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撮影罪(性的姿態等撮影罪)とは? 罪に問われる行為・刑罰を解説
撮影罪(性的姿態等撮影罪)とは、令和5年7月に新たに施行された法律です。撮影罪として処罰の対象となるのは、性的な意図をもっておこなわれた盗撮などの行為です。
従来の刑法には、盗撮を直接的に処罰する罪が存在していなかったため、各都道府県の迷惑防止条例などによって処罰されていましたが、撮影罪により盗撮が直接取り締まりを受ける対象になりました。
本コラムでは、性的盗撮行為を軸に、撮影罪が新設された経緯、撮影罪が処罰の対象とする行為の内容、刑罰などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、性的な「盗撮」はこれまでどのような罪に問われていたのか
コンビニで買い物中の女性のスカート内を撮影した、女性用トイレにカメラを設置して撮影したなど、性的な「盗撮」にあたる行為は犯罪です。ところが、これまでは盗撮行為そのものを対象とした明確な犯罪は存在しませんでした。
従来、盗撮行為そのものは、各都道府県の「迷惑防止条例」違反として処罰されるのが一般的でした。
都道府県によって細かい規定は異なりますが、主には、住居・便所・更衣室など、「人が通常は衣服の全部または一部を着けないでいるような場所」や、公共の場所・公共の乗り物・学校・事務所・タクシーなど「不特定または多数の人が利用したり出入りしたりする場所」での性的な盗撮行為を禁止しています。
ただし、迷惑防止条例は地域によって規制内容に差があるほか、刑罰にも差があります。つまり、A県では違反となるがB県では違反にならないといったケースもあり得たのです。
なお、迷惑防止条例以外には、盗撮の準備行為として「のぞき」行為が軽犯罪法違反に問われるケースや、盗撮目的で建物や住居に侵入した行為について、建造物侵入罪または住居侵入罪が成立するケースもあります。
2、撮影罪(性的姿態等撮影罪)が処罰の対象とする行為とは?
撮影罪とは「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」に定められた犯罪で、正しくは「性的姿態等撮影罪」と呼ばれます。
撮影罪が処罰の対象としているのは、盗撮行為だけにとどまりません。撮影罪で規定された処罰の対象となる行為について、具体的に確認していきましょう。
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(1)正当な理由なくひそかに「対象性的姿態等」を撮影する行為
正当な理由なく、ひそかに「対象性的姿態等」を撮影する行為、いわゆる盗撮行為は処罰の対象となります。
「性的姿態等」とは、次の2点のいずれかに該当するものです。
- 人の性器・肛門もしくはこれらの周辺部・臀(でん)部・胸部にあたる性的な部位、または性的な部位を覆っている下着の部分
- わいせつな行為または性交・肛門性交・口腔性交がされている間における人の姿態
ただし、これらの姿態のうち、人が通常は衣服を着けている場所において不特定または多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し、またはとっているもの(露出狂のような行為)については、対象にはなりません。
「性的姿態等」のうち、対象にならないものを除いたものを「対象性的姿態等」といいます。 -
(2)「不同意性交等罪」にあたる行為等を利用して「対象性的姿態等」を撮影する行為
ここでいう「不同意性交等罪」にあたる行為は、次にあげる8つの行為・事由です。
- 暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと
- 心身の障害を生じさせること、またはそれがあること
- アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること
- 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕(がく)させること、またはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること
- 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること
これら8つの行為・事由によって同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、性的姿態等を撮影する行為も撮影罪の処罰対象です。
前項の行為とは異なり「ひそかに」という要件はありません。たとえば、脅して撮影する、泥酔して抵抗できない人や、恐怖で動けなくなっていることに乗じて撮影するなどの行為は処罰対象になり得ます。 -
(3)錯誤を利用して「対象性的姿態等」を撮影する行為
次にあげるように誤信をさせるなどして、「対象性的姿態等」を撮影する行為も処罰の対象です。
- その行為が性的なものではないと誤信させる
- 特定の者以外の者が閲覧しないと誤信させる
- 誤信をしていることに乗じる
たとえば、実際には売買目的であるにもかかわらず、撮影者しか見ないと信じ込ませて、性的部位を撮影するような行為は、処罰の対象になり得るでしょう。
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(4)13歳未満、または13歳以上16歳未満の者の「性的姿態等」を撮影する行為
正当な理由なく、13歳未満の者を対象として「性的姿態等」を撮影する行為は処罰の対象です。
また、13歳以上16歳未満の者を対象として、5年以上前に生まれた年長者(被害者の誕生日を起算点として5年以上前に生まれた者)がその「性的姿態等」を、正当な理由なく撮影する行為も処罰の対象となります。
たとえば、18歳の者が15歳の者の「性的姿態等」を撮影したというだけでは、撮影罪が成立することはありません。ただし、これは対象者の年齢を理由としては撮影罪が成立しないというだけであり、別途(1)~(3)に該当する行為については撮影罪が成立します。
ここでいう「正当な理由」とは、たとえば親が幼児の成長記録として裸のままプールで遊んでいる様子を撮影するなどの行為が該当すると考えられます。
なお、今回の規定では、衣服の着衣有無については規定されていないので、たとえば衣服の全部を着けていても、性的な部位を強調した画像の撮影であれば規制対象となる可能性があります。 -
(5)性的映像記録の提供・保管、性的姿態等映像の送信・記録
ここまでにあげた4つの行為によって撮影された画像・動画を提供することや、提供目的で保管する行為、正当な理由なくインターネットなどに送信することや、それによって得た画像、動画を記録するなどの行為も、処罰の対象になります。
これらの行為は、厳密には性的姿態等撮影罪ではなく、それぞれ性的映像等記録提供等罪・性的映像記録保管罪・性的姿態等映像送信罪・性的姿態等映像記録罪が成立することになります。
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3、盗撮行為は撮影罪により厳罰化されている
撮影罪が新設されたことで、これまで地域差があり一律ではなかった盗撮行為の規制が統一され、さらに規制対象となる行為も拡大しています。また、従来よりも、刑罰も重くなっています。
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(1)撮影罪の刑罰
撮影罪の刑罰は「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」です。
たとえば、盗撮行為について東京都の迷惑防止条例違反が適用された場合の罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」、常習と認められたときでも「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」でした。そのため、従来までと比較すると、厳しい刑罰であることがわかります。
なお、撮影罪における自由刑は、従来までの「懲役」ではなく「拘禁刑」です。
拘禁刑とは、懲役と禁錮を廃止・一本化し、個々の受刑者の特性に応じた処遇をおこなう新しい刑罰です。
ただし、拘禁刑の施行日は令和7年6月1日であるため、現時点においては従来の懲役刑が法定刑となります。 -
(2)緊急逮捕される可能性
緊急逮捕とは、一定の重大犯罪につき、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、急速を要するため裁判官の逮捕状を求めるいとまがないときに限って、あとで直ちに逮捕状を請求することを条件に、逮捕状がなくても身柄拘束が許される逮捕種別です。
緊急逮捕の対象となるのは、「長期3年以上の懲役・禁錮」という要件なので、撮影罪はこの要件に該当します。
逮捕の種類によって、罪の重さや身柄拘束の期間に違いが発生するわけではありません。しかし、盗撮の現行犯逮捕を免れたとしても、現場近くで職務質問を受けてそのまま逮捕されるといったケースが、発生し得ることになるのです。
4、事件外の画像・動画の消去も認められている
「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」という名称に示されているとおり、撮影罪では、押収された性的姿態の画像・動画の強制的な消去が認められるようになりました。
たとえば、ある容疑者がスマートフォンで盗撮し、盗撮の疑いで逮捕されたとします。
捜査機関は証拠を探すため自宅の捜索をおこなっていると、逮捕容疑とは別の被害者が撮影された盗撮画像が多数保存されたパソコンを発見しました。
逮捕容疑となった盗撮事件は有罪となりましたが、パソコンに保存された画像は、被害者の特定がかなわず事件化されませんでした。
このようなケースでは、有罪判決に「没収」が付加され、容疑のかかった事件の盗撮画像が保存されたスマートフォンは没収、盗撮画像は削除されます。一方で、事件化されなかったパソコンに保存されている盗撮画像は、任意で所有権放棄を求め削除を試みるしか、これまでは方法がありませんでした。
しかし撮影罪では、撮影罪などに該当する行為によって生じた画像や動画だけでなく、その複写物や起訴に至らなかった事件の盗撮画像・動画についても、廃棄することが可能とされています。
5、まとめ
これまで統一された規制が存在しなかった盗撮行為ですが、現在は原則撮影罪によって処罰されます。従来の迷惑防止条例違反などと比べると処罰の対象となる行為が拡大し、罰則も厳しくなっています。また、盗撮行為以外でも、脅すなどして、性的な部位を撮影するといった行為も処罰対象です。
盗撮行為をはたらいて逮捕されれば、最長で23日間の身柄拘束を受ける可能性があります。また起訴されて有罪判決となれば、前科がつき、重い処分を言い渡されることもあり得ます。そのような事態を回避するには、早い段階で弁護士に相談し、適切な弁護活動を受けることが大切です。
撮影罪の容疑をかけられてしまった、自分の行為が犯罪にあたるのか不安、といった場合にはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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