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【弁護士が解説】不同意性交等罪への改正で、性犯罪の規定はどのように変わるのか
平成29年、強姦(ごうかん)罪は「強制性交等罪」へと改められましたが、令和5年6月にはさらなる改正が決まり、同年7月13日に「不同意性交等罪」が施行されました。
不同意性交等罪への改正で注目すべき大きなポイントは「犯罪が成立する要件の拡大」と「時効の延長」です。その他にも、本改正では特に被害者の立場を重視した変更が加えられています。
本コラムでは、令和5年(2023年)7月に施行された「不同意性交等罪」について、変更点や改正のポイントなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、性犯罪の規定が見直された背景|改正前の問題点
平成29年の改正によって、性犯罪の規定は明治以来110年ぶりの大改正が加えられました。このときの改正では「3年後に見直しを検討する」という条件が加えられており、今回の改正はその見直しの結果おこなわれたものです。
平成29年の改正によって、刑法性犯罪は次のように規定されました。
● 強制わいせつ罪(第176条)
- 13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者
- 13歳未満の者に対しわいせつな行為をした者
● 強制性交等罪(第177条)
- 13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いて性交・肛門性交・口腔性交をした者
- 13歳未満の者に対し性交等をした者
● 準強制わいせつ罪・準強制性交等罪(第178条1項・2項)
人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為・性交等をした者
このとき、大きなポイントになったのは、第177条の「強姦罪」が「強制性交等罪」へと変更された点です。
旧来は、男性器を女性器に挿入することを要件とした性交のみを処罰の対象としていましたが、被害者、加害者ともに男女ともが対象となったほか、肛門性交・口腔性交も要件に加えたことで、それまでは強制わいせつ罪にとどまっていたケースも強制性交等罪が適用されるようになりました。
また、法定刑も「3年以上の有期懲役」から「5年以上の有期懲役」へと引き上げられたことで、加害者は原則として執行猶予の対象外となるよう厳罰化されています。
このように、平成29年の改正によって、処罰の対象となる範囲の拡大と厳罰化が実現しました。
しかし、このときの改正では、「性交同意年齢の引き上げ」、「公訴時効の見直し」、「暴行脅迫の要件」、「地位関係性を利用した性暴力」については、議論はされたものの改正は見送られています。
結果として、望まないわいせつな行為や性交等を強いられる状況があったとしても「暴行・脅迫」がなければ犯罪として成立しないなど、多くの被害者が取り残され続けているという現状があり、社会問題にもなっていました。
2、「不同意性交等罪」とは? 改正を理解するためのポイント3つ
内閣府の男女共同参画局は、「望まない性的な行為は、性的な暴力にあたる」と呼びかけてきました。
今回の改正は、多くの性暴力被害者の声に耳を傾けて国が動いた結果だといえます。
これまでの強制性交等罪・準強制性交等罪は、令和5年7月13日施行の改正によって「不同意性交等罪」へと一本化されました。この改正により、犯罪が成立する要件は従来よりも具体的に示されたほか、処罰の対象となる行為も拡大されています。
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(1)ポイント①|犯罪が成立する要件として8つの行為が明文化された
改正された刑法第177条の「不同意性交等罪」では、8つの行為・事由によって「同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあること」に乗じた性交等を罰するとしています。
これまでの「暴行・脅迫」という要件よりも具体的かつ広範囲に明文化されたことで、処罰の対象となる行為が拡大されました。
不同意性交等罪の要件となる8つの行為・事由は次のとおりです(第177条第1項)。
- 暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと
- 心身の障害を生じさせること、またはそれがあること
- アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること
- 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕(がく)させること、またはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること
- 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること
被害者本人が本心としては望まないのに「いやだ」と感じることができない、同意していないのにその意思を口にして断ることができない、抵抗できないといった状況があれば「不同意」となり、本罪が成立する要件を満たす可能性があります。
また、8つの要件とあわせて、次の内容が加えられたことも抑えておきたい点です。
性交等の範囲の拡大
従来の強制性交等罪における「性交等」とは、性交・肛門性交・口腔性交に限定していましたが、不同意性交等罪ではさらに「膣(ちつ)もしくは肛門に、身体の一部や物を挿入する行為であってわいせつなもの」も追加されました。
つまり、膣に手指を入れる、肛門にアダルトグッズなどの性具を挿入するなど、従来では強制わいせつ罪の成立にとどまる行為も厳しく処罰されることになります。
婚姻関係にあっても対象
本改正では「婚姻関係の有無にかかわらず」という一文も明記されました。
たとえ夫婦であっても、相手が同意していないのに無理やりに性交におよんだり、暴力をふるって性交を強いたりすれば不同意性交等罪が成立します。 -
(2)ポイント②|相手の「誤信」を利用した性交等も処罰の対象
不同意性交等罪では、その行為がわいせつなものではないと誤信させたり、行為をする者について人違いをさせたりして性交等をした者も処罰の対象としています(第177条第2項)。
被害者が誤信・人違いをしていることに乗じて性交等をした場合も同様です。
今後、処罰の対象となる典型的なケースとしては、たとえばマッサージと称して相手を誤信させたうえで膣や肛門に手指を挿入する、相手が配偶者や好意を寄せている相手だと勘違いしているうえで暗闇のなかで性交にいたる、いわゆる夜這いなどの行為が挙げられるでしょう。 -
(3)ポイント③|「性交同意年齢」が16歳未満に引き上げられた
本改正では「性交同意年齢」の引き上げもおこなわれました(第177条第3項)。
性交同意年齢とは、性行為への同意を自分で判断できるとされる年齢です。性交とはどのような行為なのか、性交にはどんな意味があるのか、性交を受け入れるとどうなるのかを正しく理解できる年齢の線引きだと考えればよいでしょう。
従来までの性交同意年齢は「13歳」とされていましたが、本改正によって不同意性交等罪における性交同意年齢は「16歳」に引き上げられました。
そのため、相手が16歳未満であれば同意の有無にかかわらず処罰されます。
未成年同士の性交も処罰対象?
性交同意年齢の引き上げによって「未成年の少年同士の性交も処罰されるのではないか?」と疑問を感じられた方もいるかもしれません。
この点については、相手が13歳以上16歳未満の場合は、相手の誕生日よりも5年以上前に生まれた者に限って処罰の対象とするという条件が付けくわえられています。
たとえば、15歳の高校生1年生と18歳の高校3年生のカップルが同意のもとに性交をしても、処罰の対象にはなりません。
3、公訴時効の延長と法定刑の変更
不同意性交等罪の施行に伴って、同意のない性交やわいせつ行為に対する「時効」が延長されました。
ここでいう時効とは、検察官が容疑者を起訴できるタイムリミットを示す「公訴時効」を指します。公訴時効を迎えた事件は、検察官が裁判所に対して刑事裁判を起こせないので、加害者は処罰されません。
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(1)公訴時効が15年へと延長された
公訴時効は、刑事手続きのルールを定めた「刑事訴訟法」に規定されており、法定刑の重さに応じて年数が決まっています。従来の強制性交等罪の公訴時効は「10年」、強制わいせつ罪は「7年」でした。
しかし、性犯罪の被害者は、事件自体を恥ずかしく思う気持ちやPTSD症状などにより、すぐに申告するのが難しいことも少なくなく、公訴時効が10年では短すぎると議論になっていました。
また、性的な行為に対する認識が十分に備わっていない幼少期に被害を受けた場合、自分が性暴力の被害に遭っていたことを認識できる年齢に達した、あるいは自ら被害を申告することを思い立ったときにはすでに時効を迎えていたといったケースが潜在的に存在していることも、問題視されていました。
そこで、今回の刑法改正に伴って刑事訴訟法も改正され、不同意性交等罪の公訴時効が従来の10年から「15年」へと延長されました。
また、被害者の年齢が18歳未満の場合は、15年に加えて相手が18歳に到達する日までの期間が加算されます。
たとえば、被害者が17歳と100日の時点で不同意性交等罪の被害にあった場合、18歳に到達するまでの265日が加算されるので、公訴時効は15年と265日です。
なお、今回の改正によって従来の刑法第176条「強制わいせつ罪」も「不同意わいせつ罪」へと変更されました。不同意わいせつ罪の公訴時効は「12年」で、従来の7年から5年延長されています。 -
(2)法定刑が「拘禁刑」へと変更された
性犯罪の規定の見直しにおいて、識者や被害者から「厳罰化」を求める声も上がりましたが、今回の改正では法定刑の重さに変更はありません。
ただし、法定刑の種類が「拘禁刑」へと変更されています。
● 不同意性交等罪
5年以上の有期懲役から「5年以上の有期拘禁刑」へ変更
● 不同意わいせつ罪
6か月以上10年以下の懲役から「6か月以上10年以下の拘禁刑」へ変更
拘禁刑とは、従来の懲役と禁錮を一本化した新たな刑罰です。
懲役と禁錮は、どちらも「刑務所に収容される」という点は同じですが、懲役の場合は刑務作業という強制労働に従事しなければならず、禁錮の場合は刑務作業が課せられないという違いがあります。
ところが、令和4年版の犯罪白書によると、禁錮受刑者の79.8%が自らの希望によって「請願作業」に従事しており、懲役と禁錮の差が薄れているのが現実です。このような現状を受けて、懲役・禁錮を廃止し「拘禁刑」への一本化が決まりました。
拘禁刑は、令和7年(2025年)までに施行見込みで、施行までの間は従来の懲役刑が法定刑となります。
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4、性的目的で子どもを手なずけてコントロールする「グルーミング」も犯罪に
今回の改正によって、新たに子どもに対する性的な「グルーミング」も処罰の対象になりました。
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(1)「グルーミング」とは?
「グルーミング(grooming)」とは、ひげや身体などを清潔に手入れすること、動物の毛づくろいをすることといった意味をもつ用語です。ただし、性的には、子どもからの信頼を得て手なずけることで関係性を操る行為という意味をもっています。
グルーミングの背景には性的な接触・搾取を目的としているケースが多く、子どもが性犯罪の被害に遭ってしまう事態へとつながるとして危険視されてきました。
たとえば、次のような手口は性的グルーミングの典型です。
- 性的な行為へと誘う目的で、SNSなどを通じて知り合った未成年の子どもとメッセージのやり取りを通じて信頼を得る
- 学校の教職員や塾の講師など子どもの信頼を得やすい職業の者が、軽いボディータッチから始まり、次第に行為をエスカレートさせていく
- 趣味を通じて、あるいは悩みごとの相談に乗るふりなどをして子どもと親しくなり「やさしい大人だ」と信頼させたうえで自宅などに連れ込む
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(2)16歳未満の者に対する面会要求等罪
性的グルーミングは、わいせつ行為や望まない性交、児童買春、性的な画像や動画を撮影されるなどの犯罪被害へとつながる危険性が高い行為です。
ただし、グルーミングがおこなわれている段階では具体的な性的接触・搾取はおこなわれていないので、グルーミング行為そのものは処罰の対象にならないという問題を抱えていました。
そこで、本改正では刑法第182条に「16歳未満の者に対する面会要求等」を罰する規定が加えられました。
わいせつの目的で16歳未満の者に対し、次に挙げる行為をはたらくと、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられます。
- 威迫し、偽計を用い、または誘惑して面会を要求すること
- 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること
- 金銭その他の利益を供与し、またはその申し込みもしくは約束をして面会を要求すること
また、これらの行為をはたらいたうえで、わいせつの目的をもって実際にその16歳未満の者と面会した者には、さらに厳しく2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科せられることになりました。
性交同意年齢の引き上げとあわせて、性犯罪・性的搾取から子どもを守る抑止力としての効果が期待されています。
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5、まとめ
令和5年7月施行の改正によって、刑法の強制性交等罪は「不同意性交等罪」へと変更されました。
犯罪が成立する要件が拡大され、公訴時効も延長されたことで、従来は処罰の対象にならなかったり、被害者が届け出ることをためらって表沙汰にならなかったりしたようなケースも、今後は処罰を受けるおそれがあります。
今回の改正は、被害者の「同意」を中心に要件が整えられたという点は大きな変化です。実際は同意があったのに何らかの事情で相手が「同意していなかった」と申告すれば犯罪の疑いをかけられてしまうおそれもあります。
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