- 性・風俗事件
- 痴漢
- 逃走
痴漢現場から逃走した場合、逮捕される可能性や刑罰はどうなる?
「痴漢」は捕まらなかった経験を重ねるうちに犯行を繰り返してしまい、エスカレートしやすい犯罪だといわれています。
令和5年3月には、モノレールの車内で女子高生の体を触った疑いで、自称自営業の男が逮捕される事件が起きました。すでに逮捕状が発付されていましたが、別の日にほかの女性への痴漢被疑で身柄を確保されたため、本件の逮捕状が執行されたとのことです。
自分では「うまくいった」「バレずに逃走できた」と思っていても、あとで逮捕されるかもしれないというわかりやすい事例だといえるでしょう。本コラムでは、痴漢をして現場から逃走した場合、あとで逮捕される可能性はあるのか、逃げてしまうと刑罰が重くなるのか、痴漢事件を穏便に解決する方法などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
令和5年7月13日に強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」へ改正されました。
1、痴漢をして現場から逃走するとどうなるのか?
痴漢行為は、被害者に接近して犯行をはたらくうえに、被害者や周囲の人に人相などを目撃されやすいため、逮捕されてしまうおそれが高い犯罪です。
犯行後、その場に居座っているのは危険なので逃走する心理は理解できますが、果たして逃走を続けるのは正解だといえるのでしょうか?
-
(1)時効成立まで逃走できれば罪を問われなくなる
犯罪には「時効」があります。
刑事事件における時効とは、正確には「公訴時効」といい、刑事裁判を提起できるタイムリミットを指すものです。
痴漢を犯しても、時効が成立すれば刑事裁判が開かれないので、罪を問われることはなく、刑罰も受けません。ただし、時効まで逃げ続けられると考えるのは無謀です。
住民票の異動情報、携帯電話の契約、各種の支払い履歴、口座・ICカードの利用履歴など、あらゆる情報から居所がバレてしまいます。かといって、住民票もおかず、携帯電話や口座も使わないといった生活は現実的ではありません。
社会生活を送りながら、なんの痕跡も残さないのはほぼ不可能です。
たとえ特定されずに逃亡を続けられたとしても「明日は逮捕されるかもしれない」とおびえながら生活を続けることは精神的にも耐え難いでしょう。 -
(2)逮捕される可能性が高まってしまう
刑事事件には、逮捕を伴う「身柄事件」と、逮捕されず任意の身柄として捜査が進められる「在宅事件」がありますが、逃走した場合は身柄事件として処理される可能性が高まります。
そもそも「逮捕」とは、犯罪の被疑者について「逃亡または証拠隠滅を図るおそれ」がある場合に限り許される強制処分です。
つまり、現場から逃走している状況は逮捕の要件を満たしてしまっているので、逮捕の可能性を高める結果につながります。特に、過去と異なり痴漢事件について逮捕を当然の前提としなくなった近年においては、逃げることで自身の状態を悪化させるリスクも高いことに留意しましょう。 -
(3)刑罰が重いほうへと傾きやすくなる
刑事裁判で有罪判決が下されると、刑罰が科せられます。
科せられる刑罰はあらかじめ法律が定めている範囲内に限られるので、逃走を理由にあらかじめ定められている範囲を超えて罪が重くなることはありません。
ただし「現場から逃走した」という事実は、痴漢を犯した人にとって不利にはたらいてしまいます。刑事裁判では、事件の内容や罪を犯した背景などから総合的に判断して量刑が決まるので、逃走して重責から逃れようとしたという事情は、刑罰が重いほうへと傾きやすくなってしまう材料になるでしょう。
2、痴漢で問われる罪とは? 刑罰の重さや時効
「痴漢」は犯罪にあたる行為ですが、どの法律をみても「痴漢」という名称の犯罪は存在しません。行為の内容や場所などによって問われる罪が異なり、当然、刑罰の重さや時効にも差が生じます。
-
(1)都道府県の迷惑防止条例違反
痴漢に適用されるもっとも典型的な罪が、いわゆる「迷惑防止条例」の違反です。
東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」を例に挙げると、第5条1項1号に「公共の場所または公共の乗り物において、衣服そのほかの身に着ける物の上から、または直接に人の身体に触れること」と明示されています。
電車などの車内で、ほかの乗客の胸や尻を衣服の上から触る、スカートの中に手を入れて腿(もも)を触るといった行為は、本罪の処罰対象です。
自治体によって罰則に差がありますが、東京都の場合だと、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。また、常習と判断されれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に加重されます。
公訴時効は「長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金にあたる罪」なので3年です。 -
(2)刑法の強制わいせつ罪
痴漢に適用されるもうひとつの罪が、刑法第176条の「強制わいせつ罪」です。
13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者を処罰の対象としています。
年齢の制限があるので「13歳未満であれば罪にならない」と考えるかもしれませんが、13歳未満が相手の場合、たとえ承諾があっても罪となります。
痴漢に適用されるのは、衣服の中に手を入れて胸や尻を直接触る、衣服の上から、または直接に陰部を触る、衣服の上からでも執拗(しつよう)に胸を触り続けるといった行為が典型です。
つまり、迷惑防止条例違反と比べると、重度で悪質な痴漢行為には強制わいせつ罪が適用されると考えておけばよいでしょう。
法定刑は6か月以上10年以下の懲役です。
罰金の規定はないため、有罪になれば必ず懲役が科せられるという点で、重罪だといえます。
公訴時効は「長期15年未満の懲役または禁錮にあたる罪」なので7年です。
3、やってもいないのに痴漢を疑われた! 逃げたほうが正解なのか?
痴漢行為は、警察だけでなく各公共交通機関も連携して予防・摘発に取り組んでいます。
被害者は主に女性であり、力では抵抗できない弱者を狙った悪質な犯罪行為だと評価されやすいので、厳しい処分を免れるのは難しいでしょう。
一方で、やってもいないのに痴漢を疑われる、いわゆる「痴漢冤罪(えん罪)」にあたるケースが存在することも問題視されています。痴漢をはたらいた事実がないのに厳しく処分されるような事態はあってはならないことですが、誤った判断によって刑罰を科せられてしまう事例が存在するのも現実です。
こういった状況を考えると、やってもいないのに痴漢を疑われた場合は逃げたほうが正解ではないかとも感じられます。本当に痴漢行為をはたらいていないなら、その場から逃走したほうがよいのでしょうか?
-
(1)たとえ冤罪でも逃走するべきではない
突然いわれもない疑いをかけられてしまえば、誰でも気が動転してしまい、その場から逃げたいという心理になるかもしれません。しかし、その場から逃走すれば「逃亡または証拠隠滅を図るおそれがある」という逮捕の要件を満たしてしまいます。
たとえ事実とは異なる疑いをかけられたとしても、逃走してはいけません。
逃走してしまえば、無実を主張する機会さえ失ってしまいます。 -
(2)痴漢を疑われた場合の正しい対応
その場から逃走できても、当事者がその場から逃げてしまい事情がわからない限り、警察は「本人を問い詰めて事情を確かめるしかない」と考えます。
逮捕される可能性を高めるので逃走すべきではありませんが、決定的な証拠が乏しい痴漢事件では被害者の供述が重視される傾向が強く、冤罪が起きてしまう危険も高いのが現実です。
冤罪を回避するには「その場から逃げない」だけでは足りません。
現場における正しい対応は「その場ですぐに対応しようとせず、いったん帰って弁護士に相談すること」です。
連絡先など身元をしっかり伝えたうえで、いったんは用事があるので帰らせるよう求めるくらいであれば、受け入れられるケースもあります。
満員電車を利用する機会が多いなど、痴漢の疑いをかけられる危険があるなら、万が一の事態に備えて、慌てずに対応できる心構えをしておきましょう。
弁護士との電話相談が無料でできる
刑事事件緊急相談ダイヤル
- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
4、痴漢を犯したなら逃走するのではなく弁護士に相談を
痴漢を犯しても、その場から逃走して一定の時間が過ぎれば公訴時効の成立によって罪を問われなくなります。
とはいえ、逃げ得を狙って逃走を続けるのは賢明ではありません。逮捕や厳しい刑罰を避けたいと望むなら、逃走するのではなく弁護士に相談して積極的な解決を図るべきです。
-
(1)警察への自首や任意出頭をサポートできる
痴漢事件を積極的に解決するには、自ら警察署に出向いて「自首」するか、あるいはすでに被疑者として特定されているとしても「任意出頭」するのが適切です。
そもそも被害届が提出されていない場合は、被害者が特定できないので自首しても事件化できない可能性も高いでしょう。
そう考えると、わざわざ自首する必要はないのかもしれませんが、被疑者側に「被害者が警察に相談・届け出をしたのか?」を知る術はありません。突然の逮捕を避けるためには、自首・任意出頭によって逮捕の要件を否定したほうが利口です。
自首のメリットは、逮捕の回避だけではありません。
自首が適法に認められれば、法律の規定によって刑罰が減免される可能性があります。
任意出頭の場合でも、罪を認めて自ら出頭したという事情が考慮されて刑の減軽や執行猶予といった有利な処分が期待できます。
いずれにしても自分ひとりで考えて行動するのは難しいうえに危険を伴います。
まずは弁護士に相談して詳しい事情を説明し、アドバイスを受けましょう。 -
(2)被害者との示談交渉を依頼できる
被害者が特定できる状況なら、弁護士が代理人として被害者との示談交渉を進めて解決するという対応も有効です。示談が成立して被害届や刑事告訴が取り下げられれば、事件化されても検察官が不起訴とする可能性が高まるでしょう。
もっとも、痴漢をした疑いをかけられている立場であれば被害者との接触は困難です。
痴漢事件では、被害者と加害者は見ず知らずの関係であるケースが多いので、連絡先さえ手に入らないかもしれません。
弁護士に依頼すれば、捜査機関へのはたらきかけによって、加害者には教えないことを条件に被害者の情報を得られる可能性が高まります。
また、痴漢事件の被害者は加害者に対して強い怒りや嫌悪の感情を抱いているケースも多いので、加害者が直接示談をもちかけても相手にしてもらえないかもしれません。
被害者の警戒心を和らげて実りある交渉を実現するには、公平な第三者である弁護士が代理人として対応したほうが安全です。
5、まとめ
ちょっとした出来心や興味本位だったとしても、痴漢行為は法律の定めに照らすとれっきとした犯罪です。その場から逃走すれば現行犯で捕まる事態は避けられるかもしれませんが、警察が行方を追う事態になれば、時効成立まで逃げ続けるのは難しいでしょう。
逮捕や刑罰を避けたいと望むなら、逃走を続けるのではなく弁護士に相談して積極的な解決を目指したサポートを受けるべきです。
痴漢事件の解決は、ベリーベスト法律事務所にお任せください。
数多くの刑事事件を解決してきた弁護士が、逮捕や厳しい刑罰の回避を目指して全力を尽くします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。