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ながら運転の罰則が厳罰化? ながら運転にあたる行為と罰則について解説
令和元年6月、「ながら運転」の厳罰化を盛り込んだ改正道路交通法が公布され、同年の12月1日から施行されています。ながら運転による痛ましい死傷事故の増加が社会問題となったことを受け、罰則や反則金が大幅に引き上げられる形となりました。
ながら運転で交通事故を起こした場合は刑事裁判にかけられて刑事処分を受ける可能性がありますが、どのような罰則が適用されるのでしょうか?
このコラムでは、ながら運転にあたる具体的な行為や罰則の内容について解説します。また、実際にどの程度の刑が言い渡されているのかを知るために、ながら運転による交通事故の裁判例も確認しましょう。
1、ながら運転とは
「ながら運転」とは、自動車や原動機付自転車(以下「原付」といいます。)などを運転中にスマートフォン(以下「スマホ」といいます。)を操作する、カーナビを注視するなど、運転以外の行為をすることをいいます。何をすると取り締まりの対象となるのでしょうか。
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(1)信号待ちで停車している場合
道路交通法第71条5の5では、自動車などが「停止しているときを除き」、携帯電話の通話や注視をすることを禁止しています。
したがって、信号待ちで停車しているときにスマホや携帯電話を使用しても、ながら運転には該当しません。ただし、スマホや携帯電話の使用中に車輪が少しでも動けば停止とはいえないこと、前の車との追突事故にもなりかねないため注意が必要です。 -
(2)スマホを手に持った場合
単にスマホを手に持っただけで通話していない場合、ながら運転にあたるわけではありません。
ただし、運転中にスマホを持つ行為は、道路交通法第70条が定める安全運転義務違反に該当します。片手運転になって運転操作に支障をきたす可能性があるため、避けるべき動作であることは言うまでもありません。 -
(3)通話した場合
道路交通法第71条5の5段では、自動車などを運転中に「携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置を通話のために使用しないこと」と定められています。したがって、運転中にスマホなどを手に持ちながら通話する行為は、ながら運転に該当します。
なお、手に持たないで通話できるハンズフリー装置での通話はながら運転にはなりませんが、通話の開始や終了時に受信キーを押すなどの操作した場合にはながら運転に該当します。
また、自治体の条例によっては、イヤホンを使用するなど交通安全を確保するために必要な音が聞こえない状態で運転する行為が禁止されています。ハンズフリーでの通話だからといって、必ずしも適法とはならないため注意が必要です。 -
(4)画面を注視した場合
道路交通法第71条5の5後段では、「自動車などに取り付けられ、もしくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと」と定められています。画像表示用装置とは、カーナビやテレビ、スマホなどの画面のことです。
「注視」とは、これらの画面に表示された画像を見続けることをいいます。「2秒以上」が一応の目安とされていますが、画面を操作すればすぐに経過する時間です。
画面を一瞥する程度であれば違反とはいえませんが、画面に少しでも見入った状態であれば、ながら運転にあたると心得ておくべきでしょう。 -
(5)交通の危険を生じさせた場合
スマホやカーナビなどを操作しながら交通の危険を生じさせれば、ながら運転にあたります。具体的には、カーナビの画面を凝視したため信号無視をした、スマホを操作した、ことが原因となり蛇行運転を引き起こしたなどのケースです。
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2、ながら運転の罰則が厳罰化した背景とは
ながら運転をしても、警察から違反切符を切られるだけと認識している方はまだ多いかもしれません。しかし、すでに施行された改正道路交通法により、ながら運転の罰則は「厳罰化」されています。
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(1)道路交通法の改正でながら運転が厳罰化
令和元年12月1日に道路交通法が改正され、ながら運転に対する罰則が強化されました。刑事処分(罰則)の内容および行政処分の違反点数が引き上げられ、交通の危険を生じさせた場合については反則金の対象から除外されるなど、大幅な厳罰化が図られた形です。
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(2)道路交通法が改正された背景
道路交通法が改正された背景には、スマートフォンの普及に伴ってながら運転による交通事故が増加したこと、被害者の遺族から厳罰化を求める声が多数上がったことがあります。
令和2年版の情報通信白書によれば、世帯におけるスマホの保有割合は年々増加傾向にあり、令和元年にはじめて8割を超えています。スマホは今や私たちの生活に欠かせない便利なツールとして愛用されていますが、その普及に伴い、ながら運転による交通事故も増加傾向にあるのももうひとつの事実です。
警察庁が公開しているデータによれば、令和元年に起きた携帯電話の使用などによる交通事故件数は、2645件でした。平成21年には1380件だったのが、10年で約1.9倍にも増加しています。
また、ながら運転による交通事故の犠牲となった被害者の遺族からは、加害者に対する厳罰化を求める声が上がっており、懸命な訴えや活動が展開されてきました。このような背景から、ながら運転の罰則が強化されるに至ったのです。
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3、改正後の罰則、反則金
具体的にどのような改正が行われたのか、ながら運転に対する罰則の内容を解説します。
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(1)運転中にスマホなどを使用したときの罰則
スマートフォンや携帯電話を使用した場合の罰則、反則金、違反点数は、それぞれ以下の通り改正されました。
【罰則】- 改正前:5万円以下の罰金
- 改正後:6か月以下の懲役または10万円以下の罰金
これまでは最大でも5万円の罰金だったのが、改正後には懲役刑が追加され、罰金の上限額も引き上げられました。
【反則金】- 改正前:大型車7000円、普通車6000円、二輪車6000円、原付5000円
- 改正後:大型車2万5000円、普通車1万8000円、二輪車1万5000円、原付1万2000円
大型車と普通車は3倍以上、二輪車と原付も2倍以上に引き上げられました。
【違反点数】- 改正前:1点
- 改正後:3点
違反点数は3倍に引き上げられました。
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(2)運転中にスマホなどを使用して交通事故を起こしたときの罰則
スマホや携帯電話を使用し、さらに交通事故を起こした場合の罰則、反則金、違反点数は以下の通り改正されました。
【罰則】- 改正前:3か月以下の懲役または5万円以下の罰金
- 改正後:1年以下の懲役または30万円以下の罰金
懲役および罰金の上限が大幅に引き上げられています。
【反則金】- 改正前:大型車1万2000円、普通車9000円、二輪車7000円、原付6000円
- 改正後:反則金の適用なし
交通事故を起こした場合は反則金が適用されなくなったため、刑事罰の対象となります。
【違反点数】- 改正前:2点
- 改正後:6点
違反点数は累積6点以上で免許停止処分となります。改正前のながら運転は違反点数が2点だったため、行政処分の前歴がない場合に免許停止となることはありませんでした。改正後の違反点数は6点となり、前歴がない場合でも最短で30日間の免許停止処分を受けます。
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(3)罰金と反則金の違い
罰金とは1万円以上の金銭を徴収される刑罰をいい、「罪を犯した者に対する制裁」としての意味をもつものです。罰金が確定した場合には前科がつきます。
一方、反則金は「比較的軽微な交通違反」をした者が任意に所定の金銭を納付する行政上の処分です。過去の罪に対する制裁ではなく、将来の道路交通法上の安全を確保するために求められるものであって、反則金を納めても前科がつくわけではありません。
ただし任意といっても、本来は刑事手続きを行うところ、反則金の支払いを条件にこれを免除する例外的な制度です。つまり反則金を支払わなければ原則通り刑事手続きに移行し、裁判で有罪が確定すれば刑罰を科されることになります。 -
(4)青切符と赤切符の違い
ながら運転で事故を起こした場合、改正前は「青切符」で済んでいたところ、改正後は「赤切符」で処理されることになりました。
青切符とは反則金制度の対象となる比較的軽微な交通違反をいい、赤切符とは比較的重い交通違反をいいます。基準は青切符の違反点数が6点未満、赤切符は6点以上です。
青切符は反則金を納付することで刑事責任を免れて行政処分で済まされますが、赤切符は反則金の対象外なので刑事責任を免れることはできません。
ながら運転で事故を起こした場合には例外なく刑事手続きの対象となり、有罪になれば懲役や罰金などの罰則が適用されることになったのです。
また赤切符は6点がつく違反なので、刑罰に加えて「免許停止」の行政処分を受けます。
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4、ながら運転が関連した交通事故の裁判例
ながら運転で交通事故を起こすと、どのような刑を言い渡される可能性があるのでしょうか?実際の裁判例を紹介しながら確認します。
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(1)ゲームアプリのながら運転で1名を死亡させた事件
【名古屋地方裁判所 令和2年3月23日判決 過失運転致死被告事件】
平成30年4月に愛知県内で起きた、ながら運転による死亡事故です。被告人はゲームアプリを起動させ、アプリを操作しながら運転を続けた結果、道路を横断中の85歳の女性をはね、多発性外傷を負わせて死亡させました。
判決によれば、被告人は事故直前に少なくとも約108メートルの距離を7秒余りにわたってスマートフォンの画面に気を取られながら運転していたことが認められています。
また被告人自身がゲームアプリを操作しながら運転することの危険性を認識していたにもかかわらず、そのような運転を続けたことは厳しい非難に値するとされました。
こうした点から、一時的に脇見をした単純な過失よりも過失の度合いが重いと判断され、禁錮1年4か月の実刑判決が言い渡されています。 -
(2)高速道路上のながら運転で5名を死傷させた事件
【大津地方裁判所 平成30年3月19日判決 過失運転致死傷被告事件】
平成29年に滋賀県内で起きた、高速道路上のながら運転による死傷事故です。
被告人は、高速道路でトラックを運転中にスマホの閲覧や操作を行い、渋滞のために減速していた前方の乗用車に追突して1名を死亡させ、さらにほかの3台の乗用車・貨物自動車を巻き込む多重交通事故を起こし、運転者ら4名に傷害を負わせました。
判決によると、被告人はスマホの地図アプリを起動させて操作したうえ、スマホを床に落として拾おうとするなどして約10秒間、200メートル以上にわたり前方を注視する義務を怠ったことが認められています。
裁判官は、進路の見通しがよかったにもかかわらず、死亡した被害者が運転する車両の2.6メートル手前になるまで渋滞に気づかなかったことは、単なる前方不注視とはいえず、通常の過失様態を逸脱する危険な様態であると強く非難しました。
検察官は禁錮2年を求刑していましたが、裁判官は「ながら運転を過小評価している」と指摘し、求刑を超える禁錮2年8か月の実刑判決を言い渡しました。
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5、ながら運転で逮捕された場合に弁護士に相談すべき理由
ながら運転をして逮捕された場合や逮捕に不安を感じている場合は、弁護士のサポートを受けましょう。
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(1)身柄釈放のための活動
逮捕・勾留されると最長23日間もの身柄拘束を受けるため、仕事や家庭といった日常生活に大きな影響を及ぼします。そのため弁護士が検察官に意見書を提出するなどして勾留請求しないように働きかけ、勾留が決定した場合も裁判所に対して、勾留に対する不服申し立ての手続きを行い、勾留の取り消しを求めます。
起訴された場合にも保釈を申請し、裁判までの間に身柄拘束を受けないよう活動します。 -
(2)取り調べに対する助言
弁護士は早期に被疑者と接見し、取り調べの対応に関する助言を行います。
ながら運転をして人身事故を起こした場合、適用される罪名は「危険運転致死傷罪」か「過失運転致死傷罪」が予想されます。
危険運転致死傷罪は、危険運転を認識しながら人身事故を起こすこと、つまり「故意」が要件であり、罰則も20年以下の懲役と大変重いものです。
これに対して過失運転致死傷罪は過失(不注意)による人身事故を処罰する罪です。罰則は7年以下の懲役または禁錮、さらに罰金刑の規定が定められています。
犯罪が成立する要件や刑罰の重さの違いなどから、捜査機関は「故意」か「過失」かに大きな関心を寄せるため、取り調べでどのように供述するのかは極めて重要です。安易な供述をすると故意があったとして危険運転致死傷罪で起訴される可能性があり、最終的な量刑にも影響を及ぼす可能性があります。
このような事態を避けるため、弁護士が取り調べに対する助言をする必要があります。 -
(3)示談交渉
人身事故の示談交渉は加害者が加入する保険会社を通じて行うのが一般的ですが、自動車保険に加入していない場合は加害者自身で交渉する必要があります。しかし、ながら運転の加害者に対する被害者の処罰感情は強いため、思うように交渉できないケースが大半です。
交渉に応じてもらえたとしても、保険に未加入のために自らの預金などで賠償しなければならず、示談金の額で折り合いが付かない可能性が高いでしょう。
そのため弁護士が被疑者に代わって交渉を行い、被害者感情に配慮しながら適切な額の示談金を提示したうえで示談締結を目指す必要があります。
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6、まとめ
スマホで通話する、カーナビの画面を注視するなどの行為をしながら自動車を運転すると、ながら運転として扱われます。悲惨な死傷事故を教訓として罰則が強化されているため、事故を起こせば厳しい罰を受ける可能性があるでしょう。
万が一、ながら運転の加害者となってしまった場合には、弁護士への相談が不可欠です。交通事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くします。お一人で悩まずにまずはご連絡ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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