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ひき逃げで被害届を出されたら? 被害届を取り下げてもらうには
ひき逃げ事件では、被害届の提出をきっかけに捜査が開始されることがあります。ひき逃げの摘発率は高いため、さまざまな証拠を手がかりに被疑者として特定されて逮捕にいたるおそれは大きいでしょう。
しかし、すぐに自首する、示談を成立させるなどの適切な行動を取れば、逮捕・勾留の回避や不起訴処分につながる可能性が生じます。
今回は、ひき逃げで問われる罪やひき逃げをしたらすぐに出頭するべき理由、被害届を取り下げもらうためにするべきことなどについて、弁護士がわかりやすく解説します。
1、もし被害届を提出されるとどうなる?
ひき逃げの被害者が被害届を提出すると、捜査が開始されて逮捕される可能性が生じます。被害届の意味や被害届の提出後から逮捕されるまでの流れについて解説します。
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(1)捜査のきっかけになる
被害届とは、被害者が犯罪の被害にあったことを警察に申告するための書類です。捜査のルールを定めた犯罪捜査規範第61条は、「警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない」と定めています。
被害届は、被害者本人やその家族が記入したり弁護士が代理で記入したりして提出するほか、警察官が聴取して代書することもあります。
ひき逃げのように被害者がいる事件では、被害届が端緒となって捜査が開始されます。 -
(2)後日に逮捕されるおそれが生じる
ひき逃げの被害者が被害届を提出すると捜査が開始されるため、多くのケースで被疑者として特定されるでしょう。その後は取り調べのために出頭要請を受ける、家宅捜索が行われた後に任意同行を求められるなどしますが、正当な理由なく出頭要請に応じないと逮捕の可能性が高まります。
特に危険運転致死傷罪のように被害が重大で悪質なひき逃げ行為である場合には、後日に逮捕される可能性が高いでしょう。
一方、逃亡や証拠隠滅のおそれがない場合や被害が軽微な事故の場合には逮捕されずに在宅捜査となることもあります。
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2、ひき逃げで問われる可能性がある罪
ひき逃げは道路交通法違反だけでなく、事故の状況によっては自動車運転死傷処罰法が定める過失運転致死傷罪などの罪に問われる可能性があります。両方の罪に問われた場合には併合罪となり、刑罰が加重されます。
ひき逃げで問われる罪の種類や刑罰の内容について、詳しくみていきましょう。
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(1)救護義務違反
救護義務は、事故が発生したときは直ちに運転を停止し、負傷者がいる場合には救護する義務のことです(道路交通法第72条第1項前段)。救護義務は負傷の程度に関係なく発生するため、たとえ軽傷であっても救護義務違反に問われることになります。
違反した場合には「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」に(同法第117条第1項)、人の死傷が運転者の運転に起因する事故の場合は「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処せられます(同第2項)。 -
(2)報告義務違反
報告義務とは、警察に事故の発生日時や場所、発生状況、被害状況などについて報告する義務のことです(道路交通法第72条第1項後段)。
違反した場合には「3か月以下の懲役または5万円以下の罰金」に処せられます(同法第119条第1項10号)。
ひき逃げでは、救護義務違反と報告義務違反の罪が同時に成立します。この場合、刑罰が重い救護義務違反に処せられることになります。 -
(3)過失運転致死傷罪
わき見運転や前方不注意など、自動車を運転する上で必要な注意を怠ったことによって人を負傷または死亡させた場合には、過失運転致死傷罪に問われます(自動車運転死傷処罰法第5条)。
過失運転致死傷罪の刑罰は「7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。ただし、軽傷の場合には情状により刑が免除されることがあります。
救護義務違反とともに過失運転致死傷罪に問われた場合、両罪は併合罪となり、刑罰は「15年以下の懲役、または200万円以下の罰金」となります。 -
(4)危険運転致死傷罪
飲酒運転や速度超過運転、無免許運転など、危険な運転行為によって人を負傷または死亡させた場合には、危険運転致死傷罪に問われるおそれがあります(自動車運転死傷処罰法第2条)。
危険運転致死傷罪の刑罰は、人を負傷させた場合が「15年以下の懲役」、人を死亡させた場合が「1年以上の有期懲役」です。
ひき逃げをして救護義務違反との併合罪になれば、人を負傷させた場合は刑が「22年6か月以下の懲役」に、人を死亡させた場合は「30年以下の懲役」に加重されます。 -
(5)準危険運転致死傷罪
飲酒や薬物の影響により、正常な運転に支障が生じるかもしれない状態で運転をして人を負傷または死亡させた場合は、準危険運転致死傷罪に問われます(自動車運転死傷処罰法第3条)。
準危険運転致死傷罪の刑罰は、人を負傷させた場合が「12年以下の懲役」、人を死亡させた場合が「15年以下の懲役」です。
ひき逃げをして救護義務違反との併合罪になった場合の刑罰は、人を負傷させた場合は「18年以下の懲役」、人を死亡させた場合は「22年6か月以下の懲役」となります。
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3、ひき逃げが発覚する理由
ひき逃げをして事故現場から逃げたとしても、高い確率で被疑者として特定されるでしょう。令和3年版犯罪白書によれば、令和2年に起きたひき逃げ事件の全検挙率は70.2%で、死亡事故では97.8%、重傷事故では79.9%が検挙されています。
ひき逃げが発覚して被疑者として特定されるのは、次のような手がかりをもとに捜査が行われるからです。
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(1)車種やナンバープレートを覚えられていた
商店街や住宅街などの人通りの多い場所での事故では、被害者だけでなく、目撃者が車種や車体の色、ナンバー、運転者の容貌などを覚えていたことから被疑者として特定される場合があります。
近年はスマートフォンが普及しているため、目撃者が事故の様子を撮影していて証拠として提出することもあります。 -
(2)防犯カメラやドライブレコーダーに映っていた
最近は街中のいたる場所に防犯カメラが設置されており、ドライブレコーダーを搭載している自動車も増えています。防犯カメラやドライブレコーダーに残された映像データが解析され、被疑者として特定されるケースは珍しくありません。
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(3)現場に残された証拠から捜査された
ひき逃げ事故では、被害車両に付着した塗料や事故時に車から脱落したパーツ、破損したレンズ片、タイヤ痕など、現場に多くの証拠が残ります。科学的かつ緻密な捜査手法により車種が絞り込まれ、被疑者として特定される場合があります。
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4、ひき逃げをしてしまったら出頭するべき
ひき逃げをしてしまったら、次のような理由から迷わずに警察に出頭するべきです。
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(1)すぐに発覚する可能性が高い
刑法第42条第1項は、「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と定めており、自首をすれば刑が減軽される可能性があります。
しかしひき逃げは目撃者や物証など多くの証拠が残りやすいので、早い段階で被疑者として特定されるおそれがあります。事故後すぐに出頭しても、すでに被疑者として特定されていれば自首が成立しません。自首を成立させるためには一刻でも早く警察に出頭することが大切です。 -
(2)被害者が軽傷の場合は逮捕の危険が下がる
警察が逮捕するのは、被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合です。したがって、自ら出頭すれば逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断され、逮捕の危険が低下します。特に被害者が軽傷の場合は、出頭して逃亡や証拠隠滅のおそれがなくなれば、逮捕の可能性は下がるでしょう。逮捕されなければ在宅捜査となり、仕事や学業など日常生活を送ることができます。
重傷の場合には逮捕されるおそれが大きいものの、自ら出頭した事実はその後の手続きの流れに影響を与えるでしょう。勾留まではされず、または起訴後の保釈請求が認められる可能性もあり、早期の身柄解放につながることもあります。
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5、被害届を取り下げてもらうには?
被害届が受理されても被害者の意思によって取り下げられる場合があります。被害者に被害届を取り下げてもらうためには、何をすればよいのでしょうか。
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(1)被害者との示談成立
被害者に被害届を取り下げてもらうためには、まずは被害者と示談交渉を進めます。示談成立時に作成する示談書に「被害者は被害届を取り下げ、加害者を宥恕する(許す)」という文言が含まれていれば、「被害者の処罰感情がなくなった」と判断されるでしょう。示談の成立は被疑者・被告人にとって良い情状となるため、不起訴処分や執行猶予付き判決となる可能性が高まります。
ただし被害者はひき逃げされたことで強い処罰感情を抱いていると予想されるため、ひき逃げをした本人やそのご家族が被害者と直接やり取りするのは避け、交渉は弁護士に依頼しましょう。弁護士は法律知識だけでなく交渉の経験もあるので、被害者の感情に配慮するとともに、適切な示談金額を示し早急に示談を成立させられる可能性があります。 -
(2)示談が行えない場合は供託や贖罪寄付を行う
ひき逃げ事故では被害者が強い怒りを抱いて示談交渉になかなか応じてくれない場合もあります。そのような場合には供託や贖罪寄付をして、反省と謝罪、そして償いの意思を行動で示すことができます。
法務局への供託は民法第494条が定めている制度です。法務局へ示談金を供託すれば被害者はいつでも示談金を受け取ることができます。供託する金額は、示談金相当額に事故の日から年3%の遅延損害金を加算します。
贖罪寄付の場合は、日本弁護士連合会や都道府県の弁護士会、交通遺児育英会などの公的団体に寄付をして証明書を発行してもらいます。寄付金額は示談金そのものではないため、示談金相当額より低い金額でも寄付する意味があります。
どの方法によるかは、被害者感情や事故の状況、被疑者・被告人の資力、その他の事情を踏まえ、弁護士と相談した上で決めましょう。
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6、まとめ
ひき逃げを起こしてしまったら逮捕・勾留されて起訴されるおそれがあります。事故の状況によっては、刑事裁判で実刑判決を言い渡されることもあるでしょう。
ひき逃げの加害者となったらまず弁護士に相談し、被害者との示談交渉などのサポートを依頼しましょう。示談が成立していれば被害届が取り下げられ、逮捕・勾留の回避や不起訴処分、執行猶予付き判決となる可能性が高くなります。
ひき逃げをしてしまってお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。交通事故弁護の実績豊富な弁護士が示談交渉や捜査機関への同行、取り調べに対するアドバイスなど多方面からサポートします。
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