐欺罪の被疑をかけられてしまったら、ベリーベスト法律事務所への相談をお急ぎください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、実刑の回避など有利な処分を目指して全力を尽くします。
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