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弁護士コラム

2019年01月11日
  • 暴力事件
  • 器物損壊
  • 時効

器物破損の時効は何年? 家族が知っておきたい時効、賠償金、慰謝料、判例について

器物破損の時効は何年? 家族が知っておきたい時効、賠償金、慰謝料、判例について
器物破損の時効は何年? 家族が知っておきたい時効、賠償金、慰謝料、判例について

カッとなったはずみや出来心などで物や動物を傷つけ、器物損壊罪として前科がついてしまうケースは全国で数多くあります。

それを裏付けるデータとして、警察庁の刑法犯に関する統計資料によると、平成29年における器物破損等での検挙数は全国で9696件、人数にして5335人にものぼります。このように、器物損壊罪は身近な犯罪といえますし、家族が器物損壊罪で罪に問われる可能性も多分にあるということです。

今回は、この身近な犯罪「器物損壊罪」について、弁護士が解説します。

1、器物損壊とは

「器物損壊」とは自分以外、すなわち他人の所有物を壊したり傷つけたりする行為を指します。その刑の重さとして、刑法261条「器物損壊罪」の条文では、「他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」と定められています。

条文に記載されているとおり、器物損壊とみなされる主な事象は物への「損壊」と「傷害」があたります。「損壊」と「傷害」は、ともに「物の価値を下げること、あるいは使用できなくすること」を意味しています。物全般に適用されるため、たとえば損壊では壁や塀へ落書きをする、車に傷をつけるなどが該当します。また、傷害は器物にあたる動物(ペットなど)へ傷を負わせる、逃がしてしまうなどの行為があてはまることになります。

刑法では原則として故意があった場合のみ処罰が下されるため、器物損壊があてはまるかどうかは「故意」の有無が重要です。つまり、「わざと壊した」かどうかが問われるということです。

たとえば「転んで手をついた拍子に物を壊してしまった」などの場合は「過失」であり、故意があったとは認められません。民事上弁償する必要はありますが、刑事上犯罪として処罰されることはありません。

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2、器物損壊の時効と公訴時効について

たとえば数年前、誰かに車のワイパーを壊されてしまい、犯人を捕まえて弁償させたいといったケースがあったとします。その場合、犯人を法的に裁くことは可能なのでしょうか?
そもそも器物損壊に時効はあるのでしょうか?
時効があるなら何年くらいになっているのでしょうか?

実は器物損壊には3種類の時効が発生します。なぜ3つもの時効が発生するのかというと、器物損壊罪が、「親告罪」であることが関係しているからです。
※親告罪…被害者からの告訴がないと裁判を起こすことができない犯罪

  1. (1)器物破損の被害を告訴できる時効(6か月)

    厳密には時効ではないのですが、一定期間が経過すると処罰を求めることができなくなるという意味でここに書きました。被害者が被害を受けた場合、犯人を知ってから6か月間は告訴をすることができます。これは器物破損罪が親告罪であり、親告罪で告訴が可能な期間は6か月と規定されていることによります。

    犯人はわかったが、友人だったので訴えることはしなかった、などのケースでは、被害発生から6か月を経過すると告訴することができなくなります。

  2. (2)公訴時効(3年)

    公訴時効とは、検察官が被疑者に対して告訴することができる期間のことで、器物損壊罪の公訴時効期間は被害発生後3年間となっています。

    被害者が被害届を出したが、犯人特定および逮捕につながらず3年が経過してしまったといった場合は公訴することができず、刑事事件としての時効を迎えることになります。

  3. (3)損害賠償請求権の消滅(3年間)

    器物損壊罪にあたる被害を受け、犯人もわかっている場合は、相手に対して損害の賠償を請求することができ、その期間が3年間となります。これは民法第724条によるものであり、刑法ではないので相手に刑罰を与える権利はなく、民事の時効ともいわれています。

    器物損壊罪で発生する時効のまとめ

    告訴できる時効 被害者が告訴できる期間 犯人を知ってから6か月
    公訴時効 検察官が起訴することができる期間 相手に損害賠償の請求をすることができる期間
    損害賠償請求の期限 被害が発生してから3年間 損害及び加害者を知ってから3年間(被害が発生してから20年)
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3、慰謝料と賠償金について

物の大小や被害者の物への思い入れなどさまざまな要因がありますが、器物損壊罪では示談に至るケースが多々あります。器物損壊で被害者と示談が成立した場合、一般的に加害者が支払うべきと考えられる賠償の種別は「賠償金」「慰謝料」「示談金」です。

まずは、それぞれの内容を確認していきましょう。

  1. (1)賠償金

    物を壊してしまった、あるいは相手の飼い犬等にケガをさせてしまったなどの場合、その治療や修理にかかる費用を補償するのが賠償金です。損壊した対象物の経済的価値を回復させるための費用にあたるので、何を損壊したのかによってその金額は大きく変わります。高価な物を壊した場合や、多額の修理費用がかかる場合は高額になります。

    物の買替費用を払うのか、修理費用を払うのかは、当事者の話し合いの中で決めていきます。基本的に実費になるため、見積書や領収書を確保しやすく、わかりやすいといえます。

  2. (2)慰謝料

    思い入れのある物を壊した、あるいは飼い犬等がケガを負ったなど被害者の精神的苦痛に対して支払う費用です。ただし、ペットを除き、物を壊したことで慰謝料が認められるのは稀です。これは、物に対する精神的苦痛を客観的に算定することが難しく、被害者の感情によって金額が大きく左右されることになり、加害者の立場や負担が大きく変化するためです。
    とはいえ、壊した物が故人の形見や特別な仕様の物だったように、いくら弁償しても完全に元に戻らない場合には、慰謝料を請求されることがあるかもしれません。

  3. (3)示談金

    示談の際に支払われるお金全体のことで、器物損壊の場合は賠償金と慰謝料に、その他費用を加えた合計金額のことです。もっとも、器物損壊では示談において経済的損失を補う意味が強いため、通常、慰謝料が占める割合は低くなります。

    ここで問題となってくるのが「賠償の範囲」です。たとえば、塀の一部を壊してしまい示談となったが、被害者側から「古かったから新しい塀に建て替えようと検討していた。その交換費用を賠償金として支払え」と請求されるといったことも考えられます。しかし、こうした要求に従う必要はありません。

    賠償の範囲は「損ねてしまった価値」のみです。そのため、上記の例ならば「古くなっていた塀で加害者が壊してしまった分」の金額のみ賠償すれば問題ありません。また、全損の場合も同様で、新品の金額を支払う必要はなく、壊してしまった物の壊してしまった時点での価値をもとに算出された金額を支払うことになります。

  4. (4)慰謝料や賠償金は支払わないといけないのか

    慰謝料や賠償金は民事上の問題ですので、支払わないことで罰則があるわけではありません。ただし、示談を成立させておくと、当事者は同じ件に関して民事上の賠償問題を生じさせないようにするため、一般的に清算条項を盛り込みます。
    また、示談は民事上の約束事ですが、器物損壊罪は親告罪(被害者の告訴がなければ起訴されない)なので、示談の中で告訴の取り消しを約束し、示談書と合わせて告訴取消書を作成してもらえれば、不起訴になるという刑事上のメリットもあります。

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4、器物損壊罪と刑期や懲役について

ここでは器物損壊罪で有罪になった場合の刑期や懲役について、解説していきます。

  1. (1)器物損壊罪で懲役刑になる可能性

    3年以下の懲役、30万円以下の罰金、もしくは科料のいずれかの罰を受けます。ほんの出来心だったとしても、最長で3年もの間、刑務所へ収監される可能性があるわけです。もっとも、懲役刑でも執行猶予がつけば、ただちに刑務所へ収監されず、日常生活を送りながら更生を目指すことができます。

  2. (2)器物損壊した物が公共物か私有物かで刑期に変動はあるのか?

    器物損壊罪は「他人の物」を壊した場合に成立する犯罪なので、対象が公共物か私有物かどうかによって刑期が変動することはありません。他人の車や店の物を壊した場合はもちろん、道路標識やガードレールなどを壊しても同じ法定刑です。なお、公用文書、私用文書、他人の建造物または艦船などを損壊した場合は別の罪に問われます。

  3. (3)器物損壊後に逃亡した場合

    逮捕される前の人が逃げてもそれ自体は罪にはなりません。ただし、防犯カメラなどに映っていれば犯人と特定されますし、逃げたことで逮捕の要件を充たし、身柄を拘束されるおそれが高まります。また、逃げたという事実は悪質だとみなされると刑期が長くなる可能性も否定できません。

  4. (4)酔っぱらって器物損壊をした場合

    刑法第39条では、心神喪失者の行為を罰しないと定めています。しかし、泥酔状態であっても、ほとんどのケースで自分の行為について最低限の認識があるものです。したがって、そう簡単に心神喪失状態は認められず、警察も覚えていたことを前提に厳しく追及してくるでしょう。

  5. (5)故意ではなく器物損壊した場合

    器物損壊罪は故意犯なので、わざと物を壊したのでなければ犯罪が成立しません。ただし、車両の運転によって建造物を壊した場合は道路交通法第116条の規定により、6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金に処されます。
    また、過失でも人の物を壊した事実に変わりはないため、弁償や修理代の支払いは民事上の責任として残ります。丁寧に謝罪し弁償すれば告訴されない可能性はあるでしょう。

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5、器物損壊の判例とは

器物破損罪で逮捕されると、刑事訴訟法に基づき捜査が進み、検察が起訴・不起訴を決定します。不起訴となれば前科がつくことはありません。起訴となったときは、「公判請求」か「略式請求」が行われます。公判請求となったときは、公開された刑事裁判で罪が問われることになります。略式請求の際は、書類のみのやり取りで量刑が決まることになります。

<器物破損罪として起訴・有罪となったケース>
平成17年8月から10月にわたり、複数の飲食店駐車場にて、駐車されていた車のタイヤをナイフのようなもので切り裂きパンクなどさせた容疑で、30代男性と20代女性の2名が検挙される事件が起きました。被害は合計175台に及び、加害者男性は刑法261条にあたる「器物損壊罪」、加害者女性は同幇助罪で起訴されています。

平成18年3月24日、山形地方裁判所で開かれた判決公判では、「常習的な犯行、かつ大胆で陰湿、多数の被害者を出したうえ、社会的な影響も大きい」として、加害者男性は懲役1年6か月の実刑判決、加害者女性には懲役1年、執行猶予年の有罪判決を下しています。

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6、まとめ

器物損壊罪は身近な罪でありながら、刑法・民法における罪の重さは決して軽くありません。誰しもが加害者・被害者になる可能性があるからこそ、その内容をよく理解しておき、万が一自分や家族がその対象になってしまったとき、迅速に動けるようにしたいものです。

示談にすれば前科がつくことを回避できる可能性が高まるとはいえ、どのように交渉するべきなのかわからない方も多いと思いのではないでしょうか。そのようなときは、 まずは弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士が、被害者との示談交渉や被害額の算出、金額交渉も対応します。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

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※本コラムは公開日当時の内容です。
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