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児童買春の成立要件とは? 逮捕されるケースと容疑者がすべき対策
金品を渡した見返りとして性的行為をすることを「買春」といいますが、買春の相手が18歳未満だった場合には「児童買春」として児童買春・児童ポルノ禁止法違反が成立します。
令和3年12月には、当時16歳の少女に金銭を渡してみだらな行為をした神奈川県内の男2人が同容疑で逮捕される事件がありました。2人の男はSNSを通じて少女に買春を持ちかけていたようです。
本コラムでは買春の定義を説明したうえで、児童買春の罪が成立する要件や刑罰の内容、逮捕されるケースについて解説します。
1、買春とは
買春とは法律上、どのような行為を指すのでしょうか?買春の定義と売春との違い、罪に問われる場合について解説します。
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(1)「売春」と「買春」の定義
売春防止法第2条は売春を「対償を受け、または受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義しています。「対償を受け」とは、性交をする見返りとして経済的利益を受け取ることです。例えば現金やブランド品をもらう、食事代を支払ってもらうなどの行為が該当します。
「性交」とは男性器を女性器に挿入する行為のことです。口腔(こうくう)性交や肛門性交といった性交類似行為は、売春防止法における性交には含まれません。したがって、売春防止法の売春が成立するのは異性間の行為のみです。
また同第3条は「何人も、売春をし、またはその相手方となってはならない」と述べています。
「その相手方となって」の部分が買春です。つまり買春とは、対償を渡し、または渡す約束をして相手と性交をすることを指します。売春が金品を受け取って性的サービスを提供する行為であるのに対し、買春が金品と引き換えに性的サービスを受ける行為であると理解すればよいでしょう。 -
(2)買売春の主体に対する罰則はない
売春防止法第3条が定めるとおり、売春と買春は法律で禁止されている違法行為です。
ただし、同法で処罰されるのは売春の勧誘や周旋など買売春の助長やそれにより利益を得る行為であって、売春や買春をした人を直接処罰する規定は設けられていません。すなわち法律上、買春をしても罪を犯したとして刑罰を受けることがないのです。 -
(3)「児童買春」は処罰の対象
買春に罰則はありませんが、その買春行為が18歳未満の児童を相手方とした場合は、「児童買春」として厳しい刑罰の対象となります。
児童買春に対する罰則が設けられているのは売春防止法ではなく、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(通称:児童買春・児童ポルノ禁止法)です。
また金品を渡したりその約束をしたりせず児童と性交をした場合は児童買春にはあたりませんが、ほかの法律・条例違反が成立し、厳しく処罰されます。
2、児童買春の成立要件
児童買春が成立する要件を確認しましょう。
児童買春は、①児童などに対し、②対償を供与し、またはその供与の約束をして、③児童と性交等をすることで成立します。
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(1)「児童など」とは
「児童など」とは、以下のいずれかをいいます(児童買春・児童ポルノ禁止法第2条第2項)。
- 児童……18歳未満の者をいいます。性別は問われないため、児童が男子である場合や同性間の行為であっても児童買春が成立します。
- 児童に対する性交等の周旋をした者……児童買春のあっせんや仲立ちをする者のことです。
- 児童の保護者、または児童をその支配下に置いている者……典型的には児童の親ですが、未成年後見人など児童を現に監護する者や、学校の教師、アルバイト先の上司などが該当する場合もあります。
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(2)「対償の供与またはその供与の約束をして」とは
現金や物品を渡したり渡す約束をしたりすることです。借金など債務の免除も対償の供与にあたります。金額や価値の大きさは関係ありません。供与の約束をすれば足りるため、実際に現金や物品を渡していなくても犯罪が成立します。
対償の供与またはその約束をする相手は児童に限られません。例えば児童の親に金品を渡して児童と性交等をすれば児童買春にあたります。 -
(3)「性交等」とは
児童買春・児童ポルノ禁止法における「性交等」とは、以下の行為を指します(同第2条第2項)。
- 性交
- 性交類似行為
- 自己の性的好奇心を満たす目的で児童の性器等(性器、肛門、乳首)を触り、または児童に自分の性器等を触らせる行為
売春防止法における「性交」よりも禁止行為の範囲が広く、性交以外の行為も処罰の対象となります。
また、児童の性器等を触ったり児童に自分の性器等を触らせたりする行為には「自己の性的好奇心を満たす目的」が必要です。したがって医療行為などは含まれません。 -
(4)「故意」であることも必要
児童買春の故意とは、相手が18歳未満の児童だと認識していながら買春行為をすることです。「18歳未満かもしれないがそれでもかまわない」という程度の認識があれば未必の故意があったとして罪に問われます。
故意があったかどうかは、児童とのやり取りや買春前後の行動など客観的事情をもとに判断されます。
3、児童買春で逮捕された場合の刑罰
児童買春をして逮捕され、有罪になった場合に科される刑罰の内容を確認しましょう。
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(1)児童買春罪
児童買春・児童ポルノ禁止法の児童買春罪が成立した場合の刑罰は「5年以下の懲役または300万円以下の罰金」です(同第4条)。
児童買春は児童などに対価を渡して性交等をすることで成立する犯罪なので、対価の提供や約束がなく児童と性交等をしたケースや、性交等がなかった場合には児童買春にはあたりません。しかし次に挙げる複数の犯罪が成立する場合があります。 -
(2)青少年健全育成条例違反
児童と性交等をすると青少年健全育成条例違反が成立する場合があります。
青少年健全育成条例とは、18歳未満の青少年の保護や健全育成などを目的として各都道府県が定める条例の総称です。
東京都の場合は「東京都青少年の健全な育成に関する条例」といい、第18条の6で「何人も、青少年とみだらな性交または性交類似行為を行ってはならない」と青少年との性交等を禁止しています。違反した場合の刑罰は「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。
条例名や内容は自治体ごとに多少の違いはあるものの、青少年との性交等についてはほかの自治体でも類似の規定や罰則が設けられています。 -
(3)強制わいせつ罪・強制性交等罪
性交等の相手方が13歳未満の児童だった場合は、刑法第176条の強制わいせつ罪や同第177条の強制性交等罪に問われます。性交、肛門性交、口腔性交をした場合は強制性交等罪が、それ以外のわいせつ行為をした場合は強制わいせつ罪が成立します。
刑罰は強制わいせつ罪が「6か月以上10年以下の懲役」、強制性交等罪が「5年以上20年以下の懲役」です。
なお、性交等の相手方が13歳以上だった場合でも、暴行や脅迫を用いて性交等におよんだ場合には行為内容に応じていずれかの罪が成立します。 -
(4)児童ポルノ所持・製造・提供罪
児童と性交等をした様子や児童の裸体などを写真や動画などに記録した場合は、児童買春・児童ポルノ禁止法の児童ポルノ製造罪が成立するおそれがあります(同第7条4項)。刑罰は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」です。他者への提供目的で児童ポルノを製造した場合や、児童ポルノを提供した場合も同様に処罰されます(同第2項、3項)。
児童ポルノの所持についても、自己の性的好奇心を満たす目的であれば「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」に、不特定もしくは多数の者への提供や公然陳列の目的であれば「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」に処せられます(同第1項、6項)。
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4、児童買春で逮捕されるケース
児童買春はどのように発覚するのでしょうか?児童買春の疑いで逮捕される典型的なケースを見てみましょう。
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(1)被害届が出された場合
児童や児童の保護者が警察に被害届を提出し、捜査が開始されて逮捕に至るケースです。
児童自身が被害届を出す場合は、児童が繁華街などで警察に補導された際に売春をしていた事実を話したため、警察に促されるかたちで被害届を提出するケースが考えられます。
また児童がお小遣いでは買えないような高価なバッグ・アクセサリーを身につけているのを見て保護者が不審に思い、児童を追及したところ売春を白状したため警察に相談したといったケースもあるでしょう。 -
(2)SNSのやり取りなどから発覚する場合
児童とSNS上でやり取りをしていた場合に、SNSの履歴から発覚するケースもあります。
例えば児童の保護者が児童のスマートフォンをチェックしたところ、不健全なやり取りの履歴が残っていたため児童を問い詰めて発覚し、警察の捜査によって買春をした本人が特定されるケースです。
ほかには、警察のサイバーパトロールで監視されていた出会い系のアプリやサイト上で援助交際を持ちかけた記録があったために被疑者として特定されるケースも考えられます。 -
(3)別の容疑で捜査された際の押収物から発覚する場合
別の容疑で警察から捜査を受けた際に、押収されたパソコンやスマートフォンに残っていた情報から児童買春も発覚するケースがあります。
例えば児童ポルノの販売業者が摘発を受け、押収された会員情報から児童ポルノ所持罪の捜査対象となり、その際に提出したスマートフォンに児童とのやり取りが残っていたようなケースが考えられるでしょう。 -
(4)年齢を偽っていると認識できるような場合
買春の相手が18歳未満であっても、18歳以上だと思い込んでいた場合は故意がないため児童買春は成立しません。例えば児童が「自分は18歳以上だ」とうそをつき、さらに身分証明書を精巧に偽造するなどしていた場合には処罰されない可能性があります。
しかし、客観的に見て児童が年齢を偽っていると認識できる場合には、仮に相手が18歳以上だと述べていても未必の故意があったと判断されるでしょう。具体的には、相手の見た目や言動が明らかに幼かった、身分証明書を見せるよう求めても応じなかったといったケースです。このようなケースでは警察も「18歳未満かもしれないと思っていたのだろう」と追及してきますので、むやみに否認すると逮捕されるおそれがあります。
5、児童買春で逮捕された後の流れ
児童買春をして逮捕された場合は、どのような流れで刑事手続きが進められるのでしょうか?あわせて、公訴時効についても解説します。
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(1)送致
逮捕されると警察署に連行されたうえで、まずは警察から取り調べを受けます。この段階での警察の持ち時間は最大で48時間です。逮捕から48時間以内に警察は被疑者の身柄と捜査資料を検察官に引き継がなければなりません。これを送致といいます。
検察官に送致されると、今度は検察官からも取り調べを受けます。検察官の持ち時間は最大で24時間です。検察官は送致を受けてから24時間以内に被疑者を勾留するか、釈放するのかを決めなければなりません。ただし、被疑者が身体を拘束されてから、検察官が勾留請求するか、起訴するか、釈放するまでの時間は、72時間を超えることができません。 -
(2)勾留
検察官の勾留請求を裁判官が認めると、被疑者は原則10日間、留置場での身柄拘束を受けます。しかし勾留は最大で10日間の延長が認められているため、引き続き捜査の必要があると認められるとさらに10日間の身柄拘束が続き、最大で20日間におよぶ場合があります。
検察官は勾留が満期を迎えるまでに被疑者を起訴するか、不起訴にして釈放するのかを決定します。 -
(3)起訴または不起訴
起訴されると刑事裁判を待つ立場となります。保釈が認められない限り、約1か月後の初公判まで引き続き身柄を拘束されます。
一方、不起訴になると刑事裁判にかけられることなく、即日で身柄を釈放されます。不起訴になれば前科がつかず、前科による法的な影響も受けないため、起訴されるか不起訴になるのかは重要な問題です。
児童買春事件で検察官が起訴または不起訴を決定する際には、児童の年齢や児童買春の回数、児童や児童の保護者との示談成立の有無、被疑者の反省の有無・程度、再犯のおそれといったさまざまな観点から判断します。 -
(4)児童買春の時効
児童買春罪の公訴時効は「5年」です。児童買春をしてから5年が経過すると検察官が起訴できないため、児童買春の罪に問われません。
しかし、児童買春はさまざまなルートで発覚するおそれのある行為なので、5年も逃げ続けるのは現実的ではありません。また公訴時効はどの犯罪が成立するのかによっても異なります。例えば強制わいせつ罪なら7年、強制性交等罪なら10年です。自分のした行為がどの犯罪を構成するのかを判断するのかは一般の方には困難でしょう。
6、児童買春の容疑で不安な方は弁護士へ相談を
児童買春をした覚えがあるのなら、できるだけはやい段階で弁護士へ相談するのが賢明な選択です。
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(1)今後のアドバイスがもらえる
逮捕や勾留のおそれはどの程度あるのか、どのくらいの刑罰が予想されるのかといった事件の見通しを知ることができます。そのうえで、今後とるべき対応をアドバイスしてもらえるため、漠然とした不安感の解消につながります。
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(2)逮捕の回避につながる
捜査機関が被疑者を逮捕するには、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と、逃亡や証拠隠滅のおそれがあることが必要です。したがって、捜査機関に対して逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを示せば逮捕を回避できる可能性があります。具体的には、自首や任意捜査への協力、児童・保護者との示談、弁護士による意見書の提出といった方策が考えられるでしょう。
特に早期に示談が成立すれば被害届の提出を取りやめてもらい、事件化を回避できる可能性が高まります。本人が児童・保護者と接触を図っても拒否されるおそれが大きいため、示談交渉は弁護士に一任しましょう。 -
(3)早期の釈放・保釈につながる
逮捕・勾留されると逮捕から最大で23日間もの身柄拘束を受け、起訴されればさらなる身柄拘束が続くため、日常生活への影響は計り知れません。
しかし、弁護士から取り調べのアドバイスを受けておけば、万が一逮捕されても取り調べに適切に対応できるため身柄拘束の長期化を回避できる可能性があります。弁護士による勾留回避のための弁護活動や保釈請求の準備もはやめに開始できるため、早期釈放につながりやすくなります。 -
(4)厳しい処分の回避に期待できる
児童買春は社会全体で守るべき児童を対象とした性犯罪なので厳しい処分が予想されます。
特に13歳未満の児童が相手だった場合は、金品の受け渡しや児童の同意の有無は関係なく強制わいせつ罪や強制性交等罪が成立します。いずれも懲役刑しか設けられていない犯罪であるうえに、児童の判断能力の乏しさにつけ込む卑劣な行為だとして保護者の処罰感情もとりわけ大きいため、示談交渉が難しいでしょう。結果的により厳しい処分が想定されるため弁護士のサポートが不可欠です。
示談が難しい場合でも、贖罪(しょくざい)寄付をして反省を示す、性的衝動を制御するためのカウンセリングを受けるなどして検察官や裁判官に再犯のおそれがないと示していくことで、厳しい処分を回避できる可能性があります。
7、まとめ
18歳以上を相手方とする買春は違法行為ではあるものの、現行法では罰則がないため刑罰を受けることはありません。しかし相手が18歳未満の場合は児童買春として厳しく処罰されます。
児童買春をした覚えがある、買春の相手方が18歳未満だったかもしれないといった不安があっても、児童買春は社会的な非難の対象となる性犯罪なので誰にも相談できずに悩んでいる方が少なくないでしょう。ベリーベスト法律事務所では相談者の秘密を必ず守りますので安心してご相談ください。
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