- 財産事件
- 業務上横領
- 初犯
業務上横領罪の初犯で実刑になりやすいケースと刑罰【弁護士解説】


業務上横領罪は、業務上の地位に基づいて横領するという点で通常の横領罪よりも重く処罰されます。
初犯であったとしても被害額によっては実刑になるケースもありますので注意が必要です。
今回は、業務上横領罪の初犯で実刑になりやすいケースについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、業務上横領罪とは? 具体的なケースと刑罰
業務上横領罪とはどのような犯罪なのでしょうか。以下では、業務上横領罪が成立し得るケースと成立要件・法定刑を説明します。
-
(1)業務上横領罪が成立し得る具体的なケース
業務上横領罪が成立する可能性がある具体的なケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
- 会社の経理担当者が現金を着服する
- 顧客から集金したお金を自分の借金返済に充てた
このように業務上横領罪は、さまざまなケースで成立する犯罪といえます。
-
(2)業務上横領罪の成立要件
業務上横領罪は、以下の要件を満たした場合に成立する犯罪です。
① 業務性があること
業務性とは、簡単に言えば、社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる事務と言われています。
会社の業務だけでなく、自治体やPTA、ボランティア団体、サークルなどの活動も「業務」に含まることがあります。
② 委託信任関係に基づいて占有していること
業務上横領罪の成立には、委託信任関係に基づいて財産の管理を委託されていることが必要です。
たとえば、会社の現金や預金の管理に関してある程度の権限が与えられている会社の会計責任者であれば委託信任関係が認められる可能性が高いですが。他方、買い物客と現金の受け渡しをするだけのアルバイト従業員の場合には、委託信任関係が認められず、レジのお金を着服しても、業務上横領罪ではなく窃盗罪が成立すること可能性の方が高いと言えます。
③ 他人の財物であること
業務上横領罪が保護するのは「他人の物」です。これは、例えば「他人に所有権がある物」などがあたり、「修理のために預かっている時計」や「委託販売のために預かっている車」などは本罪の保護を受け得るものです。
④ 横領行為があること
横領とは、不法領得の意思を実現する一切の行為と定義されています。また、不法領得の意思とは、委託された任務に背き、所有者でないとできないような処分をする意思と定義されています。たとえば、経理担当者が会社から預かっているお金を着服する行為は、典型的な横領にあたりますが、それ以外にも他人から預かっていた時計を売却したり、質入れする行為も横領にあたります。 -
(3)業務上横領罪の法定刑
業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役と規定されています。
業務上横領罪の法定刑には、罰金刑はありませんので、起訴され有罪になれば懲役刑が科されてしまいます。執行猶予が付かなければ、そのまま刑務所に収監される可能性があるなど、非常に重い犯罪であるといえるでしょう。
2、業務上横領罪の初犯で実刑になりやすいケースと量刑相場
業務上横領罪の初犯だと有罪になった場合の量刑はどの程度になるのでしょうか。
以下では、業務上横領罪の初犯で実刑になりやすいケースと量刑相場を説明します。
-
(1)初犯であっても実刑になりやすいケース
一般的に初犯という事情は、刑罰を軽くする方向で作用する有利な情状になります。しかし、業務上横領罪は、財産犯の中でも非常に重い犯罪の一つですので、初犯であったとしても実刑になる可能性があります。
業務上横領罪の初犯で実刑になりやすいケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
- 被害額が高額な横領事件
- 前科はないものの余罪が多数あるようなケース
- 被害者との間で示談が成立していないケース
- 司法書士や弁護士による横領など加害者の社会的地位や影響力が大きいケース
-
(2)業務上横領罪の量刑相場
量刑とは、裁判官が法定刑の範囲内で刑の種類(懲役、禁錮、罰金など)や重さを決めることをいいます。
裁判所が公表している令和5年司法統計年報によると、横領罪(単純横領罪・業務上横領罪)で有罪になった455人の実際の刑期は、以下のようになっています。
懲役 10年以下 7年以下 5年以下 3年 2年以上 1年以上 6月以上 6月未満 人数 2人 3人 27人 39人 115人 175人 85人 9人 -
(3)執行猶予が付く可能性もある
業務上横領罪で有罪になったとしても、執行猶予が付けば、直ちに刑務所に収監されることはありませんので、有罪判決が確定した後も通常の社会生活を送ることができます。
上記統計によると、横領罪で有罪になった455人のうち、執行猶予が付いた人は299人でしたので、約66%が執行猶予となったということになります。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、業務上横領罪で実刑になりにくいケース
業務上横領罪を犯してしまった場合に、実刑になりにくいケースとしては、被害者と示談ができている場合があります。
被害者と示談が成立し、被害の回復がなされた事案であれば、あえて刑罰を科す必要性がないとの判断に傾き、不起訴処分を獲得できる可能性があります。
仮に起訴されてしまったとしても、罪を償っているため、重ねて刑務所に収監させる必要性がないとの判断に傾き、執行猶予がつく可能性があります。
4、業務上横領罪を犯してしまったときに弁護士へ相談すべき理由
業務上横領罪で逮捕や起訴を回避するには、被害者との示談が重要になります。
しかし、被害者は、お金を横領した加害者を信用していませんので、加害者本人から示談の申し入れをしても簡単には受け入れてくれない可能性があります。また、横領した金額について被害者と加害者との間で認識の相違があると、その調整も必要になってきます。
このような場合には、弁護士が窓口になって交渉することで、加害者と直接の交渉をするよりは、被害者も安心できますし、被害額についても弁護士が客観的な資料に基づいて調整を行うことができます。
5、まとめ
業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役と定められており、財産犯の中でも重い犯罪になります。そのため、初犯であっても被害額が大きい、示談が成立していないようなケースだと執行猶予の付かない実刑判決になるリスクもありますので注意が必要です。

刑事事件は、専門知識がなければ、その後の見通しを把握するのが難しいものです。
弁護士法人ベリーベストは、元検事の豊富な経験と専門知識を活かし、複雑な刑事事件を解決に導きます。
私たちは、依頼者の皆様の不安を解消するため、迅速かつ丁寧な対応を心がけています。
時間との勝負である刑事事件において、一刻も早いご相談が重要です。まずは、お気軽にご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。